家出少女の禪院さん 作:人の心
同級生の呪術師がいた。生まれて初めての事だった。
同級生の呪術師が死んだ。……もちろん、生まれて初めての事だった。
「……うぐ……っぐ……」
家から離れた映画館で、一番座席の予約が埋まっていない映画を見て。
一番奥の席に座りながら、私はただ一人で泣き続けていた。
──悠仁と、仲が良かった訳じゃない。
特別に仲が良かったとか、そういう理由で泣いてるわけじゃない。
覚悟してなかった訳でもない。
けど、少年院の『呪胎』は私一人で対処できたかもしれない案件なのだ。
五条さんも伊地知さんも私のせいじゃないとか、上層部の情報が、とか言ってくれたけど、それでも嫌な考えを止められる訳じゃない。
「ひっぐ……うえええ……」
──私が五条さんの打診を断って、少年院に行っていたら?
あり得ない。あの時あった情報でそんな行動をする理由はないから、あの事件は私には防げなかった。
『縛り』があった。……けど、それも夏油より強ければ、結ばずに済んだ縛りだ。
「私が……弱いんだ……!だから……死なせたんだよ……!」
わかっていても考えてしまって、それが辛い。
映画で泣けば誤魔化せると思ったけど、B級スプラッタ映画じゃそれも敵わない。
場にそぐわないほど泣き続けていたら、私はふと近くで騒いでいた高校生らが静かになったことに気づく。
「──君たち、マナーは守ろうね」
「……っ!」
──映画館では、静かに。
自分のことを言われているのかと思い、私は思わず口を押さえて立ち上がる。
けど、それがいけなかった。
「えっ?」
「……しまった」
「あれれ。もしかしてぇ、そこの2人には僕が見えてる?」
理性的な言葉を前に、無意識にその可能性を外していた。
けど、そこにいたのは頭の形をぐちゃぐちゃに変えられた変死体と、そしてその中央に……
──呪霊。変死体と同じ呪力の残穢がこびりついている。
こんな気分の時は、特に関わりたくない存在だ。
しかも、相手は恐らく『特級呪霊』である。
「あっちゃー!もしかしてこの人たち、君たちの特別な人だった?」
「ずびっ……最悪」
しかも、今回は一般人を巻き込む位置取り。
思わず毒づく私の目の前、少年は憎しみを込めた目を『変死体』に向けると、平静を装って呪霊に近づいた。
「──僕にも、同じ事ができますか?」
◆
下水道にて、私は呪力の残穢を辿っていた。
あの後、私が泣きすぎで動けなかったのをいいことに、二人はあっという間に距離を離していっていたのだ。
ヘンゼルとグレーテルのようにその残穢を辿って歩いていくと、その先には先ほどの少年と呪霊がいた。
「……君、人を呪い殺す気なの?」
「おっと!まさか追いかけてくるなんてね!」
「なんで?……なんで、同じことができるか、なんて聞いたの?」
「うるさいな!」
肩をすくめて笑う呪霊を無視して、私は少年の方に詰め寄る。
……詰め寄りすぎたのか、帰ってきたのは拒絶だった。
──なんとなく、わかる。
人を殺したいほど、彼は人を恨んでいるのだと。
呪霊は彼に何か細工を施したのだろう、彼の纏う呪力の『揺らぎ』が小さくなっている。
「本気で殺したくなるほど人を恨んだことはあるかい?……僕はある。居場所を奪われ、肉体を傷つけられ、尊厳を踏み躙られ!……これで殺意を抱かないならいつ抱くんだ?僕は人を殺すに値するだけの理由がある!誰にもそれを止める権利は──」
「なら、早く住所調べて放火しなって!呪術規定に少年法はないんだよ!?」
「……えっ?」
「んぶっ……!ククク……ッ!」
呪霊が何やら、口に手を当てて笑いを堪えているのが見える。
私はそれを一旦無視すると、順平の前に黒板とチョークを構築した。
「この世界には『呪力』や『術式』という力が使える存在がいるの。……『呪術師』『呪詛師』『呪霊』の3種類のどれかが基本で、あそこにいるのは『呪霊』、私は『呪術師』だね」
「ああ、俺は『呪霊』の真人!よろしくね!」
「私は『呪術師』の禪院茜。……二人の違いはわかる?」
呪霊。なぜか攻撃してこない彼に、私は冷や汗を垂らしながら距離を取る。
……連絡はしたが、相手は増援が到着する前に私を殺せるだろう。
ひとまず、時間を稼ぐしかない。
「……あっ、『人間かどうか』?……いや、『規定の内側にある存在かどうか』……だったりするのかな」
「どっちも正解。……人間じゃない術師を想定しているから、正確なのは後者だね」
「へぇ、人間じゃない術師なんているんだ!……まぁ、人間の体を持つ『呪い』もいるからね。一般人を呪い殺す怖い人たち、『呪詛師』……って言うんだっけ?」
呪霊、『真人』は意外にもノリノリだ。
なんのつもりだ、と訝しむ私に、少年は首を傾げる。
「呪いなのに、人を殺すのに使っちゃダメなんですか?」
「ダメだよ。拳銃で人を殺しちゃダメなのと同じ」
「……ま、人間のルールとしては『呪っていいのは呪霊と呪詛師』だけって感じだね。
──その言葉は、暗に『人間は正義ヅラして人間を殺すだろ?』みたいな糾弾が含まれているような気がした。
否定はできない。
黒人術師……『ミゲル』を、私は殺そうとした事がある。
あの時はかなりハイになっていたけど、冷静になった私は「人を殺せる」という事実に気づき、少し自分の力が怖くなった事も覚えていた。
「──多分、君は術式が使えるんだと思う」
「お?……やるねぇ、君。そういうのわかっちゃうんだ?」
「うん。真人さんが、僕の『毒の術式』を使えるようにしてくれたんだよ」
毒の術式。かなり強力だし、それはきっと人を殺せる力だ。
だから、彼は勉強しなければなるまい。
……私は彼の手を引くと、その場に『圧縮された空気』を構築する。
「──外で話そっか、少年」
「え……」
──構築術式、『
私が生み出した『あり得ない爆発』によって吹き飛んだ呪霊をよそに、私は走る。
真人が生み出した、呪術師を。
私の代わりになるかもしれない彼を、生かすために。