魔法少女桃神司   作:MOPX

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新たなる武器!! 想いの丈のフルスイング!!

 

瓦礫(がれき)と化したカフェの中から巨大な黒い影。

その姿は蒼乃もよく知るものであった。

 

「クレーン車……!? おかしいわよ!? モンスターなんでしょ!?」

 

「魔法少女の敵、モンスターはあらゆる形状を取る……。それが有機物であるか、無機物であるかなんてささいな問題でしかないわ」

 

「そんな無茶苦茶な……!!」

 

「確かに魔法少女の敵ってそんなイメージだけど……!!」という蒼乃の内心などどこ吹く風、漆黒のクレーン車が向きを変える。

少女二人と自称妖精のお姉さんが一人。

サイズ差を考えれば敵うはずもなく――。

 

(逃げなきゃ……!! でもきっとあいつの方が速い……!! もしも追いつかれら……!!)

 

急に足が震え出す。

追いつかれた後のことを鮮明にイメージしてしまったから。

何がしたいのか、どうして生きてるのかわからない人生だったけど、それでもこんなところでいきなり終わるなんて――。

 

 

桃神司が一歩前に進んだ。

 

「も、桃神さん……!?」

 

「蒼乃さんは下がってて!! あいつは私が何とかするよ!!」

 

「何とか……て!?」

 

「何とかは……何とかだよ!!」

 

 

アホ毛が優しくゆらゆらと揺れた。

こんな時でも少女(桃神)は笑顔を見せた。

 

「変身!!」

 

叫びと共にドレスを身に纏う。

一回転してバッチリとウィンクを決める。

 

――そして。

 

 

魔法少女は派手に吹っ飛ばされていた。

 

「うおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!?」

 

「桃神さーーーーん!?」

 

変身の最中、突っ込んできた鉄球。

モンスターの放ったそれが桃神へと直撃したのだ。

 

「何で悠長(ゆうちょう)にウィンクしてたの!?」

 

「だって……やらないと気分が乗らないし……わわ!!」

 

巻き戻った鉄球が再び魔法少女を襲う。

今度は間一髪のところでかわし、桃神はポーズを決めていた。

 

「そんな心のこもってない攻撃に魔法少女は屈しないよ!! そう!! 魔法少女とは想いを力に変える者!! 私の心が折れない限りいつだって戦えrげふっ」(鉄球直撃)

 

「だから悠長なんだってば~~~~!!」

 

びたーんと地に伏す桃色魔法少女。

それでも立ち上がり、朗らかな笑顔を見せるのだ。

 

「いてて……でも大丈夫!! 魔法少女はこれくらいじゃへこたれない!!」

 

「無茶だよ!! さっきから全然戦いになってないじゃない!!」

 

そう、桃神の勢いに反して戦いは非常に劣勢。

かたやロングレンジの鉄球飛ばしを連発するクレーン車。

かたや丸腰でドレスをヒラヒラさせてるだけの少女。

 

どちらが有利かなんて、子供でもわかる。

 

「というかあなた武器は!? 何かあるでしょ魔法少女なら!!」

 

「え? 何かって……?」

 

「ええ!? 私に聞かれても!!」

 

「まあいいや!! とにかく頑張るから、蒼乃さんは妖精さんと安全なところで待ってて!! じゃ!!」

 

「あ……」

 

桃色のドレスをはためかせて少女は行ってしまった。

 

「どうしてそこまで……!!」

 

その言葉は桃神には届かない。

既に怪物へと向かって行ってしまったからだ。

 

鉄球が、何度も魔法少女を捉えた。

その度に地面を転がり、立ち上がり、また向かっていった。

まるで敵の攻撃を自分にひきつけるみたいに。

 

「……」

 

蒼乃は呆然と立ち尽くしていた。

ただただ、情けなかった。

 

 

 

いつの間にか隣にいた妖精が誰にともなくささやいた。

 

「いきなりあんな強い怪物が現れるなんてね。桃神は本来の力じゃないし危ないかも」

 

「あなたは……!? あなたは戦わないんですか!? 桃神さん、このままじゃあ……!!」

 

「私は非戦闘要員だからねー。それよりも、あなたはどうなのかしら?」

 

「私……? だって私は……」

 

それこそ、非戦闘要員だ。

何の取り柄もないただの一般市民だ。

 

少しだけ、後ろ暗い過去を持つだけの。

 

 

「ま、桃神がここで負ければこの世界はお終いね。あっけないけど、まあそんなもんよ」

 

「何か……」

 

「ん?」

 

「何か武器はないんですか!? 魔法少女なんでしょう!? あの子、何も持たずに突っ込んで行って……」

 

世界なんて滅んでもいいなんて、子供らしい願望を抱いていたはずなのに。

どうしてこんなにも必死になるのか、蒼乃自身にもわからない。

 

「そう思うんなら、あなたが行動を起こすべきよ」

 

「私が……」

 

「魔法を起こすのはいつだって人間の意志……想いの力よ。そして、何かを願うことに体の大きさや強さなんて関係しない……」

 

「たとえ少女であってもね」妖精はそう付け加えた。

 

「……!!」

 

思い立ってからは、別人のよう。

がむしゃらに辺りを見渡す。

武器がないのなら武器を渡せばいい。

 

やがて見つけたそれをふんだくるように手に取り。

少女――蒼乃実里は駆け出していた。

 

 

 

 

「はあ……はあ……やっぱりちょっと……ちょっとだけ無茶だったかな~」

 

桃色の魔法少女は息を切らしながら独り()つ。

目の前の巨大なクレーン車は鉄球をブンブンと振り回している。

攻撃をまともに食らい続けた魔法少女は、力を消耗して近づくことすらできない。

 

鉄球が再び魔法少女目掛けて飛ぶ。

 

「くうううぅぅぅぅ……」

 

体全体で受け止め弾き飛ばす。

しかしその代償は大きい。

桃神はついに膝をついた。

 

「まだだよ……まだ……魔法少女は想いの力があれば……」

 

言葉が異空間に空虚に響く。

それは桃神自身が一番よくわかっていることだった。

 

鉄球が巻き戻り、攻撃の予備動作に入る。

 

 

その時だった。

 

 

「桃神さーーーーーーーーん!!」

 

少女が一人、突っ込んできた。

迫りくる鉄球に気づきもせず。

 

「危ない!!」

 

飛び込んで後には衝撃が走る。

二人のすぐ横を鉄球が通り過ぎて行った。

 

くるんだアホ毛をほどきながら、魔法少女(桃神)少女(蒼乃)に必死の形相でうったえる。

 

「どうして!? 危ないって言ったのに!!」

 

「ぶ、武器を……渡したいと思って……」

 

「え?」

 

蒼乃の手には木の枝が握られていた。

 

 

沈黙。

 

 

それが何を意味するか悟って、蒼乃の目には涙があふれた。

 

 

「バカ……だよね……。野良犬を追い払うわけじゃないのに……!! こんなことしたって何の意味も……!!」

 

ちぎれんばかりに握られた手が、優しく包まれる。

開かれた手から、武器はもう一人の少女の手へと移った。

 

「大丈夫……!! 想いがこもったものならどんなものだって魔法少女の力になる!! だから……!!」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 

「え? 何この音?」

 

涙も止まる唐突さ。

桃神の手に渡った木の枝は桃色に発光していた。

 

木の枝がアホ毛にくるまれる。

そのアホ毛を突き破るように巨大な光が巻き起こった!!

 

「え? え? え? ええええ!? 何この展開!?」

 

「想いの力を……遠心力に変える!!」

 

頭上でぶんぶん振り回し、構え!!

木の枝は魔法少女にふさわしい桃色の杖へとその形状を変化させていた!!

 

桃神杖(ピーチフレッシュゴッデスハンマー)ーーーーーーーーーーーー!!」

 

少女の身長を優に超える巨大杖が、今ここに顕現(けんげん)したのだ!!

 

 

「杖じゃなくてハンマーじゃん。というか、でっかっ……」

 

「蒼乃さんの気持ちが詰まってるからね!!」

 

 

顔を赤くする蒼乃のことはいざ知らず、桃神が杖を構える。

先ほどからスルーされていた怪物は、既に鉄球を飛ばしていた。

 

「くらええええ!! これが私と蒼乃さんの……友情のホームランだああああぁぁぁぁ!!」

 

桃色の杖が鉄球を真芯でとらえた。

打ち返された球は桃色の弾丸と化しクレーン車へ直撃。

半壊し、車輪だけぴくぴくと動いている。

 

「ホームランというよりピッチャーライナーじゃ……」

 

「うおおおお!! チャンスだトドメーーーー!!」

 

蛮族がごとき動きで魔法少女は敵の射程内へ。

杖でかき回し、すり潰し、突き立てて終了。

 

脅威は過ぎ去った。

妖精カフェを潰した怪物は魔法少女により打ち払われたのである――。

 

戦いが終わり魔法少女は杖を肩に。

そのままにっこりと蒼乃へと微笑むのだ。

 

「ありがとう蒼乃さん!! あなたのおかげで私、勝つことができたよ!!」ずいっ!!

 

「う……!!」

 

「どうしたの? そんな後ずさりして?」ずいっずいっ!!

 

「いや、その、そんな物騒な武器を片手に近付かれても……」

 

「蒼乃さんが渡してくれた武器だよ!! なんなら勝利のハグしちゃおうよ~」ずいっずいっずいっ!!

 

「ご、ごめんなさい……私……」

 

 

蒼乃は走り去った。

 

 

「やっぱり魔法少女とは戦えなーーーーい!!」

 

「ええええ!? 待ってよ蒼乃さーーーーん!!」

 

瓦礫と化したカフェの前で二人の少女は追いかけっこを繰り広げるのだった。

後に残るのは朗らかな笑顔と、物件のローンだけだ。

 

 

 

「とほほ……桃神が勝ったのは良かったけど……。新しい本拠地を用意しなくちゃね……」

 

自称妖精は少女達には気づかれまいと、静かに涙を流すのだった。

 

 

 

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