家出少女の禪院さん   作:人の心

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4話「ミゲルさん②」

 この世の中には、悪人、善人、そして大多数であるどちらとも言いがたい人間が存在する。

 

──ミゲルは、そういう意味では普通の人間だった。

 

 夏油傑という男の信念に惹かれる善性、それ故にテロに加担する悪性。

 仲間のために危険を冒す善性、敵に容赦なく危害を加える悪性

 無駄な犠牲を是としない善性、必要とあらば人を殺す悪性。

 

 善悪のどちらとも言いがたい性格であるはずのミゲルは、今。

 

──己の悪性に従い、一人の少女にとどめを刺そうとしていた。

 

「ココダ……」

 

 最初は、適当に気絶させるか途中で逃げる程度のつもりだった。

 ……が、ここで一つ、早くも誤算が生じた。

 

 しかし、少女は強かったのだ。

 

 殺す気のない攻撃は簡単に捌かれる。

 逃げようとすれば背中から呪具を投げてくる。

 

 手加減できるほど実力に差がない。

 だから、素手ではなくナイフを使った。

 

 とはいえ、無駄に死んで欲しいとは思っていない。

 それ故に、呪力のガードで浅い傷になったのを幸いと、ミゲルはその場を去るつもりだった。

 

──五条の呪力を辿っていた所を、謎の『帳』に阻まれるまでは。

 

 少女の『帳』は意外にも頑丈で、ミゲルは一撃加えた瞬間に帳の破壊を諦める。

 

 そして今、ミゲルは少女のいたショッピングモールまで引き返すと、帳を解除して五条悟を追うため、分厚い防火扉を蹴破ったのだ。

 

「見ツケタ。オ前、厄介者……」

 

 少女は、小さなミネラルウォーターの空になったボトルを手にした状態で、柱を背にしたまま意識を失っていた。

 それでも術式が解除されなかったのは、『帳』という術式の単純さ故か。

 ミゲルはナイフを手に取ると、そっと少女の首元に切先を宛てがう。

 

「オ見事ダ。オ前ハ素晴ラシイ戦士ダッタ……今カラ追ッテ間ニ合ウカ?」

 

 そして、背後の柱に周り、突き上げる様にして喉笛を切り裂こうとした、その瞬間に。

 

──傷一つない綺麗な肌を見て、思わず手を止めた。

 

「What!?……治ッテイル……!?」

「うっせえよ、目覚めたじゃん!」

 

そして、ミゲルが驚いた──1秒にも満たないほどの──隙を、少女は見逃さない。

座った姿勢のままナイフごとミゲルを投げ飛ばすと、ミゲルが立ち上がるのに合わせたようにして、勢いよく立ち上がった。

 

──その体に、やはり傷はない。

 

「まーいいや、寝起きドッキリ大成功!……って事で問題、どうして私の怪我は全部治ったでしょう!!①.構築術式で筋肉まで治せた!②.呪霊の心臓でチェンソーマンになった!③……」

「反転術式……今習得シタノカ!?」

「ヒュー!正解だよ!呪力(ミネラルウォーター)呪力(吐息)を溶かすようなイメージでやったら見事に大成功!!死にかけるのも悪くないね、成長のためと思えば!」

 

 少女の高い笑い声が、反響する。

 その目には先ほどまでの恐怖心などではなく、圧倒的な『全能感』が宿っていた。

 

「オ前、スゴク高揚シテル。ダガ……無意味ダ!」

「意味ならあるってば!私も考えたんだからね、どうすればアンタに届くのか!」

 

 再びナイフ、そして黒い縄を構えたミゲル。

 『黒縄』は五条に使うため温存されていたが、しかし目の前の少女は温存しながら勝てる相手ではない、と判断したのだろう。

 

 その判断は、間違いではない。

 

術式反転……『破壊』!」

「オウ!……ワァ!」

 

──ミゲルの誤算は、少女が『黒縄』を狙ってきたこと。

 

 本来ならその行動は意味を持たない。

 それ故に反応が遅れたミゲルは、黒縄を掴まれてしまった。

 

 ただでさえ呪力を食う『術式順転』以上の呪力消費量である『術式反転』の術式をかき乱した黒縄は、彼女の反転した術式以上のスピードでゴリゴリと削れていく。

 ミゲルの額に、玉のような汗が浮かんだ。

 

「ほらほら!五条先生と戦うつもりでしょー!」

「触ルナ、離セ!」

 

 無駄な消耗はまずい。

 ナイフで茜の肩を突き刺そうとするミゲルだが、その刺突は呪力放出によって肌に触れる寸前で食い止められてしまう。

 

 ……ミゲルは、その技術を知っている。

 彼女が行ったのは、本来は領域対策に使われる技だ。

 

「『落花の情』!?オ前モ『御三家』カ!」

「大正解っ!正解者には後で『禪院家オールスターミニ色紙コレクション・コンプリートパック』をプレゼント!」

「イラナイ!」

「ひどいなぁ、人の心とかある?私はこの辺のゴミ箱で拾ったよ!後で君も一緒にゴミ漁りしようか!」

 

 ふざけた軽口を叩きながらも、茜は黒縄を手放さない。

 そのまま、最大出力での『破壊』を流し込み続けることで、五条悟と戦うための余裕を奪いに行く。

 

 反転と、『落花の情』。

 呪力を大量に使う二つの技術を用いた時間稼ぎに、ミゲルは思わず叫ぶ。

 

「バカナ……無名ノガキノ呪力ジャネーダロ!」

「『天与呪縛』ゥ!……知ってるよねえ、アンタも!」

 

 茜の呪力出力(ボルテージ)が、ほんの僅かな開示によってほんの僅かに上昇する。

 強引に黒縄を引っ張って脱出したミゲルに対して、茜が向けたのは笑顔だった。

 

「私の『天与呪縛』は色素欠乏(アルビノ)虹彩異色症(オッドアイ)!日光を長時間浴びると肌痛くなるし、両目とも乱視気味な上に視力低いし、ホントに不便な代償だよ!オッドアイの方は初対面だと五条先生すら気づいてくれなかったし、いつもコスパ重視のレインコートだから見た目もカッコよくない!最悪だよね!夏暑いし冬寒いし!……冬は別のコート着ればいっか!」

 

──呪縛の開示。

 

 不利な情報、つまり弱点の開示は最も効率よく呪力出力を上昇させてくれる。

 ますます身構えるミゲルに、茜はハイになった笑顔のまま、続けた。

 

「話を戻すと……その対価は()()()()()()()()()()()()()()!……上限を超えて上昇するペースは通常の呪力回復の四分の一だけど、一回上限を超えるとそこが上限になるのよ!」

「呪力ノ総量ガ……!?」

 

 驚くミゲルに、茜はますます大口を開けて笑う。

 彼女はすっかり気をよくしたのか、上機嫌にべらべらと喋り始めた。

 

「今の私の呪力総量の最大値は……五条さんと同じくらいかな!けど、こんだけ呪力が溢れてると体が脆くなっていくんだよね。おかげで反転術式を習得できなかったら20になる前に死ぬって五条さんは言ってたな。僕の感覚を教えてあげられたら、とも言ってくれてたっけ?あの人やさしーんだよね!意外とさぁ!」

「コンナ化ケ物ガイタカ。ダガ、俺モ仕事人(プロフェッショナル)ダ!」

「私の開示は終わった。五条先生にはアンタを足止めしろって言われてるけど……」

 

 黒縄の解禁と、茜の覚醒。

 おおよそ振り出しに戻ったと言ってもいい中で、しかし茜は笑う。

 

「──気が変わった。倒すよ、アンタのこと」

「オ前ヲ倒シテ、ソノ後五条ヲ止メル……!」

 

 日本代表、『禪院家のはみ出し者』禪院茜。

 ケニア代表、『南半球最強の呪詛師』ミゲル。

 

 遠くにいる五条悟が放った『赫』の爆発音をゴング代わりに、『脇役同士の最強決定戦』は最終ラウンドを迎える事となった。




五条先生は他の呪詛師たちが全員で頑張って止めにかかってます。
特にラルゥが頑張って止めてる感じです。

どうでもいい情報

茜はオッドアイですが、左がピンク、右が赤の同系色なので言われないと気がつきません。
あと、瞳が大きいので初対面の人には若干ビビられる事があります。
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