少しづつではあるが、僕は彼女と話す機会が増えてきた。
そういえばこれだけ沢山話してるのに、僕は彼女の名前を知らないし彼女もまた、僕の名前は知らない。
「あっ、今日名前聞こうかな……」と、廊下を歩いていると後ろで先輩たちが
ヒソヒソと誰かの悪口を言っているのが聞こえた。
「……ってさぁ、正義感強いって言うの? あぁ言うやつマジで嫌いなんだよね」
「そうそう、本当に癪に障るし……放課後体育館の裏でも呼び出して痛めつけよう」
昔の僕だったら年上だろうとなんだろうと止めていただろう。だけど今はどうしてもその勇気が出ない。
僕は聞かなかったことにして教室の中へ入る。
放課後になり、僕は変わらず1人で掃除をしていた。
いつもなら彼女がここに来て嫌味を言ってくる、が。
「今日遅いなぁ…いや、嫌味言われるのは嫌だけどさ。」
何故かさっき廊下でのあの会話を思い出す。
僕はまたあのときと同じ、考えるより先に走り出していた。
「西浜さーん、アンタって本当に不愉快なんだよね」
「正直者は馬鹿を見るって言うけど、本当に馬鹿だよねぇ。」
僕が体育館の裏に行くと、数人の男女に囲まれて暴言を吐かれている人がいた。だけどここからじゃ顔は見えない。
僕は目を瞑って拳を握りしめた。
今行ったら僕は間違いなくいじめの標的になるだろう。
だけど、今行かなかったら?
それは本当に正しいのか??
僕は小さい頃に言った言葉を思い出していた。
「ヒーローってな、悪いやつを倒すだけじゃなくて正しい方向へ導いてあげたり、助けが必要な人たちがいたら優しく手をさしのべられるやつがヒーローなんだよ!僕はそんなヒーローになるんだ!」
「ぼく…は……」
ヒーローにしてはあまりにもかっこ悪い。
だけど僕はなりたかったんだ。
こんな僕でも、ヒーローにはなれるんだ。
「おい!寄って集って何一人の子に手出してるんだ!」
僕は走り出し、その子を守った。
そして気づいた。
「えっ……なん…で?」
彼女は色んな所を殴られ、涙をこぼしながら俯いてた。
「……おい。」
僕は今までに感じたことの無い怒りでいっぱいだった。
「殴るならよ……俺を殴れよ、この子には二度と手出すんじゃねぇ」
そう言うと、俺はボッコボコに殴られた。
ハハッ、なんて情けない。
威勢は口だけで僕は喧嘩なんてからっきしだし、普通に痛いし…
満足したのか、男女らは最後に俺を突き飛ばしてその場を後にした。
「なんだよ…君らしくない、いつまで…泣いてるのさ」
彼女は泣きながら僕の事を叩いてきた。
「馬鹿!本当にお前って、大馬鹿者だよ!!」
僕は対照的に笑いながら
「いやぁ…ヒーローになれると思ったんだけどなぁ……こんなにみっともないヒーローいないよなぁ」と言った。
「本当に君は…」
「ん? ごめん…よく聞こえなかった! でも見ろ、自己犠牲で君が救えたぞ!!」
「本当に大馬鹿者だよ…!」
彼女は涙を拭って微笑んだ。
「そういえばまだ…君の名前知らなくて、今日はそれ聞こうとしたんだよね」
「今更だね」
と、彼女は笑い
「西浜由奈だよ、クラスは2年2組」
と名前とクラスを教えてくれた…が。
西浜さんが2年生であることに衝撃を隠せなかった。
「えっ!?!?にっ、2年生!?」
西浜さんは呆れた顔でこっちを見て
「どこのクラスにも私居なかったでしょ、気づきなよ」
と笑った。
「僕も自己紹介してなかったね、僕は七浦凌。1年3組です」
と優しく微笑む。
「ん、よろしくな七浦!」
「あっ、こちらこそよろしくお願いします、西浜先輩」
「先輩は付けなくていいよ、西浜さんって呼んで?」
「あっ、はいっ!」
僕達はボロボロになりながらも笑顔で帰路につくのだった。