【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
来訪『アルゼナ修道院』
アイザック・シティ。最終戦争、大破壊により荒廃した地上から地下へと人類の生存圏を移す百年計画で建造された最初の地下複合都市である。
当時唯一の統治機構となっていた企業連合体の指揮の元、完成した地下複合都市には当初こそユートピアが築かれていたが、それは長くは続かなかった。
連合体を構成する企業間の対立、人口増加に伴う社会的・経済的格差の広がりにより、地下空間に闘争が舞い戻ったのだ。
資源を掘り尽くした空間を埋めて構築された下層区画は打ち捨てられた貧民と多種多様な犯罪者の坩堝だ。アーマードコアを駆るレイヴンもまた、この地の底の無法地帯を巣とする者達であった。
アリス・ジャバウォックの最初の記憶はこのアイザック・シティの最下層で始まった。一糸纏わぬ姿で黒髪の少女は目覚め、自らを餌食にしようとする者達を逆に喰らって糧を得てながらスラムを彷徨い、アルゼナの修道女らに保護されたのだ。
淀み切った空気に懐かしい気持ちになるアリスの目の前で、「はぁ!」という裂帛の気合を込めた美しい掛け声が響く。ピンク髪のヴァルキリーがサイコ殺人鬼に踵落としを喰らわせ、文字通り昇天させた。
「ありがとな、スミカ」
「これくらいお安い御用です。それに、こんな悪党は放っておけないわ」
念のため背後のウルスラを庇いつつ、アリスは残身するスミカに礼を言った。
スミカはレイヴンとしての戦闘装備である、ぴっちりしたバトルスーツではなく、私服姿だ。黒のハイレグボディスーツをインナーにジャケットとタイトなジーンズを身に着け、ボディラインを露わにした出で立ちだ。
ガルムズとの決戦に向けて装備を調達するべく、アルゼナ修道院を訪ねるので、武装を控えていた。アリスはシックな黒のワンピース。こちらもスラムには相応しからぬ、迷い込んでしまった上流階級のお嬢様に見えなくもない。
アリスのマネージャー兼オペレーターのウルスラは巨尻に張り付くようなタイトスカートのスーツ姿だ。念のため、防弾仕様のボディスーツを下に着ている。
襲われたのは本日五度目。全てスミカが対応してくれた。ムラクモ・ミレニアムのエリート社員として人工陽光に照らされた上層で優雅に暮らしてきたウルスラは最初こそ襲い掛かってきた犯罪者に怯えたものの、二回目の襲撃で順応した。
この適応力がムラクモの崩壊により無職になったウルスラが生き延びることができた理由の一つであった。
「あんまキョロキョロすんなよ。迷子になる」
「ごめんごめん」
今や、ウルスラは真剣な声音の警告に生返事するほど余裕を醸し出している。金髪碧眼、メガネを装着した理知的な美貌に似合わぬ「はえー」という気の抜けた感心の声を漏らし、ウルスラはスラムのあちこちを眺めていた。
迷路のような路地を抜けると、空気が変わった。高い壁に囲まれた修道院が見えてくる。
二人を先導していたアリスは不意に立ち止まり、振り返った。
「二人とも、修道院の敷地に入ったら覚悟しておいてくれ」
「ちょっと脅かさないでよアリス。ここの人達とは知り合いなんでしょ?」
「一人面倒臭いのがいてな、オレを毛嫌いしてるんだ。刃傷沙汰になる可能性が高い」
「やだ怖い。私血を見るの苦手なのに」
「心配しないでウルスラ。何があっても貴女は私が守るから」
大袈裟に怯える金髪メガネの才媛に眼差しを送るピンク髪の戦乙女。スミカを頼りにウルスラはおっかなびっくりアリスに続く。
修道院に近付くと、三人を迎え入れるように門が開いた。監視されているのだとスミカは察した。
深呼吸してスミカは備えた。正門をくぐると、道の左右は林になっていて、身を潜めるのにうってつけだ。玄関まで中ほどの距離に達した時、アリスは左手の林から奇襲を受けた。
「アリス!?」
狙撃さえも察知できるスミカの感覚をもってしても、察知できなかったその襲撃者は修道服を身に纏った、白い髪の少女だった。人形のような精巧の造りの美貌。仄かにボーイッシュな印象がある。
しなやかな肢体が、息を呑むほど深いスリットの入った修道服の下半身から露わになっており、美少女好きな金髪メガネのオペ子は修道女が大胆に露出させた下半身に釘付けになっていた。
そんなウルスラの視線を意に介さず、旋風を起こしながら突進してコンバットナイフを閃かせ、アリスを切り刻まんとする過激スリットの修道少女。
「心配するな二人とも! じゃれてるだけだ!」
際どくナイフの連撃を避けつつ、アリスは叫んでいた。視線をウルスラ達に向けながら白い髪の修道女の攻撃を素手で捌いている。相手の勢いを止めてから、黒髪を靡かせバックステップする令嬢風黒ワンピの少女。
「ちょちょちょ、何が起きてるのよ!?」
突如バトル漫画の世界に放り込まれたウルスラは少女達の素早い動きを目で追おうとしている。
白髪の修道女は素早く片腕を振るい、数本の投げナイフを放った。アリスは迫ってくる刃を指の間で挟み取った。白い手には傷一つない。
挑発的に笑い、敵を見つめながらナイフを放り捨てる。
「ちっ!」
アリスの余裕ある態度に白髪の少女は舌打ち。サイドステップで翻弄しながら、その場で迎撃態勢を取るアリスに迫り、強烈なサイドキックを放った。
「……ッ!」
「ええ!?」
修道女の蹴り技の冴えに思わず息を呑むスミカ。対してウルスラの驚愕は蹴りで盛大に捲れ上がった修道服の前後に垂れた布の下が原因だった。
アリスに襲い掛かった少女はなぜかパンツを穿いておらず、デルタ地帯が曝け出されたのである。
白い髪の少女の蹴りをアリスは完全に見切っていた。突き出された片脚の足首を強い力で掴みながら、笑いかける。
「久しぶりだなイータ。とりあえず、今日はここまでにしようぜ」
言いながら、アリスは修道女の足首を離した。常人ならそれだけで殺せそうな殺意を込めた眼差しでアリスを睨んでから、イータは黒髪の少女の同行者二名に向き直る。
「お騒がせいたしましたウルスラ様、スミカ様。わたしの名はイータ、クルシュカ院長より案内を仰せつかった者です」
イータは上流育ちのウルスラでも目を見張るほど優雅な礼をした。アリスに向けたような殺意や敵意は欠片もなく、来訪者への敬意に満ちている。
「こっこれはどうもご丁寧に」
「スミカ・ユーティライネンです。お世話になります」
先ほどの衝撃的なサイドキックで露わになったイータの下腹部が脳裏に焼き付き、少し赤面しながら挨拶するウルスラであった。
「それじゃ案内頼むぜイータ」
「言われなくとも。調子に乗らないでくださいねアリス。お連れの方々がいなければ、貴女など切り刻んでゴミ箱に捨てていました」
「まあ、そんな恐ろしいこと言わないでくださいましイータお姉様」
わざとらしいお嬢様口調になったアリスをイータが再び睨み、両者の間に火花が散る。
「いつか絶対殺す。貴女がわたしの姉妹や院長に災いを招く前に」
静かに呟きながら、イータはアリス一行を先導する。廊下でイータと同じスリット入りの修道服を着た少女や若い女性達とすれ違った。皆、歓迎してくれている。
「イータという娘は随分アリスを嫌っているわね」
小声でアリスに呼び掛ける。ウルスラが見たところ、廊下ですれ違った修道女達はアリスの来訪を喜んでいた。殺意を向けられるほど嫌われるとは、余程の事をしたに違いない。
「言っておくが向こうが勝手にオレを嫌ってるだけだからな。貴女は死の匂いが濃すぎる、だとさ」
ウルスラの考えを見抜いたかのように、アリスは言った。それはちょっと分かるかも、とイータに共感する金髪メガネの長身巨乳オペ子であった。
このアリスを名乗る怪物みたいな少女は、あまりにも殺しが上手すぎて、時々途轍もなく恐ろしいのだ。