仲良しだった子とケンカした。
正確には
魔法少女の絵を渡して、破られてしまった。
自分が好きなものを相手も好きだなんて限らないのに。
私は一方的に自分の『好き』を押し付けて相手をイヤな気持ちにさせてしまったんだ。
あの後、私は外に出て一人で泣いていた。
そのうち誰だか知らない人に声をかけられた。
蝶みたいな羽根を生やした人だった。
「妖精みたい」直感的にそう思った。
「どうしたの?」そう聞いたから私は友達とケンカしたことを話した。
妖精みたいな人はふんふんと頷いている。
もしかしたら新しい先生なのかもしれない。
「魔法少女の絵……なかなか見どころのある子ね。あなたは魔法少女って何だと思う?」
魔法少女。
詳しくは知らないけどとても優しくて、みんなを守ってくれて存在。
そう答えたら妖精みたいな人はとても満足してくれた。
「魔法少女を知らないけど魔法少女を信じる存在……。素晴らしいわ。知らないからこそ、そこに無限の
……?
何を言ってるのかよくわからない。
けれど妖精みたいな人は優しい笑顔を見せてくれた。
「ねえ、何でさっきあなたはケンカしたと思う? それはね――」
私は答えに息を呑んだ。
「自分の気持ちを相手に見せたからよ。この世界はね、自分のやりたいことをみんなで押し付け合う空間なの。しょせん人間ごとき……おっと、人間は自分の目を通した世界しか見えないからね。だから自分の本心を見せることは、相手に手の内を晒すようなものなの。嗚呼、心優しき少女の想いは否定され、傷つくしかない……」
思わずうつむいた。
妖精みたいな人が言っていること、全部は私にはわからない。
でも、とても悲しいことを言っているのはわかった。
「でもね、どうにかする方法があるの。……聞きたくない? 聞きたそうね!! 答えは……相手が願うことだけをすればいいのよ!! そうすれば誰もあなたに文句を言わないわ」
なるほど……?
確かにそんな気もする。
けれど相手の願いを叶えるなんて、そんなことができるのは――。
「できるわよ。魔法少女になればね。あなた、この世界を……いえ、時空全体を救ってみる気はない? 少し大変かもしれないけど、他の人を助けるヒーローになるの。あなたのような純真な子にはその資格があるわ」
私は首を縦に振っていた。
思い出していたのは今日、友達とケンカしてしまったことだ。
私みたいな人間が他の人の役に立てるなら――。
そう思えば自然と体が動いていたのだ。
「そう!! 良い返事ね!! あなた、名前は?」
「つかさ……。みょうじは……もも――」
「あ、それはいいわ。あなたは桃神……桃神司よ。これからはそう名乗りなさい」
「ももがみつかさ……」
かっこいい名前だ。
なんだか怖い気もするけど……。
でも、こんなことでくじけてはいられない。
私は今から、みんなのために戦う魔法少女なのだから。
「さあ、さっそく行きましょうか。悪いやつらはこの向こうにいるわ!!」
目の前に白い扉のようなものが浮かび上がる。
知らない人に付いて行っちゃダメだけど……。
きっとすぐに帰って来れるよね?
お父さんもお母さんも、人のためになることをしなさいって言ってた。
きっと喜んでくれる。
「……」
「どうしたの? 早く行かないと扉しまっちゃうわよ?」
扉をくぐる前に、一度だけ振り返る。
ケンカをしたあの子は、見当たらなかった。
たった一言だけ声をかける。
それが私には途方もなく大変なことに感じられて――。
逃げ出してしまったんだ。
この世界から。
扉をくぐる。
私の桃神司としての戦いが始まった。
●
「桃神、残念なお知らせだけどあなたの力が落ちてきてるわ。次の時空では友達を作りなさい」
「え……!?」
あれから何年が経っていただろう。
その間も私はずっとモンスターと戦い続けていた。
モンスターの親玉を倒してひとつの世界を救えば、また次の世界へ。
もともとどこにいたのか、もう思い出せない。
「で、でもでも!! 私……そういうのちょっと苦手で……」
「天下の魔法少女様が何を言ってるのよ。あなたは桃神でしょ? 神の話は……ちょっと胡散臭いから桃の話でもしておきなさい」
「JISの色彩規格とか」と付け加える妖精さん。
私は困り果てた後で納得するのだった。
それがみんなのためになるのなら。
私ひとりが我慢して全てが上手くいくのなら。
くせ毛を撫でて気持ちを振るいおこした。
●
「私、
自己紹介ってこんな感じでいいんだっけ?
しばらく人とお話してないからわかんないなあ……。
クラスの人たちは……かなり驚いている。
でも、大丈夫!!
私のことはいくら笑ってくれても構わないから!!
そんな私の想いとは裏腹にクラスは静寂に包まれている。
うーん、これはやっちゃったかな……。
そんな中、私に興味を持ってくれている子も見つかった。
蒼乃実里さん。
なんだか彼女を見ていると、とても懐かしい気持ちになる。
……ただ蒼乃さんが寂しい瞳をしているのが気になった。
私は桃神司。
仲良くしたいと思ってくれる子じゃないと、仲良くしてはダメなのだ。
でも私が話しかけるだけで寂しさが紛れるなら、それは素敵なことでしょう。
その日の帰りは蒼乃さんといっしょに帰った。
話している間、ちょっとだけ笑顔を見せてくれて、こっちまで嬉しくなってしまう。
……私が寂しかったわけじゃないからね!!
別れてから妖精さんに残酷な真実を告げられた。
蒼乃さんの体は既にモンスターに憑りつかれていて、彼女がこの時空にモンスターを呼び寄せているって。
心が締め付けられる想いだった。
……蒼乃さんを助けるには協力者としてずっと
でも、それで蒼乃さんがどう思うかはわからないから、ちゃんと気持ちを確認しようと思う。
昔、あの子をイヤな想いにさせたのはそのせいなんだから。
●
「私は魔法少女の絵をビリビリに引き裂いた女なんだよ!!」
風がひんやりと私の体を打つ。
ああ、そうだったんだ。
だから懐かしいって思ったんだ。
蒼乃さんは、小さな頃に私が仲の良かったミノリちゃんだったんだ。
どうして、今までわからなかったんだろう。
きっと私が、つらい思い出を奥底に封じ込めていたから。
私はそのことを黙っていることにした。
……蒼乃さんが今までずっと苦しんできたのなら軽々しく触れるべきじゃない。
そう自分を納得させる。
本当は怖いだけだ。
このことを明かしたら、もう蒼乃さんと仲良くできないんじゃないかって。
あとモンスターを倒す時、図らずも匂いをかがれてしまった。
ちょっと恥ずかしい。
●
「それって桃神さんが元の時空に帰れなくなっちゃうってこと……?」
私が究極変身をするとこの世界から
そのことを蒼乃さんに伝えた時の返事だ。
……うん、わからないよね。
そういう風に伝えたし。
妖精さんから伝えられていたことだ。
私の体は魔法そのものに近くなっているんだって。
体という
この宇宙に存在する魔法力全部を集めて、私そのものにする――。
それこそが『究極変身』。
もちろん私は、人間じゃなくなっちゃう。
このことは結局伝えれなかった。
言っても変に気をつかわせちゃうかもしれない。
蒼乃さんだったら妖精さんにすごい文句を言ってくれると思う。
でも、もういいんだ。
私がガマンしたら、それで全部済む話だから。
「あらためてありがとう。蒼乃さん。何だか心が軽くなったかも!! 私、ちゃんとお別れが言えそうな気がするよ!!」
最後の一言だけは、ちゃんと言おう。
そう心に決めた。
●
最後の戦い。
蒼乃さんの体から黒いモノが吹き出していた。
きっとこれは蒼乃さんの心の叫びだった。
今までつらいのをずっと我慢してきたから。
ごめんね。
私が逃げ出したからなのに。
気付いててずっと言い出せなかったからなのに。
私の心が弱かったから蒼乃さんが苦しむことになったんだ。
だから、何とかしないといけない。
私なんかいなくなって、蒼乃さんが笑って過ごせるように。
黒いモノをかき消しながら、私は心に決めていた言葉を言った。
「さようなら、蒼乃さん」
さようなら、実里ちゃん。
私がいなくなっても、どうか元気で――。
私の前から全てが消えていく。
みんなで過ごして楽しかった日々も、目の前の景色も。
これから歩むかもしれなかった未来だって――。
……。
…………。
……………………。
おかしいなあ。
蒼乃さん達も無事で、この世界の平和も守られて。
これで全部上手くいったはずなのに。
みんなが幸せな結末なはずなのに。
どうして私は泣いてるんだろう。