【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

18 / 36
研究施設侵入

 

 アリスはアンバークラウンを離れ、機上の人となった。本物の依頼人からメールがあり、救出作戦の依頼が届いたのだ。前回と同じハイレグカットが際どいレオタードスタイルの戦闘スーツを装着し、デュラハンのコクピットに収まっている。

 

「んっ……」

 

 アリスは身動ぎした。軽くお尻を浮かせて、座りなおす。ACのコクピットはアリスの小さな体であっても狭苦しい。対人用の銃火器も放り込んであれば猶更だった。

 

 輸送機が向かっているのは、クロームが所有し、数年前にバイオテロで放棄されたことになっている研究施設だ。

 

 依頼人は、要人救出後に施設最上部にある輸送機を奪い取って脱出するという作戦を見取り図や警備の配置付きで示してきた。

 

(あからさま過ぎる)

 

 だが、偽の依頼で釣り出す手は二度も使わないだろう。だから今回は本物の依頼主だとアリスは判断している。

 

 輸送機のハッチが開き、機内に陽射しが差し込んできた。

 

 地表には《大破壊》と称される破滅的な戦争の痕跡が色濃い。その中にあって、真新しい巨大建造物が存在を誇示しており、それこそアリスがこれから乗り込む研究施設であった。

 

 研究施設はネストが登録レイヴンに提供するティルトジェット輸送機"バラクーダ"の航続距離で辛うじて往復できる、というほどにアンバークラウンから離れていた。

 

 デュラハンが格納庫から空中に躍り出る。

 

「驚いた。本当に対空砲火の一発もない」

 

 降下中の迎撃を覚悟して、対レーダージャマーを準備していたアリスは呆気にとられる思いだった。

 

(資金不足なのか、この組織は?)

 

 あまりの無防備さに疑心暗鬼に囚われそうになりながら、アリスは降下の操作を行った。ブースト噴射で落下速度を相殺していく。

 

 勢いを殺さずに着地する、俗にいう"ドッスン着地"は瞬間的な硬直が起こるため、ACの戦闘において最悪の操縦ミスと見做されていた。

 如何なる状況であれ、着地時の硬直を避けるのはレイヴンの本能と言えよう。アリスはデュラハンを柔らかく着地させていた。

 

 

 研究施設のゲートからエレベーターを降りて、最深部に向かう。

 

 まずはそこに捕らえられているらしい要人を救助する。デュラハンのコクピットに大人一人を収容スペースするはないが、それは先方も承知のことで移動の脚を現地調達する、とのことだ。

 

 ロックオンサイトが正面に陣取る敵機を捉える。通路の真ん中にACより遥かに全高の低い四脚の戦闘MTがおり、砲身をデュラハンに向けている。それはナースホルン、主に無人機として運用される軽装甲の機種だった。

 

 ナースホルンは侵入者である黒青色の二脚ACに機関砲弾を撃ち込むが、有効射程の外でありACの装甲表面に張られた防御スクリーンが易々と砲弾を弾き返す。

 

 対してデュラハンが右手に握った銃から閃光が奔り、ナースホルンの装甲を穿ち、その穿孔を中心に融解させた。

 

「いい感じだ」

 

 アリスは新たに調達したレーザーライフル"WG-WFwPPk”の威力に満足した。速射型であるこのレーザー兵器は連射してこそ真価を発揮するが単発の威力も申し分ない。おまけに装弾数もたっぷりだ。

 

 進路を塞ぐナースホルンを次々と撃破して、第一ターゲットである電源システムを目指している。セキュリティの混乱に乗じて救出対象が動く手筈になっていた。

 

 ゲートロックを開き、ACがちっぽけに見えるほど広い空間に出た。

 

「兵器試験場か」

 

 アリスは機体を停止させ、待ち構えているACと相対した。鋭いブレードアンテナを有するヴィクセンだ。

 

『安心したよ、ナースホルンじゃ肩慣らしにもならない』

 

 アリスは通信で呼びかけ、幼い美貌に好戦的な笑みを浮かべていた。

 

『どうやら警告は無駄だったようだな。まったく…面倒な奴だ』

 

 呼び掛けに応じず、スティンガーは言葉と共にマシンガンの掃射を浴びせてきた。

 

 アリスは機動戦に向いた空間を飛び回り、速射された機関砲弾を避ける。スティンガーは正確にデュラハンを追尾しており、黒青色の装甲に何発かの被弾があった。

 アリスとスティンガーはお互いに円を描き、相手の側面や背後を狙う典型的な対AC戦術を採っている。しかし、高速かつ三次元的な動きであり、両者が並大抵のAC乗りではないことを物語っていた。

 

 マシンガンの銃火が止み、代わりに飛んできたグレネード弾を降下して避ける。

 

 壁に着弾した榴弾が炸裂して起こった爆風に乗りながらデュラハンは突進。小刻みなブーストジャンプで翻弄しつつレーザーライフルの連射を食らわせている。

 

『無駄だ! このヴィクセンはネストのACとは出来が違う!』

 

 しかし、閃光はヴィクセンの強固な盾に防がれ、水のように弾かれている。

 

『オレのデュラハンだって同じだ、クロームの最新鋭機に負けちゃいない――――おっと名前を言ってなかったな、アリス・ジャバウォックだ。よろしく、スティンガー』

 

 新しい友人に挨拶する陽気さで黒髪の少女は名乗った。スティンガーの返答は不快そうな唸り声とレーザーブレードの一閃だった。

 

「はっ! そうこなくっちゃ!」

 

 デュラハンもMOONLIGHTを抜き放ち、鋭い一閃を受け止め、押していく。鍔迫り合うレーザーブレードの刀身がスパークを放ち、黒青色と白の鉄騎士を眩く照らす。

 

『迎撃があんまりにも少なくて妙だと思った。あんたの上役は乗り込んできたオレを使ってテストすることを思いついたわけだな』

 

 デュラハンの圧力を受け流したヴィクセンが高密度、高精度なアクチュエータ複雑系による素早い動きでシールドに内蔵された光刃を一閃。空振りするが、返す刀で突き刺しにかかる。身を翻し、装甲を削られながらも致命打は避けるデュラハン。

 

『まったく面倒なことだ』

 

 口癖を使ってスティンガーは肯定した。彼に施された最先端強化手術とヴィクセンの相乗効果を試すのに、侵入者のACは最適であると、襲撃に際して命じられたのである。

 

 捕えたレイヴンの被験体が脱走し、ネズミのように施設を逃げ回っているだけでなく、ネストのネットワークを介して外部と連絡を取っている非常事態に何を呑気なことを。

 

 自分の足元さえ確かめない夢想家の気まぐれな思い付きにスティンガーは腹を立てたが、我慢した。彼には独自の野望があり、夢があった。そのためにも組織の力が必要だった。

 

 四方八方からモニターされている二機の決闘は剣戟に銃火を織り交ぜ、熾烈さを増していった。

 

『嘘だろ!? 武器を斬られたのははじめてだぜ!』

 

 新品ピカピカのレーザーライフルはヴィクセンのブレードで無惨に切り裂かれ、アリスは誘爆する前にライフルを手放した。ヴィクセンもデュラハンも爆発を避けるべく、飛び退いている。

 

 ヴィクセンは鋭い跳躍から左腕を銃架代わりに、安定した射撃姿勢でマシンガンとグレネードのコンビネーションを浴びせる。黒青色の敵機はいまや手負いの騎士だ。苦し紛れにミサイルを撃つがマシンガンで撃墜している。

 

 小娘め、遊びは終わりだ。アリスと名乗るふざけた少女が発散する"死"の気配がスティンガーを苛立たせ、不安にさせていた。

 十分な戦闘データが採れたと結論付け、スティンガーはヴィクセンをフルパワーに引き上げた。強化人間専用機としてカスタムされたこのマシンの本当のスペックは、従来型のACを遥かに超えた高みにある。

 

 コア部分に装備された後退用ブースターが炸裂して、ヴィクセンを急速に後方へ押しやった。さらに左サイドのブースターが炸裂。FCSはおろか優秀なレイヴンの動体視力や反射神経をもってしても追尾困難な瞬間加速、クイックブーストと呼べる機構を装備している。

 それは、繊細な出力制御を意志一つで行う新型強化人間と専用に調整された機体によって実現される機能であった。

 

 ヴィクセンは高速で壁を蹴り、跳ぶ。追従できない様子のデュラハンの頭上を取り、コアのプラズマキャノンを露出させた。

 

『面倒だ、消え失せろ!』

 

 強化手術を受けて以来の最も激しい感情をスティンガーは実感しながら、ヴィクセンのFCSに指令していた。

 拡散したプラズマがデュラハンに降り注ぐ。破壊的な威力のエネルギー兵器を用いながらも、スティンガーは勝利の実感と死が遠ざかった安堵を得られなかった。

 

(何かがおかしい――――ッ! 馬鹿な!? あり得ない!)

 

 プラズマを浴びて装甲に損傷を受けていたが、デュラハンは健在であり、プラズマの射界の外に飛び出していた。それが、スティンガーを驚愕させ、次の一手を遅らせた。

 

『いぃぃぃぃぃぃっやっはぁぁぁあぁぁっっ!』

 

 死神少女は通信で快哉を叫び立て、デュラハンは月光の光刃を抜いて空中のヴィクセンに突っ込む。

 当然、スティンガーはクイックブーストを用いた全力の機動で応戦したが、またも信じられないものを見た。

 デュラハンはブースターを瞬間的に炸裂させ、急加速している。クイックブースト。

 

 あり得ない、アリス・ジャバウォックの機体の挙動は明らかに強化人間のものではなかった。

 

『貴様は企業の差し金なのか!?』

『違う!』

 

 アリスは動揺するスティンガーの問いかけを一刀両断。一瞬の激しいドッグファイトで二機の距離が縮まっていた。

 

 MOONLIGHTの一閃が奔り、ヴィクセンは斬撃を防ぐのに専念しなければならなかった。勢いをつけ、デュラハンは連撃した。 

 ブースターを吹かしての無重力めいた空中殺法だ。蹴り上げた爪先が盾を跳ね、衝撃にひるんだヴィクセンのコアめがけてブースト噴射の速度が乗った回転蹴りを叩き込む。

 

「ぐぅっ!」

 

 スティンガーは呻いた。

 厳重に保護されたコクピットにまで衝撃が伝わっていた。白色の美しい装甲はコアを中心に損壊しており、それだけでなく制御系がダウンしている。

 

「時間がかかっちまった。救出ミッションだってのに」

 

 壁に叩きつけられて墜落し、黒煙を吹くヴィクセンを横目にアリスはゲートを開き、先を急いだ。

 額の汗を拭い、性懲りもなく出てきたナースホルンを蹴散らしながら電源室まで最短距離で駆け抜けていく。

 

 紛れもなくスティンガーは強敵であり、先に切り札を出させる必要があった。

 

 敵の最大性能を見極めてから、アリスも本気を出したというわけだ。デュラハンの操縦系は特注で、ブースターの出力制御をマニュアルで行うトリガーが幾つも追加されている。

 これを利用することで、アリスはクイックブーストを起動できる。

 それは理不尽かつ例外的な操縦技術であり、実力を最大限発揮できる機体を仕立ててくれたアルゼナの修道女たちにアリスは深く感謝していた。

 

 

 黒青色の死神が去った後。スティンガーは息も絶え絶えになりながら、コクピットハッチを解放した。ゲートの先にいるアリス・ジャバヴォックを睨みながら、彼は言った。

 

「これで終わったと思うなよ」

 

 それから、スティンガーは血を吐き、意識を失った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。