【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
エレベーターが停止して、ゲートが開いていく。
その先は二機の所属不明ACが暴れ回る市街地だ。
既に市民の避難は完了している。物的な損害については目を瞑るという有難いお達しも貰えている。
『ビショップ隊は後退させる。レイヴン同士でカタをつけてくれ!』
『あいよ! 先にデュラハンから出るぜ!』
悲痛に叫ぶシティガードの管制官に送り出され、デュラハンをゲートから急発進させる。
黒青色、重甲冑の騎士めいた中量二脚ACは大推力ブースターでブーストダッシュ。颯爽と駆ける。
『コーラルスターも行きます!』
その後ろに鮮やかなピンクの有明タイプ、コーラルスターが続いた。モニターに映る僚機の姿は極めて軽装のACだが、頼もしい味方だ。
アリスは振り返り、スミカに陽気に笑いかけていた。
それから向き直って、少女の美しい顔が真剣な表情になる。
(レイヴン同士、ね。確かに市街での破壊活動もレイヴンの請け負う定番の仕事ではあるが……)
破壊活動を繰り広げる二機のACのパイロットがレイヴンである確証はない。だというのに決めつけられていた。
確かにレイヴンがネストを介して請け負うミッションは大抵が褒められたものではないダーティーワークだ。
アリスとて気高い戦士を気取るつもりはない。
しかし、管制官の何気ない一言が何となく気に入らない。
(誰が何のつもりでやっているのか、はっきりさせてやらないとな)
エレベーターゲートから出てくるところを襲撃されないために、敵機から離れたブロックより出撃している。
『不知火は私が対処します。アリスは新型をお願い』
『OK。幸運を』
通信画面のスミカが言う。二機のうち一機はムラクモ製の不知火。
軽量な機体に追加装甲を取り付けた純粋な戦闘仕様のACで、鎧武者のような印象。
そして、もう一機は市場に流通していないパーツで構成されたマゼンタ色に黒色のAC。明らかに最先端の技術が投じられた高性能機だった。
『そちらもね』
コーラルスターと別れ、アリスはデュラハンを跳躍させた。ビルを飛び越え、上空からバズーカ"WG-B2180"で先制攻撃を仕掛ける。
移動する前にトレーラーに積んでおいた武装と交換しておいたのだ。
その形状を呼称の由来としている手持式ランチャーから発射された大口径ロケット弾が路上で炸裂するが、着弾のずっと前に目標は退避している。
高速で後退しながら、マゼンタ色のACが二つの火砲を突き付けてきた。
右手のレーザーライフルは明らかに名銃KARASAWAの流れを汲んだフォルム。
左手には強力な大口径ガトリングガン。
(ダブルトリガー、もう実戦レベルで使えるACが仕上がってるのか)
兵器ブローカーの元に身を寄せていたこともあり、アリスは独立した今でも兵器開発事情は積極的に把握するよう努めている。
技術的な限界から、今日までACの両手は右に銃、左にレーザーブレードを装備する形で役割を分けてきた。
砲を両腕の替わりとする武器腕は、左右同時の射撃ができる点で通常の腕部にアドバンテージを持っていた。ダブルトリガーと呼ばれる両手での火器運用を可能とする新機構はそのお株を奪うものであった。
蒼いエネルギーの弾体が閃き、徹甲弾が高速で吐き出される。二丁の銃火器を同時に扱い、高い精度でデュラハンを狙ってきた。
デュラハンはブーストによる飛行を続けて前進。
蒼いレーザーの光弾が直撃するかと思いきや、メインブースターが猛噴射してデュラハンは急加速。
無傷で幅の広い道路を通り過ぎ、ビルの向こう側に急降下、そのまま離脱していく。
マゼンタ色のACが追撃してくる。そのスピードはシティガードのビジョップと交戦していた際よりも遥かに高速であった。
「いいぞ、食いついてきたな」
楽し気にアリスは微笑み、猛追する敵機を示すレーダーの赤い輝点を見つめていた。
鎧武者のようなムラクモ製AC不知火が仰向けに倒れたビショップに刀を振り下ろそうとしている。
両手持ちで、コクピットを狙う明確な殺意のある構えだ。
「やらせない!」
そこにスミカのコーラルスターが割り込んだ。マシンガンでまっすぐ振り下ろされていく刀を銃撃する。
攻撃を受けても不知火は刀を保持していたが、ビジョップにとどめを刺すのを止め、新手であるピンク色のACに向かって突進してきた。
重武装したマゼンタ色のACと対照的で、武装はなんと実体の刀のみ。事実、不知火はそれ一振りでガードのMTを切り刻み、殆ど被弾していない。
(手強い相手ね。それにあの滑らかな動き――――)
スミカは後退しながらマシンガンを浴びせる。
不知火は弾丸をカタナで受け、あるいは各部の追加装甲で弾くことで無効化しながら距離を詰めてくる。
明らかに不知火のパイロットは神経直結レベルに強化された
その挙動の精密さや柔軟性は自らが敗れたヴィクセンに酷似しており、ピンク髪のヴァルキリーは緊張に我知らず操縦桿を強く握った。
アリス・ジャバウォックにシミュレータで相手をしてもらい、ウェンズデイ機関の強化人間と戦う力を鍛えている。
スミカは黒青色のACの動きを思い出しながら、愛機を操る。
(アリスにつけてもらった稽古を無駄にはしないわ。必ず勝つ!)
道路に沿って後退しながら近接戦闘に持ち込むタイミングを見計らう。
実戦テストを監督する眼は二機のACから送られるカメラ情報だけだ。
スティンガーはウェンズデイ機関本部で、ヤン・コバックスの隣に立って戦闘の映像を眺めている。
ヤンはファンタズマ計画の主任研究員であり、スティンガーはこの男の護衛と専属エージェントを兼ねている。
戦闘の中継映像を睨んでいると深紅のカメラアイと不意に目が合った。
するとアリス・ジャバウォックと名乗る余所者のレイヴンに敗れた時の傷が痛み始め、屈辱に歯を食いしばる。
ガードに雇われたレイヴンのACが後退する様に、ヤンはご満悦だった。
もう勝った気でいる。戦場に出たこともない、このメガネ男には戦闘の趨勢など分からないだろう。
「私が造り上げた"ヴォルテックス"に適合する素材は傭兵崩れなどでは決してない。もっと純粋な者でなければ」
自己陶酔しながら、ヤンは口にした。
傭兵くずれとはスティンガーや不知火に乗ってヴォルテックスに伴っているパイロットを指している。
機関にとって戦場での失態でレイヴンとしての面目を失って拾われたスティンガーのような手合いは力を対価に働く兵隊に過ぎない。
付き合うのが心底面倒な科学者たちに従っているのは、奴らが生み出す力を奪い取るためだ。
誰にも止めることのできない究極の力。それを手にするためならば、どこまで魔道に堕ちてやる。
「あんなものを切り刻んでおいて、よく平気でいられるものだ」
そう言って、スティンガーは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あれは我々の崇高な研究の一部になったのだよ。罪悪など感じるものか、有意義に活用してやれたことが誇らしいよ」
ヤンは笑っていた。
崇高な研究。ファンタズマ計画を推し進める者たちは皆、自分たちの研究をそのように捉え、あらゆる倫理、道徳を嘲笑う態度を取っている。
いずれは究極兵器の力で企業が支配する世界を解体し、優れた自分達が指導する人類の理想郷を築くのだと夢想している。
ヴォルテックスはウェンズデイ機関に出資している企業各社から供与された試作ACパーツを組み合わせて組み上げられた機体だ。
いわば寄せ集めなのだが、現在最高峰のスペックを持つACであり、機関がカスタマイズしたヴィクセンさえ凌いでいる。
その核は試作型のファンタズマ、完全融合型の強化人間だ。
これは、つい最近機関があるテログループから調達した生体素材を用いて製作されていた。
鼻歌混じりに手術を行ったヤンの所業に嫌悪感を抱く一方で、スティンガーは自分の手の届かない力を得たモノに対して嫉妬や羨望の念を感じてもいた。力に対する歪んだ憧れが、レイヴンであった男を深い闇に墜としていた。
「戦況は優勢だな」
ヤンの気を引くために、スティンガーはまず一言。メガネ男がこちらに顔を向ける。
「だが、あまりレイヴンを舐めないほうがいい」
「何を馬鹿な」
嘲笑が驚愕に変わる。モニター上ではヤンのようなインテリには想像もできない光景が広がっていた。
ビルの間でヴォルテックスは熾烈な空中戦を繰り広げている。
両背中のロケット弾にレーザーとガトリングを併せた弾幕は黒青色のACを蹂躙するかに思われた。
しかし、デュラハンはその隙間を抜けて肉薄。
ファンタズマの反応速度でさえ追い付かない、神速の斬撃で左腕を根元から切断してみせた。
蹴りつけて黒青色のACを引き離すヴォルテックス。
クイックブーストで後ろに跳ねたと思えば即座に右に跳んで、ミサイルを振り切り、レーザーライフルを連射。
一撃目の蒼い爆光に煽られたデュラハンだが、バズーカでヴォルテックスの右腕肩部を射撃して二撃目以降の照準を逸らす。
機動戦をするには狭い通路でステップを刻み、乱射されるレーザーを躱しながら、デュラハンは背部パルスキャノンの砲口を向けた。
二脚型であり、神経直結していない常人が操縦するACでありながら、デュラハンは背部キャノンを構えずに発射していた。
それは操縦系に施されたカスタマイズを介して、アリスが二十人以上の完璧に統率されたチームに遥かに勝る制御でACを操ることで実現しているものだった。
高くブーストジャンプしたデュラハンが、頭上から浴びせた短距離レーザーでヴォルテックスの頭部が融解した。
必然的に管制室に送られる映像はブラックアウト。
「ヴォルテックスの両腕部、両脚部ともに全損。行動不能です」
愕然としながらオペレーターがヤンに報告する。ブラックアウトからの一瞬で、恐らくレーザーブレードか何かで切断されたのだろう。
「護衛機も大破しました」
一方、コーラルスターも近接格闘戦で敵に挑み、徒手空拳によって不知火を撃破していた。
クイックブーストによる急機動にはコーラルスターの加速力と研ぎ澄まされた先読みで対応し、決して相手を逃さないよう打撃を加え続けたのである。アリスとの稽古の賜物であった。
ヤンは「何…だと……」と譫言のように口にするだけだった。
スティンガーを除いて、管制室にいる者たちは揃って唖然としている。
ヴォルテックスのコクピット内モニタリング機器は生きている。コクピットがこじ開けられる音の直後、少女の美しい声が管制室に響いた。
「あーあー聞こえてるな? オレはアリス・ジャバウォック、レイヴンだ。もうご存じかと思うが、改めて挨拶させてもらうぜ」
澄んだ声音に似つかわしくない野性的で狂暴な口調だった。
「同業のスミカ・ユーティライネンに雇われて、あんたらをぶっ潰すことになった。
近いうちに本拠地に殴りこんで皆殺しにさせてもらうぜェ。死にたくなかったら今のうちにお縄につきな」
陽気な調子の死神少女のセリフはそれだけならば、とんだ身の程知らずだ。
声音と相まって、可愛らしくもあり吹き出してしまう者がいても不思議ではない。
しかし、昏い冥府の冷たい死の気配を帯びたアリスの宣言は聴く者を震え上がらせた。
ヤンをはじめとしたウェンズデイ機関の者たちが凍り付くなか、スティンガーは血で滲むほど拳を握り、アリス・ジャバウォックへの復讐心を燃え滾らせていた。