【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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デッドリィ・ブロウ

「侵入者は二機! どちらもACです!――――恐ろしく速い!」

 

「レイヤー3突破されました、セキュリティでは対処できません!」

 

「回り込まれています、なんでこっちの動きが分かるんだ!?――――重MTチーム、全滅!」

 

 悲鳴めいた報告が飛び交うオペレーションルーム。ヤンはモニターで戦況を見守っている。

 

 ウェンズデイ機関の本拠地に殴り込んできたレイヴンは、防御を打ち破り、最下層のデータバンクに向かっていた。目的はファンタズマ計画のデータと見て間違いない。

 敵はウェンズデイ機関の存在と研究を世間に公表するつもりなのだろう。健気なことだ。

 

 民衆を煽り立て、スポンサーである企業どもに手を引かせたとしても無駄だ。

 歪んだ世界を変革する我々の崇高な計画を止められはしない。既に手は打ってあるのだから。たかがレイヴン如きに遅れを取るのは業腹ものだが、有益な戦闘データの収集ができたということにしよう。

 

「主任、お耳に入れたいことが」

「何だ?」

 

 部下の一人が耳打ちしてきた。驚愕するも声を出すのを堪えて、ヤンは堪えて指示を出した。

 

「プロトタイプを起動して対処させよう。データバンクに入ったところで送り込むんだ」

 

 ヤンは踵を返して足早にオペレーションルームから退出した。部下がその隣に伴う。

 二度とここに戻ってくる気はない。憤りを感じていたが、ただ予定が早まり、損失が少々増えただけだ。

 

「脱出の手配は?」

「完了しています。ムラクモが動き出す前に必要な人員と物資ともに安全な陸路で退避させられます。護衛としてヴェルべルクをこちらに」

 

 それは聞いて安心した。計画の中核であり、替えが効かない自分さえ脱出さえできれば問題ない。

 

 ヴェルベルク――ヤンにとっては理想を共有するパートナーであるエレオノーラの進言で、スティンガーに与えた新型ACだ。彼女は北部にあるノルト・ハイランドで新たな拠点の準備をしている。

 きっと、スティンガーの帰還を心待ちにしているだろう。彼女はここ最近、理想に殉ずる科学者ではなく、薄汚れた傭兵崩れに気をやっている。

 エレオノーラは遊びのつもりだろうが、ヤンからすれば面白くない。

 

「護衛は不要だ。スティンガーにはもっと良い役割を与えてやろう。レイヴン同士、仲良くここで共倒れになってもらおうじゃないか」

 

 エレオノーラの目を覚まさせるにはちょうどいい機会だ。

 

 

 ウェンズデイ機関の本拠地は崖をくり抜き、地下深くまで掘って建造された施設だった。

 

 黒青色とピンク色の二機は真正面から突入した。撃って、斬って、ぶっ飛ばしまくる。スミカの作戦は単純明快だ。殴り込みをかけて最深部のデータバンクまで突き進む。

 

 レーザータレットにWG-WFwPPk――アンバー・クラウンの武器市場で先行リリースされている速射型レーザーライフルを発射。集束されたレーザーが一発ごとに一基を破壊する。

 

『援護ありがとう!』

 

 デュラハンが頭上の脅威を消し去り、援護を失った四脚MTイーゲルに格闘戦を挑むサンゴ色の僚機コーラルスター。敵が砲身を旋回させるよりも素早い機動で射線を切り、側面に回り込んだ。

 

「はぁっ!!」

 

 コーラルスターはスピードを乗せた蹴りを食らわせる。軽量ながら大出力ブースターに推された高機動ACのキックは強烈。吹き飛ばされたイーゲルにグレネードライフルでトドメを刺す。

 グレネード弾の爆発がもたらす損傷が、ジェネレーターと弾薬の誘爆を引き起こし、スミカは爆風から逃れるべく一気に後退。

 

 一瞬、余裕が生まれた。ピンク髪のヴァルキリーは、ちらりと黒青色の二脚ACの様子を確かめた。

 深緑色のヴェノム、コーラルスターと同じく軽量級だが、猛毒を意味するその名の如く凶悪なシルエットのクローム製ACと交戦中だ。

 

 中量級でありながらアリスのデュラハンは、機動戦でヴェノムを圧倒している。強化人間が直結している敵機がまるで相手にならない。

 

 オプショナルパーツで強化された防御スクリーンとコアの厚い装甲で、ライフル弾を弾く。

 ブースターからプラズマが一気に迸り、デュラハンが距離を詰める。クイックブースト。既にヴェノムは壁際に追い詰められており、慌ててブレードを抜くがもう遅い。

 

「殺ったぁ!」

 

 デュラハンの左腕から奔った月光の刃――――最高出力のレーザーブレードがコアを切り裂き、ヴェノムを葬った。

 

『今の所は楽勝だな』

 

 片手間で複数の敵を葬った黒髪の死神少女が一言。

 それは虚勢でも空元気でもない。ちなみに今夜の装いは、ゴシック系のブラウスにショートパンツ。黒で統一して、さらに死神のような襤褸のコートを羽織っている。

 

『本当、アリスは強いのね』

『体力バカなだけさ』

 

 意外とこういう時は謙遜するアリスである。

 

 スミカも重装備のMTや強化人間が搭乗したACを撃破している。しかし、彼女の消耗は激しい。白銀色のインナースキンに汗が滲み、特に豊満な臀部のそれは濃い。

 

『今度は私が先導します』

『OK、遅れないように後についていくぜ』

 

 ブーストダッシュの轟きを通路に響かせながら、直進する。最深部までは後少しだ。

 

 自分でも信じられないほどの進撃速度だ。通路を真っ直ぐ駆けていく。加速のGを感じながら、スミカはシートからお尻を浮かせて座り直す。その所作だけで双丘が揺れる。白銀色にぴったりと覆われたスミカのバストは豊満だった。

 

『まるでムサシボウベンケイだな、今のコーラルスターは』

 

 今更と思いながらも、アリスは今回のミッションに合わせてアセンブルされたコーラルスターの姿を評した。

 千本の刀を狩り集めようとした怪力僧兵のように、背中に銃器を背負っているのだ。

 

 強襲作戦かつ長期戦が想定されるので、背中にウェポンラックを取り付け、そこに複数の手持ち火器を懸架してある。

 重量バランスが大きく偏り、細い脚部では増加した自重を支えられないように思える。しかし、コーラルスターは淀みなく機動していた。

 

 元々、コーラルスターのジェネレーターは高出力なネスト規格品に換装済み。

 その上で脚部にかかる負担をデュラハンから荷重分散制御プログラムをコピーして、ソフトウェア面から解決していた。

 ACの脚部は細身で頼りない見た目の軽量二脚でも高い積載能力を持つ。電子制御に寄る部分も大きいためソフト面から手を加えるだけでも、スペックは大幅に向上するのだ。

 

 とはいえジェネレーターの出力頼みで自重に耐えているので、動力が止まれば動くことはままならなくなる。常用には向かないアセンブルであった。

 

 

 最深部に辿り着いた。コーラルスターが先行し、デュラハンは後ろを警戒するため、サンゴ色の僚機に背中を向け、バックブーストで後に続いた。

 

『データバンクにアクセスします。それまで時間を稼いで』

 

 グレネードライフルを投棄して持ち替えたバズーカを連射。スミカは前を塞ぐナースホルンを蹴散すと、ゲートロックを開いてデータバンクに突入した。

 本部から吸い出した機密データと神威に集めてもらった情報。この二つをナーヴ・ネットワークで公開し、ウェンズデイ機関の存在を白日の元に晒す手筈になっている。

 

 黒青色のデュラハンはスミカが入ったゲートの前に仁王立ち。敵を迎え撃つ構えだ。

 

「ボスキャラの登場かな?」

 

 強力な熱源反応が猛烈なスピードで接近していた。熱量からして、ACではない。

 

「おおっと」

 

 先手を取ったのは敵の方だった。通路を直進してくる敵機から強力なプラズマが放たれ、ゲートが撃ち抜かれたのだ。

 驚きつつも、アリスは反射的にブーストジャンプ。プラズマキャノンは分厚い隔壁を融解したことで流石に減衰しており、データバンクへのゲートまで融かすには至らなかった。

 

 フロアに入ってきたのはホバー推進の黄色いエビみたいなヤツだ。上から見れば十字形の平たいボディ。十字の左右はマニュピレーターだ。

 

「さぁて、どんなもんかな!?」

 

 嬉々とした調子で、アリスは敵機をサイトに捕えようとする。円形フロアの天井は十分に高い。落下による加速の勢いで、垂直ミサイルを躱す。ミサイルジャマーとコアの迎撃機銃のおかげで数十発のミサイルを凌げている。

 

「よく動くっ!」

 

 サイティングを続けながら、死神少女が言う。ホバーによる高速二次元機動は単純なようで、敵機の動きを予測して死角に潜り込むようにしている。

 

 神威提供の資料曰く。ファンタズマは兵器システムとしての能力を最大限に発揮するため、大型兵器にコアを搭載するのが完成系とされているらしい。

 

 ACではサイズ的に火力、航続能力、装甲など様々な面に制約があるから、陸戦最強兵器として覇権を争うリグが理想的とされているとのこと。

 この黄色い大型リグこそが、ウェンズデイ機関謹製のファンタズマ・システムのガワなのだろう。

 

 降下から再び急上昇。エネルギーゲージは半分を切っているが、ファンタズマをロックオンした。ターゲットマーカーが赤く光ると、アリスはトリガーを引く。PPkを三連射。閃光は黄色いボディを焦がすことさえできず、電磁的に拡散されてしまう。

 

 対エネルギーに優れた防御スクリーン特有の反応を示していた。こうなるとレーザーライフルは役に立ちそうにない。

 

「スミカから実弾の武器を借りれば良かった」

 

 後悔しても遅いか。そもそも、実弾のライフルやマシンガンが通るか判らんし――自分で突っ込みながら、アリスは次の手を打つ。

 

 左背部の超大型ロケットを使う。ノーロック武器を当てるのは得意だ。敵の切り返し運動に合わせて撃つ。

 

 ロケットモーターで推進する特大サイズの榴弾は直撃。

 グレネードキャノンに匹敵する爆風が、ファンタズマの機体を飲み込む勢いで炸裂する。

 爆炎から姿を見せた戦闘リグは防御スクリーンを抜かれ、損傷していた。

 

 ジェネレーターが悲鳴を上げているので追撃はしない。小ジャンプ機動と脚部での走行を交えた省エネマニューバーでエネルギーを回復させる。

 

『もう少しでデータの抽出が終わるわ! そっちはどう!?』

 

 ファンタズマとの戦闘はデータリンクを通してスミカにも伝わっている。心配してくれていた。

 

『スミカが戻ってくるまでには片付く。コイツ、ガワは立派だがただの自律制御の無人機だ』

 

 落下中にブーストを吹かして、軌道変更。黒青色のデュラハンは壁を蹴り、着地狩りを狙ったプラズマキャノンを回避。

 最初は威力に面食らったが、パターンを読めれば大したことない。

 

 強力な荷電粒子の光が壁面を穿ち、融解させるが、そこに倒すべきACの姿はない。黒青色の重騎士めいたACはファンタズマに肉薄していた。

 

 左舷に黄色くフラットなリグの姿が見える。右にスライドしてブレードの間合いから逃れようとするが、アリスが数手先を行く。

 

「せいっ!」

 

 最高出力のレーザーブレードを抜き放ち、ファンタズマの上面を撫でるように切り裂くと、ブーストダッシュで地上滑走。リグの背面から爆炎が吹き上がるが、動きは止まらない。主砲であるプラズマキャノンをチャージして、アリスに報復しようとするが。

 

「遅い遅い♪」

 

 再び跳び跳ねるデュラハン。地上を走り回るしかできないリグの欠点を突き付けるかのように空中戦を挑む。

 

「終わりだ!」

 

 切り裂かれた上面は内部が露出しており、そこにロケットとレーザーライフルを一気に叩き込んだ。瞬間的に爆光が弾け、モニターがホワイトアウトする。

 

 轟音と振動は、データバンク前のフロアに戻るスミカにも聞こえていた。

 

『アリス、怪我はない!?』

『おう。意外と大したことなかったぜ』

 

 ゲートを開けて飛び出したコーラルスター。出撃する度に、この少女の強さを思い知らされる。

 

 黒青色のデュラハンは、炎上するファンタズマに背を向けている。主と同じ深紅のアイカメラは爛々と輝き、繰り広げた破壊に満足しているかのようだ。

 

 

 

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