家出少女の禪院さん 作:人の心
私の戦闘スタイルは、基本的には単純だ。
呪霊にやっているように『構築術式』で呪具を作り、本来ならあり得ないほどの物量で封殺する。
それだけでも、呪詛師のほとんどをやり込めることができていた。
「はぁ!」
「ホウッ!……チョコザイナ!」
──だが、それは格上と戦ったことがなかったからこそ。
実際、今の私に出来ているのは、新宿の建物を使って付かず離れずの距離を保ちながら呪具を投げるくらい。
恐らくあの『黒い呪具』の影響で彼自身も術式を妨害されているから、私は背中から攻撃されずに済んでいる。
近くのショッピングモールに誘い込んだ所まではいいものの、私は依然として劣勢であった。
「面倒ダ……ミミナナニ押シ付ケタイ!」
「奇遇ですね!私も他のやつに押し付けて欲しいですよ!」
「ナラ出テコイ!」
しかし、こちらの攻撃は一つも届いていない。
一方、不意打ちのタイミングを読まれ始めたことで、すでに私が浴びた攻撃は十数発にも及ぶ。
こんな状況で、10分近くも粘らなければならない……
「死んだら祟るよ、五条さん……!」
「ソコカ!」
感じる、濃厚な「死」の気配。
慌てて飛び退くも、こめかみに瓦礫が飛んで耳から温い不快感が伝わってきた。
「構築術式……!」
「ソレガ……面倒ダ!」
先ほどから浴びた複数の擦過傷は、構築術式で皮膚を構築することで流血を避けていた。
しかし、今回のはやや深めだったのか、まだ痛みが残っている。
──限界が近づいてきている。
これ以上いいのを貰ったら、筋肉に達する。
筋肉に傷がついたら、私の貧弱な肉体は自重を支えられなくなる。
そうなったら、私の体は……たぶん、強化してもまともに動かなくなるだろう。
「ソンジャ……来イ!」
「嘘っ、そいつら……!」
しかも、そこでそいつの言葉と同時に、先ほどまで不干渉を貫いていた低級呪霊の群れがこちらへと突っ込んできた。
游雲を振った一撃で祓うも、その一瞬の内に既にミゲルは視界から外れており。
「──厄介ダッタゾ、オ前」
「がっ……!」
背中に火でも着けられたか、と錯覚するほどの痛み。
男の手に持っていたコンバットナイフが、私の背中をザックリと切り裂いていた。
「ごほっ……ひっ、ぎぃ……!」
「浅カッタカ。ケド、動ケナイ……」
背を向けて、スタスタと歩き始めた黒人。
それを見た私の頭の中によぎったのは、ある種『安堵』のような感情で。
──違うでしょ?
「……あぐ……っ!がっ……!」
「動クナ。無駄ニ殺サネーゾ、俺ハ!」
私の声に反応するも、腕を軽く動かすのすらキツい容態を再確認すると彼は再び歩き始めた。
考えろ。
どうやって、またアイツと戦えるように回復するのか。
根性で立つ。
たぶん、無理やり立ったところで1発殴られたら動けなくなる。
構築術式で回復する。
筋肉の構築は難しいので、多分出来たとしてまともに戦えない。
呪力で強化して、上二つ。
やっても、今までより弱い攻撃を1発打てるかどうか。つまり無駄。
──手は、動く。
なら、なにを構築するべきか。
私の頭は、目の前の男との距離を考える。
邪魔されず、一発デカい嫌がらせができることに気がつく。
「……やっ……!」
「煙……!?
私が構築したのは、大量の『発煙筒』。
痛む背中に鞭打って投げつけられたそれに反応して、一斉に周囲のシャッターが降り、スプリンクラーが作動し始める。
ミゲルと私の間にあった防火扉が閉まり、目隠しとして機能する。
これで、拘束されるのは避けられるだろう。
──なんとか隙はできた。
「『闇より出て闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』……」
その隙に『呪具を持った人間は通れないが、それ以外の全員が倒れる帳』を下ろすことで、奴を建物の周辺に封鎖する。
さて、ようやく私は傷に集中できるわけだ。
過去に、五条さんや家入さんに聞いたことがある。
──反転術式は、呪力に呪力を掛け合わせて使う高等技術だ。
今の私には使えない。
だが、今の私がアイツともう一回戦えるようになるなら、これしかないとも思っている。
「呪力に、呪力ね……」
呪力の組み合わせ。
私には、何度も呪力というものについて熟考するきっかけがあった。
まず、呪力で構築したものは食べられない。
正確に言うと、食べられたもんじゃない。
前に水道代を節約しようとミネラルウォーターを構築したところ、呪力で構築されたもの特有の『吐瀉物を処理した雑巾の味』がしたことがある。
風呂の水に使うならともかく、飲み水にはとても使えないものだった。
呪力は、意外と何にでも込められる。
これは、本当に何にでも、だ。
その辺の木の枝でも、石ころでも、この前なんかガソリンでも……
──液体でも、行けた。
「……試して、みようかな」
朦朧とした意識の中で、私は必死に浮かんだアイデアを手繰り寄せる。
防火扉を激しく蹴るような音を尻目に、ペットボトルを口に咥え。
──水が喉を通過する感触と共に、私は意識を手放した。
地名的かつ致命的なミスが発覚。
……えー、作者は『渋谷』と『原宿』の違いがわかりません。
そして『原宿』と『新宿』の違いがわかりません。
なので、三段論法的に私の頭の中だと『渋谷』=『新宿』が成立してしまうわけですね。
舞台を間違えてしまったのは、そういう背景があります。
お許しください。