家出少女の禪院さん   作:人の心

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6話「高専の皆さんに、感謝を」

「えっと……茜さんだよね?大丈夫?」

「大丈夫です。反転術式が使えるようになりましたから」

 

 あの戦いから、数分後。

 なんとか反転術式と構築術式で現場を元通りに戻した私は、高専の人たちに囲まれていた。

 

 ミゲルに代わって残る全員が五条先生の足止めに動いたが、結局のところノルマ分の時間は稼げなかったらしい。

 残りの呪詛師が、大量の呪霊と連携しつつ全力で頑張って、やっと8分。

 

「なんかさ、乳首にシール貼ってるやつ?……意外と強かった」

「変態さんが……?」

「うん。オネエの変態。……たぶん、あの中だと3番目くらいに強かったんじゃないかな?」

 

 改めて私は目の前の男の絶対的な強さと、自分が倒した男が『10分の足止め』を任されるほど強かった事実に震える。

 つまり、今回の戦いは本当に死ぬレベルの相手とぶつけられていた、ということで。

 

「やー、生きててよかった!咄嗟に押しつけたけど、よく考えたら1回死ぬかもしれないレベルの奴だったからさ!」

「2回。……いや、寸前だったの含めると3回死にかけましたけど?」

「大丈夫。茜は今、生きてるからね」

 

 五条さんの言葉に、周囲からやはり同情の視線が集まる。

 しかし、そのタイミングで何やら金属片が一斉に落下するような音が聞こえ、私は思わず身構えた。

 

──だって、そっちの方角は……

 

「おい。まだ意識あんじゃねえか!」

「うっわ、痛そ!……ほんと、凄まじいタフネスだ」

 

 五条先生が指差した方を見る。

 先ほど私が倒したあの黒人術師が、立ち上がっていた。

 

「おっと!……動かないほうがいいよ。君、たぶん動いたら死んじゃうからね」

「ハァ……夏油ハ……」

「……僕が殺したさ。……とりあえず茜、反転術式が使えるようになったんだね。彼に使うことはできる?」

 

 反転術式の高等技術、『アウトプットする反転術式』。

 五条先生にすら、それはできないという話だ。

 私が手に反転術式を纏って彼に触れるも、あまり回復の速度はよろしくない。

 少しずつ肉が戻っていって、でも怪我が悪化して行く速度の方が早いせいで一向に良くならない。

 

 それは当然だ。

 ここまで深手の人間に、身につけたばっかの付け焼き刃で対処すること自体が無謀というもの。

 息を切らすまで集中してみたが、その回復速度は微妙なもの……私は、自分に使うのに精一杯だ。

 

 しかし、そんな私を制して、乙骨さんは前に出る。

 

「なら、見てて。……こんな感じなんだけど」

 

──その瞬間、奇跡が起こる。

 

 深々と突き刺さっていた短剣が、再生の勢いで一斉に吹っ飛んだ。

 乙骨憂太による、凄まじい精度と威力の『反転術式』。

 

 私の与えた大量の傷をあっという間に治療し、それどころが少し黒い肌の艶が良くなったような感じすらする。

 治療が済んだと同時に術師は倒れ込み、乙骨さんも息を吐き出しながら地面にへたり込む。

 

「ふぃー……深い傷相手だと疲れるね、流石に……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……」

「言っときますけど、呪術師初めて1年未満でコレは普通に無茶なことやってますからね」

 

 特級、改めて化け物だ。

 そう思っていた私の肩に、五条さんがそっと手を置いた。

 

「ところで茜。発想の転換とか、そういうことの重要性は学べた?」

「悔しいことに学べましたよ。……反転術式とか、構築術式の拡張性とか、領域展開とか、色々と。結構細かく狙えるんですね、『必中』の対象って……」

「なら良かった。報酬は僕からの個人的な特別ボーナス含めて送っておくから、楽しみにしといてね〜!」

 

 特別ボーナス。

 ……そんなものが付くなら死にかけたのも悪くはなかったのかな、なんて考えていると、ショッピングモールの前にバンが止まる。

 

 見れば、それは呪術高専のマークが描かれた、当たり障りない介護施設の名前が書かれたものだった。

 そのドアを開け、少し痩せた様子のメガネの男性がこちらに降りてくる。

 

 

「禪院茜さん。仙台まで送りますので、ご乗車ください」

「ああ、どうも。……それでは」

 

 とんでもなく疲れた。

 突然呼び出されて、走って、仕事も介護も代わりの人間を急いで探してもらって、見張りのために屋上に登って、初対面の呪術師たちと喋った。

 

 五条先生に同行して、ひたすら見張り続けて、合間で母親の介護をして、強すぎる敵と戦って。

 五条さんも乙骨さんも満足そうだけど、私はとても疲れた。

 

「──ありがとうございました、高専の皆さん。五条さん」

 

「いいってことよ。復帰する?茜」

「……遠慮しときますよ、それは」

 

 けど、何故だろうか。

 ミラーガラスから、散々な目にあった東京を眺める時の私の顔は。

 

──久々に、心の底から笑っている気がした。

 

 

 あの日から、半年とちょっと。

 私は『特別一級』になり、その日はマンションの管理人室で株価を見ながら、母親の介護をしていた。

 

 そのままマンションの近くにある高校で早退の言い訳を考えていたところ、五条さんから電話がかかる。

 

『あ、ごめーん!茜の学校に特級呪物見つけたからさ、協力してくれない?』

「……は?」

 

──百鬼夜行以来の、五条さんによる呼び出し申請。

 

 しかも今(高卒資格が欲しいので)通ってる高校で、『特級呪物』が発見されたのだという。

 

「特級呪物って……九相図ですか?四番以下なら私でも対処できるかもしれませんけど……」

『指。宿儺の指。……おーい?聞いてる?茜?』

 

 私は卒倒しそうになりながら、そっと通話を切った。

 平和に暮らしていた日常に、突然訪れる両面宿儺。

 呪霊が食べていたら()()だ。その場合、特級呪霊と戦うことになるわけで。

 

「……え?そういうの、私。……え?やりたくないから仙台に引っ越したんですけど?」

「茜ちゃん?どうしたの?」

「……なんでもないよ、母さん。うん……晩ごはん作るね……」

 

 母親の呑気な声に笑顔で返しながら、胃に最大出力の反転術式を発動させる。

 仙台に来て、休暇からしばらく。

 ちょっとだけ体も丈夫になった私だけど、たぶん顔色はあの日より悪くなっていると思う。

 

 五条さんがこういう言葉をかけるとき、ほぼ大事件に巻き込まれるのは確定しているわけで。

 

 ……私、明日の学校、行きたくなくなっちゃった。




茜の反転アウトプットは蝿頭を殺さず甚振るのに使えるくらいの低出力です。
すり傷くらいなら治せるかな。
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