【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
アンプルールとの試合の直後、アリスはアンバー・クラウンから謎の大爆発があった廃都市に向かった。
これはレイヴンズ・ネストを通しての正式な依頼でもある。スミカがコネが使い、急行するシティガードの部隊に編入させてもらっていたのだ。
ムラクモやクロームの私兵が乗り込んでくる前に現場を確保しておきたいというのが、アンバー・クラウン行政府の思惑だ。おかげで、アリス達には最優先で輸送機で手配され、速やかに廃都市に向かうことができた。
「大きすぎる……あれがファンタズマの本当の力だというの?」
廃都市の一画は地下深くで起こった爆発によって半球形のクレーターと化している。輸送機で移動している間にそれを目にしたスミカは、その破壊をもたらした存在に絶句した。
まだ決まったわけではないが、これが単一の戦闘兵器の攻撃力だとすれば、大変な物を見逃したことになる。
アリスは現在、地下にいる。
スミカが駆る珊瑚色の有明カスタム、コーラルスターと手分けして地下鉄構内を探索していた。大破壊以前の都市の地下空間なのだが、全長10mの巨人が動き回れるほど広い。
「そっちはどうだ?」
『つい最近使われた形跡のあるセクションを見つけました。これは――ゲートが破られている。こんなことができるのは艦砲級のキャノンだけよ』
「よし、ならオレもすぐに行くぜ。用心してくれ、何が潜んでるのか分からないんだからな」
後からやってきたシティガードの部隊はクレーター周辺を確保している。アリス達は危険な区画の偵察に回されたワケだが、そのほうが好都合だった。
アンバー・クラウンのシティガードの装備は優秀で対テロの訓練も積んでいる。だが、シティそのものの平和さのために軍事レベルの戦闘経験は乏しい。
治安機構としては重装備という程度でしかないのだ。テロリストはともかくクロームやムラクモの私設軍とカチ合えば、手も脚も出ない。もし交戦すれば、犠牲は避けられない。
デュラハンは老朽化した暗い通路をブーストダッシュで駆け抜けていく。一際広大な空間だった。恐らくここは大破壊以前の主力兵器であったとれる陸上艦を想定した輸送経路なのだろう。
応急処置だけ施してガレージを後にしたデュラハンの黒青色の装甲には損傷が目立つ。
見た目には酷いダメージを負っているように思えるかもしれないが、クリティカルな箇所の損傷は皆無。
アリーナの試合は、デスマッチでもなければ、選手を保護するため安全対策が幾重にも施される――金の卵を生むニワトリを食べてしまうのは、愚か者のすることなのだ。
シャワーを浴びる間も惜しんで出撃しており、アリスのしなやかな肢体に食い込む白いレオタードスーツは汗をたっぷり吸って重たくなっていた。
体を洗っておけば多少マシになったであろう、その感触は不快だが、警戒は怠らない死神少女である。
しかし、どこにも敵の気配はなかった。ウェンズデイ機関の兵隊が襲ってきてくれれば、捕虜を取って情報を得られるのだが。
コーラルスターは極めて高出力のエネルギー兵器によって融解した分厚いゲートの傍で待機している。
緊張した面持ちで操縦桿を握り、スミカはアリスを待つ。
破壊されたゲートは、ピンク髪のヴァルキリーに強い不安を抱かせていた。
心許ない恰好をしていることも、スミカの不安を増幅している。
今日はアリスを応援するためにアリーナに同伴していたので、私服だった。デュラハンと一緒にコーラルスターもトレーラーに載せてきたが、バトルスーツを忘れていた。
今のスミカは、鋭角なハイレグカットのインナーを着ているだけだ。
首元まで黒い布地にぴったりと覆われ、豊かなバストが胸部の布地を押し上げていた。バトルスーツの白銀色のスキンに比べれば、まだ厚みがあるが、それでも薄布であることに変わりはない。
白い美脚は剥き出し。コーラルスターに乗り込むや否や、邪魔になると感じてジーンズを脱ぎ捨て、インナー一枚になったのだ。
(灯台下暗しとはこのことね)
下着姿で、スミカは自嘲した。
ウェンズデイ機関の残党はクラウンの近辺に潜伏して、悠々と最終兵器を完成させていたのだ。
ノルト・ハイランドの基地は陽動であったのだろう。であれば、追い詰められてあっさり自決したのも頷ける。
『お待たせ!』
己の至らなさを痛感するスミカに、アリスの声が響いた。
コーラルスターとデュラハンは合流すると、ゲートの向こう側の調査を始めた。
歩行による地響きが轟き、サーチライトが闇を照らす。
『陽炎か』
まるで発見させるためであるかのように、その残骸はこれ見よがしに置かれていた。
ムラクモ独自規格のAC、陽炎。忍者のような外観の特務機体は、専らムラクモの精鋭部隊が運用している。影に潜み、隠密行動を主とするはずの彼らが残骸を放置しておくはずがない。
「私が調べます!」
『おい、待てスミカ!』
アリスが引き留める間も与えず、スミカはハッチを開いてコーラルスターから飛び出した。ジーンズを履かず、鋭角なインナーにブーツだけの軽装で迅速かつ慎重に陽炎の残骸に近寄る。
(酷い)
陽炎の胴体は、強力なアームか何かで握り潰され、放り捨てられたようだ。弄んでから屠ったような印象があり、スミカは残忍さを感じてならなかった。
大口径拳銃を突き付けながら、圧力で裂けたコアからコクピットの中身を検める。
「これは……!」
パイロットはウェンズデイ機関の残党が、ここに逃げ込んだことを示す証拠だった。
機関独自の施術が施された高レベル強化人間の死体が残されていたのである。
「爆発の原因は恐らく内紛ね」
スミカはそう推理した。アリスも同意見だった。
先に裏切ったとはいえスポンサーに完全に切り捨てられ、本部を喪いながらも執念で完成させたファンタズマの使い道で揉めた、そんな所だろう。
その後もファンタズマの痕跡を追いかけるも、手がかりは見つからなかった。
『ガードに報告して引き上げよう。もうここには用がない』
デュラハンを反転させたアリスに頷き、コーラルスターも後に続く。
報告に顔面蒼白になったガードの隊員達を残して、輸送機に乗り込んだ。
普段なら調査だけで報酬を得られたことを喜ぶが、今の死神少女はシリアスだった。
ファンタズマが完成し、何処かへ姿を消したというのであれば早急に見つけ出して、破壊しなければならない。
人類の生存圏である地下都市をたやすく破壊できる攻撃力を持つファンタズマは、想像を絶する最終兵器だ。
もしもアイザック・シティが攻撃されれば、アリスを保護してくれたアルゼナ修道院も危ない。
(だが、どこに潜んでいる? どうやって見つけ出せばいい?)
デュラハンのコクピットで、クルシュカ院長にメールを打つアリスは、かつてないほど焦りを感じていた。
大型とはいえ相手はリグ一機だ。逃げ隠れする場所ならいくらでもある。
ガレージに戻ると、デュラハンを自動整備ステーションに固定して修理を行いつつ、アリスはまずナーヴでの情報収集から始めた。
「緊急の依頼だって? 今はそれどころじゃ――――」
レイヴンズ・ネストからの通知がポップアップしたので、鬱陶しそうに閉じようとするが、依頼主の名前にその手を止めた。
"ファンタズマ"、依頼主はそう名乗っていた。文面は極めてシンプルであり、実際には依頼でさえない。挑戦状、あるいは犯行予告であった。
曰く、俺はファンタズマと一つになった。
曰く、これからこの力で世界を焼き尽くす。
曰く、そのセレモニーに"面倒だが"貴様を招く。
レイヴン、アリス・ジャバウォックを指名しての招待だった。
「心配して損した気分だぜ。決闘なら気楽にやれるってもんだ」
死神少女の返答はYESだった。迷うことなく、受諾をタップした。