家出少女の禪院さん 作:人の心
1話「さよなら禪院さん」
禪院家に人権意識はない。
それが女相手なら尚更だ。
だから実家は早めに出た。
私は、母親のことは大事だった。
だから母親も連れて、実家から逃げた。
「何度でも言うよ。本家には戻らないから」
『はー、茜ちゃんは話にならんね。女の子やのに話も聞けん、なんて言うならいっぺん死んだ方が──』
「黙ってろ、パラパラ漫画。私を実家に戻すより先にお前が直毘人さんの金○戻ったらどうだよ、カス」
スマホの電源ボタンを長押しし、主電源から切る。
私の家族は──彼、禪院直哉が最悪だと言うのはさておき──こんな奴ばっかりだ。
人の話を聞かないし、自分の意見ばかり押し付ける。
だから私は実家を出た。なのに、同じ事をやれば私が帰ってくると思っている。
再び視線を眼前の呪霊に向ければ、自然とため息が口を突いて出てくるのがわかる。
術式を開示すれば、聞いてくれる。
それだけでなんとなく、実家の家族に比べたら呪霊でもマシな気がするのだから。
「ああ、ごめん、待たせたね」
『つぶれる……だせよぉぉぉ……!』
「私の術式は『構築術式』。呪力の高い私は呪具を創造して、戦える」
私は子供だ。
病気で働けない母親に代わって金を稼ぐとなると、職業の選択肢はかなり絞られる。
私の場合は、呪力と術式があったので『呪術師』を選んだ。
まだ年齢の関係で高専に行けないため『特別準一級』の資格を有している私は、母親の介護をしながら週3〜4程度の不定期シフトで働いているのだ。
「これ、『
『つぶっ━━━━』
言いながら、呪霊の頭目掛けて無造作に短刀を振り下ろす。
その一撃で、呪霊は頭蓋を切断されて絶命した。……が、決して極端に弱かったわけではない。
術式と呪具の開示による強化。それに私の生まれつき多い呪力量を少しずつ乗せれば、大抵の呪霊は一撃でお陀仏である。
呪術師はいい。親を介護しながらでも普通に生活できる
私の腕なら、そこそこの任務までなら敵を瞬殺して直帰できる。
今日も労働時間は移動含めて30分くらいだが、すでに1万のボーナスが確定した。
人手不足なので、だいたい1ヶ月働けば依頼料と合わせて50万くらい簡単に稼げる。
高専関係者に模造品の呪具を売った金なら、今月は『特級呪具』のオーダーが複数あったので……1億ほどある。
──貯金の3億と併せて、経営が軌道に乗るまでの資金は十分に集まった。
「……うん。大丈夫だよね」
「や、茜。電話したけどまた電源切ってた?」
呪具の模造品をその辺に放りながら今月の家計を計算していると、突然肩に手を置かれた。
反射的にに肘を後ろに突き出すも、当たりそうになった瞬間に
──この感覚は、あの人で間違いない。
「五条さん。あの、仕事は」
「はいはい、お疲れサマーソルト!もう祓ったんでしょ?僕、そういうのは見ただけでわかっちゃうから」
圧倒的な強者のオーラ。
鍛え上げられた長身と日本人離れした銀髪。
不審者めいた全身黒ずくめスタイルに、異彩を放つ目隠し。
「あの」
「あー、大丈夫大丈夫!わかってるから!」
この人のわかってるは、『どうでもいいから説明するな』か『わかってるから説明はいいよ』の二択。つまり説明は不要。
……大体は前者である。
まさかの報告拒否に黙る私に、彼が差し出してきたのは数枚の書類だった。
──どうやら、珍しく後者だったようである。
「けど、らしくもないねぇ。物価の安い田舎で、
「母親の介護費用、東京だと高すぎますから。……株はもう買ったんですけど、マンションは見つかったんですよね?」
五条さんの口ぶりからして、後任の術師はいるらしいから概ね安泰だ。
そう思いながら彼の握る書類に目を落とすと、そこには転居先として『仙台市』の文字が並んでいた。
「……仙台、ですか」
「そ。中学生にマンション売ってくれる業者を探すのとか、伊地知がめっちゃ頑張った」
実際そっちも大変だったのだろうが、五条先生の持った大量の菓子の袋はそれだけじゃない気苦労を匂わせていた。
術師が東京から出ていく事は、本質的には引退に近い。
地方で術師が必要になれば東京か京都から即日派遣されるので、わざわざ外に出ていくということは……
大抵の場合、東京での術師生活に適応できなかったということ。
呪術師の世界では、概ね『呪い疲れての隠居』という扱いになる。
人手不足のこの業界から若い術師が引退するとなれば、きっとまた彼には苦労をかけてしまったのだろう。
「……ありがとう、ございます。東京での生活から何まで、先生にはお世話になりました。伊地知さんにも、何度も……何度もお世話になったと、伝えてください」
「そう思うなら、月一で菓子折りでも送ってやってよ。僕も勝手に貰って食べるからさ」
「なら……はい。そうします」
彼は非常識なのではない、非常識をいくらでも装う事ができるだけだ。
だからこういう常識の類はほとんど五条先生に教わったし、そういった点でも彼には世話になった。
書類を抱えた私は、最後に彼の方を見てから深く頭を下げる。
「……ありがとうございました、五条さん。どうか、お元気で」
「そりゃ、言われなくても。ま、苦労した分さ、青春を楽しみなよ!」
五条先生の優しい言葉に微笑みつつも、そっと背を向ける。
別れ際だけど、別れ際だからこそ涙は流したくなかったから。
冬特有の少し冷たいビル風が、私たちを横切るように吹き抜けて、ほんのり熱くなっていた目頭まで氷のようにしてから駆け抜ける。
その目元の冷たさが、いつまでも脳裏に焼きついていた。。
◆
あれから1年。
半年ぶりに2級程度の任務をしていた私は、五条先生から久々に貰ったメールを見て、思わず飛び起きる。
『茜が力貸してくれないとワンチャン日本が終わる。渋谷が特にヤバい!今すぐだ。東京に急いで!』
詳細不明のメッセージが一つ。
それと同時に、私は自然と駆け出していた。
目的地は、東京都『呪術高専』。
呪いの集まる東京都、新宿区で。
──『やばいこと』が、起きる。
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◆
名前:禪院茜
階級:準一級(特別)
術式:構築術式
身長:伏黒恵と同程度
体重:40kg前後
未就学で家出して、呪詛師に加担するような真似をして生活していたところを五条先生に拾われた少女。
母親の介護のため、『縛りを組み合わせて一撃で祓う』時短ワークを追求している。
アルビノで日光に弱いため、普段は『帳』のような性質を持たせた黄色いレインコートで肌を守っている。
日常生活に支障をきたすレベルで身体能力が貧弱。
家の外では常に呪力を纏っているが、『生命の保護』としてその行為を容認されている。
性格の悪さを隠すのが上手い。
五条先生の善性を絶対の理のごとく信じており、よく騙される。
実家にいる禪院家の面子のうち、禪院扇とだけはなぜか仲がいい。