家出少女の禪院さん   作:人の心

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13話「変死体」

 同級生の呪術師がいた。生まれて初めての事だった。

 同級生の呪術師が死んだ。……もちろん、生まれて初めての事だった。

 

「……うぐ……っぐ……」

 

 家から離れた映画館で、一番座席の予約が埋まっていない映画を見て。

 一番奥の席に座りながら、私はただ一人で泣き続けていた。

 

──悠仁と、仲が良かった訳じゃない。

 

 特別に仲が良かったとか、そういう理由で泣いてるわけじゃない。

 覚悟してなかった訳でもない。

 黒沐死(ゴキブリ)だってかなり奥の手を持ってそうだったし、3人の一級と共に潰しに行ったのは決して間違いではなかったはずだ。

 

 けど、少年院の『呪胎』は私一人で対処できたかもしれない案件なのだ。

 五条さんも伊地知さんも私のせいじゃないとか、上層部の情報が、とか言ってくれたけど、それでも嫌な考えを止められる訳じゃない。

 

「ひっぐ……うえええ……」

 

──私が五条さんの打診を断って、少年院に行っていたら?

 

 あり得ない。あの時あった情報でそんな行動をする理由はないから、あの事件は私には防げなかった。

 『縛り』があった。……けど、それも夏油より強ければ、結ばずに済んだ縛りだ。

 

「私が……弱いんだ……!だから……死なせたんだよ……!」

 

 わかっていても考えてしまって、それが辛い。

 映画で泣けば誤魔化せると思ったけど、B級スプラッタ映画じゃそれも敵わない。

 場にそぐわないほど泣き続けていたら、私はふと近くで騒いでいた高校生らが静かになったことに気づく。

 

「──君たち、マナーは守ろうね」

「……っ!」

 

──映画館では、静かに。

 

 自分のことを言われているのかと思い、私は思わず口を押さえて立ち上がる。

 けど、それがいけなかった。

 

「えっ?」

「……しまった」

「あれれ。もしかしてぇ、そこの2人には僕が見えてる?」

 

 理性的な言葉を前に、無意識にその可能性を外していた。

 けど、そこにいたのは頭の形をぐちゃぐちゃに変えられた変死体と、そしてその中央に……

 

──呪霊。変死体と同じ呪力の残穢がこびりついている。

 

 こんな気分の時は、特に関わりたくない存在だ。

 しかも、相手は恐らく『特級呪霊』である。

 

「あっちゃー!もしかしてこの人たち、君たちの特別な人だった?」

「ずびっ……最悪」

 

 しかも、今回は一般人を巻き込む位置取り。

 思わず毒づく私の目の前、少年は憎しみを込めた目を『変死体』に向けると、平静を装って呪霊に近づいた。

 

「──僕にも、同じ事ができますか?」

 

 

 下水道にて、私は呪力の残穢を辿っていた。

 

 あの後、私が泣きすぎで動けなかったのをいいことに、二人はあっという間に距離を離していっていたのだ。

 ヘンゼルとグレーテルのようにその残穢を辿って歩いていくと、その先には先ほどの少年と呪霊がいた。

 

「……君、人を呪い殺す気なの?」

「おっと!まさか追いかけてくるなんてね!」

「なんで?……なんで、同じことができるか、なんて聞いたの?」

 

「うるさいな!」

 

 肩をすくめて笑う呪霊を無視して、私は少年の方に詰め寄る。

 ……詰め寄りすぎたのか、帰ってきたのは拒絶だった。

 

──なんとなく、わかる。

 

 人を殺したいほど、彼は人を恨んでいるのだと。

 呪霊は彼に何か細工を施したのだろう、彼の纏う呪力の『揺らぎ』が小さくなっている。

 

「本気で殺したくなるほど人を恨んだことはあるかい?……僕はある。居場所を奪われ、肉体を傷つけられ、尊厳を踏み躙られ!……これで殺意を抱かないならいつ抱くんだ?僕は人を殺すに値するだけの理由がある!誰にもそれを止める権利は──」

 

「なら、早く住所調べて放火しなって!呪術規定に少年法はないんだよ!?」

「……えっ?」

 

「んぶっ……!ククク……ッ!」

 

 呪霊が何やら、口に手を当てて笑いを堪えているのが見える。

 私はそれを一旦無視すると、順平の前に黒板とチョークを構築した。

 

「この世界には『呪力』や『術式』という力が使える存在がいるの。……『呪術師』『呪詛師』『呪霊』の3種類のどれかが基本で、あそこにいるのは『呪霊』、私は『呪術師』だね」

「ああ、俺は『呪霊』の真人!よろしくね!」

「私は『呪術師』の禪院茜。……二人の違いはわかる?」

 

 呪霊。なぜか攻撃してこない彼に、私は冷や汗を垂らしながら距離を取る。

 ……連絡はしたが、相手は増援が到着する前に私を殺せるだろう。

 ひとまず、時間を稼ぐしかない。

 

「……あっ、『人間かどうか』?……いや、『規定の内側にある存在かどうか』……だったりするのかな」

「どっちも正解。……人間じゃない術師を想定しているから、正確なのは後者だね」

「へぇ、人間じゃない術師なんているんだ!……まぁ、人間の体を持つ『呪い』もいるからね。一般人を呪い殺す怖い人たち、『呪詛師』……って言うんだっけ?」

 

 呪霊、『真人』は意外にもノリノリだ。

 なんのつもりだ、と訝しむ私に、少年は首を傾げる。

 

「呪いなのに、人を殺すのに使っちゃダメなんですか?」

「ダメだよ。拳銃で人を殺しちゃダメなのと同じ」

「……ま、人間のルールとしては『呪っていいのは呪霊と呪詛師』だけって感じだね。呪霊側(おれたち)にそういうのはないけど、基本的に『呪霊』を呪わない。本能で忌避してるんだよ、同族殺しをね」

 

──その言葉は、暗に『人間は正義ヅラして人間を殺すだろ?』みたいな糾弾が含まれているような気がした。

 

 否定はできない。

 黒人術師……『ミゲル』を、私は殺そうとした事がある。

 あの時はかなりハイになっていたけど、冷静になった私は「人を殺せる」という事実に気づき、少し自分の力が怖くなった事も覚えていた。

 

「──多分、君は術式が使えるんだと思う」

 

「お?……やるねぇ、君。そういうのわかっちゃうんだ?」

「うん。真人さんが、僕の『毒の術式』を使えるようにしてくれたんだよ」

 

 毒の術式。かなり強力だし、それはきっと人を殺せる力だ。

 だから、彼は勉強しなければなるまい。

 

 ……私は彼の手を引くと、その場に『圧縮された空気』を構築する。

 

「──外で話そっか、少年」

「え……」

 

──構築術式、『推製(マーキュリー)』。

 

 私が生み出した『あり得ない爆発』によって吹き飛んだ呪霊をよそに、私は走る。

 真人が生み出した、呪術師を。

 

 私の代わりになるかもしれない彼を、生かすために。

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