【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜 作:その辺の残骸
完全な闇、封鎖施設、
それは百年計画における最初期の失敗とも言われる広大な地下空間だ。
空虚なその場所で深紅のファンタズマ・リグは待っていた。たった独り。
エレオノーラが率いる機関の残党によってファンタズマの艤装が完了すると、スティンガーは手始めに究極兵器を造り上げた者たちに向けて解き放った。
彼らの悲鳴はファンタズマの
――――スティンガー、何故、愛していたのに。
プラズマで蒸発したエレオノーラの最期の言葉。
愛、くだらない。面倒な感情だ。それがスティンガーに残った僅かな人間性が抱いた想いだった。
ムラクモ・ミレニアムの研究施設を襲撃するミッションでしくじり、レイヴンとしての名誉と名声を失ったその時から、ピアース・ウォタンはスティンガーになった。
蝕み、殺し、奪う。誰にも脅かされることのない力を掴むために。
ついに手にしたファンタズマという玉座が悲願を叶えた。スティンガーは灰塵となった世界の王として、君臨するつもりだった。
そのためにアリス・ジャバウォックをアビスに招いた。
真の意味でファンタズマと一つになるためには、人間性の最後の一欠片を消し去らねばならない。最後の一欠片、それは恐怖という感情だった。
スティンガーが自らの意志が用意したと信じて止まないこの舞台は、仕組まれたものであった。
彼は決して王にはなれない。彼は最初から道化だったのだ。ファンタズマの完成は最初から予定されていたことだった。
レイヴンズ・ネストは秘密裏に情報工作を行い、二大企業とスミカ・ユーティライネンの追跡から守っていたのだ。
そもそも、ウェンズデイ機関の誕生と発展さえ、ネストが仕組んだこと。ネストの死刑執行人たるナインボールを強化するために蒔いた種に過ぎず、収穫は既に終えている。
スティンガーが完成したファンタズマを強奪するのは、予想されたシナリオの一つでしかなかった。
ファンタズマの破壊力は脅威ではあるが、ネストは大破壊以前の超兵器を保有しており、それらを解き放てば処理することができる。
ネストはこの戦闘をイレギュラーの一人であるアリス・ジャバウォックを抹殺する、またとない機会としか見ていない。中枢コンピューターが繰り返した戦闘シミュレーションでは、98.7%の確率で相討ちになるという好ましい結果が出ていた。
黒青色の二脚ACが闇のなかを滑空していく。
アリス・ジャバウォックが駆るデュラハンだ。死神少女は単機でスティンガーに、ファンタズマの完成体に挑む。
ファンタズマの手強さはプロトタイプとの交戦で理解している。重装甲を貫通できるノルト・ハイランドのミッションで使ったレールガンを持っていきたいところだったが、不調を起こしていた。
デュラハンはアンプルールに勝利した報酬として提供された最新のマシンガン"WA-Finger"を装備している。
手甲のように右手を覆う独特な形状のマシンガンだ。その名の通り、五つの短砲身が指のように連なっている。
「世界の命運がかかってるかもしれないんだ。しっかり働いてくれよ」
三千発装填された徹甲弾は接近戦で圧倒的な威力を発揮するという触れ込み。
確かにカタログスペックでは重MTの装甲をも穿つことができる。実弾であるため、防御スクリーンに対する威力もエネルギー兵器より期待が持てる。
不意にアリスは、出撃前に交わしたスミカとの会話を思い出した。
「私も一緒に行きます」
スミカは命を捨ててでもスティンガーを止める覚悟だった。
「駄目、スミカは残れ」
「足手纏いにはならないわ!」
死神少女は、スミカの言葉を頭を振って否定した。
「足手纏いなんて思ってないさ。もしオレが戻らなかった時は、誰かがネストのレイヴン連中に呼び掛けなきゃならん。それができるのはスミカだけだろ?」
スミカからの反論はなかった。沈黙だけが残る。アリスは万全に整備されたデュラハンに向かっていく――――
少女を現実に引き戻したのは、コクピットに鳴り響くロックオンアラートだった。
「やっとお出迎えか!」
垂直ミサイルの弾幕が迫っている。
デュラハンのメインシステムは既に戦闘モードだ。
アリスはコンソールパネルのスイッチを入れ、ミサイルジャマーパルスを放射する。最大出力のパルスを浴びて、シーカーが麻痺したミサイルを避けるのは簡単だった。
これは第一波でしかないと読んでいた。実際、その通りだったのだが、飛んできた代物は予想外の大物であった。
「
暗闇に突如として太陽が生まれたかのような閃光と爆発が襲い掛かってきた。
ブーストを全開にして第二波の大型ミサイルから距離を取る。だが、ミサイルの数が多い。爆風に煽られ、機体表面温度が急上昇する。
クリーン。放射線を出さない核として大破壊以前に実用化された大量破壊兵器の一種だ。その原理から、当初は起爆に複雑なプロセスを要した上に、弾頭は著しく大型化していた。
当初は弾道ミサイルに搭載できず、核地雷として運用する他なかったほどだ。
改良が重ねられ、現在ではAC用大型ミサイルにも用いられている。起爆プロセスも通常弾と変わらないほど高速化されている。欠点は高価なことくらいだ。
第三波はなかった。
アビスの底、闇のなかに深紅のリグが佇んでいる。極めて高出力の防御スクリーンが起こす発光現象のために、ファンタズマの姿は暗闇のなかではっきりと視えた。
ジェネレータからの熱源反応はプロト・ファンタズマと比べても高い。おおよそ三倍の出力を発揮している。
『
スピーカーから響くスティンガーの声は、感情的な物言いでありながら、録音を再生したかのように無機質だった。
相対するデュラハンが一歩進み出る。
「お招きいただき光栄だ。ドレスコード違反で摘まみ出されないよう、気合入れてめかし込んできたぜ」
今宵、スティンガーが言うところのセレモニーに臨むに際して、アリスは漆黒のドレスを選んだ。闇よりも深く、静謐な死を想わせる黒が白い少女の肢体を覆っている。
広大な空間に遮蔽になる物は何一つない。火力を一方的にぶつけられる環境であるため、破滅的な武装を内蔵したファンタズマは絶対的と言えるほど優位に立っている。
プラズマキャノンが火を噴く。連射される紫色の巨大な光の塊は、竜の息吹を連想させる。連想に思考を避けるほどには余裕があった。
「さっきのは歓迎の花火か? うっかり消し飛びそうになったぜ。まさか、そんな御大層な物に乗りながら不意打ちでドカーンとやって勝つ気だったわけじゃあるまい?」
サテライト機動でファンタズマを翻弄しながら、スティンガーを挑発した。主砲のプラズマキャノンは固定式なので、いくら高出力で連射が効いても射線から逸れれば安泰だ。
通信で呼びかけたが、スティンガーの返事は垂直ミサイルの連射、二発の大型ミサイルが紛れている。
デュラハンはコアの迎撃機銃と右手から放った銃火を撃ち込む――Fingerで弾幕を張り、ミサイルを撃墜しつつサイドステップ。
いけると踏んだが、自発的に起爆するように設定されていた大型ミサイルが、マシンガンの銃弾を受ける前に核融合爆発を起こした。
「ぬおっ!?」
アリスはドレス姿ではしたなく踏ん張りながら、ブースト噴射と姿勢制御で爆風を乗り切る。空中で回転したが、どうにか着地。アクチュエータがスタンしない程度に衝撃を抑えていた。
「なるようになるしかないか!」
デュラハンはブーストダッシュしながら右肩にキャノンを担いだ。
今のところ、スティンガーの"死"は視えてこない。
アリスは純粋な技量を頼りにグレネードランチャーを叩き込む。直撃するが、ファンタズマの深紅の装甲は殆ど無傷。
「マジ?」
思わず声が出てしまうアリス。
直後に被弾。速射レーザーが黒青色の装甲を叩き、数発がグレネードランチャーの基部に着弾して火花が散った。射点はファンタズマではなく、闇に紛れて接近してきた浮遊砲台エスコート・リグだ。
コンデンサに蓄えたエネルギーが続く限り、レーザーを撃ってくるエスコート・リグに向けて、短くトリガーを絞ってFingerを発砲。全機撃墜。
背中のキャノンは損傷で使い物にならない。弾を使い果たした左背部のミサイルと一緒にパージ。火力と引き換えに身軽になったデュラハンが一気に距離を詰める。
「まだまだ勝負はこれからだぜ!」
傷つきながらも、意気揚々と宣言してみせる黒髪の少女。
ファンタズマを前にしても変わらず、死闘を楽しむ陽気さがスティンガーを苛立たせた。
『五月蠅い。消え失せろ。死ね』
スティンガーの返事はシンプルだった。急制動をかけ、ジェネレーターの出力を高め、ファンタズマは憤怒と憎悪を炸裂させた。
「ちぃっ! またもやトンデモ武器だな!」
七色の光がファンタズマの全身から放たれる。
それは超高出力のレーザーであり、派手な見た目はコケ脅しではない。食らえば防御スクリーンを全開にした戦闘中のACであってもタダでは済まない。
ファンタズマは七色の死の閃光を放ち続ける。
広い空間を埋め尽くすレーザーの嵐は、身軽になっていなければ避け切れなかった。今でさえ、それでも辛うじて直撃を避けられているだけだ。
「視えてきた! もうちょいだ、気張れよデュラハン!」
掠り傷で装甲を融解させながらも、黒青色の人型兵器を駆り立てる。
死へと誘う幻想的な光の嵐。
致命の状況にあって、アリスは母親の胎の中にいるような安らぎを抱いていた。
それは、極限まで研ぎ澄まされた感覚がもたらす物だった。ここは奈落の底。冥府こそがアリス・ジャバウォックの生まれた場所なのだ。
一分近く続いた全方位レーザーの照射が止まる。比喩抜きで一軍を壊滅させるだけの攻撃を生き延び、深紅の一つ眼を輝かせながら肉薄するデュラハン。
スティンガーに沸き起こった激しい恐怖の感情は、プラズマキャノンの放射となって、一心不乱に迫る黒青色の死神を振り払おうとした。
しかし、デュラハンが左腕を振るって"射出"したレーザーブレードの月光色の刃がプラズマを相殺してみせた。
飛ぶ斬撃、ブレード光波。最高レベルの強化人間のうち、さらに限られた者だけが使うことができる、レーザーブレードを射撃武器として扱う戦闘技術。
アリスはブレード光波を切り札として隠し持ち、ファンタズマとの決戦でついに繰り出したのだ。
さらに、スティンガーにとって信じられないことが起こった。デュラハンは突進しながらブレード光波を連射する。
蒼く眩い光波は次々にファンタズマに着弾し、炸裂した。エネルギー防御に優れたファンタズマの防御スクリーンと堅牢な装甲であっても、MOONLIGHTの光波には耐えきれない。
「殺った!」
それは絶対の予言だった。既にアリスにはスティンガーの終わりがはっきりと視えている。
最後の力を振り絞ってブーストジャンプしたデュラハンが、ブレード光波の衝撃で動きが鈍ったファンタズマにトップアタックを仕掛ける。
五指の砲口から轟いた銃火が、驚異的な威力で深紅のファンタズマの上面装甲を叩き、穿った。
スティンガーがデュラハンを振り落とすよりも早く、供給ラインを撃ち抜いた徹甲弾によって、ファンタズマの小太陽めいた動力炉から溢れたエネルギーが、機体そのものを焼き尽くした。
part0・完
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