【完結】フロム・ヘル//ファンタズマ〜黒髪凶暴系美少女なACPP主が無双するアフター的なやつ〜   作:その辺の残骸

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出会い-Encounter-:後編

 レイヴン。

 人型機動兵器アーマード・コアを駆る傭兵。巨大な経済力を有する企業が支配する地下世界において、例外的な存在。孤高の戦士、不吉の象徴。技術祈祷師(テク・シャーマン)の一派によれば、混沌と勝利の先触れたるヤタガラス。

 

 抜きん出た単機戦闘力からマッスル・トレーサー(MT)や戦闘機などを操る同業とは一線を画する傭兵であったレイヴン達にとっても、二大企業の崩壊に伴う経済的混乱は無関係ではなかった。

 

 同時期に依頼を斡旋していたレイヴンズ・ネストがオフラインになったのだ。

 ナーヴ・ネットワークを介した支援機構を喪ったレイヴンは、苦境に喘ぐことに。依頼人探しから、パーツ調達、作戦領域への輸送手段まですべてを自力で賄わなければならなくなったのだ。

 

 とはいえアリス・ジャバウォックのような高名なランカーレイヴンが落ちぶれることはなかった。だが、仕事や依頼人の質は明らかに下がっていた。高価なパーツに高度なカスタマイズを施した乗機の維持費をどうにか支払える依頼ばかりだ。

 

 そんな中で、今回は久々の大口依頼だった。依頼人は新興企業のライドックス。崩壊からすぐに興った旧ムラクモ系の会社である。

 

「元同胞を始末するってワケね」

 

 直接面会した際、アリスはライドックスのエージェントに皮肉を込めて言った。

 "表向きは"まっとうな企業として再興したいライドックスやその他の旧ムラクモ系企業にとって、武力によるムラクモ・ミレニアム復活を掲げる同胞は邪魔者でしかないそうだ。 

 

 標的はムラクモのなかでも特に狂信的で過激な一派。アヴァロン・バレー付近の軍事拠点を復旧して利用しており、その破壊がミッションとなる。

 

(スミカならきっとそうするだろうしな)

 

 アリスとしても引き受ける強い理由があった。

 この一派はアヴァロン・バレーを占拠して勢力拡大を目論んでいる。そのための戦力として、旧ムラクモが開発していた幾つかの禁忌的な兵器を手にした可能性があるのだという。

 ウェンズデイ・スキャンダルとして知られる事件の直接関係者として、あの狂気が蘇るのは防ぎたかった。

 

 これが、死神少女が愛機デュラハンで出撃した顛末である。

 

***

 

 こうして、アリス・ジャバウォックはウルスラ・ノイと出会った。

 

「よし、片付いた」

 

 最後の一人を撃ち斃し、通路が静かになる。

 

「アリス。アリス・ジャバウォックだ」

 

 まず黒いドレスの少女はウルスラに名乗った。本名ではないだろう。

 

「こんな格好じゃ信じて貰えないかもしれんが傭兵(レイヴン)やってる。ここをぶっ潰しに来た。それで、ムラクモの人間がどうして捕まってんだ?」

 

「ウルスラ・ノイよ――色々あってね……てっどうして私がムラクモの社員だって判ったの?」

 

 予想もしてないところから救い主が現れた安心感で口を滑らせてしまった。カマをかけられたのだ。

 

「なんとなく、そんな気がしたから訊いただけだ。まっ当たりだったが」

 

 悪戯っぽく笑いながらアリスはパワードスーツの亡骸に近寄った。 

 

 残弾が心許ないリボルバーに替わる武器を拾い上げる。

 パワードスーツが手にしていたアサルトライフルだ。ムラクモらしいハイテクかつスマートなライン。熱蓄積による暴発など技術的問題をクリアしたケースレス弾を採用しており、装弾数が多い。

 

 問題は電子制御されており、登録者以外が発砲できないようになっていることだ。

 動きやすいようドレスに鋏を入れ、露わにしている白い太股に巻いたポーチから携帯端末を取り出して、銃のセキュリティロックをハッキングしようとする。

 

「前はこれで解除できたんだけどなぁ」

「それ、私にやらせてくれる?」

 

 ウルスラはセキュリティに苦戦し、端末をタップするアリスに声をかけた。

 信用を得るのにうってつけの場面がやってきた。

 

「頼む」

 

 アサルトライフルはアリスが持ち、ケーブルで繋がった端末を渡される。一応武器は握って、奪い取られないようにしているようだが、少女の視線はウルスラの手元に集中している。

 

 お手並み拝見ということだ。ウルスラは深呼吸して作業にかかった。

 幸い、インストールされているハッキングツールは使い慣れた代物。久々に自分の意思でコントロールできる出来事に出くわした気がする。

 十秒とかからず、ロックは解除された。これで、誰でも引き金が引ける。

 

「いやぁ、助かった。あんたは頼りになりそうだ」

「助けられるばかりじゃ格好悪いもの。対価は提供できるつもりよ」

 

 毅然と、誇らしく。アリス・ジャバウォックを名乗る黒髪の少女にまっすぐ向き合うウルスラであった。対テロ部隊のオペレータとして華やかに活躍してきた頃の才気が蘇ってくるような感覚があった。

 

***

 

「前言撤回! あんたのお守りは大変だぜ畜生!」

 

「ひぃぃぃ~~! ごめんアリス、ドレスは後で弁償させて!」

 

 捕虜収容区画を出て、格納庫に向かっていたのだが、その間も何度か銃撃戦が起こった。

 相手は生身の兵士であったり対人セキュリティメカであったりしたが、オペレーターとして後方支援することはあっても撃ち合いの経験はないウルスラが毎回ビビって妙な行動をしていた。

 

 見た目は理知的で隙のない美人という風な金髪メガネを守り、時には足元に転がってきた手榴弾を起爆寸前で蹴り返す。そんな真似をしているうちにアリスの黒いドレスはボロボロになってしまった。

 

「まったく。気を付けてくれよな」

「りょっ、了解。肝に銘じます……」

 

 少女の体のほうは無傷である。しかし、原因が自分のどんくささなこともあって、ウルスラは申し訳ない思いであった。

 

 とにかく、お互い怪我はなく目的地の手前までたどり着いた。

 格納庫から通路に砲声が轟いている。巨大な物体が倒れ込む音や爆発音もする。破壊活動の真っ最中だ。

 

「あれがアリスのAC?」

「デュラハンだ。今は自律モードで陽動してもらってる」

 

 親友を紹介するかのように、アリスは乗機の名を呼んだ。

 

 デュラハンは直線的な装甲を持つ黒青色の人型、標準的な中量二脚ACだった。

 中心となるコアはXCA-00。HD-01-SRVTのアイカメラは深紅に輝いている。全身の武装は一級品で固められており、アリスのレイヴンとしての実力が垣間見えた。

 

 背中のチェインガンを構え、格納庫に並んでいるムラクモ独自規格のACや戦闘MTをズタズタに破壊していた。

 

 この規模な基地なら格納庫は複数ある。全戦力ではないだろうが、興り立てのテロ組織にとっては痛手になる損害のはずだ。

 

 陽動。ACを駆って任務を遂行するレイヴンでありながら、アリスは生身で基地に侵入していた。

 

(なら、もう仕掛けは済んでるってことね)

 

 ウルスラはそう推測した。その隣で黒髪の少女は、すっかり焼け焦げてしまった自分の衣装を見下ろしていた。

 ぼろぼろになったドレスの感触は落ち着かないし、邪魔臭い。

 

「勿体ないけど、捨てていくか」

 

 神妙な表情で決断する。アリスは焼け焦げたドレスに手をかけた。

 

「こんなところで脱いじゃダメよ! はしたない!」

 

 顔を赤くして窘めるウルスラの制止も聞かず、アリスは服を破る。ドレスが裂けて、その残骸が床に落ちる。

 

「心配すんな。見せてもいいのを着てある」

 

 そっけない口調でアリスは言っていた。ドレスの下には真っ白なレオタードを装着していた。ブーツやグローブと一揃いの戦闘装備の一種のようだった。

 

 防御力に優れた特殊繊維が使われているが、かなりマニアックな装備。身体にフィットするタイプのコンバットスーツは様々なメーカーが販売しているが、アリスが着ている物はデザインに製作者の個人的な拘りが窺える。それも、徹底的な拘りが。

 無垢な局部からの逆三角形はかなりの急角度。動きやすいだろうが、身に着ける者に覚悟を求める。

 そんな姿を晒しても、アリスは自然体だ。この戦闘スーツを身に着ける資格があると言える。

 

「すっすごい……!」

 

 可愛らしさと煽情さが調和した白レオタードの黒髪少女に、ウルスラは思わず感動して呟いてしまう。

 

「お褒めに預かり光栄ですわ」

 

 たおやかに一礼してみせるアリスは、まるで人格が変わったかのようなお嬢様口調。褒められて嬉しかったので、サービスしているのだ。二重人格レベルの変貌を目の当たりにしてウルスラは、狼狽えてしまった。

 

「デュラハンが待っています。参りましょう、ウルスラお姉様」

「はっはい!」

 

 笑顔と共に優雅に差し出された手を取り、ウルスラは返事する。

 自分はとんでもない娘に出会ったのだと、今、この場で改めて実感する。

 

***

 

「シートに体をしっかり固定しとけ。でないと命の保証はできないぜ」

 

 コクピットに入るとアリスは素の口調に戻った。サービスタイムは終了ということだ。

 

 デュラハンなるACのコクピット、その後ろにある僅かな空きスペースにウルスラは身を押し込んだ。

 簡易的な予備シートに豊満なヒップを押し付けるように座っている。探り当てたシートベルトを引き摺りだして体を固定。

 さらに、研修で習った対G姿勢を想い出して取る。外れかかったメガネもかけ直す。

 

「空になった予備弾倉(オカモチ)は捨ててっと。チェインガンの残弾数(ブレット・レベル)は黄色だからまだ使える――」

 

 ウルスラが支度する間に、アリスはデュラハンのコンソールを弾き、戦闘態勢を整え直した。

 弾の消費にやや無駄が見られるが、損傷は軽微。

 サブアームを使って中身のマガジンを取り出した後の予備弾倉をパージ。

 

「新手か。アイハブコントロール」

 

 機体のコンディションに隅から隅で目を通した直後に警告。敵襲。

 閉じていた隔壁が開き、格納庫に敵機が進入してきた。二機のAC。手持ち式のレーザーキャノンを構え、ブーストダッシュで突っ込んでくる。

 

「不知火!? 軍用機じゃない!――おわぁっ!」

「口を閉じてたほうがいい。舌を噛むぞ」

 

 フットペダルを踏み込む。ブーストダッシュ。瞬間的に加速してデュラハンが翔ぶ。

 格納庫の天井は高い。AC同士が機動戦をやるに十分だ。

 

 閃光が奔る――二機の不知火タイプ、ムラクモ製の主力アーマード・コアがレーザーキャノンを連射しながら散開。十字砲火に対して、アリスはデュラハンを空中で躍らせて躱す。

 

「転がってるスクラップどもよりは歯ごたえがありそうだ」

 

 アーマード・コアという戦闘兵器が強力さの割に普及していない最大の理由である、三次元戦闘機動に伴う凶悪な慣性荷重にウルスラは苦しめられた。アリスはまるでそんなモノが存在しないかのように静かな口調で呟いている。

 

 格納庫に置かれていたのは主に有明――交戦中の二機と同じくムラクモ規格のスタンダードなACだ。性能は悪くないが、所詮軽装のACでしかない。

 それに対して、不知火は純粋な正面戦闘モデル。アリスが駆るネスト規格のACに比べパーツ互換性は乏しいが、基本性能は優秀そのものだ。

 

「二機相手にして勝てるの!?」

「余裕」

 

 ひゃあひゃあと喧しい同乗者がこれ以上煩くならないよう、アリスは素早く片付けることに決めた。

 もう"視えて"いる。

 片方が射撃で抑え込み、もう一機が接近戦を仕掛けて手にした実体型ブレード(カタナ)で致命傷を与える基本的な連携戦術だ。

 

 高く舞い上がってから滑空に移ったデュラハンがレーザーライフルを構える。

 右手に把持するのはWG-1-KARASAWA――名銃と名高い高出力レーザーライフル。

 デュラハンは獲物に向かって獰猛に急降下、KAWASAWAを二連射した。

 

 援護射撃側の不知火の頭とコアにきっちり撃ち込んで撃破。

 相手の射撃は僅かな位置ズラしで躱している。エネルギーロスを極限まで抑えると同時に、もう一機に対処できるようにしていた。

 カタナを手に突撃していた不知火が対応するよりもアリスのほうが速い。大推力ブースタで加速をかけ、デュラハンは山猫の俊敏さで敵の側面に回り込んだ。

 

「せいっ!」

 

 左腕から発振したレーザーブレードの一閃にて敵機を両断。

 防御スクリーンと併せた堅牢な装甲も最強の出力を持つ月光の光刃には耐えられない。空しく二つに分かれて転がる不知火の機体。ジェネレーターがある上半身が爆散する。

 

「もうやっつけたの?」

 

 思わず口にするウルスラ。耐えるのに精いっぱいで垣間見る程度しか戦闘の様子は確かめられなかった。

 普通、AC同士の戦闘とは休むことなく動きながら互いの装甲の削り合うものだ。しかも相手は二機。この不利な状況で無傷の勝利を収めている。アリスという少女は途轍もない凄腕だ。

 

***

 

 格納庫を出たデュラハンは外を目指して通路を疾走。KARASAWAから放った荷電粒子の塊で隔壁を破壊して道を拓いた。

 

 昇ったばかりの太陽が黒青色のACを照らす。ウルスラが連れてこられた時と同じく、生命の感じられない荒野が広がっている。それは典型的な荒廃した地上の景色だった。

 

「どこかの企業が攻撃しているの?」

 

 デュラハンのコクピットから、ウルスラは基地に降り注ぐ多数のミサイルを見た。

 

「いや、違う。オレのリグに援護させてるんだ」

「あら、ずいぶん羽振りがいいのね」

「たまたまさ。クロームが潰れたときのゴタゴタに乗じてパチったんだ」

 

 アリスはAC以外にも立派な資産を持っているようだ。

 降り注ぐミサイルは基地を破壊し尽くすには足りないが、場を混乱させるには十分だった。

 

 ACの特徴である時速数百kmにもなる高速のブースト・ダッシュで基地から離れた。

 追撃がないこともあって、ウルスラは安堵の息をついた。だが、それも束の間。ムラクモ残党は新たな追手を繰り出してきた。それも大物だ。

 

「あんなモノまで持っているっていうの!?」

 

 後部カメラからの映像を映したサブウィンドウに表示された機影に、改めてユウコは本気なのだとウラスラは思い知った。

 単なるテロリストや武装勢力の範疇を超えていた代物が空をわが物顔で飛び、こちらに向かっている。

 

 その兵器の白いボディは雲の塊を彷彿とさせた。しかし、そんな生易しいものではなく、重装甲と艦艇クラスの武装が施されている。

 これほど化け物染みた兵器があれば、付近にあるアヴァロン・バレーを制圧することも難しくないだろう。

 

「あのデカブツについて、何か知らないか?」

「私は普通の社員より多くの情報にアクセスできる立場だったんだけど、全部は把握できてなくて……その、ゴメン」

 

 ムラクモ残党が差し向けてきたのは巨大な四基の推進器で飛行する大型兵器だ。これがゲームなら楽しいボス戦だが、今起こっているのは現実。リアルでシリアスな問題だ。

 ウルスラはアリスの助けになればと記憶を掘り起こしたが、これまで目を通した資料にない兵器だった。  

 

「ACをコアにして汎用性を確保した重武装ユニットみたいね。けど、あのスケールだとAC自体の処理能力では扱いきれないはず。強化人間(プラス)専用機じゃないかしら」

「なるほど。手強そうだ」

 

 見て分かるくらいのことしか言えなくて、申し訳ない気分のウルスラであった。

 機首に当たる部分にはムラクモ規格のACが接続されている。その機体が巨大兵器を制御するコアになっているようだ。

 

『ウルスラ』

「ユウコ!?」

 

 オープンチャンネルで呼びかけてきたユウコの声は突然だったもので、ウルスラは飛び上がりそうになった。

 多分、指揮を執っているのだろう。本当、偉くなったなぁ。

 

『やっぱりそこにいたのね。見て、ムラクモが進めていたプロジェクトの一つよ。優れたテクノロジーが見た目にも現れていて美しいでしょう? 時代遅れのACとは比べ物にならないわ。すぐに消し炭にしてあげる』

 

 ユウコは陶然としながら語っている。狂信的な語り口にウルスラは言葉を失い、アリスは愛機を嘲笑され、むっとする。

 

「あのー私も乗ってるんだけど」

『今すぐそのレイヴンを取り押さえて引き渡してくれたら、貴女ごとACを破壊せずに済むわ』

 

 アリスが通信に応答できるようにしてくれた。ユウコは本気みたいだが、とても無理だ。

 

「この娘、物凄く力が強いのよ。捻り潰されてミンチよミンチ」

 

 パワードスーツを素手で壊すような怪力の少女に襲い掛かって勝てるわけがない。

 それにアリスは訳の分からない狂信者集団になり果てた元同期から助けてくれたのだ。裏切るなんてできない。

 

『残念ね。貴女のかつての貢献を讃えて、盛大に弔わせてもらうわ――――攻撃を開始しなさい!』

「そんなものこっちから願い下げだわ! 大ムラクモ世界だか何だか知らないけど、あなた達の拗らせに巻き込まれたくないわ!」

 

 一方的に通信が切れる。感情を爆発させた反動で頭が冷えたウルスラは眉間を抑え、ため息をつく。

 

「一蓮托生みたいだな」

 

 なぜか嬉しそうなアリス。意外と孤独で仲間を求めているのだろうか?

 

「みたいね。こういうときは退くのを最優先すべきだろうけど、できっこないわよね」

「逃げてる間に背中から撃たれちまうよ」

 

 ウルスラはもう覚悟を決めていた。その決意はアリスにも伝わった。

 

「墜とすまでくたばるなよ、ここまできて死ぬなんざもったいないぜ」

「わかってる。それじゃ私の命、預けたわよ」

 

 黒青色のACは急反転。巨大兵器は主砲であるプラズマキャノンを連射。

 プラズマの爆風に煽られながら、デュラハンは高らかに跳躍と降下を繰り返す。省エネ機動で敵機との距離を詰めていた。

 

 相手が低空飛行しているとはいえ、高度差はかなりある。いくら三次元戦闘が可能なACでも上昇には大きなエネルギーが必要だ。得意の接近戦は望めない。

 

コイツ(KARASAWA)を選んできて正解だった!」

 

 アリスが吼える。コンデンサのエネルギーをKARASAWAのキャパシタに溜め込み、通常よりも威力の高いチャージ・ショットを放つ。数発分のエネルギーを収束した蒼い閃光が瞬き、すぐさま着弾。装甲表面でエネルギー塊が炸裂する。

 

 砲身寿命を大きく削る仕様外の攻撃でも、並外れた分厚い装甲の大型兵器を大きく損傷させるには至らない。

 被弾した推進ユニットをかばうように巨体を傾けながら、大型兵器が反撃してきた。

 報復のミサイルが一気に迫ってくる。ざっと見積もって六十発以上。コア迎撃機銃ではとても足りない数の誘導弾だ。

 

「なら撃ち落とすっ!」

 

 このとき、ウルスラはアリスが瞬間的に複雑な操作をしたのが分かった。後ろから覗いてみたが、操縦系には見たこともないような改造が施されていた。

 

 背中のチェインガンが展開される。デュラハンは戦闘機動を続けながらそれを発砲した。

 強力な反動がある背部兵装を移動しながら発射できるのは、本来、四脚かタンクタイプの脚部を採用したACのみのはず。

 

 だというのに中量二脚であるデュラハンは機動と砲撃を同時に行っている。普通、高度なサイバネ手術を受けた強化人間の直結制御で成り立つ芸当だ。

 アリスはそれを複雑怪奇に増設された操縦系でやってのけている。

 

「あなたって何でもありなのね」

 

 ウルスラは呆れるばかりだった。返事はない。アリスは戦闘に夢中のようだ。好戦的な笑みを浮かべ、全身で愛機を操っている。

 

「そらそら、どうしたどうした!?」

 

 チェインガンでミサイルを撃ち落とし、KARASAWAのチャージショットで執拗にブースターを狙う。闘牛士のように相手を翻弄しながら確実に有効打を与えていく。

 

 一度型に嵌めてしまえば、脅威ではなかった。頭上を飛び続ける巨大な鉄塊と交差を繰り返しながらKARASAWAを発砲。

 最後の一発まで撃ちつくし、ついに大型兵器を飛翔させていたブースターユニット四基を完全破壊した。

 推力を失い、黒煙を吹きながら墜落していく巨体。それでもせめて一太刀とばかりに向きを変え、デュラハンのほうへ墜ちてくる。

 

「まだ隠し玉があるんでしょ」

「おうとも。見てな」

 

 死なば諸共でデュラハンめがけて墜落してくる敵機。ウルスラはもはや慌てず騒がず、アリスにすべてを委ねている。

 

「卸し立てのドレスに貴重なKARASAWAもお釈迦。割に合わない仕事だったナ」

 

 ボヤきながらも、アリスは黒青色の愛機の左腕を振った。死神の精度で"射出"された光の刃。レーザーブレードの光波が制御ユニットを切り裂き、機体自体が爆散する。

 

「さて、向こうも火が点く頃だ」

 

 アリスが悪童めいた笑顔で言う。損失の埋め合わせとして、せめて特大の花火を楽しませてもらう。

 

 侵入した際、基地に電力を供給するジェネレーターに細工をしておいたのだ。突発的な過電流が起こり、それはすぐさま連鎖的な爆発になる。

 

 ムラクモの技術の輝かしい結晶が、たったAC一機に破壊されたショックで茫然とするユウコがいる発令所も含め、基地は核に匹敵する爆発に飲み込まれた。

 

 こうして、ムラクモ・ミレニアムの残党は全滅した。それは依頼者からすれば、望外の大戦果であった。

 

 爆風で転倒しないよう踏ん張って耐え抜いたデュラハンは、爆発で昇ったキノコ雲を見上げている。

 爆発を観測したアヴァロン・バレーは今頃大騒ぎだろうが、事情説明は依頼人にやってもらうことにしよう。

 

「ゴメンな。ウルスラの同僚をたくさん殺しちゃってさ」

 

 今更も今更だが、アリスは後ろにいる同乗者に謝っておいた。

 

「もう赤の他人よ」

「そっか」

 

 ムラクモ・ミレニアムへの帰属意識は大してものではなかった。それに自分は存外ドライな性格でもあるとウルスラはこのとき気付いた。

 かつての同僚や仲の良かった同期が纏めて殺されたわけだが、悲しいという気持ちは湧いてこない。今はただ、危機が去ったことに安心している。

 

***

 

 ナイトメアなるリグは死神のような少女に相応しい黒い船体を備えていた。

 

 フロート推進式の陸上母艦、レイヴンの移動拠点として最高クラスの代物だ。整った居住空間まである。

 

「それで、ウルスラはこれからどうする? お望みのところに連れて行ってやるぜ」

 

 作り置きしていたサンドイッチを冷蔵庫から取り出し、自ずから紅茶を淹れると、アリスは訊いてきた。ウルスラは既に進路を決めてあった。どこにも行くつもりはない。

 

「その必要はないわ。これも何かの縁よ。貴女と組ませて」

 

 アリス・ジャバウォックという止まり木にしばらく世話になろう。

 レイヴンならばオペレーターは必要だろう。後方支援という役割であれば今日のように助けられてばかりではなく、この少女を助けられる。ウルスラには確たる自信があった。

 

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