【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

17 / 36
ルッキングバック・ファンタズム
救出


 

 街頭ビジョンに先日の不法侵入事件の続報が流れていた。他所の都市ならともかく、随一の治安を誇る地下複合都市アンバー・クラウンでは史上初といっていい大事件だった。

 

 アーマードコアを用いた凶悪な襲撃犯はシティガードの対重犯罪ユニットの迅速な対応により下層部から地上に叩き出され、逃走中に確保されたとのこと。

 

 映像が切り替わり、コンバットリグ・パペガイの小隊が中量二脚タイプのACを追い詰める緊迫の瞬間が流れた。

 包囲された機体のハッチが開き、両手を後頭部で組んで降伏したパイロットが下りてくる。

 容貌も服装も粗野な印象の若い男だった。

 

 映像はそこでスタジオに切り替わる。雁首揃えたコメンテーターが得意気に語り始めるが、アリスの興味は既に失せていた。

 

 アンバー・クラウン中層部の清潔なストリートを征く。

 幸運を。自分の身代わりになってくれた同業者(レイヴン)の無事を祈ってもいた。

 

 十二歳ほどの黒髪の少女――――今は髪を結び、スーツで少年のように装っているアリス・ジャバウォックこそが本物の侵入者だ。

 

 逮捕された男は身代わりを引き受けてくれたアンバー・クラウンのレイヴンであった。

 

 すぐに多額の保釈金が払われ、それとは別に秘密口座に報酬が振り込まれる手筈だ。

 

 囮役は駆け出し傭兵の典型的な仕事の一つだ。特に犯人を生きたまま捕えることに拘る傾向の強いシティガードは安全で良い訓練相手になる。

 

 都市政府主導の統治により企業の暴走を抑え、繁栄を謳歌するアンバー・クラウンの闇は一段と深く、多数のレイヴンが下層に巣食っている。

 

 今回アリスが利用した仕組みもレイヴンを筆頭としたアウトローのため築かれたものだ。

 

(さて、ここからが本番だな)

 

 昨晩、新しいミッションの連絡があった。護送部隊を蹴散らし、要人を救出する作戦。補給基地を破壊する程度のミッションとは違う。

 

 地下複合都市アンバー・クラウンに侵入してほしい。ただそれだけの文面のメールを寄越した身元不明、意図不明の依頼人。

 

 少しでも危機管理意識があるのなら無視する依頼だ。しかし、アリスは好奇心と直感に従い、愛機デュラハンを駆って冒険に繰り出すことに決めた。

 

(しっかし尻尾の先も掴ませないってのは気に入らねえな)

 

 依頼主は徹底的に素性を隠蔽しており、メールの発信源を辿る試みは全て失敗していた。

 次のミッションで顔を合わせる救出対象が依頼主本人か分からないが、そうであったのなら文句の一つも言ってやる。

 

 

 都市の出入り口であるゲートを強行突破してから事前に依頼主が手配したガレージにデュラハンを運び込んであった。

 

 弾薬は一揃いあり、しばらくは節約せずに戦争できる。ご丁寧に予備のフレームパーツも少々用意してあったが、アリスとしては使う気はない。

 

 

 作戦開始二時間前。

 

 アリスは都市下層区画のガレージに姿を見せた。無人のガレージにただ一機、黒青色のアーマードコアが佇んでいる。中量二脚、ヒューマノイドタイプ。がっしりとしたシルエットと積層された装甲が重甲冑を連想させる。

 

「よお、待たせたな」

 

 アリスは愛機デュラハンに呼びかけた。自らを拾ってくれた兵器ブローカー、アルゼナ修道会が独り立ちの餞別に用意してくれた機体だった。

 

 自動整備ステーションのコンソールで素早くコンディションをチェックする。問題なし。

 

 次にアリスは自分の身支度に取り掛かった。おもむろにスーツを脱ぎ捨て、男装を解く。

 華憐極まりない容姿に相応しからぬ、シンプルな灰色のインナーもあっさりと脱ぐ。少し汗を掻いていた。

 

 うち棄てられた鋼色のガレージに佇む少女の輝くような白い裸身。退廃的な幻想美が現出していた。

 

「うおっさむ」

 

 神秘的な表情を崩し、ひんやりとした空気に思わず体を抱きしめるアリスであった。

 

 自分でも実年齢は知らないが、肉体的には十二歳前後。その身長と体格の都合上、戦闘用装備は特注しなければならなかった。

 

 幸いにしてアイザック・シティで腕の良いフリーの技術者と知り合ったものの、その人物が仕立てる戦闘スーツはあまりにも趣味が入っていた。

 

 対人戦も想定されるミッションなので、これを着ていく。新品で今日はじめて袖を通す。

 

「伸縮性無さすぎだろこのスーツはぁ…! ローションか何か持ってくれば良かった」

 

 純白のレオタードや角度の際どい競泳水着のようなボディスーツを力いっぱい引き上げて装着している時、アリスは愚痴った。ついでに言うと色は黒が良かった。

 

 当然の如く股座はきつきつで、欠片も油断を許さない鋭角。

 操縦を妨げないよう工夫されたプロテクターで手足を覆う。各部の流麗な黒い装甲が照明を照り返していた。

 コスプレ同然の戦闘スーツだが、最先端の特殊繊維で防御力は高い。

 

「んっ」

 

 ヘッドセットを装着すると大きく伸びをする。両腕を真っ直ぐに上げ、腋が露わになった。前屈して、キュートな丸いお尻を突き出す。

 

 ストレッチを終えた頃にはスーツはアリスの体にすっかり馴染んだ。着るのに時間がかかるのはネックだが、軽快で動きやすい。

 

 携帯端末を手に取った。挑発的な笑顔を作り、横ピースで一枚。興が乗り、さらに数枚撮影する。締めは少女の柔軟な体を誇示するようなⅠ字バランス。

 

 スーツは股間のラインが出ない工夫が施されているので、大胆なポーズを取るのに躊躇いがない。

 

「よし」

 

 画面に映るレオタードタイプの戦闘スーツ姿の黒髪美少女を確かめ、満足気に頷くアリス。アリスは着飾ることが好きな性分で、最近は自撮りにはまっていた。

 

 動いたことで食い込んだお尻の生地を指で摘まんで食い込みを直す。

 

 次は武器の確認だ。グレネードランチャー付きアサルトライフル、手榴弾複数。サイドアームの大口径拳銃とコンバットナイフ。

 手際よく動作確認してコクピットに放り込み、一部はオーバーニーブーツに装備した。

 

 両脚をフットペダルに置く。開脚したことで急角度のハイレグの際どさが増すが、アリスは気にしなかった。

 

 流れるような動作でパネルのスイッチを入れていく。

 ジェネレータが立ち上がり、各部にエネルギーが供給されてデュラハンが目覚め、騎手と同じ紅い瞳を爛々と輝かせる。

 

 回転灯で赤く照らされたガレージのゲートが開き、デュラハンが動き出す。鋼鉄の巨人が一歩踏みしめる度に地響きがした。

 大質量の巨体は全身の電子制御アクチュエータの複雑怪奇な連動によって駆動する。

 

 ゲートを抜け、MT用の通路を通る。送り出すものはいない。レイヴンの多くは孤独だ。戦う時も死ぬ時も。

 

(オペレーターくらいは雇ったほうがいいかもしれないな)

 

 しかし、最近はサポート役が必要な気がしてもいるアリスだった。

 戦闘は単騎で十分、整備もオートで問題ない。だが戦術面、情報面は機械で補いきれないことを痛感する出来事が何度かあった。

 この仕事が片付いたら探そうと心に決める。

 

 デュラハンはナビケートに従い、順調に進んでいる。ミッションエリアは企業向けの物資輸送路、環状回廊の45°分岐点。企業か、その息がかかった武装勢力が敵ということだ。

 

 デュラハンはロックされたゲートをハッキングして開き、環状回廊に侵入した。

 岩盤が剥き出しの地底洞窟に幅の広い道路が敷かれている。崖や岩山を使えば、戦闘中の遮蔽に困ることはないだろう。

 

 センサーをアクティブからパッシブに切り替え、高い岩棚の上で潜伏する。戦闘MTなど本格的な兵器のレーダーは出力が高く、パッシブでも遠距離から電波を拾うことができる。

 

 複数の反応が検出される。望遠すると三両の装甲車をMTの中隊が警備していた。

 

「情報通りだな」

 

 顎をさすりながらアリスは考えを巡らせる。機数は六、機種はオーガー。ACよりやや大型で、張り出した肩と大腿部の重厚な装甲が特徴的なシルエットを形成している。

 

 依頼では中央の車両を遺して殲滅するように、と明確に指示していた。敵の戦力といい救出対象が乗っている車両といい、情報が正確過ぎる。

 

 それに万が一、途中で車列を入れ替えていたら救出すべき要人が死ぬことになる。だというのに、確保すべき目標を明言している。

 

 カメラアイを精査モードに切り替え、地表を走査する。光学的な観測ではトラップはなし。

 

 進むべきか、引くべきか。明白だ。アリスは好戦的に笑い、フットペダルを最大まで踏んだ。デュラハンのブースタが轟く。プラズマ噴射がACの機体を弾き、飛翔させた。

 

「デュラハン、戦闘モード! 狩りの時間だ!」

 

 音声入力に応答し、COMが火器管制システムを叩き起こし、武装のセーフティーが解除される。

 給電を開始された右腕のライフル"WG-RFM118"でロックオンサイトに捉えたオーガーの一機を銃撃。

 

 MT部隊が敵襲に反応するより早く、一機を撃墜する。連射された徹甲弾がオーガーの頭部やコアを殴りつけたのだ。

 

 デュラハンは応戦の弾幕を軽やかなステップで避けていく。オーガーの動きを観察し、アリスは確信した。

 MTは護衛を命じられたはずの装甲車を無視して、デュラハンを追跡している。

 

「下手だねぇ、演技がなってないぜ」

 

 アリスは嗤っていた。一見するとデュラハンは思わぬ猛反撃に驚き、オーガーが放っている砲弾を必死で回避しているように見える。しかし、これはブラフだ。

 

 どうにか一機をミサイルで撃破して後退する。そのように見せかけた。銃撃に加わらず単独行動していた敵機に、アリスは当然気付いている。

 高速のブーストでオーガーの一機が背後に回り込む。オーガーは左腕を振り上げ、爆薬ペレットを叩きつけようとしていた。

 

「おっらぁっ!」

 

 吠える黒髪の少女。デュラハンは急反転。

 回転によって黒髪が靡き、耐G機構が打ち消しきれない慣性荷重がかかるが、問題なし。

 

 瞬間的に反転した黒青色のACに驚く暇もなく、オーガーは切り捨てられた。

 

 左腕の発振ユニットから迸っている眩い光の刃。最強のレーザーブレードLS-99-MOONLIGHTの輝きである。

 

 爆風を浴びるより速くデュラハンは飛び立ち、オーガーの右腕兵装が形成する対空砲火を軽々と避ける。

 MTのパイロットたちはこの時、ACが実力を隠していたのを悟った。紅いカメラアイが彼らの身を竦ませ、中には悲鳴を上げる者までいた。

 

 デュラハンは一息に残る四機を切り捨てた。そのまま、流れるように旋回してライフルで目標以外の車両を破壊。

 スピーカーをONにして、要人が乗っていることになっている装甲車に呼びかける。

 

「そのまま動くな。捕虜を解放してくれれば命は保証する」

 

 低速でブーストを吹かして接近する。遠方から熱源反応。高速の徹甲榴弾が一発で装甲車を吹っ飛ばした。

 

 まっしぐらに低空飛行で突っ込んでくる新たな敵影にアリスは目を輝かせた。

 

「クローム・マスターアームズ製ヴィクセン。実物は初めてだ」

 

 クロームの最新鋭アーマードコアであり、レイヴンの間でもその性能は語り草になっている。

 通常モデルのヴェノムともかくこのヴィクセンを保有しているレイヴンはまだいないはずだ。

 

 上品な白で塗装され、細身の機体に対して重装甲な肩部には紫のライン。鋭く突き出したコアは戦闘機の機首めいた尖り具合。

 頭部には刀身のようなブレードアンテナ。左腕部のシールドと相まって騎士のような印象。

 

 先ほどグレネードを発射したのは右手に握ったマシンガンのアンダーバレルランチャーのようだ。

 美しいマシンだと、アリスは心から思った。

 

 

 接近してくるヴィクセンから通信回線にコールが入る。アリスは応じてやった。

 

 神経質な男の声が忌々し気に言った。

 

『罠を仕掛けておいて全滅とは使えん連中だ』

 

『使える奴が来たってことか?』

 

 アリスは言い返した。

 

 通信相手の声の幼さにヴィクセンのパイロットは少々驚いたようだ。

 今アリスが装着している、扇情的なコスプレみたいなレオタードスーツを披露したら、もっと驚くだろうか?

 

『これは警告だ。今のうちに手を引け。貴様如きがこのスティンガーに勝てる訳がない』

 

 尊大な物言いだ。なるほどスティンガーか、知らない名前だ。後で調べておこう。

 ヴィクセンは戦闘態勢でこそあれ、本気で見逃す気のようだ。

 

 デュラハンは地を蹴り、翔ぶ。ヴィクセンと同じ高度に合わせ、鋼鉄の騎士が二機、交差した。

 

『いいか、俺は面倒が嫌いなんだ』

『そうかい。オレは好きだね』

 

 面倒事の種類にもよるが。内心で付け加えるアリス。そのままゲートを通り抜ける。

 スティンガーも同じく。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。