【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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すべては炎に消える

 

『そらそらそらっ! いくら厚い装甲でも、流石にこうも喰らったらノーダメってワケにはいかんだろう!?』

 

 デュラハンが上空からマシンガンを浴びせてくる。レシーバーからは意気揚々とした少女の声。

 

 クイックブーストで瞬時に位置をズラしても、アリスのサイティングがブレることはない。黒青色の二脚ACはスティンガーの動きを先読みして追従してきた。

 

 高所からの撃ち下ろしによって、無視できない運動エネルギーを得た弾丸を浴びながら、ヴェルベルクは旋回。プラズマキャノンとミサイルを同時発射。

 上空に向かって奔るプラズマの弾体。連射するが着弾せず。

 

 しかし、爆発があった。上昇からの鋭い急降下に切り替えたデュラハンの傍で、ミサイルが炸裂したのだ。

 

 スティンガーは傷づいたデュラハンを狙う。中型クラスのミサイルとなれば、直撃でなくとも無傷では済まない。

 特に機動力でヴェルベルクの攻撃を躱し続けなければならないアリスにとって、一瞬でも動きを封じられるのは致命的なはずだ。

 

――――もらったぞ!これで死ね!

 

 グレネードキャノンが咆哮する。ヴェルベルクが放った大口径砲弾は黒青色の標的に吸い込まれるように飛ぶ。

 直撃を確信する――デュラハンの姿がブレた。クイックブーストによって回避したのだ。

 

『殺る気があるのはヨシ! けど攻撃がいつ来るか解るくらいの殺気は出したらダメだぜ』

 

 諭すような物言いの死神少女。デュラハンは着地の勢いで滑り、路面に火花を散らしながらターンする。その動きはぴったりとスティンガーの機動に合わせていた。

 グレネードランチャーの砲声が轟く。避けられない。

 

 マシンガンの連続被弾で防御スクリーンが弱っていた左肩に着弾。爆発に煽られ、反撃もままならなかった。ヴェルベルクの左腕は根本から喪われていた。

 デュラハンも目に見える損傷を被っているが、ヴェルベルクが負っているダメージのほうが大きい。

 

「何故だ!? 何故、勝てない!?」

 

 交戦開始からの十数秒は、こちらが押しているという手応えがあった。スティンガーには勝てるという確信があった。

 

 だというのに、今となってはとても勝てる気がしない。アリスの動きは、一瞬ごとに鋭さを増していく。

 

 ネスト規格機のカスタムモデルに過ぎないはずの敵機が、恐怖と死を糧に力を増す怪物のように感じられた。

 距離を取り、ヴェルベルクは砲撃を繰り返している。近寄れば、殺られる。スティンガーは恐怖していた。

 

 

『楽しい限りだ。あんたはどうだ、スティンガー?』

 

 プラズマやグレネードをひらりと躱しながら問う。

 アリスにとっては面白い戦いだった。この黒髪の少女にとって、スティンガーははじめて出会うタイプの敵であった。

 

 アリス・ジャバウォックには、死が降りかかる瞬間が感じられる。その時に動けば、あらゆるモノを殺すことができた。

 しかし、いかなる理由か分からないが、スティンガーは死を感じさせない。だから、面白いのだ。

 

『狂っているのか、貴様は!? 戦いを面白がるなどと!?』

 

 意外とまともな感性してんじゃん。アリスはスティンガーが絞り出した返事に感心する。

 

『気を悪くしたなら謝る。あんたは強いよ。こんな外道連中とツるまなくとも、まだまだやれたんじゃないか? ピアース・ウォタン君?』

 

『貴様ぁっ! どこでその名を!?』

 

 忌まわしい過去に触れられたことで、スティンガーの憤怒は頂点に達した。

 懸命に保っていた距離を詰めるべく加速した。オーバードブーストで、着地しようとするデュラハンに上空から突撃する。

 

 白い装甲の超重量機は瞬く間にクロスレンジに。サイドブースター、急速点火。クイックターンの勢いで、プラズマキャノンの砲身を叩きつける。

 

 狙い通り、スティンガーは挑発に乗ってくれた。近接戦の距離に誘い込みたかったのだ。

 

 後ろからの慣性が少女の身体を圧する。

 アリスは素早くデュラハンを後退させ、キャノンの砲身を躱した。風圧だけで、ACが揺らぐほどの打撃だった。

 スティンガーが次の一手を撃つ前に、大型ロケットを発射。電光石火の早業である。

 

「羨ましい頑丈さだ」

 

 命中、だが大破には至らない。とにかく敵は硬い。

 

 弾き飛ばれたヴェルベルクは仰向けに墜落し、衝撃でスティンガーは呻いた。二度も負けるのか、この俺が――!アリス・ジャバウォックとの以前の対決がフラッシュバックする。

 

 爆風を押し返すようにブーストダッシュしつつ、デュラハンはレーザーブレードを抜く。

 

「さーて、これでお別れになるかどうか、試してみようか」

 

 死神少女は残酷に笑っていた。衝撃で駆動系が麻痺したため、身動きできずにもがくヴェルベルクに迫るアリス。

 

『もう時間がないわ。アリスも離脱して!』

「おっこりゃいけない!」

 

 しかし、スミカの警告に我に返り、巡航ミサイルが接近していることに気付く死神少女。

 

「生きてたらまた会おうぜ、スティンガー」

 

 追撃の手を止め、ヴェルベルクにラフに敬礼する。着弾した巡航ミサイルが地上の設備を根こそぎ破壊していく。

 

 貪欲に広がる炎を振り払い、デュラハンは高らかに夜空へと昇る。ヴェルベルクに背を向けて、東に向かって猛加速。

 

 デュラハンのブースト噴射を目印にスティンガーは、憎悪を頼りに力を振り絞った。

 プラズマキャノンを片腕で掲げ、無防備な背中を狙う。

 

「殺す。貴様だけは必ず……」

 

 引き金が引かれた。怒りと憎しみに研ぎ澄まされた一射は確実にデュラハンの背中を捉え――――

 

 「ほいっと」気軽な掛け声と共に振るわれた斬撃で切り払われる。

 レーザーブレードの斬撃によって、高集束されたプラズマの塊を霧散させる神業。アリスは、それを背後からの攻撃に反応してやってのけた。

 

「馬鹿……な」

 

 己では決して辿り着けない絶技を目の当たりにした時、男のなかで何かが砕ける音がした。

 

 ヴェルベルクは炎に呑まれた。アラートがけたたましく鳴り響くのが聴こえる。

 そこで、スティンガーの意識は途切れた。再び、彼は敗けたのだ。

 

 

 爆撃に先んじて、主幹要員を載せた大型輸送リグは脱出していた。

 

 護衛として二両の戦闘リグが随伴しており、ヤン達を乗せた輸送リグを前後から挟むように守っている。

 重武装かつ重装甲、動く要塞のような大型機動兵器だ。ファンタズマ用の大出力ジェネレーターを流用したウェンズデイ機関独自のマシンである。

 

 これだけでも護衛機として申し分なく、だからこそヤンはヴェルベルクにレイヴンの始末を命令することができた。

 

 リグの車列は荒野から廃墟犇めく都市跡に入っている。道路で朽ちていく自動車を踏み潰しながら、進んでいく。

 

 不意に一際巨大な爆発が背後で上がった。ムラクモによる攻撃が最終段階に入ったのだろう。

 

「ヴェルベルク、ロストしました」

 

「残念だよ、スティンガー。ファンタズマに殉じた君のことは忘れない」

 

 報告を聞いたとき、ヤンは嫌らしく笑っていた。エレオノーラを誑かす邪魔者が消えたことが嬉しくて仕方がないのだ。

 心にもないことを呟き、悦に入っていたヤンだが、敵襲の報せに身を強張らせた。

 

「機影あり、機数一! 単独です!」

「馬鹿な、なぜこの距離になるまで捕捉できなかった!?」

 

 安全なルートからの退避と高をくくり、予想していなかった奇襲攻撃に素人であるヤンを筆頭とする研究者達は怯えていた。

 

「迎撃用意だ。よろしいですねヤン主任」

「あっああ! そうしてくれ!」

 

 指揮官の号令で護衛の戦闘リグが武装を展開する。

 VLSミサイルセルが開かれ、レーダーと同期した回転砲塔のガトリングレーザーキャノンが敵機を待ち構える。

 

 サイズからアーマードコアと推定される敵機が急加速。オーバードブースト並みのスピードに達したことで、レーダー要員は目を剥いた。

 

「敵機急速接近! これはACなのか!?」

 

 敵機が高層ビルの陰から姿を現す瞬間を捉えられた者は誰一人としていなかった。

 

 まず後方のリグが炎上した。上空から放たれたグレネードランチャーによる正確な砲撃だった。貫通した砲弾が炸裂し、内側から焼き尽くしたのである。AC用の背部キャノンにしても、あまり威力が大きい。

 

 前方のリグが対空砲火を放つ。しかし、垂直発射されたミサイルは敵ACに命中せず、ガトリングレーザーの掃射も同じく。

 ACは凄まじいスピードで動きながら降下し、殺到するミサイルと砲撃を振り切っていた。

 

 マズルフラッシュ。エネルギー兵器の眩い光だ。襲撃者たるACが纏う赤と黒が垣間見える。

 信じられないほど高速で連射されたパルスレーザーとミサイルが戦闘リグの砲塔とキャノンを破壊する。目まぐるしい連射でありながら、正確無比な射撃だった。

 

 唖然とするヤンの前で、護衛が撃破されようとしてる。甲板に着地したACはレーザーブレードを抜き、一突きで艦橋を貫いた。

 

 無力化された護衛は障害物でしかない。輸送リグは停止せざるを得なかった。

 瞬く間にウェンズデイ機関が誇る戦闘リグを破壊したACはパルスライフルを突き付けたまま沈黙している。

 赤と黒の中量二脚、ビリヤードボールの9番を描いた肩口。圧倒的な戦闘能力。

 

 闇の世界に生きる魑魅魍魎たちでさえ恐れ、その死の翼が舞い降りることがないように祈る最強のレイヴン。

 

「ひっ」

 

 その姿をはっきりと見た時、ヤンは怯えて尻餅を付いていた。

 

「ナインボール、アリーナのトップがどうしてここに……!?」

 

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