【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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要人捕獲作戦

 星明りのない暗闇のなかに独り。アリス・ジャバウォックが操るデュラハンは幅のある川に沿って進んでいる。

 脚部を二脚から四脚に換装しているので、普段より視点が低く、高く聳える木々に見下ろされているような気分だった。

 

 ここはアンバー・クラウン東南。大破壊の被害を免れたジャングルだ。

 今回のミッションは死神少女が好む、敵地に殴りこんで暴れ回る単純な作戦ではない。

 

 一時間以上かけて敵の哨戒網を突破する浸透作戦だ。

 肉眼では視えないが上空には対空レーダー網が、地上にはMTや装甲車、ヘリからなるパトロール部隊が配備されている。

 

 ウェンズデイ機関はジャングルに試験場を設けており、そこに要人が視察にくるという確かな情報をスミカは掴んでいた。

 件の要人を拉致してウェンズデイ機関の最終目的やスポンサーといった重要な情報を吐かせようというのだ。

 

 たった二人のレイヴンが最新兵器を有する秘密結社に挑むなら、致命的な一撃をどこかで叩き込む必要がある。

 そのために必要な作戦であった。

 

 ブリーフィングで指示された一つ目の橋を通り過ぎる。

 

「ルートから逸れない。哨戒部隊に発見されない。地雷を踏まないようにする。とにかく、深く静かに潜ること」

 

 スミカから言い渡されたジャングルクルーズの注意事項を反芻する。どれか一つでもしくじればその時点で作戦は失敗だ。

 特にブーストを使ったジャンプは厳禁とのこと。ACの上昇推力は鋼鉄の巨体を易々と持ち上げて飛翔させてしまう。普段の戦闘機動の勢いで飛んだら、すぐにレーダーに引っ掛る。

 

 念のため、無線は封鎖してある。スミカと交信するのは試験場に到着してからだ。西進の目印となる二つ目の橋を目指してデュラハンは疾走する。

 黒く塗られたような夜空は仄かに青みを帯び始めていた。

 

 

 隠密行動はスミカ・ユーティライネンとコーラルスターの得意分野だ。スミカは偵察や調査、潜入などに長けたレイヴンとしてアンバー・クラウンに名を轟かせている。

 

 夜闇のなかを駆け抜け、試験場付近に潜伏していた。アリスに先行して敵地の様子を窺っている。

 

 狭苦しいコクピットにスミカは長身かつ豊満な体を押し込むように乗っている。

 元々スペースに余裕がないのがACのコクピットというものだが、軽装偵察タイプの有明は特に狭い。だが、この機体との付き合いは長いので、居心地には慣れたものだ。

 

 おヘソや腹筋が浮き出るほどの超極薄で、体に密着するバトルスーツを着ていることもあり、身体を動かすのに支障はない。

 

 アリスの到着。ターゲットのヘリが飛来する。どちらにもまだ時間がある。

 補給のためスミカは収納スペースから包みを取り出した。中にはランチボックスがあり、アリスが用意してくれた軽食が詰められている。

 

 BLTサンドだ。カリカリに焼き上げたベーコンが香ばしく、アリス特製のソースの辛さが食欲を掻き立てる。

 レーションや缶詰などで食事を済ませることが多かったスミカには、アリスの料理を殊更美味しく感じられる。

 胡椒利かせているが、辛さは許容範囲内だ。

 

 黒髪の幼い少女はACの操縦だけでなく、料理も得意だった。

 

 紅茶(これもアリスが淹れてくれた)を飲み干して水分も補給し万全に整える。そして待つ。

 

――――朝日を背にして、ヘリがやってきた。白いボディに赤いラインが引かれた派手な機体だった。

 

 ヘリポートに着陸したヘリから三人降りてきた。高価なスーツ、肥満体の中年男性――これが捕獲する目標だ。それに護衛が二人。

 待っていた案内役に先導され、建物に入っていく。

 

 拡大表示したターゲットの尊大な態度に激しい憤りを覚えた。先日、市街地で撃破したウェンズデイ機関の試作機二機のうち、マゼンタ色の機体のコクピットを思い出す。

 

 そこにいたのは制御ユニットとして改造され、組み込まれた子供だった。ネバーランズとの取引で手に入れたものとみて間違いない。四肢を切除され、COMと脳を融合させる強化手術。これこそが彼らが目指すファンタズマなのだろう。

 決して許すことのできない非道を何が何でも阻止するとスミカは決意していた。

 

 滾る怒りを抑え込み、冷静になってからアリスにコールする。

 

『ターゲットが建物に入ったわ。これより突入します』

 

 スミカは突撃態勢。コーラルスターのメインシステムは戦闘モードへ。ピンク色の軽量ACが周辺の樹木を薙ぎ倒すほどの強烈のブースト噴射で突っ込む。

 すぐに迎撃されるが、素早い身のこなしで銃火を掻い潜る。

 

 コクピットが大きく揺れる。迷彩塗装の逆関節タイプMT"ジャベリン"が執拗に機関砲を浴びせてきたので、数発被弾してしまった。

 しかし、装甲のごく限られた厚い部分で受け止めているので問題ない。

 

「そんな攻撃で!」

 

 無反動砲で弾ける足元。スミカはコーラルスターを跳躍させた。突入した今、対空レーダーを警戒する必要がないので、高く跳んでいる。

 ハンドガンの連射でトーラス装甲車の車列を撃破。短砲身の銃は射程、威力ともに乏しいので、高所からの銃撃でその欠点を補っていた。

 

 さらに身を捻り、戦闘ヘリのテールを蹴って撃墜。回転しながら墜落する先がジャベリンの進路と重なり火達磨になる。

 

 別のジャベリンが降下するコーラルスターを狙うが、MTは不意打ちで撃破された。ジャングルの方向から飛んできた光弾を浴び、跡形もなく吹き飛んでいた。

 

『全ての敵を殲滅して! ただし中央の建物は破壊しないようにそこに目標がいます!』

 

 着地したコーラルスターのなかで、スミカは豊満なバストが弾ませながら射手に呼びかけた。

 

『わかってる!』

 

 高出力エネルギー兵器の射手たる四脚ACはコーラルスターより遥かに重武装。

 ダークブルーのカラーリング、紅いアイカメラ。地上戦を得意とした四脚――その反動抑制能力を活かしてレーザーキャノンを構えながら機動している。

 

 密林から飛び出し、滑走するデュラハンのコクピットで、白レオタードの戦闘スーツを纏った黒髪の死神少女は狂暴な笑みを浮かべていた。

 

 150mm滑腔砲を主砲とするセントーア主力戦車の隊列が狙ってくる。デュラハンは半円を描く旋回を左右に素早く繰り返し、戦車砲を躱すと、マシンガンの掃射で戦車隊を平らげた。

 

「試験場っていうから新兵器が出てくると思ったが期待外れだな」

 

 MTや戦車が配備されているだけで、試験場といってもその規模は小さく設備も質素に見える。

 

 デュラハンは反転して、試験場に向かってくる複数方向からの敵影――パトロール部隊を紅いアイカメラが睨む。

 

『ここの敵は任せていいか?』

『ええ。この程度、私一人でも問題ないわ』

『よっしゃ! 増援はオレが始末してくる!』

 

 まずヘリに向かって垂直発射ミサイルをシュート。それからジャングルに飛び込み、地上戦力を平らげた。

 

 

 楽勝楽勝。気持ちのいい朝の運動って感じ。試験場に戻ってくると要人が入った建物の正面にコーラルスターが仁王立ちしていた。

 敵は投降の呼びかけに応じていない。目標は立て籠もってウェンズデイ機関が応援を寄越すのを待つ構えらしい。

 

『引きずり出してきてやる。スミカはそこで待ってな』

『ちょっとアリス! 私も行くわ!』

 

 コクピットを開けたアリスは、積み込んでおいた大口径ライフルなどのお気に入りの対人武装を手に駆け抜ける。

 

 降りようとするスミカに向かって「いつ増援が来るか分からん! スミカはそっちを見張っていてくれ!」と大声で叫んでから二階まで跳躍し、窓を体当たりで割って建物に乗り込む。

 

 十二歳ほどの小さなカラダには大きすぎる大口径ライフルを難なく振り回し、警備のタレットや兵士を次々に撃ち抜く。

 

(肌が出るし股に食い込んでくるけど、やっぱ生身で走り回るにはいい装備だぜ)

 

 レオタード型の戦闘スーツを仕立てた知人の腕前に感心し、感謝もしながらノンストップで駆けるアリス。

 

 時にはリロードしながら跳ね跳び、一瞬で間合いを詰めて警備の兵士の顔面に膝蹴りを叩き込んだ。

 黒髪の美少女が小柄で軽い体で繰り出す打撃のはずだが、ボディアーマーを着込んだ成人男性を壁まで吹っ飛ばしている。

 

「あはっ♪」

 

 生身で振るう暴力の快感に酔い、艶やかな声とともに笑う黒髪の少女であった。不意に目の前の廊下で響く重々しい物音で我に返る。隔壁が下がってきている。

 

「あっぶね!」

 

 隔壁をスライディングで際どく駆け抜け、アリスは獲物を探して建物のなかを駆け回る。

 激しい運動でお尻の布地が食い込み、白くて可愛らしいお尻が剥き出しになっている。おもむろに指を差し入れて布地を引っ張って直すくらいアリスには余裕があった。

 

 二十分もしないうちに死神少女はエントランスから出てきた。

 

「おらおら、止まらず歩けよおっさん」

 

 強化手術が施された護衛を殴り倒してぶん獲った大型ショットガンで後ろから肥えた中年男を急かす。

 

「ひっひぃ! たっ頼む殺さないでくれ! 金ならいくらでも出す!」

「やかましいわ! 口じゃなくて脚を動かせ脚を!」

 

 最新鋭の強化歩兵という振り込みの護衛二人が乗り込んできた少女に粉砕され、男は完全に怯え切っていた。

 

「ていっ」とデュラハンの前で要人を蹴り飛ばし、アリスはどこからか取り出した手錠を後ろ手にかける。

 

「無茶をしないで。そんなに血だらけで怪我をして」

 

 コーラルスターからスミカの声が響いた。アリスはピンク色の軽量機を見上げる。

 

「心配してくれてありがとな。けどなスミカ、これは全部返り血だぜ」

 

 歳相応の無邪気な陽気な笑顔でアリスは言っていた。

 

 

「よっこらせっと」

 

 アリスは軽々と太った男を肩に担ぐと、地面ぎりぎりまで低くしゃがませたデュラハンに設けた収納スペースに放り込む。

 ガレージで脚部パーツに手を加えて、股間部に棺桶くらいの空間を設けていた。

 酸素は供給されるようにしてあるし、四脚ということもあり揺れて酔うことはない。光源がないので真っ暗闇に閉じ込められることにはなるが。

 

 アリスはコクピットに戻った。

 

『これでミッション完了ね。帰還します』

『了解だ――――んっ』

 

 コーラルスターに続いてブースト移動する前に通信――――緊急のもの。

 発信者は"ティーガー"、アンバー・クラウン・アリーナの上位ランクに位置するレイヴンで車両型AC戦技研究会なるグループに属している。

 

 文面は任務失敗の報告。

 

 趣味と実益を兼ねてアリスはアンバー・クラウンのアリーナにエントリーしていた。

 黒髪の死神少女の実力のほどはレイヴンズ・ネストのデータが保証しているので、すぐに実力者との試合が幾つも組まれ、対戦を経て親しくなった同業者が何人かいた。

 

 アリス達が撃破し、シティガードが接収した新型ACは機関の悪事と非道の証拠となる。

 

 ウェンズデイ機関は間違いなく手先を送り込んで奪還にくる。

 だから先んじて、ACが収容されている施設を防衛するために車両型AC戦技研究会に依頼して、ティーガーを派遣してもらったのだ。

 

 撤退したティーガーは戦闘記録をしっかり確保しており、映像ファイルが添付されている。そこに映るのはブレードアンテナの頭部を持つAC。しかし、細身のシルエットではなく、真逆の重量級だ。

 

「デブヴィクセン」と思わず未知のACの姿を形容してアリスは呟く。

 

 マニピュレーターは通常の武装を保持できない大型のもので、専用のキャノンを両手で抱えていた。

 高出力のプラズマ兵器の威力は重装甲を誇るタンク型を圧倒するほどで、ティーガーは命からがら逃げ帰ってきたという。

 

 この新型機に乗っているのは間違いなくスティンガーだろう。新たな力を得た宿敵にスミカは息を呑み、アリスはサメのように嗤っていた。

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