呪術廻戦ーカースド・ガールズー   作:笛とホラ吹き

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11:新たな仲間

「まったく、わたしがどうにかできたから良かったものの……浮かれ過ぎだよ」

「ごめんなさい……」

 

 又旅の祓除を終えて、彩花は気絶させた環那を回収し湊家まで帰還していた。吹き飛ばされた暁が戻って来るまでは時間が掛かりそうなので、その間に目を醒ました環那への説教も済ませておく。

 彩花が居たからすぐにどうにかなったが、もしもあのまま暁と戦わせていたらどうなったか。暁は自衛のために全力を出すだろうし、海辺での戦いとなるなら『親水呪法』もフル活用されるだろう。大気中の水分だけであれ程の攻撃……海水という大量の水分を使う事での二次被害は想像に難くない。

 

「強い力が解放される快感は分かるよ。わたしも新しい式神を調伏したり、新しい呪具を作った時には同じような感覚になるからね。それでも環那は今回暴走し過ぎ!新しい力の試運転ってのは周りの安全を十分確保した上でやるんだよ!決して流れで衝動的にやるような事じゃありません!」

「その通りでございます……」

「二度とこんな事はしないこと!又旅よりも被害を出すかもしれなかったんだから反省しなさい!」

「はい……」

 

 先程までの暴走はどこへやら、しおらしく怒りの言葉を受け入れる環那。反論する事もできず小さく縮こまるしかなくなっていた。

 彩花は一通り怒り終えてようやく落ち着き、セツの出したお茶を一気飲みして大きく息を吐く。これ以上はただの嫌味にしかならないので、切り上げて今後の活動についてに話を移した。

 

 今までの環那は、家の関係で知識こそあるもののそれを確認する事はできない一般人だった。それが空断を手にした事で脳が変質、術式に覚醒し晴れて呪術師の仲間入りである。

 人口の少ないこの西表島で、又旅も消えた今貴重な術師を何人も居座らせる意味は薄い。本島で活動する彩花としては、島での活動はこれまで通り他の一族の者に任せて、本島で共に活動して貰いたいところであった。特級呪霊を苦もなく手玉に取れる程の実力者、遊ばせておくには勿体無い。

 

「特に異論が無いのなら、環那はわたし達と一緒に本島で暮らして貰うよ。これまで抑圧されてきた分沢山働かせてあげるから、思う存分呪霊や呪詛師相手に暴れると良いよ」

「その話はしないでぇ……」

「あ、お姉ちゃんおかえりー」

「未来ちゃん!」

 

 環那の引越しが決まりかけたその時、出掛けていた双子の妹『湊未来』が帰ってきた。こちらも以前までの環那と同じ非術師である。

 事情を知らないだろう未来に、環那は今日の出来事を話して説明しようとする。しかしそれよりも先に向こうの方から、環那は衝撃的な事実を伝えられる事となる。

 

「見て見て、私も呪術が使えるようになったの!これでもうお父さん達にばかり戦わせずに済むよ!」

「み……未来ちゃん……!?」

 

 未来は何も無い所から呪力を変換し、小さな水の球を作り出す。環那のそれとは毛色が違うが名前は同じ──『親水呪法』に目醒めていた。一卵性双生児故の共鳴現象だろうか。

 彩花は大層驚いたが、それよりも関心を引いたのは二人から感じる呪力量であった。

 

 

 ──わたしより、総量が多い……!?

 

 

 一卵性双生児というのは、呪術的には同一のものとして扱われる。能力は分割されるし片方が鍛錬を怠れば、もう片方がどれだけ頑張っていても意味が無いなどデメリットが多い。互いに同じ方を向いて同じ速さで歩かなければ、必ず互いの足を引っ張ってしまう厄介な関係。

 昔は畜生腹と忌み嫌われていたそうだが、呪術界ではまた別の意味で嫌われている。それでも分割された上で尚も感じる高い呪力出力……彩花はこれを逃してはならないと未来に詰め寄った。

 

「未来ちゃんまで……」

「まだまだ呪術師としてはヒヨっ子だけどさ、しっかり頑張って強くなって、お姉ちゃんもみんなも私が守れるようになるから……!」

「君も確保!一緒に来て貰うからね!」

「え、何……何の話……?」

 

 非術師として、家族が又旅の封印とそれに惹かれる呪霊の対処に掛かり切りになっている事を歯痒く思っていた未来。それがようやく呪力と更に術式にまで目醒めて、これで家族の役に立てると喜んだ矢先に彩花からの強制である。頭がこんがらがって?マークを浮かべているのを、姉である環那はしっかりと見ていた。

 今日の事を知らない未来は、それはもう困惑して説明を頭に入れさせるのは大変であった。懇切丁寧に説明と説得を繰り返して本人を納得させ、本島の呪術事情から両親を納得させ、任務前に受けた侮辱を引き合いに出してセツを黙らせ、彩花は環那と未来の獲得に成功する。

 

 現時点で既に一級と比べても見劣りしない実力を持つ環那に、双子であるが故に同等のポテンシャルを期待できる未来。非術師であったために学んでこなかった事柄はこれから教えるとして、それらを覚えてちゃんと術師になった二人は必ずや沖縄の呪術被害減少に貢献してくれるだろう。明るい未来を想像しニマニマと笑みを浮かべる彩花であった。

 もうこの島に留まる意味も無い。総作に連絡して迎えの船と二人分の部屋を用意して貰い、待機していた船がすぐに来ると聞いた彩花は環那達に荷造りを急がせ那覇に帰る用意をする。帰る頃には日付も変わっているだろうが、良い事があった後だからきっとぐっすり眠れるだろう。

 

「じゅ、準備終わったよ!」

「それじゃあお父さん、お母さん、おばあちゃん!急なお別れになっちゃうけど……本島でも頑張ってくるからね!お盆とかには帰省するから!」

「……息災でな」

「よーし、何か忘れてる気がするけど帰ろー!」

 

 こうして西表島の戦いは終わった。何かを忘れているような気はするが、忘れたという事は大した事ではないだろう。

 

「あれ?そういえば暁ちゃんは?」

「あっ」

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□

 

 

「改めて自己紹介しておこうか。僕は東江暁……ここの居候だよ。よろしくね」

「う、うん……」

「アレ、大丈夫なのかな……」

「前が……見えねぇ……」

 

 東江邸に帰還し、暁は自分と同じく居候になった二人に改めて自己紹介をする。環那はともかく未来の方は初対面なので、いきなり苛烈な一面を見せられてすっかり腰が引けてしまっていた。

 今の暁の手の中には、ボコボコにされて死に体になった彩花が握られている。色々ある内に存在を忘れられて独りで帰る羽目になった事を、そう簡単に許せるはずが無かった。彩花は自業自得であるが流石に可哀そうじゃないかと、環那も未来も思ったがその言葉は胸の内にしまう。変に刺激して矛先を自分達に向けられてはたまらない。

 

「当主の東江総作だ。地元を離れての生活は不安も多いだろうが、その分はできる限りサポートさせて貰う。要望や質問があれば遠慮せず私や家の者に相談すると良い」

「ありがとうございます!」

「お世話になります!」

「元気でよろしい。君達の部屋の用意はもう少し掛かるから、しばらくは客間に寝泊まりしてくれ。家の中の物は好きに使って構わない。案内しよう」

 

「回復……させて……」

「しばらくそのままでいろ、この浮かれポンチめ」

 

 回復されずダメージを放置されていた彩花だが、暁の機嫌が治ってようやく治して貰えた。

 一応彩花には『円鹿』があるし、自力でも反転術式を使って回復ができるのだが。それをしようとすると火葬祈祷で呪力を燃やされてしまうので、暁の機嫌を取るしかなかったのだ。次はこんなもんじゃ済まさんからなと脅され、「はいぃ!」と情けない返事をする彩花であった。

 

「さて、五条悟に報告しないと」

「報告書を書くなら手伝おうか?」

「まずは電話してみる。必要ならその時はお願い」

「オッケー」

 

 睡眠を挟んで朝になり、暁は又旅の祓除完了を五条に報告する。初めに貰った紙に書かれていた電話番号を打ち込み発信すると、5コールで聞き覚えのある声で「もしもしー?」と返ってきた。

 

「頼まれてた事、終わったよ」

『マジで?早いなー、別に時間掛けてじっくりやってくれても良かったんだけど』

「報告書とか必要ある?」

『あー、上層部との交渉材料に必要だから書いといてくれ。明後日くらいに沖縄に来る用事があるからその時には受け取れるようにしといて』

「分かった。〆切は明後日だね」

 

 やはり報告書は必要になるようだ。これまでも何度か書いた事はあるが、あまり記憶に残らないような事まで詳細に書く事を求められるので、はっきり言って苦手な分野である。かと言って死刑回避に必要な物に手を抜く訳にはいかないのだが。

 

『そうだ、彩花が居るなら明後日は予定を空けておくよう伝えといて欲しい』

「……前に言ってた頼み事?」

『そうそう。同じ術式を持ってて、かつ自分よりも先を進んでる相手。恵にとってはきっと良い刺激になるよ』

「分かった。伝えておくよ」

 

 以前に言っていた、五条の教え子だという彩花と同じ『十種影法術』を持つ術師。恵と呼ばれていたが名前的に女の子なのだろうか。アレに師事するのは大変だろうなと、暁はまだ見ぬ『恵』の努力と苦労を想像し心の中で労った。

 

 

 ──そういや、又旅倒したのってほぼほぼ環那だけど……ちゃんと死刑回避できるのかな?

 

 

 報告書を書くために机に向かう暁であったが、ふとそんな事を考える。

 確かに又旅は祓えたし、現地の術師の要望に従うという条件も満たしている。しかし実際に又旅に致命傷を与えたのは環那であって、暁はトドメの一撃以外は大した事をしていない。活躍してないから報酬は無し……そんな事を言われないかという不安が無い訳でもなかった。

 

「ま、なるようになるさな」

「命が掛かってるってのに、随分呑気だね」

 

 元々五条が死刑に乗り気でないからこそ、暁は今日まで普通に生きていく事ができた。もしも失敗したところで今までと同じ状況が続くだけ、五条の心変わりでも起きない限りは何も変わらない。別に焦るような事は何も無いのである。

 五条が心変わりして、死刑執行に動くとしたらその時だけは生き延びるために全力で抵抗する必要があるが……そういう都合の悪いもしもは、起こってから考えればいい。

 

「一度は逃げ仰せてるんだし、今度もできるさ」

「都合の良い考えだこと」

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□

 

 

「……なんか、増えてね?」

「西表島で発掘した人材でございます」

 

 二日後、五条は約束をしっかり守り東江邸に報告書を受け取りにやって来た。以前はいなかった二人を見て少し驚いた顔を見せるが、六眼で何か感じるものがあったのかすぐに笑顔に変わる。

 

「へぇ……双子でコレか。一人だったらどんだけヤバくなってたんだよ」

「彩花ちゃん……この人誰なの?」

「すっごいジロジロ見てくるんだけど……」

「とっても強い人」

 

 適当な紹介だが、呪術界で生きていれば嫌でも情報の入る人なのでこれくらいでいいのだ。

 術師となった事で、これからは環那と未来にも等級が付与される。環那は又旅祓除への貢献を考慮して準一級、未来は特に実績は無いが、双子という事でポテンシャルを考慮し二級からのスタート。年齢を考えると異例のロケットスタートである。

 

「とは言っても」

「ここには一級と特級がいるんだけどね」

 

 既に特別一級術師の彩花と、特級呪詛師の暁がいるので自慢にはならないのだが。

 

「物も受け取ったし僕は帰るよ。それと君達には東京まで着いて来て貰うけど」

「えっ」

「えっ」

「いや何の準備もしてないしっていうか西表島から帰って来たばかりなのにまた遠出なんて」

「問答無用!」

「この野郎せめて用意くらいさせろ!」

 

 問答無用で車に乗せられ、四人は東京まで連れ去られる事となる。元々は彩花だけを連れて行くはずだったのだが、頭数が増えた中で居候だけ残すのも居心地悪いだろうと、五条が余計な気遣いを効かせた結果であった。

 暁と彩花は事前に東京行きを知っていたが、まさか全員とは思っていなかったのでそれはもう混乱する事となった。暁と彩花でこれなら、何も知らずに飛行機に乗せられた双子は余程だろう。

 

「まさか沖縄じゃなくて東京に行くなんて……!」

「こんなの聞いてないよぉ……!」

「いやぁゴメンね?あの場で決めた事だから心の準備すらさせられなかったね」

「ホントだよ。本土なんて初めてなのに」

「わたしも東京は初めてだなぁ……」

 

 彩花は御三家との交流で何度か京都に行った事があるが、それ以外の三人は沖縄から出るどころか飛行機に乗る事すら今回が初めて。乗る事になった経緯もあってフライトを楽しむ余裕など無く、これからどうなるのかという不安と五条の勝手な行動への怒りでいっぱいになっていた。

 

「で、東京では何をすれば良いの?」

「彩花は僕の教え子……伏黒恵との交流。暁は僕と一緒に上層部のところに行こうか。アイツら暁の事を銀千里だと思ってるから、本人に会えば誤解も解きやすくなるでしょ。交渉が多少は有利に進められるかも知れない」

「あの、私達は何をすれば……」

「君らはついでで連れて来ちゃったからなぁ、特にやらせたい事とか無いんだよね。興味があるところに着いてくるといいよ」

 

 取り敢えずやるべき事を説明させ、何も分からない状態を解消させ不安をある程度取り除く。心がいっぱいになっていた双子も少し落ち着き、暁も心の余裕を取り戻した。

 

「どっちでも良いんだったら、私は彩花ちゃんの方に着いていこうかな……」

「私は暁ちゃんの方に着いていくよ。一応私も当事者の一人だしね」

「オッケー、それで決まりね」

「オッケーじゃないよ。ちゃんと謝れ」

 

 環那は五条・暁と共に上層部へ。未来は彩花と共に伏黒恵との交流へ。全員の行き先も決まり、勝手な行動を五条に謝罪させて、これでようやく空気は完全に落ち着いた。

 まだまだ空の旅は長い。空港に辿り着くまでの時間を暁は外を眺めながら過ごすのだった。




【湊未来】
環那の双子の妹。
姉との差別化点は髪の長さ。環那の方は腰まで届くロングヘアだが、未来首元くらいまでしか伸ばしていない。
姉妹中は良好。

【親水呪法】
水を操る術式。
呪力を水分に変換する、呪力を与えた水分を操るで姉妹で効果を分けているが、本来は両方とも一つの術式だけでできる。
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