【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
事前に設定したデュラハンのオートパイロットは正常に作動した。自称スミカ・ユーティライネンの連れのACファントムの攻撃態勢を引き金として、背部の大型ロケットとPPkレーザーライフルが同時発射され、不意打ちを挫いた。
二機はロケットの直撃は避けていた。しかし、AC用ロケット弾として最大級の爆風によりバランスを崩しており、右腕肘にレーザーを喰らったファントムはあらぬ方向にレーザーライフルを発射していた。
同時にコクピットを解放したまま、最大推力で急上昇するデュラハン。ブーストの白いプラズマ噴射が夜空に瞬く。
「痛ぁっ!」
風圧と慣性により黒髪の少女はシートに叩きつけられていた。お尻がじんじんするが、アリスは痛みを堪えて操縦桿を握る。パイロットの復帰により、オートパイロットが解除。装甲が閉じ、コクピットは完全密閉された。
直線の垂直上昇からバレルロールに切り替え、追撃してくる敵機のレーザーとパルスライフルを躱す。
偽コーラルスターのパルスライフルの連射速度は市販品の比ではない。ファントムのレーザーライフルの直撃は勿論、パルスライフルの射線に入るのも危険だ。連続被弾により防御スクリーンはおろか、装甲までも電磁パルス破砕されてしまう。
デュラハンは直撃コースに入ったパルス弾をPPkの速射で相殺しながら上昇している。しかし不意にブースターを切って、自由落下に入った。機体を左右に揺さぶりながら、重力によって加速する。
背部レーダーが周辺に起こった動体反応を拾い、電子音が鳴る。アリスはデータリンクしているナイトメアが一ダース全ての反応をロックオンしているのを確認すると大きく息を吸い込み、叫んだ。
『全弾発射だウルスラ! 生きるか死ぬかだ! 弾薬費の事は後で一緒に苦しもう!』
『判ってるわよ! ああもう、どうにでもなれ!』
無線で響いた美しい声音による発破に後押しされ、ナイトメアのシートに跨っているウルスラは最後の躊躇いを捨てた。セーフティーカバーを跳ね上げ、ミサイルのトリガーを引く。ナイトメアの兵装庫が開き、大型ミサイルが十二発垂直発射される。ミサイルは設定されたターゲットに向かい、夜空に白煙を曳いた。
「ああ、やっちゃった」と弱々しく嘆く金髪メガネのオペ子であった。体は動いており、ナイトメアを射点から移動させている。こういう点は実に傭兵向けな気質だ。
今発射したミサイルはここ最近の収入の大半を支払って仕入れたものだ。できれば、使わずに事を終えて換金したかった。
《大破壊》時代から復元された兵器技術のうち、広く普及している核融合弾頭『クリーン』は複雑怪奇な爆発プロセスを正常に完了し、直径にして数百メートルの爆発を荒野に轟かせた。十二箇所で炸裂した核爆発が夜空を眩く照らす光景は終末的と形容する他にない。《大破壊》当時は毎日のように繰り広げられた、日常の一幕ではあった。
AC用超大型ミサイルの弾頭にも用いられるこの核兵器は放射線を撒き散らすことはないが、極めて製造コストが高い。そのため旧時代の軍事施設などで貯蔵されている、腐ったような弾頭さえ高値で取引されている。
『はははは! 上々の戦果だぜウルスラ!』
腹にずんと響くような衝撃と炎に照らされた一帯にアリスは大笑いだ。
爆風と衝撃波は兵器マーケットからかき集められ、アリスにぶつけられるはずだったACやMTその他を呑み込み徹底的に粉砕した。融解を免れた残骸は転がっている古い残骸にぶつかり、手荒く挨拶していた。
僅かに残った戦力がデュラハンとナイトメアに迫るが、物の数ではない。
「先に片付けるか」
再び、ロケットで偽コーラルスターとその連れを脅かし、向かってくる無人機にロックオンサイトを向けるアリス。
旧ムラクモから独立した兵器メーカーによる、クローム製ACスウィフトの改造モデルが二機、それに重ホバータンクが一機の編成だ。
スウィフトの方は両手にそれぞれライフルを装備した、ダブルトリガーという新機軸の武装配置が特徴だ。レーザーブレードの替わりに射撃武器が二丁、つまり射撃戦において従来ACの二倍の攻撃力があるわけだが、レーザーライフルの速射で即座に制圧した。
ホバータンクは垂直ミサイルを放ちながら、主砲仰角を上げてデュラハンを狙う。だが、アリスは恐れることなく降下した。ミサイルを強引な旋回で振り切り、滑空する。
「おらよっ! ぶっ潰れな!」
主砲を掠めながら、デュラハンはロケット弾を連射して上面装甲を叩いた。タンクの装甲は重厚だが、度重なる爆発には耐えられない。
ホバータンクの爆散に合わせ、アリスは機体をコーラルスターとファントムに向け直していた。
衝撃でコクピットが揺れた。爆風で加速しながら飛び、弧を描く軌道で荒野に降り立ち、ブーストダッシュ。飛んでくるミサイルやエネルギー兵器は転がっている残骸を盾にして防いでいる。
相手もブーストジャンプを繰り返しながら射撃することで遮蔽を取っているが、アリスは頭を出した敵にレーザーをヒットさせていた。
「おっと、プッツンしたかな?」
偽コーラルスターが飛び出して高速で滑走してくる姿には苛立ちの感情がある。こいつらは中身入りだ。ファントムは慌てた様子で僚機をカバーするべく、垂直ミサイルを放つが降下する前にアリスは大型ロケットでこれを撃墜している。
デュラハンが地を蹴って跳ねる。リズミカルに跳躍を行う理想的な省エネマニューバーである。
偽コーラルスターはデュラハンの反撃にしぶとく耐えている。レーザーの連続被弾だけでなく、致命的なはずのロケット弾の直撃でさえピンピンしていた。
防御スクリーンにエネルギーの大半を回しているのだろう。装甲も特別製かもしれない。とにかく、冗談みたいに硬い。
本物のスミカのコーラルスターにも不死身と形容できるタフさがあったが、それは操縦者の技量で装甲の硬い部分に被弾を集中させていたからだ。余剰エネルギーをブースターに全振りして流星の如く駆けるのがスミカ・ユーティライネン流だった。
偽物の技量はスミカに遥かに劣っており、そこそこの腕のパイロットが高度な強化手術と機体性能に頼っているだけだ。ファントムのほうも同じく。
「これくらいにしておくか」
アリスは止め際を見極め、射撃を止めた。PPkの弾は残り二十発しかない。そしてロケット弾は残り一発だ。一方、相手のパルスライフルの連射は続いている。
アリスが応戦を止めると、偽コーラルスターが強引に突進してくる。残骸の陰に隠れているファントムに注意しつつアリスはタイミングを見計らう。
物陰に潜みながらファントムは大型レーザーライフルをフルチャージしていた。暴走寸前の青いエネルギーを銃口に留めながら、BFF――――Bernard and Felix Foundationと社章が記された《大破壊》時代の兵器の残骸を蹴って、斜め後ろに高く跳躍。
人体を再現した関節可動域と神経直結の組み合わせによって、軽業をやってのけていた。計算され尽くした狙撃ポイントに達したファントムはターゲットに向かってレーザーの奔流を解き放った。
確かにレーザーはACを貫通しており、放射熱により融解、爆散させていた。しかしそれは黒青色のACではなく、ピンク色のACだった。
「見え見えなんだよ」
二機の意図を読んだアリスは、狙撃の直前に最後のロケット弾で偽コーラルスターを吹っ飛ばし狙撃地点に送り込みつつ、自身は安全圏に退避したのだ。偽物の爆発は青いプラズマを伴っており、搭載ジェネレーターの異常な出力を示していた。
僚機を自らの手で破壊した上に、主武器が冷却を終えるまで使用不能になったファントムは動揺の色を滲ませている。
「面拝んでやるから待ってろやっ!」
猛り狂って嗤いながらアリスはデュラハンを駆り立てる。ファントムが滞空している間に残りのレーザーライフルを全弾命中させる。コーラルスターほどの耐久力はなく、垂直ミサイルランチャーに誘爆したのが決定打になり、ファントムは無様に墜落した。
起き上がろうとする黒い新型ACの意志に応じて油圧サスペンションが空しくもがいている。降下してきたデュラハンはファントムの頭部を踏み潰しさらにレーザーブレードで四肢を破壊して追い打ちをかけた。
「よし、ライフルは無事だな」
高出力なレーザーライフルに魅せられたアリスは、戦利品の状態を確認してご満悦だ。
『こっちは片付いた。すぐに戻――――』
ナイトメアのウルスラに連絡している最中、『ちょっちょちょぉっ! アリス急いで戻ってきて! 何か大きいのが起き上がって撃ってきた! 私達、寝た子を起こしちゃったみたいよ!』という元ムラクモエリート社員様の情けない悲鳴がコクピットに轟いた。
ライディングシートに跨り、颯爽とナイトメアを駆って無人機を蹴散らしたウルスラであったが、瓦礫の中からゆっくりと起き上がった大型の人型兵器からプラズマ砲撃を受けた。
薙ぎ払うように大口径プラズマ弾を放つ敵から必死で逃れるウルスラはバイクシートで突き出したデカ尻を情けなく左右に振り、涙目。攻撃を受けている最中でも優秀なオペレーターのサガでカメラ映像をアリスに送信している。
曲面装甲に無数の弾痕が刻まれた、その古ぼけた人型兵器は確かに戦いによって呼び覚まされたようだった。
「今行く。それまで生き延びてくれ」
残る武器はレーザーブレードだけだが問題ない。ブースターを全開にしてデュラハンを疾走させる。