呪術廻戦ーカースド・ガールズー   作:笛とホラ吹き

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15:仮想怨霊

 最初は一隻の船であった。

 

「何アレ……こんなところに、船?」

「あんな形の船、出てたっけ……」

 

 沖縄県本部町……美ら海水族館で有名な本町の港で語られるようになったある噂。本部港から正体不明の謎の船が見えるようになったのだという。

 この噂を知った海上自衛隊は、その正体を探るべく捜索を開始したが、怪しい船は影も形も見つからず捜査は困難を極めた。苦戦する自衛隊を嘲笑うかのように、噂は少しずつ本部の人々の間で拡がりを見せているというのに。

 

 初めは夜しか無かった目撃情報は、真っ昼間にも確認されるようになり。一隻だけだったはずの船も複数が見られるようになり、最近では人が乗っているとも言われるようになった。人や物への被害がまだ出ていないのが幸いだが、ここまで膨れ上がった噂を放置しておく訳にもいかない。

 ここまでの内容からして、ほぼ確実に呪術絡みの案件である事は明白である。五条悟から釘を刺された事もあり、暁達は東京から戻ってすぐ本部町へ向かい調査を始めるのだった。

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□

 

 

「……で、本部まで来た訳だけど」

「既に船が見えてるねぇ……明らかに、今の時代にそぐわないような昔の船が沢山」

 

 張り切ってやって来たは良いものの、調べるまでもなく既に船が浮かんでいるのが見えている。いつの時代だと思わずツッコミを入れたくなる、木造の帆すら張られていない船の数々。強いて近いものを挙げるなら爬竜船になるのだろうが、比べるのも失礼なくらいその出来には差があった。

 

「環那と未来は?」

「海洋博公園の方に行ってるよ。あそこなら人も多いし情報取れそうだったからね」

「……いきなり戦闘させたくはなかったし、確かにそれで良いね」

「変な事される前に終わらせよっか」

 

 環那と未来は別行動。季節柄多くの人で賑わい情報収集に期待できる海洋博公園で、聞き込みなどで噂に関する情報を集めていく。

 地理的には、海洋博からでも暁達が見ているこの光景は見えるため、二人も沢山の船が海を占拠するこの光景を見ているかもしれないが。今回が初陣の二人には、情報を集めて色々と準備を整えてからの方が動きやすいだろう。あまり逸らずに動いてくれる事を願うばかりである。

 

「わたし達は直接行っちゃおうか」

「そのまま行って大丈夫なの?自衛隊に目ェ付けられたりしたら面倒な事にならない?」

「話は通ってるはずだけど……確かに、面倒な事はそもそも起こさないのが吉だよね。ならこういうのはどうかな?」

「……お札?」

 

 行くだけなら、ボートでも借りてそのまま目的地まで向かえばいいのだが。呪術師が向かう事は伝えられているとは言え、それが現場にどう伝わっているかが分からない。場合によっては『保護』の名目で動きを抑えられてしまう事もあり得るため、人目に付かぬよう移動する必要がある。

 そうするに当たって、彩花が影から取り出したのは無数の呪印が描かれた御札。皇居の結界を参考にして、東京から帰る飛行機の中で内職して作った新たな呪具である。効果は従来の『帳』と同じ外からの認識阻害だが、起動を呪符に任せる事で帳に隠した物を移動させる事を可能としたのだ。

 

「便利な物作ったねぇ、しかも片手間で」

「観光が良い経験になったよ。やり方教えたら暁にも作れるんじゃないかな」

 

 早速ボートを一艘借りて呪符を貼り、帳の効果を発動する。認識阻害効果がしっかり発動している事を確認してからボートに乗り込み、数多の爬竜船が佇む海へ漕ぎ出した。ボートの操縦はより体力のある暁が担当する。

 目に見えている光景で思うより距離があり、暁は辿り着くだけでもかなり体力を消耗したが……少しずつ霧が濃くなっていき、周りの景色が曖昧になっていくのを見て、呪術絡みである事が確定した船のテリトリーに入った事を悟った。

 

「……暁」

「分かってる。操縦代わって……ッと!」

 

 呪力に満ちた空間、呪力を宿した無数の船とその甲板からこちらを見下ろす無数の船員。明らかにこちらの存在に気付いており、今にも飛び出して襲い掛からんと身を乗り出している。

 あの船員達の中に、一人でも生きた人間が混じっていれば話は別だったが。生者の気配を感じられない以上は、あの甲板に居るのは全て船に付随する呪霊だと思って構わないだろう。ならば躊躇う必要はどこにも無い……暁は両手を重ね合わせ、火葬祈祷を起動した──

 

「ッ……ぶなぁ、矢が飛んできた……!?」

「マジ!?火葬祈祷を掻き分けて……!?」

 

 蒼炎は二人を襲う呪霊と船を、届く限り全て焼き尽くし塵に変えた……だが、その更に奥から飛来した一本の矢によって理解させられる。呪滅の蒼炎に抗える高い呪力出力と、広範囲に拡げた蒼炎を超える遠距離から正確に矢を射る技量。

 間違い無く、今回祓うべき呪霊も特級に相当する難敵であるという事を。

 

「我が矢を避けるでも盾で守るでもなく、掴み取るとはな……どうやら骨のある敵と出会えたらしい」

「エコー……?お前がこの船の親玉か」

「違う……我が名は源為朝」

「みなッ……!仮想怨霊か!」

 

 この空間がそうさせるのか、姿も見えない程離れているのに鮮明に声が聞こえてくる。恐らくこの場を作ったのだろうその呪霊は、自らが親玉である事を否定しつつも名を名乗った。

 

 

 特級仮想怨霊『源為朝』

 

 

 源為朝……鎮西八郎とも呼ばれる、保元の乱にて崇徳上皇方に付き猛威を振るった将である。今の基準で2mは超えるだろう巨体に、気性が荒く父親でさえ持て余す程の乱暴者。敗れた後は流刑地の伊豆で国司と争い自決、生涯を終えた……そう伝えられる男であるが、この男を語る上で何よりも外せないのはその弓の腕前である。

 

「源為朝と那須与一……漫画とかで弓キャラを出すなら、大体モデルになる奴だよね」

「そうだね。死んだんじゃなくて沖縄に落ち延びたっていう話もあるから、それで仮想怨霊として現れたのかも知れないね。実際コイツの名前が付けられた生物とか、今帰仁に為朝上陸の碑とかあるし」

「……じゃあ、何で本部に出るんだよ」

「それはもう、呪霊に理屈を求めちゃいけない」

 

 仮想怨霊……それは、伝承に語り継がれるものが呪いとして形を成した存在。信憑性も何もあったものではないような噂や伝説を取り込んで、より強大な存在として現れる厄介な呪霊である。

 源為朝がこの場に現れたのも、彼が沖縄に流れ着いたという伝説があるからこそだろう。まぁその伝説が残っているのは、本部町ではなくその隣の今帰仁村であるのだが。呪霊にとってはその程度の違いは些細なものという事か。

 

 

 領域展開──『威儀刀折戦』

 

 

「んなッ……!僕だけを狙って……ッ!」

「暁!?」

 

 開戦早々の領域展開。お互いまだ視認すらできない距離であるはずなのに、結界は暁だけを正確に捉え領域内に引き摺り込んでいった。

 咄嗟に対抗しようとするも、術式も『簡易領域』も発動する事は無く。どうやら結界の形成時点で既に領域の効果は発動しているらしい。『帳』も条件付け次第で似たような事はできるため、結界術にも相当長けているという事なのだろう。

 

「いきなり領域展開かよ……もう!」

「我が領域『威儀刀折戦』は、我自身と我が定めた対象一人だけを取り込む。対象となった者に抵抗は許されず、脱出するには我を倒して領域を強制的に解除するしか方法は無い」

「……で、勝負の内容は?」

「これだ」

 

 為朝が暁に向けて指を指すと、彼女の手元に弓と多くの矢が入った筒が現れる。

 領域『威儀刀折戦』の内部では、この弓矢による攻撃以外は全て禁じられる。攻撃しようと決めた時点で脳が術式の起動を自動的に解除し、自ら一騎討ち以外できない状態にしてしまうのだ。

 

 これ程強烈にルールを強いる代償として、為朝の攻撃には必中効果が付与されておらず、相手側は矢を打ち切っても自動で補充されるため、相手側が弾切れを起こす事は無い。弓で後世まで名を残した豪傑が弓矢での戦いを強制する領域……相手に有利な条件付けがされているのは、足し引きのバランス以上に弓への自信あってこそのものだろう。

 

「……改めて名乗ろう。我が名は源為朝」

「……緋鏡暁」

 

 暁は矢筒を腰に下げ、その内から一本を取り出して為朝と同時に番える。そして互いに改めて名乗りを上げ──一騎討ちが始まった。

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□

 

 

「暁のヤツ、大丈夫かな……」

 

 

 ──あんまり、わたしの方も人の心配してられる状況じゃないんだけどね。

 

 暁が領域に取り込まれ、その場に残された彩花の相手は大量の船とその船員達。暁の火葬祈祷でも燃やし切れなかった分が、徒党を組んで霧の中を掻き分けやって来たのだ。

 いつまでも小さなボートの上では、いずれ数の暴力に屈するのが目に見えている。彩花は意を決して襲い来る船の一隻に乗り込み、影と呪具を開放して殲滅戦に入った。いずれ状況を察して増援に来るだろう双子が来るまで持ち堪えつつ、二人に負担を掛けないようなるべく自分だけで終わらせる。気分はちょっとした無双ゲームだ。

 

「……!」

「声も出ないか。変なもん聞かされずに済むから、むしろ助かるけどね!」

 

 影の玉犬、呪い断ち、風雲線……呪具と式神を存分に使い迫り来る脅威を払い除ける。数でこそ圧倒されているものの、持ち得る戦力の質はこちらの方が断然上。次から次へと湧いて来る船員を彩花は呑まれる事無く蹴散らしていった。

 この船員が呪霊の術式なら、どこかで必ず供給には限界が来る。その時まで耐える・または痺れを切らして出てきた本体を叩く事ができれば、この戦いを終わらせる事ができるだろう。源為朝の領域に取り込まれた暁の救出にも行けるようになる。

 

「我慢比べには慣れてる。いくらでも蹴散らしてやるからどんどん持ってきな!」

「やー、わーちやるくとぅ言るなぁ!」

 

 斬る、叩く、撃ち落とす……次々と船員を処理していく彩花の前に現れたのは、この無数の船の群れよりも更に大きな巨大な一隻の船。ウチナーグチを喋りながら現れたその船に、彩花は今時方言なんて珍しいと思いながら警戒を強める。

 感じる呪力の質が船の群れと同じ……しかし、その量と感じるプレッシャーは段違い。間違い無くコイツこそがこの船の親玉。源為朝とはまた別の特級呪霊が存在していたと言うことだ。

 

「……何だ、随分早いお出ましじゃないか」

「ゆくむ、わんが邪魔しくぃたんやー!」

 

 

 特級呪霊『船水』

 

 

「まーた特級かい。最近ホント多いな……」

「やー、くるさりんどー!」

 

 その叫びにすぐに反応し、彩花は影を大きく拡げ臨戦態勢を取る。影を呑み込んでしまうかの如き激流が襲い、これは防いだものの……水は形を変えて何度も彩花の命を狙ってきた。

 水の刃、水の砲弾……海水だけではない、船水の呪力が水に変換され周りの船や船員もお構いなしに攫い上げていく。周りの被害など一切顧みず押し寄せる奔流を前にして、彩花にできる事は影に水を呑ませ自分の身だけは守るという事くらい。このままでは成す術なく海の藻屑となってしまうだろう。

 

 

 ──避けるだけに留まるな!波の……水の流れを読んで適応するんだ!

 

 

 足場として使える船は、波に攫われて少しずつその数を減らしてしまっている。このまま逃げ回るだけでは足場を失い溺死するだけ……それを阻止するためには波に立ち向かわなくてはならない。

 打ち勝つ必要があるのだ。大量の水という地の利を得た『親水呪法』を相手に、源為朝を相手する余力を残した上で勝たねばならない。立ち向かう他に道が無いのなら……前進するのみ。彩花は意を決して波の方に向けて突進していった。

 

「神纏『円鹿』……そして『玉犬』!」

 

 服に『円鹿』を纏わせ、海水を支配する船水の呪力を中和しその威力を和らげる。そして『玉犬』で強化した呪具で波の壁を撃ち破り、彩花は船水の前まで迫る事に成功した。

 成功したはいいが、船水の体格は豪華客船にも優る程の巨躯であり、彩花の現状出せる火力では祓うには相当な手間をかける必要が出る。呪霊共通の弱点である頭部を狙えれば話は早いのだが、それには船の頭はどこだという問題が……

 

「近じくなー、くるすど!」

「やってみろよ……神纏──『貫牛』!」

 

 弓の呪具『風雲線』に貫牛を纏わせ、矢の貫通力を高めて最高火力の一射を放つ。咄嗟に船水を守るように渦巻いた海水ごと、矢はその大柄な船体を貫いたが……どうやら、大したダメージを受けたというような様子は見受けられない。

 船首から船尾までを通すように貫いたが、そこに頭とされるような部位は無かったようだ。全く別の場所がそうなのか、それとも中身を忙しなく動かして特定されないようにしているのかは、今の時点では分からないが……とにかく、彩花一人で船水を祓うのはとても難しいということが分かった。

 

「あっ……があゃー!」

「火力不足……か」

 

 せめて、一撃であの船体の大部分を抉り取れる火力があれば良かったのだが。彩花の付けた傷は呪霊特有の治癒能力で既に完治させられていた。

 このまま少しずつ削る事は可能……しかし、それを完遂する前にこちらの呪力が尽きるだろう。手持ちの呪具もそこまで広範囲高火力な物は無く、この状況を押し進める切り札にはなり得ない。

 

 

 ──やってみるか……?領域展開。

 

 

 試してみた事は何度かあるが、これまで一度も成功させられた事は無い呪術の極致。今だって当然できる保証など有りはしないが、それでもジリ貧の現状を打ち砕けるなら試す価値はある。

 これまでできなかったのなら、今、できるようになってしまえ。意を決して掌印を作ろうとしたその時──海面が大きく揺らぎだし、揺らぎが波に……波が刃となり船水を襲った。

 

「親水呪法『漣』……湊環那、見参だよ!」

「同じく湊未来、見参!」

 

 船水を襲った親水呪法の一撃。それは水底から現れた双子によるものであった。

 海洋博での情報収集を任されていた二人だが、そこからでも海の異変は確認できていた。すぐに向かおうとしたが行くための足が無い……そこで術式を活用して海底を歩いてここまで来たのである。水を操る親水呪法ならば、水をどかして呼吸できる場を確保する事など造作もない。

 

「彩花ちゃんに気を取られてくれてたおかげで、簡単にここまで潜入できたよ!」

「私達が来て、迷惑だった?」

「いや……全然!助かった!」

「それじゃあ3人、協力して戦おう!」

 

 思わぬ援軍の登場だったが、火力不足の中で空断を持つ環那の存在は非常に助かる。ここまで来るのが異常に早かった点と、何故か環那がこの場を仕切っている点には目を瞑り、彩花は再び船水に向けて弓を引き絞るのだった。

 

「そういえば、暁は?」

「あいつは他のトコに行ったよ!」

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