魔法少女のピンチを救ったのは、どこにでもいる少女達の勇気だった。
明るく快活な
二人の心強い協力者を得て、魔法少女は更なる飛躍をする。
蒼乃の胸にあった一抹の寂しさは……もうない。
この痛みこそが前に進むことなのだと、今ではそう思うのだ。
「今度こそしばらく敵は襲ってこないわ。たぶん」
妖精のその言を信じた少女達は日常へと帰っていく。
自分達の守るものを今一度、目に焼き付けさせるように。
今回の休日は柿原恵の家に集まった。
今日もまた何気ない日常が繰り広げられる。
この日常に意味はあるのか?
あるのだ。
魔法少女が究極の変身を遂げるために――。
●
「なあミノリン、私達も魔法少女になれないのか?」
「は???」
右手側から飛んできた声に思わず
四角いテーブルの上にはカードが整然と並べられている。
蒼乃は今、それどころではない。
(やっぱり四筒切り……? あー、ドラを抱えてたのが失敗だったー。ってか一索はどこよ一索は……)
そう、四人が興じているのはカード麻雀。
今や少女雑誌の付録にもカード麻雀が付いてくる時代である。
もはや現代女子小学生のたしなみと言っても過言ではないであろう。
四人で集まった時の遊びと言えばこれしかないのである。
「ミノリン!! 話きいてたか?」
「後にしてよ。あとそのあだ名、復活させないで」(四筒切り)
「ロン!! チートイドラドラです!! まさか出てくるとは思いませんでした!!」(6400点!!)
がっくりとうなだれる蒼乃。
先ほどから苺谷は打牌(カードだけど)が強くなっていたので警戒しておくべきだった。
蒼乃は点棒の支払いを終えるとため息を吐いた。
振り込んだから……というだけではない。
……魔法少女とその仲間達が集まってやることが麻雀でいいのか?という自問がないわけではないのだ。
しかし、当の魔法少女といえば目を輝かせてチートイドラドラをじっと見つめている。
「彩ちゃんすごい!! 二枚ずつのやつだ!!」
「場がトイツ場になっていると見て切り換えました。本当は字牌で待ってリーチをかけたかったですね。そういう桃神さんは?」
「私はこんな感じ!! 鳥さんを集めたんだよ!!」
(私がほしかった一索全部そこか……!!)
「おー、四筒孤立してるけど止めてんじゃんモモガー。あと同じカードが4枚そろったらとりあえずカンすればいいぞ。テンパイ即リー派の私にはありがたい」
「桃神さんに変なことを吹き込まないでよ!!」
桃神は麻雀を覚えたばかりだ。
世界を救うために戦い続けていたのだから、しょうがないといえばしょうがなかった。
とりあえずチョンボを連発したりめちゃくちゃな打牌(カードだけど!!)をして場を乱したりしないので、蒼乃としても助かっている。
……桃神の打ち筋は不思議だ。
出そうな牌をピンポイントで止めてたりするし、逆にあっさりと振り込んだりもする。
本人はあまり上がらないのだが、あるいはこの場の雰囲気自体を楽しんでいるのかもしれなかった。
「そもそも上がりに向かうべきじゃなかったか、私……」
「いや、親だろ? 一索をモモガーが抱えてるとか知りようがないから行くしかないんじゃ? それより話の続き!!」
「……? 桃神さんがカンすべきかどうかだっけ?」
「私達が魔法少女になれないかだよ!!」
そっちか。
蒼乃は次の配牌を手にしながら、やっとそのことについて考えた。
……放言の多い柿原だとスルーしていたつもりだったが、無意識にその話題を避けていたのかもしれなかった。
「ポン!! 私達は普通の人だよ。魔法少女になんかなれないって」
「チー!! 早仕掛けには早仕掛けだ!! でもモモガーだって元は普通の女の子だったんだろ? じゃあ私達でもいけんじゃね?」
「……それは」
「おっと、そいつもチーだ」
萬子を二つ鳴いて染め手の気配を見せる柿原に、何も言い返すことができなかった。
桃神は特別な人間で、だから魔法少女をやっている。
何となくだけどそう思い込んでいた。
「桃神さん、どうなの?」
「え? うーん……。なかなか思ったカードがきてくれないねえー!! 麻雀むずかし!!」
「いや、そうじゃなくて……」
桃神の口からだって協力者はともかく魔法少女になれるなんて話は全くなかった。
だから、その可能性に気づかなかったのも無理からぬことだろう。
「自称妖精だって何も言ってなかったし……そんな非現実的なこと言ってもしょうがないでしょう」
「ローーーーン!! 何で字牌切っちゃうかなあ!!」
「うぐ……」
「カッキー、おめでそう!! 蒼乃さん、ドンマイだよ!!」
点棒がだいぶ寂しくなってしまった。
これも余計な話をしていたせいだ。
(本当に……余計なのかな……?)
新しい配牌を見詰める。
配られたカードで出来る限りの最善を尽くす。
どこで産まれるかも、どんな姿かも、自分で決めたことじゃない。
されど、その中でできることを考える。
……言ったら笑われそうだから、絶対に口には出さないけど。
本当に自分は最善を尽くしているんだろうか?
「桃神さんはどうやって魔法少女になったの?」
「え? どうやってって……こう、キラキラって光ってぐわぁーみたいな」
「そうじゃなくて。あの自称妖精に会って魔法少女になったんでしょ? その時のこと」
「うーん、だいぶ前だからなー。忘れちゃった……かも」
「忘れたって……」
そんな前から戦っているのか、この子は。
やもすると物心つく前からということだろうか。
胸が引き締められる気がした。
「どうしたミノリン? 私の親リーにびびっちまったか?」
「ツモ!! タンヤオ……のみ!!」
「な……!! 張ってやがったのか!!」
親番を蹴るだけのタンヤオ。
これでも、次につながる。
同じだ。
魔法少女にたとえなれなくても、その可能性を考えることが次につながる。
魔法少女に対して理解が深まれば、桃神司を助けることになるかもしれない。
「……うん、考えてみよう」
一同の視線が蒼乃へと集まる。
「魔法少女になる方法。桃神さんの助けになるかもしれないし」
おおっと歓声が上がる。
右手側と左手側の少女は「やったな彩!! 魔法少女になれるってよ!!」「は、はあ!? 何でそこで私に振るのよ!!」なんて楽し気なやり取りをしている。
対面の桃神は顔を下げていた。
ちょっとストレートに言いすぎて、照れているのかもしれない。
やがて桃神は顔を上げた。
その表情はいつものにっこりした笑顔。
「ありがとう蒼乃さん!! 私も何かできないか考えてみる!! そうと決まれば……この戦いはもう終わりにしないとね!!」
「お~? 飛びかけてるラス親がそんなこと言っていいのか~? 何があるかわからないんだから最後まで全力でやらないとなー」
「うん、だから……!!」
配牌が配られる。
自分で決めることのできないものが。
(桃神さんは残り500点の絶望的状況……リーチだって打てやしない。この状況でいったいどうするっていうの……?)
「ねえ、みんな。ちょっと確認なんだけど……」
一同の視線が、今度は桃神に集まる。
「親が配牌で上がれる時って……ツモ? ロン?」
「ん? 麻雀豆知識か? そりゃツモだろ。人から出てはないんだから」
「そっかあ。これでチョンボの心配もないね!!」
「ん、んんん? おいおいモモガー、もしかして……!!」
――
これが、魔法少女の麻雀。
「ツモ!! 天和四暗刻大三元!!おまけに鳥さんも三羽だよ!! 四万八千点オール!!(※) これが……魔法少女の諦めない心だああああぁぁぁぁ!!」
「は、はあああぁぁぁぁ!? さすがに積み込みだよな!? おい!?」
柿原がわななく。
あまりの事態に苺谷は失神寸前だ。
「これで麻雀はおしまい!! 始めるよ……魔法少女のレッスンを!!」
当の魔法少女は高らかに宣言をする。
慌ただしい部屋の中で蒼乃だけは妙に冷静な気持ちになるのだった。
やっぱり魔法少女は普通とは何か違うな、と。
※シャボ待ちからのツモなので四暗刻単騎とはなりません。