【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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アビスへの前途

 

 五感を失い、暗闇に閉ざされながらもスティンガーの意識は残っていた。

 最後の記憶はアリス・ジャバウォックに敗れ、炎に呑まれるヴェルベルクの中。次に目を覚ましたとき、ここにいた。

 

 深い闇の底――深淵(アビス)でスティンガー、あるいはピアース・ウォタンは憎悪と屈辱を頼りに自我を繋ぎとめている。

 永遠とも思える刻が過ぎ去り――実際には数週間と経っていなかったのだが、初めて"声"が聞こえた。

 

「――――ガー、――――えている? スティン――――」

 

 それは女の声だった。

 

「エレオノーラ、お前なのか?」

 

 スティンガーは声を出して、声に応じることができた。確かな実感があった。直後に光が流れ込み、感覚が戻ってきた。

 

「これは、一体……?」

 

 こうして、スティンガーは蘇生した。しかし、彼の肉体は失われ、奇跡的に残った中枢神経だけが新しい躰に組み込まれている。

 蘇り、以前と比べ物にならないほど鋭敏になった五感から伝わる感覚は無機的であり、神経を0と1の信号が流れているようだ。

 

 事実、その通りであった。

 

「ああ、良かった。手術は成功したわ。今、あなたは幻想(ファンタズマ)になったのよ。生まれ変わったと言ってもいいわ。本当になんて綺麗な姿なの」

 

 蛇蝎のような狡猾さを美しい顔に滲ませた女研究者、エレオノーラは深紅の巨大なマシンを見上げ、その中に組み込まれた男に情熱的な眼差しを送っていた。

 

 夢破れ、外道の元で猟犬として生きながらも気高く振る舞おうとする男。

 エレオノーラはそんなスティンガーの哀れさを愛おしく想い、彼がファンタズマという自らの被造物の一部として新生したことに果てしない悦びを見出していた。

 

 エレオノーラは、ヤンが資材を載せたリグと共に失踪した今となっては、ファンタズマ計画の全てを取り仕切る立場になっていた。

 ヤンは主席研究員の立場にあった。だが、理論の実装はエレオノーラの領分であり、ファンタズマの完成は彼女がいなければ成し得なかった。

 

 ここはアンバークラウン近隣の旧市街都市、その地下に設けられた広大なシェルターだ。

 

 一時はノルト・ハイランドの拠点に退避していたエレオノーラであったが、独断で完成半ばとなったファンタズマ・リグを運び込んだこの場所に赴き、機体を完成させる陣頭指揮を執った。

 

 ノルト・ハイランドなどの拠点と違い、ウェンズデイ機関が独力かつ極秘で築いた秘密基地であるため、企業に発見される可能性は低いと考えたのだ。

 

 その判断は功を奏し、さらに幸運にもムラクモに回収されたヴェルベルクの残骸を奪還することができた。

 

 手元に纏まった実働戦力はないが、コームはあった。レイヴンズ・ネストを介して大金を支払ってトップクラスのレイヴンを雇い、ムラクモの調査団を襲撃したのである。

 

 取り戻したヴェルベルクのコアに残ったスティンガーは辛うじて生きており、人間として回復させるはできなくとも、ファンタズマの中枢ユニットとして使える状態ではあった。

 

 エレオノーラが嬉々として事情を説明する間、スティンガーは黙っていた。

 

「これを見て、スティンガー。ノルト・ハイランドからの映像よ」

 

 コンソールを叩き、エレオノーラは現在進行中の戦闘の映像を表示した。映像は戦闘兵器のアイカメラから中継されているようだった。

 

 まずスティンガーが見たのは雪原迷彩のホバータンク、流線形のリグとは異なる武骨な装甲の塊がレールキャノンを載せている。

 

 次に、白と黒の甲冑を着た巨人のような二脚、森林迷彩風の四脚。レイヴンなら知らぬ者はいない、ホワイトクィーンとリンクスミンクスの愛機だ。

 

 そして、最後に黒青色の装甲を纏った死神の如き騎士を見たとき、スティンガーの堪え切れない憤怒を感じた。

 

「アリス・ジャバウォック!」

 

 ファンタズマのスピーカーから轟いた怒声に研究員たちは一様に身を竦ませる。

 ノイズ混じりであったが、スティンガーの肉声に近くなるよう合成された音声だ。ファンタズマとの一体化が短時間で進んでいる証拠だった。

 

「安心してスティンガー。あのレイヴン達があなたを傷つけることはないわ。

 ノルト・ハイランドの基地に残したプロトタイプを二機投入したの、あなたと完成したファンタズマの力がなくとも、レイヴンのAC如き、敵じゃないわ」

 

 確信を持って述べるエレオノーラ。だが、スティンガーの苛立ち、そして恐れは増すばかりだった。

 

 

 

 戦闘攻撃機の編隊を蹴散らした時とは打って変わって、ホワイトクィーンは矢継ぎ早に指令を下していた。

 

 

 リンクスミンクスとスミカに指示を出して生き延びさせながら、ホワイトクィーンは白と黒の巨人を操っている。

 

 ターンさせ、跳び、パルスライフルを撃ち込む。

 正確な射撃だが、リグは防御スクリーンでパルスレーザーを弾いている。

 撃破するには強力な砲か高出力のレーザーブレードが必要だ。

 

 試作機らしい黄色のファンタズマ・リグは高速で滑走するプリティキトゥンよりなお素早い。

 

 どこか海老を連想させる細長い機体に内蔵された火力は段違いで、プラズマキャノンを躱してたところにミサイルの雨が降ってくる。

 

「単純な攻撃ではあるけど、こうも激しいと厄介ね……!」

 

 歯を食いしばり、金髪の残忍な女レイヴンは攻撃を避ける。

 肉感的で艶めかしいだけでなく、肉食獣の力強さを帯びた長い脚を広げて、踏ん張っている。

 

 スラッグガンに仰角をつけて展開、散弾で迎撃。ミサイルの雨に隙間を作ってそこに逃げ込む。

 切り抜けると反撃に武器腕からミサイルを発射する。

 

 しかし、急激なターンでファンタズマはミサイルを振り切り、リンクスミンクスは舌打ち。

 

「当たれ!」

 

 AC二機に猛攻を仕掛ける敵機にスミカはホバータンクの火力を解き放つ。

 レールキャノンがスパークと共に砲弾を放ち、ミサイルやガトリング機関砲も叩き込む。

 

「避けられた!?」

 

 致命傷になるキャノンは躱し、それ以外の攻撃はスクリーンと装甲で受け止めながら強力なプラズマキャノンで応戦するファンタズマ。

 

 

「好機ですね」

 

 この瞬間、丸眼鏡の穏やかな女剣豪は勝機を見出した。

 白色のボディスーツに包まれた豊かな胸が揺れる勢いで身を乗り出し、叫ぶ。

 

『リンクス、接近戦を仕掛けるので援護してください。スミカはこのまま牽制をお願いします! ただし、レールキャノンの弾は残しておいて!』

 

『了解よ。そうこなくっちゃ。逃げ回るよりずっといいわ』

『判りました!』

 

 ホワイトクィーンは旋回するリグに真っ向から突っ込み、リンクスミンクスはダイヤスノウの火線と重ならない位置取りで、側面から攻める。

 

 疾走する愛機のコクピットで、白髪と金髪の女イレヴンは闘志を滾らせている。

 強大な敵を前にしても、決して損なわれない戦意が彼女達のランカーに押し上げた要因の一つだ。

 

『ファンタズマとかいうヤツを甘く見ていたわ。正直なところ、おっかなくて心臓がバクバク言ってるわ。クィーン、貴女はどう?』

 

 邪悪なサディストだがリンクスミンクスは臆病さも持ち合わせており、だからこそ身の破滅を避けて上位ランカーの地位に在り続けていた。

 ホワイトクィーンから共感の一言を引き出したい金髪の女レイヴンなのだが。

 

『特に恐ろしいとは感じていませんよ。勝利には冷静さを保つことが不可欠ですから、感情は抑えているんです』

 

『可愛くない返事ね。貴女のそういう所、嫌いよ――心配しないで、指示には従うから』

 

 ホワイトクィーンが簡潔かつ事務的に述べた笑顔の返事に、リンクスミンクスは不満げな顔をした。決死の突撃の最中に、そんな明け透けな通信をする余裕があった。

 

 プラズマキャノンを躱し、チェックメイトⅢは真っ向からプロト・ファンタズマに肉薄した。

 

 黄色い巨体が旋回し左右に取り付けられた格闘専用アームで殴りつけてくる。音速を超えた打撃。

 

 しかし、ホワイトクィーンはファンタズマの迎撃を見越していた。チェックメイトⅢが華麗に身を翻す。

 

「はあっ!」

 

 気合の掛け声がコクピットに響く。

 

 左手のレーザーブレードで下から斬り上げ、関節部を的確に絶つ。ブレードの出力が防御スクリーンを破り、脆い関節を切り裂いたのだ。

 

 すぐさま、バックブースターを全開にして、曲線的な甲冑姿の巨人が飛び退く。

 

 片腕をもがれたファンタズマめがけて、プリティキトゥンが突っ込む。四脚を広げて姿勢を低くした緑迷彩のACは、スラッグガンを黄色いリグの損傷部に捻じ込み、

 

「いい加減、死にな!」と残忍さを剥き出しにした雌猫がトリガーを絞る。

 

 高速連射された散弾にたまらず、ファンタズマのボディが抉られる。

 

 使い物にならなくなったスラッグガンをパージして、ファンタズマの振り払う動きと爆発に合わせてプリティキトゥンも後退。しかし、ただでは下がらず、腕部のミサイルをお見舞いする。

 

『撃ちますっ! 今度こそ当てる!』

 

 回転しながらバランスを立て直そうとするファンタズマを、スミカはサイトのど真ん中に捉えている。

 

――――これで終わらせる!

 

 レールキャノンは音速の十倍近い速度でファンタズマを撃ち抜く。

 ちょうど、真後ろから着弾して砲弾は防御スクリーンと複合装甲を貫徹。黄色のボディが真っ二つに裂けた。

 

 

「安全弁十番まで解除。ちょっとこいつはリミッタ掛け過ぎだぜ」

 

 アリスが任されたファンタズマとの決着は、ほぼ同時だった。

 凄まじい火力を遠距離から浴びせる相手だ。流石の死神少女も援護なしでは接近できない。

 

 白レオタードの戦闘スーツを纏った黒髪の美少女はファンタズマを翻弄しながら、背部のミサイルランチャー二基をパージして、少しでもレールガンに回すエネルギーを確保。

 

 掛けられていた安全装置を外し、最大出力での射撃で勝負をかけた。

 

 帯電した二基のレールを魔剣の如く振るい、その勢いで高速旋回。

 

 アリスはファンタズマと真正面から向き合う。デュラハンの真紅のカメラアイが敵を睨んでいた。

 

 それは中継された映像を見ているスティンガーを射竦めるかのようだった。

 レールガンの射撃反動を見越してデュラハンは静止しつつ、右腕アクチュエーターのパワーを振り絞る。

 

「視えた!――――かっ飛べぇ!」

 

 アリスは敵の最期を予見して、とどめの一撃を放つ。プラズマが砲口に収束し切る前にデュラハンのチャージは終わっていた。

 

 レールガンの青白い稲妻を纏った砲弾はファンタズマの機首を穿ち、ジェネレーターまでまっすぐに貫通。暴走したエネルギーが内側からリグを吹き飛ばす。

 

 

「GAAAAAAAAAッッッ!!?!!!?」

 

 カメラ越しの映像とはいえ、真っ向からレールガンの弾体が飛んできて、機体を破壊する様を見ることになったスティンガーは死の恐怖を呼び起こされ、絶叫した。

 

「落ち着いてスティンガー、大丈夫だから。お願い……」

 

 それは人間の声を模した電子音声から怪物の断末魔めいたものに変わり、室内に反響している。

 エレオノーラがどんなに宥めようとも、スティンガーの絶叫は収まることはなかった。

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