【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
「次にお前は"馬鹿な"と叫ぶ!」
四肢でデュラハンは操り、全身の力で馬鹿げた加速がもたらす荷重に耐えながらアリスは予言する。
天地がひっくり返る。アマデウスが乱射する致命的な閃光が空間を覆う。
その隙間を見出し、駆け抜け、ブレードを振るう。光波の斬撃が常軌を逸した速度で飛翔する敵を捉えた。
アマデウスが纏う光輝は真紅の荷電粒子に切り裂かれ、神像めいた姿が傷つけられる。
胴体の装甲が融けてスパークを起こしていた。
オーバードブースト全開で飛び立ち、圧倒的に不利な空中戦を開始して二十秒後のことだった。
アリスは射撃を当て続け、アマデウスの強固な粒子装甲を減衰させていった。そこに先ほどのブレード光波を打ち込み、損傷を与えたわけだ。
収集したデータから導き出された行動予測が外れ続けたことで、アマデウスの動揺は時間の経過とともに増していた。
半身が融けたデュラハンに一発の有効打も与えておらず、逆に自分は被弾し続けた。そして、光波が命中する位置に誘導されたのだ。掌の上で転がされている。
『馬鹿な!――――はっ!?』
アリスの予言が成就したとき、アマデウスの動揺は恐怖に変わった。
彼は迷信もそれを信じる者も侮蔑してきたが、死神の大鎌が魂を刈り取るべく、振り上げられたと確かに感じた。
『痴れ者め! 万死に値するぞ!』
恐怖を振り払うべく神を演じる。デュラハンから距離を取りつつ、背中のポッドに搭載された自律兵器オービットを射出。八基の砲台が黒青色のACを囲い、レーザーを発振する。
サイドブースターからの爆発的な噴射を行い、黒青色の次世代ACは空中にて連続側転。
もらったぞ、まったく煩わせてくれたものだ――――恐怖から一転、アマデウスは勝利の確信に酔い痴れる。
演算リソースを振り分け直し、予測精度を高めた。今度は逆にアリスを追い込んだのだ。
オービット射出に合わせて、粒子装甲の急速励起を行っており、アリスが回避から反撃に移ろうとしたまさにその瞬間に炸裂させた。
粒子装甲の絶対的な防御力を究極的な破壊力に転換するアサルトアーマー。それは大破壊時代に跋扈した巨大兵器を撃破するべく、次世代ACの原型に搭載された機構であった。
小規模核爆発を上回る熱と光の嵐が黒青色の死神を飲み込むのが見えた。
機体を空中にぴたりと静止させながら、アサルトアーマーでダウンしたセンサーの回復を待つ。
しかし安堵したアマデウスめがけて、死神の刃が振り下ろされた。
『なっ何ぃ!? 貴様! どうやってあの爆発を生き延びて!?』
神様気取りを続けられないほどに怯え、竦んでいる。機械の神人の胴体には、ハイレーザーライフルが突き立てられ、背中まで貫通していた。
『全力でぶっ飛ばした、それだけだぜ』
荒く息を吐きながら死神少女は種明かし。デュラハンの全リミッターを外し、グレネードキャノンをパージ。アサルトアーマーを起動して爆発を受け流しながら、敵の上空を占めたのだ。
センサーがダウンしているのはお互い様だったが、アリスは己の感覚を頼りに愛機を駆り立てた。
『はっ離せ! この! なぜ振り解けない!?』
もがくアマデウスだが、デュラハンの拘束から逃れられず、落下していく。半壊した黒青色ACは幽鬼の如き姿で、この世ならぬ力に後押しされているかのよう。
『無駄だぜ。お前の動きはもう掴めてる』
陽気に告げるアリス・ジャバウォックが死そのものに思える。ただ怖ろしい。
レーザーブレードの真紅が閃き、右腕が付け根から切断される。
『私は世界を正しく導ける唯一の存在なんだぞ! ガルムズが消えればすぐに企業間の対立が始まる。統制者のいない、際限のない戦乱が地下都市を破壊し尽くす! 恐怖と混沌、それしか残らない世界になる! それは君とて望んでいないだろう!?』
『あんたが少しはマシな神様をやる気だったら悩みもしたがな』
御機嫌よう。冥府から来た黒衣の乙女は、瀟洒に告げて飛び去る。縋るように残った左手を伸ばすが、無駄だった。
『やっと出番ですか。無事で良かったと今は言っておきますよ』
『結局、肝心な所はアリス任せになってしまったわね――――後は引き受けます、これで必ず終わらせる』
イータとスミカの声。地上に出た二機の次世代ACが発射可能な全兵装をアマデウスに向けている。
戦いを見守っていたレイヴン達も射撃武器の射程に敵を捉えていた。アリスは戦闘中に暗号通信を送り、一斉攻撃を要請したのだ。
『待たせたな。さあ同志諸君、やっちまってくれ! だが、くれぐれも近づき過ぎるなよ、爆発に巻き込まれるぜ!』
アリスがレイヴン達に号令をかける。一斉掃射によって、
地下複合都市アンバークラウンはガルムズ騒乱の間も変わらず平和を保っていた。過酷な戦いの日々を慰労するにはもってこいの場所だ。
アリスは打ち寄せる波を眺めている。久しぶりに水着を着ていた。濃紺色のワンピース水着、旧タイプのスク水が少女の肢体にぴったりと張り付いている。
青空に眩しく輝く太陽は人間に気を使っているかのように、快適な暑さを提供している。
それもそのはず。ここは地下都市に造られた人工海の砂浜なのだから。空と太陽もまたスクリーンと照明で再現されたものでしかない。
アンバークラウンの平和と安寧の裏に蔓延る悪を討ってきたスミカの名声とコネのおかげで、素晴らしいビーチを貸し切ることができた。
修道院長のクルシュカに引率され、アルゼナの修道女達も総出で海を満喫している。
テーブルを挟んでアリスの隣のチェアをウルスラが使っている。彼女は水着姿で戯れる修道女達を拝み、至福の刻を過ごしていた。
金髪メガネのオペ子自身、磨き抜いた豊満な肉体を引き立てる過激な水着を着ていた。股から肩まで、二本の紐が伸びているだけ。いわゆるスリングショットと呼ばれる様式。
ガルムズ壊滅から一週間が経つ。現在の情勢はのんびり羽を伸ばせるほど穏やかだった。
しかし、これは嵐の前の静けさでしかない。新たな同盟関係、新たな対立関係が築かれ、企業間抗争が始まるのは誰の目にも明らかであった。
バージュ社を始めとした有力企業の動向と同じくらい、人々の間で議論を呼んでいる出来事もあった。
ガルムズ本拠地壊滅の直後、奇妙な映像が動画共有サイトを起点に拡散し、一時間後に一斉削除される怪事件が起こったのである。
映っていたのは、大破した赤と黒の大型機動兵器を足場に大気圏に突入するACの姿。全体像は不明瞭だったが、左肩にタロットカードの死神が描かれているのが微かに見えた。
アリスは衛星軌道上で、もう一つの戦いが繰り広げられていたことを悟った。
混沌とした世界に秩序という名の支配を築き上げることを望む者は多い。しかし、己やエーアストのようにそれを拒絶し、叩き潰す力を持った者もいる。
レイヴンは孤高の戦士だが、孤独ではない。
「まだしばらくはオペレーターを続けるってことでいいのか? ぶっちゃけしんどかったろ、抜けてもいいんだぜ?」
「今回みたいに私がいないと困る依頼もあるはずだわ。だからアリスを独りにしておけない。それに、何よりもあんまり儲からなかったし」
今回の一件は、金銭的にはギリギリ黒字という結果になった。悠々自適の暮らしはまだまだ遠い。
それにアリスと組んでいればスミカやアルゼナの修道女達のような素敵な出会いが今後もある、という予感もあった。
「なら、これからも頼りにさせてもらうぜ。少し泳いでくる。ウルスラもどうだ?」
「私はパス。今は体を休めたいの」
「そうか。じゃ、行ってくる」
砂浜をすたすた歩いていくスク水の黒髪少女。
彼女達らしい、股座の角度が鋭く、動きやすい競泳水着姿のスミカとイータに合流して、人工の海に飛び込む。海はアリス・ジャバウォックを静かに受け入れてくれた。