【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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Part1『蘇る狂気//首無し騎士の機甲譚』
開幕『暴走AC撃退』


 

 深部封鎖区画、その名は深淵(アビス)。闇のなかに炎が上がっていた。狂気の計画が生み出したシステムを搭載した戦略級大型戦闘リグ、ファンタズマが崩れ落ち、燃えている。

 

 単騎で大軍を殲滅可能な規格外機動兵器ファンタズマの撃破を成し遂げたのはたった一機のアーマードコアだ。アビスの暗黒の中に黒青色の二脚ACデュラハンの姿があった。

 デュラハンは手のような外装に五つの短砲身を持つマシンガン・ユニットWA-Fingerを油断なく向けて、その最期を看取ろうとしている。

 

 やがて同業者(レイヴン)スティンガーは燃え尽き、ファンタズマの紅い装甲が墓標となる。それを見届けたデュラハンはブーストジャンプによる垂直上昇で天井から漏れる光に飛び込んだ。

 

 地上に舞い戻ったデュラハンはムラクモ・ミレニアム製有明ACカスタム、コーラルスターと合流した。激しい戦いの連続となった、この一件の依頼人。これまたレイヴンであるスミカ・ユーティライネンの愛機だ。

 

「今度また何かあったら仕事をお願いするわ。その時は格安でお願いね!――――ありがとう、レイヴン」

 

 高額な報酬で成り立つレイヴン稼業では、おいそれとできない冗談を口にしたスミカを残し、デュラハンは迎えのVTOL輸送機に乗り込んで行った。

 

 空の彼方へと去り、小さくなっていく輸送機をスミカは見送った。いずれまた逢いましょう、できればレイヴンとしてではなく。スミカ・ユーティライネンはACを駆って襲いくる全てを薙ぎ払った、黒髪の死神少女を今一度、思い描く。

 

 デュラハンを駆るあの娘でなければ、ファンタズマの狂気を食い止めることはできなかっただろう。

 

 

 

 最後に告げられた彼女の「ありがとう」は妙に心地良かった。格安で引き受けるかはともかく、スミカと組むのは悪い気がしない。

 

 ウェンズデイ機関は消滅し、人機完全融合型次世代強化人間"ファンタズマ"の狂気は野心と共に灰燼となり果てた。これで、少なくとも今日一日は正義の味方でいられる。

 

「良い気分だ。お前もそうだと嬉しいな、デュラハン」

 

 狭いコクピットでレイヴン――――アリス・ジャバウォックは激闘を戦い抜いた乗機に語り掛けていた。

 外見上では十三歳ほどの、黒髪を長く伸ばした可憐な少女にしか見えないこのレイヴンは存在そのものが美しくも禍々しい幻想の一つだった。

 

 容姿に反して、アリスは現実的だ。いつまでも勝利の余韻に浸ってはいられない。傷付いたデュラハンには修理と弾薬の補給が必要だ。それにアリス自身には休息が。

 

 

 二年後。ときに過去は亡霊へ変わり、生者への復讐を為すものだと、アリスは思い知ることになる。

 

 

 

 

 地下複合都市アヴァロン・バレー。

 

 世界の覇権を巡って争い続けていた超巨大企業体、ムラクモとクロームの崩壊による煽りを受けながらも立ち直り、新たな繁栄を迎えようとしている都市の市街地で破壊が巻き起こっていた。ビルは瓦礫の山と化し、巻き上がった炎が大勢の市民を呑み込む。

 

 たった一機のアーマードコアに、これほどの火力が搭載されているのだと、この時多くの人々が思い知らされた。

 突如として封鎖された地下トンネルから現れた暴徒はACを操縦しており、しかもレイヴンであることが明白だった。左肩に描かれたエンブレムがそれを物語っている。

 

 ムラクモ及びクロームの崩壊と連鎖するように、レイヴンに依頼を斡旋してきたレイヴンズ・ネストは機能を停止した。

 ネストの停止によって、依頼を得る術のない、あるいは同業者との生存競争に破れた多くの傭兵が路頭に迷うことになった。

 

 そうした者達のなかでも強化人間に付きまとう問題は深刻だった。心身の機能を維持する高額なメンテナンス費用を工面できなくなったことで正気を失い、神経直結手術によって第二の肉体となったACを駆っての果てしない暴走を繰り広げるケースが各地で多発しているのだ。

 

 アヴァロン・バレーで目下暴走中の四脚ACもその類で、シティ・ガードが大枚叩いて導入したばかりの旧クローム製ACスウィフト四機が駆けつけるまで、ガードMT相手を片っ端からぶっ壊していた。

 神経直結デバイスによる高速かつ有機的な挙動で道路を走り回って銃撃を避けながら、ライフルを乱れ撃ち続けたのだ。

 

 出動したMTの数と同じ残骸が転がる頃、やっとのことで現場に到着したスウィフトは当初こそ互角の戦いを演じていたが、実戦経験がないことが仇となった。

 強化手術の副作用による激痛によって狂気に陥りながらも、暴走ACの操縦者はレイヴンとしてのスキルで、スウィフトを一機一機撃破していったのだ。

 

 たった一人の狂人により、市街は焼き尽くされようとしていた。

 自ら造り上げたシティガードの残骸を通り抜け、レーザーキャノンを構える四脚。チャージを開始して、レーザーの照射が続く限り一帯を焼き払おうとする。

 

 コクピットに収まったケーブル塗れのパイロットの濁った瞳に悪意はない。ただ、破壊だけが神経に走る焼けつくような痛みを表現する術なのだ。

 

 レーザーを発射する直前、ロックオン警告に反応して四脚は後ろに飛び退いた。上空からマシンガンの火線が迫り、ミサイルが蛇行後退を続ける四脚にぶち当たる。

 黒煙を払いながら、強襲してきたACにターゲットを切り替え、レーザーキャノンを発射した四脚だったが、黒青色の二脚ACは照射を難なく躱して急降下する。

 着地の瞬間を狙った銃撃さえも寸前で跳んで避け、ブーストダッシュで路上に火花を散らす。

 

「まったく、ツイてないぜェ」

 

 周囲を映すモニターとコンソールによって照らされた狭苦しいコクピットの中に、アリスの鈴を転がすような声音が響く。

 ツイてない、とはオフに厄介な事態と出くわした己か、あるいは目下大暴れしている強化人間に対してか。

 

『アリス、市長から通達よ。これ以上市街に被害を出さないように努力して欲しい、だって。それと被害分だけ報酬を減額するらしいから慎重にお願いね』

 

 ネスト崩壊後からアリスが組むようになったオペレーターのウルスラは金髪で眼鏡の才媛。しかも長身のナイスバディときている。

 今はタイトなビジネススーツをきっちり着込んで、デキる女感を全周囲に発散していた。

 

 住居兼AC運用母艦であるキャリアーリグ、ナイトメアの操縦席にタイトミニスカートを突っ張る豊満なヒップを押し付けながら、ウルスラはアリスのオペレートをしている。

 

 今のところは戦術支援ではなく、依頼人であるアヴァロン・バレーからの口出しや早速のクレームを捌くのが仕事だ。アリスもウルスラもプロなので注文を付けるのは構わないが、戦闘に突入してからでは困る。

 

『うえ、先に言えっての。それじゃブレード以外、迂闊に使えないじゃんか!』

 

 道路に砲弾で穴を空けた分の減額は確定なので、気分が下がるアリスであった。

 忌々しそうに硝煙が立ち昇るマシンガンを見つめるアリス。敵ACはこちらの事情を察したかのようにビルの陰に隠れながら、ライフルを連射してくる。

 

 ブースターを瞬間的に最大速で噴射させ、射線から逃れるデュラハン。両機は高速機動を開始する。

 

「くっ!」

 

 相手の強化手術の度合いはかなり高いようだ。幾度となく強化人間と戦い、打ち負かしてきたアリスはそれを肌で感じられる。

 戦闘機を上回る慣性加速度にとても耐えられそうにない、繊細な四肢はしかしGに抗いながら黒青色のACデュラハンを精緻に操っていた。

 

 レーザーキャノンの再チャージが終わる前に、一気に距離を詰める。

 黒青色のデュラハンはライフルによる攻撃を装甲が厚いコアなどで弾きながら、鋭く跳ぶ。

 ライフルを振って照準を合わせようとする四脚だが、ACの制御システムと直結した知覚が、右腕部の機能喪失を報せた。

 

 着地前に身を捻り、四脚の右側面を取ったアリスは稲妻の速さで左腕のレーザーブレードを抜き放ち、強化人間の知覚よりも速く右腕を切り裂いたのだ。ジェネレーターからのエネルギーが内部機構から溢れて漏電が起き、火花が散る。

 

 本能的な恐怖を抱き、四脚は高速で後退し始めた。デュラハンはブーストを最大出力で吹かして暴走ACに接近する。

 四脚の残った左腕がブレードを振るうが、デュラハンはそれをたやすく切り払う。

 次の動作を思い描きながら、アリスは猛進する。

 

「これなら文句ナシだろ!」

 

 アリスはマシンガンをACの腹部に密着させた。トリガーを引き、マガジンの弾を全弾叩き込む。

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃあっ!!」

 

 吼えるアリス。可憐な美貌にそぐわぬ野蛮な表情だ。

 ACの機体表面に展開された防御スクリーンを撃ち抜き、機体内部に砲弾が食い込む。

 重厚な装甲なので、弾は背中を貫通していない。

 エネルギー伝達系の損傷による誘爆を避けるため、ジェネレーターが緊急停止する。

 

 すべてアリスの計算通りだった。

 

『お疲れ様、アリス。今ガードがそっちに――――』

 

 大通りの真ん中で、暴走していたACが機能停止すると、ウルスラの通信をスルーしてコクピットハッチを解放するアリス。一切インプラントしていない完全な生身とは思えない跳躍力で四脚のコアに飛び移った。

 

 黒系統のパンクロック風な出で立ちで、しかもミニスカートなので下からは純白のインナーが見えてしまう。だが、それを気にするほどアリスは軟な乙女ではない。第一、周りには誰もいないし。

 

 コクピットハッチを強制解放して、中身を見聞する。口からは泡を、ケーブルジャックから火花を吹きながら痙攣している元レイヴンの姿はアリスの想像通りだった。

 

「ウェンズデイⅣ型強化人間(プラス)、これで三件目か」

 

 施された施術はかつてアリスが依頼を引き受けて叩き潰し、スポンサーによって闇に葬られたはずのウェンズデイ機関だけが施せる独自のもの。

 一ヶ月間で、このタイプの強化人間に対処する仕事を既に二件こなしていた。

 

 流石に多すぎる。

 

「スミカに連絡してみるか」

 

 不穏な事態に気付くのが遅すぎたかもしれない。

 

 アリスはコクピットで呻いている肉と機械の混合物を残し、艶やかな黒髪を靡かせながら再びの跳躍。デュラハンのコクピットに戻った。

 

「無視して悪かったなウルスラ。ガードに口出される前に中身を確認したかったんだよ」

 

 「もしもーし、アリス!?」とウルスラがコールを続けているので、シートにだらしなく寝そべり、脚を投げ出しながら応答した。

 

 

 それから三日間、アリスはウルスラと一緒にスミカ・ユーティライネンのアドレスを探した。しかし、彼女はレイヴンズ・ネストの機能停止直前にレイヴンとしての活動を止めており消息が掴めないでいた。

 

 コンタクトはスミカ側からあった。現在、ウェンズデイ機関の残党を追っているとのことで、地上のとあるエリアでおち合いたいという、極めて簡潔なボイスメッセージが届いたのだ。

 

 指定されたエリアは《大破壊》以前の兵器の残骸が転がる古戦場だった。身を潜める場所が山ほどあり、騙し討ちにぴったりだ。

 

「罠だな」

「罠ね」

 

 それが意味する事態を二人はすぐに察した。戦闘準備を整え、漆黒のキャリアーリグは地上の荒野を駆ける。明るい月がナイトメアの車体を照らしていた。

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