【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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スティンガー・ネイル

 

 地下複合都市アンバー・クラウン中層。岩盤を削って造り出された人工洞窟にはシティ・ガードの基地が敷設されている。大規模な通信管制システム、兵器庫、訓練施設が設けられた主要拠点の一つだ。

 

 基地は一夜にして破壊され尽くし炎に包まれていた。地下空間の生命維持に必要不可欠な酸素を急速に消費しながら火は広がっていく。

 

 襲撃者――ウェンズデイ機関所属の戦闘MT"オーガー"の小隊は実験機の残骸を奪還。炎に照らされながら後退していく。

 

 面倒なだけの仕事だった。スティンガーはヴォルテックスの残骸を載せたトレーラーを護衛するオーガーの鈍重な足取りを崖から見下ろす。

 これから、あの連中がクラウンから出るまで付き合わなければならない。面倒だ。

 

 最も重要なコアの"部品"は既に機能停止している。アリス・ジャバウォックの手により、慈悲を齎されていた。

 既に機材としての価値はないが、ヴォルテックスともども確保しておかねばならない機密の塊だ。

 

『お疲れ様、スティンガー。ヴェルベルクの乗り心地はどうかしら?』

 

「良好だ」

 

 素っ気ない返答だが、女はそれを快く聴いていた。

 

 通信はオペレーター――本業ではなくスティンガーへの好意からサポート役を買って出た次席研究員のエレオノーラからだ。

 才気に溢れた美貌には、蛇蝎に似た狡猾さが見え隠れしている。

 

『アリーナのランカーといっても所詮表の世界の人間ね。貴方に勝てるレイヴンなんていないわ』

 

 エレオノーラの本心からの称賛は、スティンガーに空しく響くだけだった。

 

 重量級AC"ヴェルベルク"は、クローム・マスターアームズ製のハイエンドモデルであるヴィクセンを独自に発展させたウェンズデイ機関オリジナルのアーマードコアだ。

 

 ヴェルベルクはその性能を十全に発揮し、両手で抱えたプラズマキャノンの圧倒的な威力でアンバー・クラウンアリーナ第九位の実力者ティーガーを容易く蹴散らしている。

 

 装甲と火力を売りにしたタンク型ACは、大破寸前で後退するしかなかった。

 ヴィクセンの性能も凄まじいものであったが、ファンタズマの護衛機として建造されたこのACは、それをさらに上回る。

 

 本来は別のパイロットに提供される予定の機体だったが、エレオノーラの計らいでスティンガーが受領することになった。

 

 スティンガーの野心はファンタズマ計画を取り仕切るヤンも知るところだが、エレオノーラは自惚れ屋のインテリ坊やの扱いに長けていた。

 

 あくまで完成したファンタズマの護衛に留めさせる形で、ヴェルベルクを任せることを納得させたのである。

 

 好都合な出来事が続いていた。

 

 スミカ・ユーティライネンが仲間に加えたレイヴンの驚くべき戦闘能力は、ウェンズデイ機関の計画を大きく狂わせていた。

 

 ファンタズマ計画を進めている本部施設が攻撃された場合に備え、資材と人員を密かに分散させるまでになっている。

 北部ノルトランドに退避させる人員にはエレオノーラも含まれており、スティンガーもその護衛として同行する。

 

 次席とはいえ、ファンタズマの理論を理解しており、ヤンと共に多くの被験体を切り刻んだ女だ。ファンタズマの力を手にするには手術が必要だ。そのときにはエレオノーラにメスを執らせるつもりでいた。

 

 その決断をさせるにはまだ足りない。ウェンズデイ機関をもっと追い込む必要がある。

 スティンガーは、そのために自らに土を付けた少女を利用することを考えていた。

 

 アリス――――その名を想起したとき、冥府の女神の如き、幼い少女の哄笑が脳裏に響いた。恐怖と屈辱が蘇り、スティンガーは操縦桿を強く握る。

 

『大丈夫? スティンガー、聞こえている?』

 

 直結操縦デバイスの不調を疑い、心配するエレオノーラの声は届かない。

 

「せいぜい俺の役に立て。アリス・ジャバウォック」

 

 アリスの哄笑を振り払い、スティンガーは呟いた。好意も敵意も利用し尽くして、欲する絶対の力を得るつもりだった。レイヴンとしての栄光を失ったこの男には幻想(ファンタズマ)だけが救いなのだ。

 

 

 ――――ネズミの真似をするのは意外と難しい。闇に融けるようなゴスロリドレスの裾を翻し、廃墟の廊下に靴音を響かせる黒髪の少女の胸中である。

 

(生身なら殺れると思ってたんだろーけど)

 

 そいつはアリス様を舐めすぎだぜ、と相手の浅はかな考えを笑い飛ばす。

 

 今はスミカと別行動しており、アンバー・クラウンで活動している。

 

 追手は機関の兵隊、暗視ゴーグルを装備した黒服の連中。

 

 死神少女が生身で出歩いている隙を狙ってきた。

 アンバー・クラウンの下層から上層まで、ウェンズデイ機関が築いた拠点を襲いまくったので、怒り心頭の様子。

 実際のところ、それはアリスが仕組んだ罠であり、相手はまんまとそれに乗ってしまったワケだが。

 

(遅いっつうの)

 

 階段を駆け上がる。後ろから響く三人分の足音は遠い。アリスに追いつけず、黒服達のほうが息を切らしそうになっている。

 

 アルゼナ修道院のシスターであった頃から、黒髪の少女は追いかけっこで負けたことが殆ど無い。

 

(さぁて、そろそろいいかな)

 

 階段を登り切り、敵が自分の背中を捉えられる程度にペースを落とす。追い詰められたような素振りで、部屋に飛び込んだ。

 

 天井が高く、広い部屋だ。かつてアトリエとして使われていた名残りが残っている。打ち棄てられたような未完成の彫刻の数々。その腕が黒服たちを捕らえるように突き出されていた。

 

「どこにもいないぞ!?」

 

 室内を見渡すと黒服の一人が叫んだ。居並ぶ彫刻の不気味さに気圧され、虚勢を張るかのようにカービン銃を振り回している。

 

「確かにこの部屋に逃げるのが見えた。間違いない」

 

「なら一体どこにいるんだ!?」

 

 最後に叫んだ黒服は女だった。

 

 追手は暗殺に長けた特殊部隊ではなく、強化人間でもない。生身での戦闘に長けた兵隊は既にアリスの手にかかっている。

 おかげでウェンズデイ機関の活動には大きな支障が出ていた。

 

「上っ……!」

 

 女の黒服が不意に顔を上げ、悲鳴を絞り出した。爛々と輝く赤い瞳と嗤う顔。アリス・ジャバヴォックは天井に届くほど高く跳躍していた。

 

 黒髪を靡かせ、銃撃よりも早く急降下。女黒服のカービンを掴んで、銃口を別の黒服に向けさせる。連続したマズルファイアに続き、苦悶に満ちた呻き声。

 

「そりゃっ!」

 

 そのまま強引に銃をひったくり、もう一人の顔面に投擲。カービンの重さにアリスの怪力による力が加わる。致命的な威力で、ゴーグルごと顔面の骨を砕く――銃は黒服の顔面にめり込んでいた。

 

「ひっ」

 

 あっという間に味方がやられ、女の黒服は床にへたり込んだ。

 銃弾による出血。顔面粉砕の激痛。黒服二人が身動きできないのを確かめると、アリスは尊大に近寄った。

 

 血に飢えた獣のように口を裂いて笑う少女に女は怯え、震えるばかり。アリスは女の脇を通り抜けて、ガラス張りの窓の前に立つ。

 

「救急車呼んでやれよ。まだ助かるぜ」

 

 それだけ告げて、ガラスを蹴破る。アリスは夜の闇のなかに飛び立っていく。女は恐る恐る立ち上がり、冷たい風が差し込む窓際に近寄った。

 普通ならば単なる飛び降り自殺だ。しかし、捕獲するよう命じられたあの少女は、夜闇の融け込むように何処かへ去っただけだと、確信を抱いている。

 

 この世ならぬモノを見たような気分で女は放心する。やがて正気を取り戻すと、女はアリスに言われた通りにした。

 

 

 黒髪の死神少女は衝撃を殺して着地。まったくの無傷である。すっくと立ちあがり、何事もなかったように歩く。

 

 以前の自分なら先ほどの三人をズタズタにして殺していた。そうしなかったのは、やはりスミカの影響だろう。

 己が纏う血と死の気配を薄めて、ピンク髪のヴァルキリーと再会したい気持ちであった。

 

 馴染みの情報屋からの連絡が来たのは、この夜が明けてからのこと。アリスはアンバー・クラウンを発ち、デュラハンで地上の旧市街を疾走している。

 

『よう、ジャバウォック! 頼まれた件、リサーチしておいたぜ!』

 

「流石、神威の仕事は速いな。瑞穂は元気か?」

 

 ランカーレイヴン。レイヴンズネストでの有数の任務達成率を持つ凄腕の一人であり、タンク乗りの神威瑞穂。その片割れが今、通信しているモヒカン頭の青年である。

 

 サイバーゴーグルで目元を隠し、服装もミリタリーベストにカーゴパンツ。パンクのお手本みたいなスタイルの神威はリサーチャー、妹の瑞穂がレイヴンとして実働を担当している。

 

『機体はともかく、当人は元気そのものさ。こっぴどくやられてショックは受けていたがな。だから付きっ切りでいてやろうと思ってたんだが、とっとと稼いでこいって送り出されたもんよ』

 

 瑞穂は実力者だが、つい最近の任務で撃墜された。相手は"エーアスト"。

 ルーキーでありながら、長くネストのランク2に君臨してきたロスヴァイセを撃破して、名を轟かせたヤツだ。

 

 白鋼色の標準的な二脚ACを駆り、ケタ違いの実力でミッションを遂行している、おまけに正体不明のレイヴンである。

 

「兄貴は辛いな」

『まあな。可愛い妹のためにも報酬弾んでくれよ』

「たくっ――考えておくよ」

 

 アリスは苦笑した。神威とは気が合う。

 

「それじゃ、瑞穂にもよろしく。神威MkⅩⅧを楽しみにしてるって伝えといてくれ」

 

『おう』

 

 通信が切断される。三割増したコームを振り込み、アンロックされたファイルを開く。

 

 ウェンズデイ機関のスポンサー、保有資産、関係者。諸々を神威に調べてもらった。

 膨大なデータファイルからまず開いたのはピアース・ウォタンという、アリスがネストに登録する直前に消息を絶ったレイヴンに関する調査記録だ。

 

 無敗でランカーに上り詰めた直後、ムラクモ・ミレニアムの研究施設からデータを奪取する作戦で醜態を晒して以後、スランプに陥り姿を消した男である。

 

「掴まえたぜ、スティンガー」

 

 そして、このピアース・ウォタンこそがウェンズデイ機関の傭兵の正体であった。

 

 

 スミカ・ユーティライネンは熱いお湯のシャワーで、活力を取り戻していた。地上の隠れ家に使っていたアンバー・クラウン近傍の古城、奇跡的に大破壊を免れた史跡から出立している。

 

 彼女とその愛機であるコーラルスターを載せたトレーラーは荒野をひた走っていた。

 アリスと合流して、次の作戦に取り掛かる。

 

(これですべてを終わらせる)

 

 スミカの瞳は強い覚悟を湛えている。

 

 捕えたウェンズデイ機関の要人は尋問であっさりと口を割った。クローム系列の警備会社――例に漏れず実態としては社の私兵組織の取締役であり、ウェンズデイ機関の幹部のポストはクローム本社に用意されたもの。

 

 独立研究機関でありながら、強化人間技術とその応用に優れ、ムラクモだけでなく対立するクロームをもスポンサーに付けたウェンズデイ機関の監視役である。

 

 しかし、機関に懐柔され、彼らが望むままに必要とする物資、技術、設備を提供するようになっていた。

 

 今やクロームとウェンズデイ機関双方の裏切者となった中年男の命乞いを無視して、古城に独り残しておいた。

 いずれ、居場所を突き止めた側に捕らえられることになるだろう。その後はスミカの知ったことではない。

 

 トレーラー故の狭苦しいシャワールームから出て、スミカはタオルで水滴を拭っていく。桃色の髪の美女の表情は凛々しく、厳か。神聖な儀式に臨む巫女のようだ。

 

 水気を拭き取り、一糸纏わぬ姿のスミカ。背が高く、鍛え抜かれた体の腹筋は割れている。

 清廉な肉体美に、突き出るような豊かな双丘と肉感的な臀部が、艶めかしく寄り添う。胸の先端は無垢な桜色。

 

 ロッカーを開き、戦闘用の装備を身に纏う。

 

「んっ……」

 

 足先からスキンスーツに通し、引っ張り上げる。

 ギチギチというラバーのような伸縮音と締め付けを感じたピンク髪の乙女の吐息が、更衣室に木霊する。

 全身を白銀色で覆うと、青を基調に赤いアクセントが入ったプロテクターを装着する。

 

 手足や首元を保護する防具を身に着け、首の後ろのフィッティングスイッチを入れる。

 ぴったりとしたスーツに圧力がかかって、スミカの肢体に完全に密着する。ヘソの形さえ、浮き彫りする。白銀を纏った腹筋は勇ましい。

 

 肉感的で弾力のあるスミカの尻が、着圧で持ち上がる。

 

 「んっ……」

 

 腰周りの感覚に、ピンク髪のヴァルキリーは思わず顔を赤らめ、苦痛を拒むように尻を左右に振った。

 

 青い装甲が張り付いた局部も、お尻の奥も容赦なく圧迫されている。排泄物が装甲下のパックから溢れないよう、密着が徹底されるのだ。

 

 バトルスーツの装着が終わると圧迫から開放される。一転して、生まれたままの姿と変わらない開放感に包まれた。

 

 同時に力が湧き上がる。肌と一体化したような白銀のスーツとプロテクターが与えてくれる強さだった。

 

 振り返ると、スーツに先端がくっきり浮かんだ双丘が勢いで揺れる。スミカは硬質な靴音を響かせ、更衣室を出る。

 

 コーラルスターに乗り込み、出撃した。鮮やかな珊瑚色のボディが黄昏の陽射しを反射する。

 

「お待たせ。作戦は始めましょう、アリス。作戦コードはDEADLY BLOW(必殺の一撃)

 

『いいコードだ。気分が上がるぜ』

 

 幼い少女の好戦的な声は、頼もしかった。黒青色の重騎士が地を駆け、スミカはその後に続く。

 ウェンズデイ機関の本拠地を強襲し、決着をつける。

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