【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
「ええーい、邪魔すんなっつうの!」
ナースホルンやガードメカを蹴散らしながら脱出する。苛立ち気味に死神少女が吠え、ロックオンサイトに捉えた雑魚に手当たり次第銃弾をお見舞いしていく。
トリガーを引きっぱなしにして、雑にバラ撒く。狙いを付けずとも、当たれば落ちる程度の雑魚ばかりが出てくる。
レーザーライフルはコーラルスターが背負ってきた武器と交換してもらった。WG-AR1000に持ち替えている――千発の装弾数を誇るマシンガンで、ミッションに臨むレイヴンの強い味方だ。
デュラハンの代わりにレーザーライフルを装備したコーラルスターと共に、撃って撃って撃ちまくる。
立ち塞がる敵機は無人機ばかりだ。ウェンズデイ機関の本部は大騒ぎになっており、我先にと逃げ出そうとしている。
その原因はムラクモ・ミレニアムが機関を切り捨てる決定を下したことにある。傍受した施設内の通信で二人はそれを把握した。
ウェンズデイ機関は多くのスポンサーを獲得していたが、その中には深刻な利害関係にある企業もあった。
ムラクモとクロームはその最たるもの。
おまけに機関は当初大口の出資者だったムラクモとの関係を断ち、クロームとの関係を深めていた。
クロームが強化人間技術を手に入れることを恐れたムラクモは、殲滅に乗り出したのだろう。
既に空爆の第一波が着弾し、第二波以降も迫ってきている。
『巡航ミサイル着弾! なんて数だ――防空システム沈黙しました!』
『方位240から爆撃機編隊が接近中! 二十分もすればここは跡形もなくなるぞ!』
『上の奴ら、最初から判っていたんだ。リグで逃げやがった!』
『私達は切り捨てられたってことなの!? そんなの嫌よ!』
ウェンズデイ機関の最期は刻々と近付いているようだ。
構成員は皆殺しにされ、せいぜい残るのはムラクモが欲する研究成果くらいだろう。
実の所、アリスには秘密の血生臭い計画があった。今のうちにそれをスミカに打ち明けることにする。
『一つスミカに謝っておかなきゃならんことがある』
『何かしら、アリス?』
ピンク髪のヴァルキリーには思い当たることがなかった。不思議そうな顔をしている。
『実はな、帰り路でお前と分かれて、ここの奴らを皆殺しにするつもりだったんだ』
ウェンズデイ機関に対して告げた死神少女の宣言は本気だったのである。
市街地で暴れ回っていたACの中身――コアとして組みこまれた子供を見た時に決めた。
末端の兵隊くらいはスミカに免じて見逃すが、ファンタズマ計画に携わった者たちは一人残らず殲滅するつもりだった。
『正直、アリスのそういう所は少し怖いわ――――ごめんなさい、気を悪くしたわよね』
『よく言われる。スミカの感覚は正しいよ』
恥じらう笑顔のアリス。そう思われても仕方がない。
自分の凶暴さや殺戮への耽溺を異常と自覚できる程度には、理性が育っているつもりだ。
勾配のある通路を駆け上がる。突入した時と同じように正面ゲートを通る。
地上に出た。夜空には満月と星々。前方には本部に付随する飛行場が広がっている。
地上の複数個所を炎が照らしている。爆撃により、ミサイルサイトと滑走路が壊されていた。
さらに巡航ミサイルが崖に命中。爆音がコクピットに響いた。
頭上をエンジンの轟音が通り過ぎる。ACやMTを積めるサイズの輸送機だ。
『空挺部隊です! 倒さなければ逃げ切れないわ!』
珊瑚色のACは一気にブーストジャンプで上昇。輸送機から投下されたACを迎え撃つべく、レーザーライフルを連射する。
閃光で明らかになった敵機は青い装甲の忍者のような意匠の軽量級AC。コーラルスターのベース機"有明"と同じく、ムラクモ製の陽炎だ。
「特殊部隊まで投入してくるなんて!」
三機の陽炎はレーザーを躱しながら高速降下してくる。腕利きであることは間違いない。
『援護する!――――ぬぉ!?』
グレネードランチャーを担ぎ、黒青色のデュラハンは飛び立つが、邪魔が入った。
飛来した榴弾が地表で炸裂して、飛散する破片に黒青色の装甲が叩かれる。
「スティンガーか!?」
爆風に煽られて揺れるデュラハンを立て直しながら、直感で叫んでいた。
満月を背にしてブースト飛行する重量級ACのシルエット。
ブレードアンテナを有したその姿は、ヴィクセンを極端に重装化したようにも見える。ティーガーから送られてきた映像で、アリスが思わずデブヴィクセンと呼んだ新型ACである。
『このヴェルベルクで貴様を殺す! 面倒は少しでも減らさねばな!』
アリスの予想通りだった。憎悪に満ちた男の声がレシーバーから伝わってくる。空爆の最中に、わざわざこっちの息の根を止めにくるのは、そうするように命じられたからなのだろう。
殺気立つスティンガーの様子からして、満更でもない仕事のようだ。
それにしても――――
『すまん、スミカ。スティンガーを引き受けるので精一杯になりそうだ!』
『大丈夫。これくらい、私一人でも対処できるわ!』
プラズマキャノンの砲口が光った。両手で抱えた砲の威力は疑うまでもない。
弾速はAC用プラズマライフルよりも遥かに速い。次々に光弾が撃ち出されていく。
プラズマの光に照らされ、ヴェルベルクの姿が明かになった。
白色の装甲、頭部アイカメラは青く光る複眼状。非人間的で無機質な造形。
「こりゃ迂闊に喰らうわけにゃいかんなぁ!」
黒髪の死神少女は操縦桿を素早く倒す。
騎手の命令に従い、忠実な黒青色の鉄騎士たるデュラハンは左にスライド。ブーストによる垂直上昇を加えた、立体的な動きで砲撃を回避する。
フットペダルと操縦桿のトリガーで入力して、右にクイックブースト。強烈な加速度でもアリスは揺るがない。
炸裂した噴射炎に押し出されるように切り返すデュラハン。
アリスは右背部にマウントしたグレネードランチャーを撃ち込もうとするが、ヴェルベルクが凄まじいブースト速度で低空を飛んで突進してくる。
オーバードブーストーー背中から噴き出るプラズマの噴射は、高速移動を可能とする新機構によるものだ。
「おおっ!? はっやいっ!」
ダブルトリガー、イクシードオービットと並び、複数の企業及び研究機関が実用化を進めるACの新機構はアリスも知る所である。
その実物の迫力には正直、圧倒された。超重量級の装甲でガチガチに固めたACが亜音速で突っ込んでくるのだから。
「これ以上面倒をかけるな!」
ヴェルベルクの背部ランチャーが開き、ミサイルが二発同時発射された。オレンジの噴射炎が夜闇に眩い。
超音速で向かってくるミサイルは中型クラスで、デュラハンのような中量級ACの防御スクリーンでは受け止め切れない。さらにグレネードキャノンを撃ち込んでくる。ヴェルベルク自体の速度が上乗せされた徹甲榴弾は一撃必殺の威力。
黒青色のデュラハンは弧を描く回避機動に専念。急カーブしてもミサイルは追尾してくる。
「ちいっ! ちょっとしつこいぞ!」
迎撃機銃の射線が合わない。ならばと、アリスはマシンガンを連射して、ミサイルを撃墜。
そのまま撃ち流して、クイックブーストで瞬間的に音速超えしたヴェルベルクにも弾丸を浴びせている。
「面倒な!」
相対速度が仇になり、本来なら掠り傷にもならないマシンガンが白い装甲を傷つける。
苛立ちながら、スティンガーは突進を続けた。
キャノンのサイドグリップを握った左手を離し、レーザーブレードを発振。一撃離脱の斬撃を叩き込もうとする。
黒青色のデュラハンは急降下。制動をかけ、あえて速度を捨て、地上での迎撃の構え。これを予期していなかったスティンガーは慌てて旋回。急減速のため、近接攻撃のラインが逸れる。
「チャンス!」
ニヤリと笑い、死神少女は愛刀を抜き放つ。月光の刃。キャパシタに無理をさせ、最高以上の出力に引き上げる。
そこに邪魔者が入った。
陽炎、ムラクモの特殊部隊が格納庫の影から飛び出し、アリスとスティンガーの双方に飛び掛かってくる。
反応は電撃的だった。
「「邪魔だ!」」
ヴェルベルクはまず一機を体当たりで吹っ飛ばし、もう一機の陽炎を横一文字斬り。
デュラハンの光刃は触れる前から陽炎の装甲を融かしていた。撫でるだけでコアを抉る。
ムラクモが誇る闇の精鋭といえど、この二機にはまるで敵わない。
数瞬の共闘から転じて、デュラハンに再び襲い、掛かろうとするスティンガー。
しかし、前方が爆ぜて、爆風が白い巨体を押し留める。それはデュラハンの背部ランチャーから発射されたロケット弾の爆発だった。
「ぬうっ!」
爆風で塞がった視界。黒青色の敵機を見失ってしまう。
そこにグレネードランチャーが直撃し、ヴェルベルクは弾き飛ばされた。
コネクタを通して、スティンガーに損傷が伝達される。防御スクリーンは抜かれたが、堅牢な装甲は耐え抜いた。
キャノンを担いだまま舞い上がったデュラハンにプラズマキャノンを乱射しながら、バックのクイックブーストで勢いをつけて後退する。
ムラクモの本格的な爆撃が始まる前に片付ける必要がある――面倒な状況だった。
スミカは苦戦していた。
地上に降りる前に一機撃墜したが、生き残りは狼狽えることなく対応してきた。
散開した青いカラーの陽炎がハンドガンを連射しながら、コーラルスターを追い込んでくる。
珊瑚色の軽装ACは跳躍。速射型レーザーライフルで反撃を試みる。スミカが狙った陽炎はバックステップでレーザーを避ける。
「くっ!」
連射しようとするが、左側面から飛来した弾丸が左肩に当たる。短銃身の火器とは思えない強力な衝撃で、スミカは揺さぶられた。
ハンドガンは威力よりも衝撃を重視した特殊な砲弾を用いている。
一対一の決闘のみならず、二対一の状況ではさらに危険な攻撃となる。連続被弾すれば、アクチュエーター複雑系が瞬間的に硬直してしまう。無防備な状態で攻撃されればひとたまりもない。
陽炎は一定距離を保ち、十字砲火で攻めてくる。一糸乱れぬ連携。これが、ムラクモ・ミレニアム特殊部隊の戦術なのだろう。
スミカは焦る気持ちを抑えながら、懸命に機動戦を続ける。
ピンク髪のヴァルキリーにも勝機はあった。
スミカほど粘る相手とは交戦したことがないようで、爆撃開始までに仕留めようとする陽炎の動きに粗が見え始めたのだ。
やがて、一瞬の好機を掴んだ。
「足手纏いにはなりたくないの! そこ! 墜とさせてもらいます!」
レーザーが陽炎の腰部に着弾。直撃だ。
「あと一つ!」
一瞬でオレンジ色の火球と化した敵機に目もくれず、ブーストをかける。最後の一機との間合いを詰めるコーラルスター。真正面から陽炎がハンドガンの狙いをつけてくる。着弾。しかし衝撃は軽い。
ほんの僅かに角度をつけ、コーラルスターのコア――その最も頑丈な部分で銃撃を受けていた。
特殊弾の衝撃は角度が付いたことで伝わりきらず、敵機が背中のブレードを抜くよりも先に動くことができた。
「せいっ!」
スミカの気合の叫び。コーラルスターは反転、背中から体当たりをかける。それはまさしく八極拳の鉄山靠。
敵は予備武装を納めたウェポンラックに思い切りぶち当たった。
弾き飛ばされた陽炎が格納庫に激突し、仰向けに倒れる。もう一度、反転。コーラルスターはレーザーライフルでバースト射撃。
モニターに表示された残弾はちょうどゼロ。爆発する陽炎を通り過ぎ、夜明けの方向に離脱する。
レーダー上に迫る無数の巡航ミサイル。爆撃機も到着している。
『もう時間がないわ。アリスも離脱して!』
スミカは必死で叫んだ。爆炎がアリスとスティンガーを包んでいた。