正直者な君と臆病な僕   作:雪夏(せつか)

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ねぇ、七浦くん。
運命の出会いって信じる?
私は信じるよ。
どんなに離れていても
私はもう一度、君に会いに行く


ep.8 運命と邂逅

何とか入社式が終わり、社員の紹介と自己紹介が始まる。

思ったよりみんな若い人達ばかりで、打ち解けるのに時間はかからなそうだ。

そして、俺たち新入社員の自己紹介をする。

 

「七浦凌です、趣味とかは特にないですね…人と話すのも好きでは無いです。よろしくお願いします」

 

前言撤回、俺は多分誰とも打ち解けずに会社で生きていくのだろう。

 

一通り紹介が終わると、社長さんが補足する。

「あっ、今日一人来てないんだけど、来たら紹介するね」

この一言が後に俺の運命を変えるとはつゆ知らず、俺は入社式を終えて帰路に着く。

 

電車に乗り、北見さんの大学の最寄り駅に着くと、偶然かそれとも奇跡か、北見さんが電車に乗りこんできた。

 

「あっ、七浦さん!まさか今日のうちに会えるなんて思いませんでした…!」

屈託のない笑顔で俺を見つめてくるので、僕も思わず笑みがこぼれる。

 

「あのっ、七浦さんがもし良ければ……これからお礼させていただきたいんですけど大丈夫ですか?」

 

突然の北見さんの提案に少し戸惑うも、ここで断ったら北見さんに失礼だろう。俺は許諾することにした。

 

「この後予定もないので……大丈夫ですよ。」

 

その返答を聞いた北見さんが満面の笑みを浮かべる。

 

「じゃあ私の最寄り2つ先なので…駅前の喫茶店に行きましょう。そこの喫茶店のチーズケーキが美味しくて…!」

 

「いいですね……って2つ先?俺そのもう1つ先が最寄りで」

 

つい口を滑らせてしまったが、北見さんならいいだろう。

 

「まぁ…!そうだったんですね!じゃあ知らず知らずのうちに会ってたりするのかも」

 

そんな会話をしながら、北見さんの最寄り駅に着く。

そして、程なくして喫茶店に到着する。

 

「いらっしゃいませ〜…」

 

少しレトロな喫茶店だ。人もさほど多くはなく、何故か心地よい雰囲気を感じる。

 

北見さんは俺にメニュー表を渡す。

「私はもう決めてあるので…ゆっくり決めてくださいね」

 

「ここのお店よく来るの?」

 

北見さんは少し意味ありげな表情を浮かべて

 

「私の家はあんまり勉強するのに快適な環境ではなかったので……ここでよく勉強してました。あっ、すみません。いきなりこんなこと話しても迷惑でしたよね……」

 

俺は「大丈夫ですよ」と言う事しか出来なかった。

 

「じゃあ、北見さんのオススメ教えてください」

 

「うーん、やっぱりチーズケーキですかね? 苦手だったらこっちのモンブランとか、プリンも美味しいですよ。」

 

「じゃあ俺はチーズケーキとオリジナルブレンドのホットで。」

 

俺の注文が決まったので、北見さんが店員さんを呼ぶ。

 

「えっと、チーズケーキを2つと、オリジナルブレンドのホットを1つ。後はダージリンティーのホットを1つお願いします」

 

店員さんが厨房に戻ると、暫し沈黙が流れる。ただ、心地の悪い沈黙ではなかった。

その沈黙を破ったのは、北見さんだった。

 

「あのっ、本当に朝はありがとうございました……」

 

「いえいえ。あそこで行動できなかったら俺はずっと今日の日をモヤモヤしながら過ごしてたと思いますし……何より北見さんを助けられて、本当に良かった。」

 

「あの……」

 

北見さんは少し間を置いて、こう続けた。

 

「七浦さんはどうしてそんなに勇気があるんですか…?」

 

俺は戸惑った。俺には無いものだと思ってたから。

 

「勇気じゃ…ないよ、でもそうだね……昔の俺は本当に臆病者で、情けなくて……けど、憧れだった先輩がいたんだ。その人は常に正直で、前向きで、こんな俺でも優しくしてくれたんだ。」

 

北見さんはじっと俺の顔を見る。

 

「だけどその先輩も本当は僕と同じくらい臆病な人で……だから俺も1歩踏み出せたら変われるのかな…なんて思ってただけで」

 

話し終えた後に北見さんの顔を見ると、涙がこぼれていた。

俺は慌ててハンカチを差し出す。

 

「ごめんなさい…!何か嫌なことでも…」

 

北見さんは首を横に振り

 

「七浦さんは何も悪くないですよ。ただ、自分が不甲斐ないなって……」

 

「そんな事ないです。北見さんは俺以上に相当努力したに違いないんですから。じゃなかったら東大なんて入れないですよ」

 

「七浦さん…私も1歩踏み出せたら、変われますかね?」

 

「はい、北見さんなら絶対に。何があったのか詮索はしませんが……北見さんなら大丈夫です。俺が保証します」

 

北見さんは笑顔になり、ちょうどそのタイミングでチーズケーキと飲み物も届いた。

 

「じゃあ……いただきます」

1口チーズケーキを口に運ぶと、甘酸っぱい味とタルトの食感が口いっぱいに広がる。

 

「美味しいですねこれ、毎日通いたくなっちゃう」

 

北見さんは笑顔を浮かべて

「そうでしょ? 本当に美味しいんですよ、ここのチーズケーキ」と返す。

 

 

ケーキを食べ、コーヒーも飲み終えたところで、俺は財布からお金を出そうとする。

 

「あっ、七浦さん……今日はお礼なので…私に支払わせて下さい」

 

でも…と言おうとすると、北見さんが続けて言う。

 

「ハンカチ、ありがとうございます。洗って返すので、その時にまたお食事してくれると嬉しいです。」

 

「そういうことなら」

 

こうして俺は駅に戻る。

 

「じゃあ七浦さん、今日は本当にありがとうございました」

「いえいえこちらこそ、ケーキ美味しかったです。」

 

北見さん、とってもいい人だな。

俺はそんなことを思いながら帰路に着くのであった。

 




あまりにも遅い更新だ……ごめんなさい!
けど、納得するものが書けました!
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