【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
増援の気配はない。
レールガンの砲弾で射抜かれて、動きを止めたプロト・ファンタズマを残して、アリスはデュラハンをブーストジャンプさせた。
「悪い。ちょいと手こずった」
『あら、こっちは余裕だったわよ?』
「言うねえ〜、結構やられたように見えるけど」
チームと合流する。デュラハンは背部スラッグガンを一門失ったプリティキトゥンの隣に着地。
死神少女はコンソールを弾き、自機のダメージチェックを行ないつつ、味方の損傷を目視で確かめる。
デュラハンは背部武装を使い切ってパージしていたが、レールガンは残弾あり。アリス自身、この武装の感覚を掴んでいた。
チェックメイトⅢ、プリティキトゥン、ダイヤスノウの損傷は中破に達していない。弾薬を補給すれば戦闘を続けられそうだ。
『クィーン、ここで一度補給を行いましょう』
『それが賢明だと思います。弾薬だけでなく武装の補充が必要な機もありますから』
スミカは気後れすることなく、ホワイトクィーンに進言した。
ウェンズデイ機関の残党に迎撃態勢を整える時間を与えるのは悪手かもしれないが、敵はまだプロト・ファンタズマ級の戦力を温存している可能性がある。
だから、万全の態勢が敵地に乗り込みたかった。
丸眼鏡の理知的な女レイヴンは白いグローブに覆われた指でコンソールを操作して、無人補給ヘリを呼び寄せた。
ACの出撃後にリグから発進させていたのだ。ヘリは今は着陸して潜伏している。
十分もしないうちにヘリは到着した。各々、弾薬を補給していく。
「取り付けはオレがやるよ。替えはチェインガンでいいんだな?」
『ええ。お願い』
雪上にレールガンを置くと、デュラハンは両手でチェインガンを掴んで、プリティキトゥンに後ろから近寄った。
「よし、ぴったりだ」
『ありがと、アリス』
チェインガンを空いている背部コネクタに嵌め込む。
MTを祖として、純粋な戦闘マシンとして発展してきたACだが、作業用MTと遜色ない動作プログラムが残されていた。
通常の作業MTと比較にならないほど高密度なアクチュエーター複雑系を備えたACにとっては、戦闘と同じくらい作業は得意分野だ。
単身で敵地に浸透しての破壊工作さえ行うことができ、そうした任務を専門とするレイヴンさえいる。
『お返しに貴女の背中に武器を付けてあげたいけど、生憎手が塞がっているの』
サディストな女レイヴンが言った。迷彩グリーンの四脚、プリティキトゥンは武器腕なので、作業には向かない。
『アリスのバックウェポンは私が取り付けましょう』
「助かるよ」
レールガンを拾い直すアリスに、ホワイトクィーンが申し出た。
鍛錬の行き届いた肉体を白いボディスーツで包んだお姉さんは、既に自機の弾薬と自身の水分補給を終えている。
ヘリの貨物庫に残った武装は大型ロケットと、グレネードランチャー。チェックメイトⅢに手早く装着してもらう。
最後にダイヤスノウが消耗した弾薬を補充し、補給は完了。
『ヘリの弾薬はこれで空っぽね』
ホバータンクのコクピットに収まったスミカが言う。
『ならちょうどいいですね。この程度の消耗ならクライアントも許容してくれるでしょう』
ヘリを見つめながらホワイトクィーン。アリスには白い髪の女剣豪が何をするのか、見当が付いていた。
万全の態勢を整えて進軍を再開したわけだが、アリス達が新たな敵と交戦することはなかった。
「自爆とは、いやはや古風だねぇ」
遠く離れた地点から巨大なキノコ雲を見上げるアリス。レオタードスーツを幼い肉体に張り付けた少女は、どこか感心するような口ぶりでもあった。
地下深くに掘られた基地が爆発したことで生じた衝撃波が、雪原をゆらしていた。
ホワイトクィーンは補給ヘリをリグに帰還させず、ウェンズデイ機関の拠点があるという座標に先行させた。
囮を使って敵の反応を見てみよう、という考えであった。
ヘリが接近すると突如として地下から巨大な爆発が起こった。恐らく、動力である核融合炉を暴走させたのであろう。
可能性としては考えていたが、本当に自爆するとは思わなかった。
『長居は無用よ。帰りましょう』
椀上のクレーターを造り上げた爆発の迫力に、内心では圧倒されながらリンクスミンクスは機体を反転させた。蠱惑的な肉体を包む黒紫色のスーツを脱いで、そろそろ熱いお湯のシャワーが浴びたかった。
『企業も今の爆発に気付いているでしょう。現時点では遭遇するにしても、先行した少数の部隊程度でしょう。ですが、念のため、警戒を怠らないでください』
『了解』
『はいはい。分かっているわよ』
「おう」
ホワイトクィーンの指示に、各自返答。フォーメーションを組み、リグまでブーストで滑走していく。
ダイヤスノウの狭苦しいコクピットから出ると、スミカはその足でシャワールームに向かった。ピンク髪のヴァルキリーは、彼女の志のように鮮烈な白銀色のバトルスーツを脱ぎ降ろし、汗で蒸れた筋肉質な裸身を晒す。
レイヴンズネストの上位ランカーとの共闘、それにプロト・ファンタズマとの死闘はスミカに大きなプレッシャーを与え、酷く汗も掻いていた。
「ふう」
スーツから解放され、生まれたままの姿になると、スミカは緊張が解れる思いだった。
大股で歩き、殺風景だが清潔なリグのシャワーブースに入る。隣のブースは既に利用中だ。リンクスミンクスが使っている。
(私達を発見した時点でウェンズデイ機関は人員を退避させていたかもしれない。だとすれば、まだ何も終わっていない)
シャワーを浴びながら、浮かない表情でスミカは黙考する。拠点は自爆で失ったが、残党には逃走する猶予が十分にあった。
彼らを受け入れてくれる企業や組織がある限り、狂気の計画は続くだろう。今回の作戦でファンタズマの試作機を撃破できたことは大きいが、根本的には解決に至っていない。
シャワーを止めると、リンクスミンクスは憂うスミカに遠慮なく声をかけた。ピンク色の髪を洗っていたスミカもシャワーを止めて、向き直る。
「良い働きだったわ。貴女とならまた組んであげてもいい。勿論、報酬次第だけどね」
「ありがとうリンクス。こちらこそ、ランカーと一緒に戦えて本当に光栄だったわ」
金髪の雌山猫の態度は言葉以上にスミカを労い、讃えていた。
(今回の戦いは無駄なんかじゃなかった。ホワイトクィーン、リンクスミンクス――――頼りにできるレイヴンはアリスだけじゃない……!)
今回のミッションで得たものは確かにあった。共闘を経て実力を認め合った戦友だ。
感動に浸るスミカを後目に「私は先に上がるわ。私の力が必要になったら遠慮なく連絡しなさい」と告げると、金髪の女傭兵はシャワーブースを出た。
リンクスミンクスは肉感的な尻を揺らし、挑発的に歩む。素っ裸でも堂々としていた。
「柄にもないこと言っちゃったなぁ」
リンクスミンクスは、先ほどの発言を反省している。
清らかな碧眼に正義の光を宿すピンク髪のヴァルキリー、スミカ・ユーティライネン。その眩しさのせいだった。
リグはクライアントの輸送機に回収され、無事にアンバー・クラウンに帰還。
アリスの手料理でミッションの成功を祝った翌日。ホワイトクィーンとリンクスミンクスに別れを告げることに。
ウェンズデイ機関残党の動きは確認されず、今回の依頼主であったクラウンの裏社会の有力者たちは、ノルト・ハイランドの秘密基地の自爆を持って機関が壊滅したと結論付けたのである。
早朝。空港のロビーに、女レイヴン達の姿があった。
リンクスミンクスのプリティキトゥンと、ホワイトクィーンのチェクメイトⅢはそれぞれ輸送機に搭載されて、アンバー・クラウンを発つ。
アンバー・クラウンに入るための厳密な審査にかかる時間を惜しみ、ACで強行突入したアリスと違い、二人は正規の手続きを踏んで都市を訪れている。
次の目的地までの脚はネストが用意してくれたモノだ。
これはランカーの特権というわけではなく、登録しているすべてのレイヴンへのサービスであり、レイヴンズ・ネストという傭兵斡旋組織が持つ力を物語っていた。
「それでは私達はこれで失礼します。幸運を」
「バイバーイ♪」
白い髪にベレー帽を被り、ロングワンピースで美麗な肢体を覆ったホワイトクィーンが恭しく一礼する。
金髪のリンクスミンクスは鍛えられた、雌の肉食獣の如き肉体を誇示するチューフトップとマイクロミニスカートのみの格好。二人の布面積と性格は好対照であった。
二人ともレイヴンである。事が済めば、飛び去って行くだけだ。
だが、二人が教えてくれた次の戦場はアンバー・クラウンからそう遠くない。スミカはいざとなれば救援を頼むつもりでいた。
「さて、仕事仕事っと」
ホワイトクィーンとリンクスミンクスを見送り、アリス達は足早に空港を後にした。死神少女は、もう少しだけスミカと組み、ウェンズデイ機関を追いかけることにしたのだ。