ボコボコにされた日の帰り道
「ねぇ。なんでさ、私を助けようとしたの?」
唐突な質問に僕はどう答えるか一瞬迷った後に
「昔さ、僕ヒーローになりたくて。僕の周りで困ってる人がいたら助けてあげたかったんだよね」
と、昔の自分の話を始めた。
「なにそれ、今の七浦と正反対じゃん」
と西浜さんが笑いながら言うので
「こっ…これには理由があって……」
と目を背けながら返した。
「ねぇ、良ければ教えてくれない?なんで正反対になったのか知りたい」
思いがけない質問だった。
「昔、僕の周りで寄って集って1人の女の子を虐めてたのを見つけて、僕は止めに行ったんだ。けど……」
「けど……何?」
「僕はその女の子を傷つけるようなことを言ってしまった……僕の言葉のせいでその子泣いちゃって…自分が発した言葉で人が傷つくと思ってなかったから……」
「もし…さ?」
彼女は今まで僕が考えてたことと正反対の質問をぶつけてきた。
「その女の子は嬉しくて泣いてたとしたら……どうする?」
「えっ……?」
僕は答えることが出来なかった。だって今までその言葉がずっと傷つけていたと思っていたから。
「多分だよ、その子はずっと変わりたかったんだよ。けれどどうしても1歩が踏み出せなかったんだよ。そんな時に君が言った言葉がその子を勇気づけるような言葉だったら……私だったら嬉しくて泣いちゃうな」
「……その子は僕の言葉でほんの少しでも変われてるのかな?」
西浜さんはニコッと笑って
「見違えるほど変わってるよ、七浦がビックリするくらいに」
と答えてくれた。
僕はその言葉にものすごく救われた気がした。
「ねぇ。七浦」
唐突に名前を呼ばれ、僕は西浜さんの顔を見る。
「私がもし本当は昔自分の意見も言えず怯えながら生きてる臆病な人だったら……どうする?」
彼女の僕を見つめる目は真剣だった。
「……だとしたら、西浜さんはものすごい頑張ったんですね。正直に生きるって…ものすごい難しいことなのに、本当に努力して…耐えて…そんなこと、並大抵の気持ちじゃ出来ないですよ」
「あり…がとう」
西浜さんは涙を浮かべて笑顔でお礼を言った。
「あっ、あのっ…もしかして…もしかしてですよ……? あの時……」
言葉を言いかけた時、17時を告げるチャイムが鳴った。
「そろそろ帰らないと、じゃあまた明日ね。七浦」
手を振る西浜さんの顔は何故かとても悲しそうで。
その日はやけに夕焼けが眩しかった。
帰った後も、僕はあの時の出来事を鮮明に思い出していた。
「由奈…さん……」
この胸の高鳴りが恋だと言うのならば、僕は西浜さんに恋をしている。
今はただ、この気持ちを大切にしたかった。
不穏…ですねぇ