転生巫女と呪いの部屋 作:空翔ける石ころ
一話
「おーい、花山院!校長がお呼びだぞ」
廊下を歩いていた私は、同じ寮の上級生の声に足を止めて振り返った。
「なんだ、とうとう何かやらかしたのか〜?」
「とうとうってなんですか…」
「いや〜、花山院みたいな人気者の優等生ほどやらかす時は盛大にやらかすんだよ」
「ひえ…怖いこと言わないでください。心当たりないんですよぉ」
ニヤッと笑った上級生が、私の肩をポンと叩いてから去っていく。私はそれを少し見送ってから、校長室を目指して再び歩き始めた。
私はいわゆる『転生者』だ。
と言っても、自分が転生したことに気づいたのは、転生してから大分たったあとだったが。いや〜あの時はびっくりしたよね。ちょっとした事故で感電しちゃった瞬間、前世の記憶が全部頭に流れ込んできたんだから。今思えば、大分ベタな展開だな…。
そして、今私がいる世界はなんとあのハリー・ポッターの世界なのである。そのことに気づいた私が一番最初に思ったこと、それは…
なぜ日本…??
ハリー・ポッターと言えばイギリスじゃないか…ホグワーツじゃないか…
ホワイジャパニーズピーポーとはこのこと…(?)
とにかく、ハリポタオタクとしては、あまりにも無慈悲だった。同じ世界に存在出来たというのに推したちとの接点がないなんて…。
そんなわけで、私は今マホウトコロに通っている。魔法にはもう慣れたものだし、せっかくのハリポタワールドに日本人として転生してしまったことに落胆しつつも、なんだかんだ楽しい第二の人生を送っている。大体、前世が高校生で病死とかいう典型的な病弱少女だったおかげで、こうして元気に学校に通えているということが普通に嬉しいのである。前世の反動かなんだか知らないが、今の私はクィディッチにのめり込んで毎日空を飛び回るほどのお転婆少女だ。
…さて、校長に呼び出しを食らったわけですけど…
マジで心当たりが思い浮かばないが…?
成績…は一応それなりにいいから多分ないし…まさか、この間のクィディッチの練習で勢い余ってうっかり備品を壊しちゃったことだったりしないよね…?その事だったらもう既に飛行術の先生にこっぴどく叱られ済みなんだけど。
さっき会った上級生に『人気者』だの『優等生』だの言われたが、正直家柄と自分の要領の良さから来るなんちゃってだ。結構、校則も破ったりしているし…外面だけみたいなとこもあるし…やばい、よく考えたら心当たりしかなくなってきた気がする。
私は冷や汗をかきながら、着いてしまった校長室の扉をノックした。
「峰岸校長、花山院です」
「おお、来たか。入ってくれ」
失礼します、と呟きながらそっと中に入る。校長の声色的に怒っている様子…ではなさそうだ。
「急に呼び立ててすまないね。実は花山院にいい話があるんだ」
「はあ、いい話…ですか?」
ポジティブな単語にほっと息をつきながら、校長を見やる。袴に身を包んだイケおじ校長は、椅子から立ち上がりながら私に笑顔を向けた。
「単刀直入に言うと、ホグワーツと交換留学をすることが決まったんだ。そして、我がマホウトコロからは年齢と成績を考えて花山院を送り出すのが一番いいと考えてな」
…え?
今…ホグワーツって言った?
「…校長」
「おや、もしかして嫌だっt」
「その話、謹んでお受けします!!!」
「そ、そうか…」
校長に飛びかかる勢いでそう叫んだ私に校長は驚いて後ずさったが、私は気にしない。
やった…ホグワーツだ!!
まさか、こんなチャンスが巡ってくるなんて…
「いやはや、最近欧州の方はずっと闇の魔法使いの騒動が多くて危険だったが、『例のあの人』が打ち倒されたってことで昔からの伝統である交換留学の話が復活してな…」
校長がなにかを喋っているが、今の私には馬耳東風だ。
ホグワーツに通える…ハリー達に会える…!あぁ…推しのドラコ・マルフォイと仲良くなりたい…日本人と友達になってくれるかな。『花山院』は日本の名家って言えばいけるかな。
「…てなわけで、向こうでは一年生として入学することになる。…花山院、聞いているのか?」
「…( ゚д゚)ハッ!はい、聞いてます!」
「聞いてないじゃないか。おかしいな、なんだか不安になってきた…」
おっと、今更取り消されるのは勘弁だ。額を抑えた校長に、私は早口でまくしたてた。
「いやいや、これ以上ない適材ですよ!来月で11歳だし、勉強も頑張ってますし、花山院家のスパルタ教育のおかげで英語も問題ないですし!」
「分かってるよ…。まあとにかく、ホグワーツは9月が新学期だ。花山院には4月からマホウトコロは休んで留学に向けての準備をしてほしい」
「分かりました」
4月からってことは、マホウトコロとは今月いっぱいでお別れかぁ…。
思い返せばもう4年も通ったんだ。お世話になった先生や友達にもちゃんと挨拶しなきゃな。
留学についての詳しい話はまた後日ということなので、私は一礼して校長室を後にした。一年生の頃からの相棒つーちゃんを呼び出して、帰路につく。
え、つーちゃんが誰かだって?登下校のお供の海燕ですが?いい名前でしょ異論は認めん。
相棒とは言ったものの、クィディッチをやっている私は登下校が箒になることが多かった。訓練の一環だったが、鬼の所業だ。家まで何十キロあると思ってんねん。
「つーちゃん、私ホグワーツに行けるんだよ…あはは、つーちゃんは連れてけないかな。ごめんね」
ホグワーツという単語に反応してキュイと鳴く相棒に笑いかける。
「ちゃんと休暇には帰ってくるよ。だからいい子で待っててね」
分かってるのかいないのか、私の相棒は嬉しそうにキュイキュイ鳴きながら空を飛ぶ速度を上げたのだった。
「お祖母様、只今帰りました」
「あらぁ、お帰りなさい音花」
家に帰り、のんびり一人でお茶を飲んでいた祖母に声をかける。
花山院家は有名な神社で、当代巫女を務めている母は仕事で家を空けることが多い。その代わり、引退した先代巫女である祖母が小さい頃から良く面倒を見てくれた。
私は荷物を部屋へ置き、自分の分のお茶を用意してちゃぶ台を挟んで祖母の向かいに座り込んだ。学校から帰るとすぐにこうして祖母とお茶を飲みながら、今日あった出来事などを話すのは日課だった。
「ねえお祖母様、今日は校長先生にいいお話を貰ったんです」
「あらあら、どんな?」
私はホグワーツへの留学のことを話した。もし仮に家族に反対されても無理やり行くつもりだが、温厚な祖母と『何事も挑戦』がモットーの母が反対など考えられない。
「…いいわねぇ。外国に行って、沢山修行なさいな。新しい出会いや学問は人生を豊かにしてくれますよ」
「はい!」
案の定だ。
堅苦しい答えなのはまあ…置いておこう。どうせそんなに根を詰めなくたって、要領の良さでなんとかなるなる!
「…きちんと修行と勉学に身を入れるのですよ?」
「…」
読心したんですか???
おばあちゃん、笑顔が怖いよ。
留学の話も終わり、クィディッチや友人のことなどたわいのない話を祖母としていると、母が帰宅した。
「ただいま〜お母さん、音花」
「おかえりなさい!お母様」
「おかえりなさい、涼子」
お茶の間に入ってきた巫女服の母に、祖母と一緒に声をかける。母はそのまま着替えると言い部屋に戻ったので、私はそのうちに母の分のお茶をいそいそと準備し始めた。今日は仕事が早く終わったのだろうか。母の帰宅が早い日は、三人でちゃぶ台を囲むのも我が家のいつもの風景だ。
「へえ、交換留学?マホウトコロってそんなことしてるんだ」
私はお茶を飲む母にも留学の話をした。サバサバした性格の母は、特に考えるようなそぶりもせず
「いいじゃない、ホグワーツに行けるなんて!楽しんできなさい」
笑顔でサムズアップしてくれた。
「えへへ、ありがとうございます!お母様」
しかし私が内心で大はしゃぎしていると、母がでも、と続けた。
「留学から無事に帰ってきたら、あなたは私のあとをちゃんと継ぐのよ?」
「うっ…わかってます」
そう、私は花山院家の一人娘。当然、家業である巫女は継がなくてはならないのだが…私はそのことをずっと懸念していた。別に巫女という仕事が嫌というわけではない。花山院家の立場に問題があるのだ。
花山院家のように、神職を家業とする家は日本の魔法界で位が存在する。その位において重要なことは、家の歴史や神にどれほど認められているかなど。そして、その位の中でトップに降り立つ四家が、
転生者の私はこの小難しい話をいまいち理解していなかったりするのだが、要するに花山院家の巫女は非常に腹痛のしそうな役回りなのだ。この立場で今までやってきた母や祖母はきっと鋼メンタルの化け物なのだろう。
一応私には巫女になるための十分な素質と神力が備わっているらしいので、あとを継ぐことにはなんら問題はないのだが、それとこれとは話が別である。とてつもなく私の将来が心配だ。
私が悶々と将来のことを考えていると、母がハハハと笑いながら肩を叩いてきた。
「まあまあ、そう心配しなさんな!私が生きてるうちはサポートだっていくらでもできるし、何かあれば他の巫女や禰宜に協力求めればいいし。そんなに難しいことじゃないさ」
「うー…鬼門を守る務めが私にできるのでしょうか…」
「ま、確かに気難しい神様ばかりだけど」
「えぇ…」
誰だよ花山院家に鬼門の方角押し付けたやつ!ていうか、病弱少女で何もしてこなかった前世との差が激しいよ神様…。
「そんな先のこと心配してたら、せっかくの学生生活が楽しめないぞ?ちゃーんと、青春しておいで」
「!…そうですね、お母様。私、ホグワーツを満喫してきます!」
そうだ、今は巫女だのなんだの考えるのはやめよう。私はまだ10歳なんだから、まずはせっかくのホグワーツで青春しなければ!原作知識だってあるんだし、きっと前世ではあり得なかったスリル満点の波瀾万丈なマジカル生活が待っているはず…!
ホグワーツの制服を着る自分を想像して、私はニヤけた。
が…
「音花?疎かにしてはいけないもの…忘れていませんよね?」
「…ひゃいぃ」
再び祖母に満面の笑顔を向けられた私は、萎縮して変な声を出すのだった。
「まったく涼子は…音花が遊び呆けてしまったらどうするんです」
「あはは、お母さんは堅苦しいのよ。若いうちは自由にさせてやりたいじゃん?」
私は二人に断って自分の部屋に向かいながら、性格が真逆の母娘の会話を背中で聞いた。祖母は少し口うるさいが、結局は私のしたいようにさせてくれる人だ。そんな大好きな今の家族に、前世のように迷惑はかけたくないという思いが私にはあった。だから、祖母の教え通り勉強も修行も頑張って、その上でホグワーツを…もとい『ハリー・ポッター』の物語を間近で堪能しようと決意するのだった。
勢いで投稿してしまった、書きだめもない小説。
続くかな…?