【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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任務『接触』

 

 キャリアーリグ、ナイトメアは月夜の荒野を進み続ける。フロート推進機構の独特な駆動音が夜の静寂に響いていた。

 

 ナイトメアの艦橋にはウルスラとアリスの姿がある。ACのオペレート、アリスのマネジメント及び依頼人との交渉を担う金髪メガネの元ムラクモエリート社員はリグの操縦席についている。

 

 操縦席がメインコクピットとなっており、必要ならレーダー要員や火器管制といった他の役割もメインコクピットで担うことができる。アリスはレーダー要員のシートに腰掛けているが、本当にただ座っているだけだ。

 

「ねえ、アリス。スミカ・ユーティライネンってどんなレイヴンだったの?」

 

 オートパイロットになっているナイトメアの進路を確かめてから、ウルスラがアリスに訪ねる。

 

 アリスに頼まれて連絡先(アドレス)の調査を手伝ったが、肝心のスミカについては、かつて一緒に大きな仕事をした相手という程度しか聞かされていない。

 ウルスラは個人的な興味からウェンズデイ機関やファンタズマの情報を探ったが、二年の間にナーブ・ネットワークでさえ風化してしまい、異次元の戦闘力を持つ兵器とそれに適合する強化人間の開発計画程度の情報しか残っていない。組織の背後にいた企業の名は当事者のみが知っている。

 

「正義の味方。オレとウェンズデイ機関を潰したのも、奴らの非人道が許せないって正義感が動機だったくらいだ。それだけのレイヴンなんて潰されるか、無力を嘆いて潰れるかのどっちかだが、あいつは違ったよ。

 スミカには残酷さに立ち向かえる狡猾さと力があった。オレも色々と学ばせてもらったぜ」

 

「正義の――――そんな生き方をするレイヴンもいるのね」

 

 正義。企業という強欲で無慈悲な力が支配するこの世界では、虚しい言葉だった。いや、もっと以前、《大破壊》の頃には既に形骸化した概念だ。

 金を貰って企業の非合法活動に加担する傭兵如きが正義などと。嘲笑する者は多いだろうが、ウルスラは違った。

 

「この界隈、意外と金だけじゃないんだなぁ、これが。ベテランのレイヴン――――そうだな、ヴォルフのおっさん辺りに詳しい話を聞いてみると面白いかもしれんぜ。上等な葉巻とウィスキーを渡せば少しは機嫌良くなってくれるだろうしさ」

 

 アリス自身、レイヴンとしての活動はアイザックシティの深部スラムにて一糸纏わぬ姿で目覚めてから今日までの三年ほどだが、多くのレイヴンの生き様に触れてきた。

 一方、ウルスラは優秀なサポーターだがつい最近までムラクモ・ミレニアムのエリート社員だったので、傭兵の生き方というものにはまだ理解が及んでいない。それは複雑で多様なものであって、ウルスラの好奇心を刺激していた。

 

「考えておくわ――――さて、そろそろデュラハンに移ったほうがいいんじゃないかしら」

 

「そうする。赤字にならないよう祈っていてくれ」

 

 シートから立ち上がり、格納庫に向かうアリスの背中を見送る。今回は単にスミカ・ユーティライネンを名乗る何者かの誘いに乗っただけで、報酬の発生するミッションではない、自衛のための行動だ。敵の罠にあえて乗り、手がかりを掴むことがアリス達の作戦目標だった。

 反撃のために極めて強力な武装を調達してあり、ナイトメアの格納式ウェポンベイにセットしてあるが、使えば赤字確定なのでそうならない展開が望ましい。

 

 

 

 AC級の機動兵器を最大四機格納可能な格納庫に入り、アリスは愛機デュラハンに乗り込む。パイロットスーツは着ない。良家のお嬢様然とした白いワンピースドレスにフライトジャッケットを羽織った格好でACのコクピットに収まる。

 

《メインシステム 戦闘モード 起動します》

 

 滑らかな発音の合成音声によるアナウンスが響く。近頃では旧式のヘッドパーツも改修され、このタイプの音声が大半になっていた。

 

 戦闘モードの起動に気合を入れ、アリスは操縦桿を強く握った。

 格納庫のウェポンラックが稼動して右腕部兵装であるレーザーライフルWG-WFwPPkが手元にやってくる。

 ウェンズデイ機関を潰すべくスミカが立案した作戦の大半で使用していた、扱い慣れたレーザーライフルだ。

 

 レーザーライフルを掴み、ナイトメアのブリッジとの回線を開く。

 

『ハッチを開くわ。準備はいい?』

 

「ばっちりだぜ」

 

 ハッチが開き、冷たい空気が格納庫に入り込んでくる。高速で景色が流れていく。夜闇と生命の絶えた荒野が死の気配を色濃く放つ二脚ACによく似合う。頭の代わりに翼を広げた大鴉を戴く首無し騎士のエンブレム。

 

 アリスはフットペダルを強く踏み込んだ。ブースターが力強く咆哮し、ジェネレーターから供給された電力が推進剤と反応を起こして燃焼する。推力を得たデュラハンは飛び立ち、原型を留めた残骸に囲まれた一帯に接近していく。左肩に搭載した広域レーダーで拾った索敵情報はナイトメアと共有している。

 

 

 

「ちょうどいい場所があって良かったわ」

 

 一人艦橋に残されたウルスラは横転したまま朽ち果てる《大破壊》期の陸上戦艦の陰にナイトメアを寄せた。

 大きく伸びをして、体を解してから支度を始める、ちょっと暢気な金髪メガネオペ子である。

 

「さて、こっちも戦闘準備をしましょうか」

 

 金髪で長身なメガネオペ子は居住区画をパージして、ナイトメアを身軽にする。

 次に戦闘モードを起動する。前線での運用を前提としていたらしい、このキャリアーリグは優れた機動性を備えていた。機動戦闘に適した形に操縦席が変形するニッチな機構があり、それがたった今動き始めた。

 

 ウルスラが腰かけている操縦席が複雑なスライドによって、バイクシート状に変形。さらに、専用の操縦桿がバイクハンドルの形で現れる。

 HUDバイザーを被ると、戦術情報がウルスラの碧眼に広がった。

 

 ライディングスタイルでハンドルを握るため、ウルスラは必然的に脚を大きく広げた前傾姿勢になる。豊満なバストがシートに押し付けられる寸前に。

 大型戦闘リグのライダーとなった金髪のメガネ美女は豊満なヒップを突き出しており、ジーンズ越しの鋭いパンティラインが浮き出ていた。

 

 短いスカートを好むウルスラは、ナイトメアを戦闘モードにする可能性がある時はズボンを履くようにしている。手持ちのスカート丈だと、大抵後ろが恥ずかしい在り様になってしまうからだ。

 

 タイトミニのスーツ姿で、このバイクシートに跨らざるを得なくなり、インナー丸出しのお尻を突き出した、はしたない姿を護衛対象の幼い少年に後ろから視られた日を思い出して、羞恥に悶えてしまうウルスラ。

 

「いけない、いけない。集中しないと」自分とアリスの生死がかかった状況にいることを強く意識して、雑念を振り払う。ウルスラは赤いセーフティーカバーのかかったトリガーを軽く撫でた。

 

 

 

 アリスは指定された地点に並んで待機している二機のACをモニターで捉えた。スミカのコーラルスターは殆ど変わっていない、旧ムラクモ製偵察ACのカスタムタイプだ。違っているのは手持ちの武装がパルスライフルに変更されていることだけだ。

 

「隣の奴はインヴィジブルQのバウンティ……いや、違うか」

 

 護衛として雇ったのだろう、黒一色のACは稀少な高出力レーザーライフルWG-1-KARASAWAで武装した、賞金首を自称する凄腕のレイヴンの機体に酷似していた。

 

 だが、望遠拡大して観察すると全てのパーツがネスト崩壊後にリリースされた新型パーツで構成されていて、KARASAWAに見えたライフルはより大型で強力なモデルのようだ。二大企業の崩壊後、兵器市場はむしろ盛んになっており、試作兵器や新兵器が溢れその全てを把握できる者は誰もいないというほどだ。

 

 以前スミカと共有していた識別信号とは異なる信号を発する二機の目の前に着陸する。

 

『よっスミカ、久しぶりだな! また一緒に仕事ができるなんて嬉しいぜ』

 

 明るい声音を意識してアリスは声を掛けた。

 

『また会えて嬉しいわ。こっちのACはファントム、私が雇った信頼できるレイヴンよ。今、ウェンズデイ機関の残党が各地で暗躍していてとても危険な状況なの』

 

 アリスの言葉を無視するかのように、淡々とした一本調子でスミカは喋り続けた。微笑みを維持しながらも、アリスは美しい眉を顰めた。

 

『彼らの目的を話すわ。降りてきて。頼める?』

 

『お安い御用だぜ、スミカ。オレとお前の仲だからな』

 

 こちらの疑念を悟られないよう、自然体な返事をしてアリスはデュラハンのコクピットハッチを解放する。

 アリスは前方にせり出して足場になった装甲板の上に立った。乾いた夜風に黒髪を靡かせながら、コーラルスターに微笑んで手を振る。疑うことを知らない清らかなお嬢様の仕草だ。

 

 目の前の二機のコクピットが開くことはなく、代わりに黒一色のACファントムが右腕の大型レーザーライフルを向けてきた。瞬間、レーザーの閃光が無防備なアリスを包み、発射音をかき消すほどの轟音が前後から響き渡った。

 

 それは砕かれた幻想の再来。そして、幻想を殺した死神が再びそれを屠る機甲譚の始まりを告げる号砲となった。

 

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