呪術廻戦ーカースド・ガールズー   作:笛とホラ吹き

4 / 15
4:東江家

「まずは場所を変えようか。高専の術師達は東京に帰ったみたいだから追っ手の心配は要らないよ」

「……ご飯を食べさせてくれる所がいいな」

「じゃあガ○トにしよう。それとボロのままじゃ出歩けないからはい、着替え」

「……服とご飯は、そっちの奢りでね」

 

 割と図々しい暁の言葉に、彩花は無言で背を向けながら右手でサムズアップを作る。どうやらそれで構わないという意味らしい。

 彩花から黒のパーカーを受け取り、今の季節には全く相応しくないそれに着替える。思っていたよりも薄手の記事でそれ程暑くはないが、やはり5月にする服装ではないと思う。タダでの貰い物なので文句を口に出す事はしないが。

 

「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ!」

「あそこ空いてるね。あっちにしようか」

 

 適当に空いている席に座り、メニューを開いてまずは注文から行う。彩花の奢りだが予算は1万までという事で、暁はしっかり1万円分の料理の注文をしてみせた。しかもちゃっかりドリンクバーは別で計算させている。図々しい。

 余りの注文量に彩花の顔が引き攣るが、そんな事は露程も気にせず暁はドリンクを取りに行く。数日振りの水以外の飲み物を、とても上機嫌に喉を鳴らして飲み干すのだった。

 

「美味しい……で、雇われたら何をするの?」

「急に話戻すじゃん?やる事と言えばウチに来る任務の遂行とか、ウチの術師の訓練相手になるとか、わたしが作った呪具の実験台になるとか、だいたいそんな感じかな。衣・食・住は保証するし道具もわたしの作品を支給するよ。呪詛師には勿体無い位の高待遇だと思わない?」

「呪詛師って犯罪者でしょ。彩花の家が今の呪術界に関わってるなら、僕を抱え込むリスクはちゃんと分かってるはずだよ。どうしてわざわざ雇うなんて酔狂な真似をするの?」

「そうだね……それに答えるなら、まずは呪術界の現状について知って貰おうかな」

 

 呪術界を束ねる組織は基本的に、呪術高専という専門学校の関係者以外は『御三家』を始めとする呪術師の一族である。古来より人知れず呪いと戦ってきた彼らの存在無くして、今の日本の平和はあり得ない影の功労者達である。

 

「自慢?」

「ただの説明。腰を折っちゃダメだよ」

 

 高専の呪術師は呪いある所どこにでも派遣され、時に現地の呪術師と協力し呪いを祓う。しかし守るべき一般人や頻発する呪いの被害に対し、呪術師の数は余りにも少ない。マンパワーの絶対的な不足は長年呪術界を悩ませる問題であり、呪術師は常に猫の手も借りたい多忙な日々を送っているのだ。

 彩花が属する東江家は、沖縄をテリトリーとする土着の呪術師一族である。当然人材不足に悩まされており、野良の術師や最悪呪いの視認ができるなら誰でも良いという位には切羽詰まっていた。そんな中で偶然見つけたあの五条悟を相手に戦いができる程の強力な術師、これを呪詛師だからと言ってスルーするのは勿体無いだろう。

 

「……これが、君に声を掛けた理由」

「今まで呪術とか知らなかったけど、そんなに人が少ないんだ……」

 

 

 ──銀千里はちょくちょく戦ってたのに……

 

 

 銀千里の記憶では、割と頻繁に呪術師との接触や戦闘が起きていた気がするのだが。業界に入れば同業者と関わる機会は増えるから、そう錯覚していただけなのかも知れない。

 一応錯覚という訳でもない。銀千里の生きていた平安時代は呪術の全盛期。ここから緩やかに規模は縮小していき、五条悟の誕生からまた拡大し始めたという状況──現代の術師はそもそも平安時代より数が少ないのに、呪いのレベルは近しいという最悪に近い状況なのだ。

 

「確かに、呪詛師を囲ってるって高専に知られたら大目玉を食らうだろうけどさ。罰則にビビってちゃお仕事がままならないんだよね」

「ブラック労働……」

「その分お金は稼げるんだけど。忙しさのせいで貯めるだけ貯めて結局使えないまま殉職する人、とっても多いんだよ」

「夢の無い現実だなぁ」

 

 世知辛い世の中である。常に死と隣り合わせな危険な業界である事は分かったが、暁には呪術界以外の寄る辺は無い。このままの生活を続け困窮し本当に呪詛師に堕ちてしまう位ならと、彩花の誘いを受ける事を決めるのだった。

 

「雇われるよ。これからよろしく」

「よろしく。しっかり働いて貰うからね」

 

 話が纏まるのと同時に、注文していた料理が一斉にテーブルに運ばれてくる。チェーン店の安物とは言えテーブルを埋め尽くすご馳走の数々に、暁は目を輝かせながらそれらに手を付けた。

 それにしてもこの店、深夜に来店した小学生2人という条例違反に余りにも無頓着過ぎる。だからこそゆっくりこんな話し合いができるのだが……店のモラルは大丈夫なのだろうか。

 

「んー、美味しいねぇ」

「よくそんなに食べられるね……胃袋の中異次元にでも繋がってるんじゃないの?」

「最近あまり食べれてなかったからね。今日の昼は食べれたけど全然足りないや」

「呪術界に居場所が無くても、これならフードファイターにはなれそうだね……」

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□

 

 

「そういえばさ、僕を殺しに来たあの白い奴……五条悟って言うんだっけ。ファミレスでアイツの話題があったけど、実際どんな奴なの?」

「五条悟は名前の通り、御三家の一つである五条家の当主様だよ。呪術師の一族には代々伝わる相伝っていう術式があるんだけど、五条家相伝の『無下限呪術』と、『六眼』っていう精密に呪力を見通す特別な眼を持って産まれた現代最強の術師さ」

「僕、そんなのに襲われてたのか……」

「彼が産まれた事で、それまで好き放題暴れていた呪詛師は息を潜める事を強いられた。日本中のあらゆる呪いのレベルが上昇し、術師と呪霊の平均値は大幅に上がった。彼と彼以外の全ての術師が戦えば傷一つ無く五条悟が勝つ。無下限と六眼の抱き合わせはそれ程までに他を逸脱してるんだ」

「ヤバいね、五条悟……」

「ホント、派手にヤバいお方だよ」

 

 五条悟という男はまさに、『現代最強』と呼ぶに相応しいスペックを有している。そんな男と戦い生きて逃げ帰れた暁も劣らずヤバいのだが、ボコボコにされたトラウマがそれを自覚させなかった。

 東京に帰還した五条は、今回の件を報告した後に改めて緋鏡暁もとい、受肉体『銀千里』の死刑執行命令を下される。今のところ本人にやる気が無いため再び相対する日はすぐには来ないだろうが、暁に五条に打ち勝つだけの力が無ければ、その時は今度こそ確実に殺される。

 

 

 ──もっと、強くならないと……次だって殺されてなんかやらないんだからな。

 

 

 暁が平穏に生きるには、五条悟に対処できるだけの力が必須となる。いつか本当に来るかも知れないそんな未来を想像し、暁は今から緊張にその両手を震わせるのだった。

 

「後さ、僕が千年氷を取り込んだって知ったらいきなり殺しにきたんだよね。それまで話し合いで解決できそうな雰囲気だったのに、ぶち壊し……アレって何が悪かったの?」

「は、千年氷……!?」

「そんなにおかしい?」

「呪物が受肉した受肉体はね、人間ではなく呪霊何かと同じ呪いの一種として扱われるんだ。呪術規定だと死刑以外は存在しない、生きている事そのものが罪っていう存在なんだよ。受肉するような呪物は元々生きた人間……それが生き返るって事も現代で昔の価値観で勝手な事されるのも全部、今の時代には都合が悪いからね」

「でも、銀千里はもう消えたよ」

「その方がおかしいんだよ。普通なら受肉の器になった人間は、身体を乗っ取られて人格ごと消えてしまうんだから。乗っ取られないどころか全部自分の物にした暁が異常なんだよ」

 

 ここで初めて、暁は銀千里という呪術師がどんな存在なのかを知った。記憶を受け継いだ自分はその力や人格をよく分かっているが、他の人間には名前や術式、そして死後千年氷という呪物になったという情報しか無い事を。その情報の少なさと呪物の強力さから酷く恐れられているという事を。

 

「暁があの千年氷の受肉体なら、特級認定は確実にされるだろうね。しかも沢山ある中でそれを全部取り込んだって訳じゃないんでしょ?」

「まだ一つだけだよ」

「五条悟のヤバさを語ったけど、暁も大概だね」

「心外だなぁ……」

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□

 

 

 色々と話す事数十分、彩花の案内で暁はは東江家の邸宅にやって来た。これまで知る由も無かった呪術界の事情や、自分や銀千里がどんな存在として見られているか、他にも天元様の結界や術式・呪具・呪物についての知識など様々な事を教えて貰いながら歩いたおかげで、かなり長い道のりだったはずだがそれも殆ど気にならなかった。

 暁からもどうして呪詛師認定されたのかや、知られていない銀千里の実情など、自分の出せる情報を対価として提供する。出せる物の量にはかなりの差があったが、暁の情報は普通では知り得ない物ばかりなので彩花にも納得いく内容であった。

 

「おっきい家……那覇にこんな豪邸があったんだ」

「これでも琉球王朝発足前から続くっていう、由緒正しい家柄だそうだからね。そこらの成金とはお金持ちとしての年季が違うよ、年季が」

 

 中に入ると、そこにはしっかりと掃除の行き届いた広大な庭があった。沖縄らしい住宅というよりは日本らしい住宅だが、今時離島や昔ながらの家でもないのにそういう事は無いのだろう。

 石畳を少し歩き、玄関を開けた彩花に続いて暁も家の中に入る。そして真っ先に目にした仁王立ちする裸エプロンの偉丈夫に、ヒュッと喉に空気が通る感覚を味わうのだった。

 

「おかえり。話は着いたみたいだな」

「ただいま。しっかり匿ってあげてね」

 

 

特別一級術師 『東江(あがりえ)総作(そうさく)

 

 

「お邪魔します……緋鏡暁です」

「よろしく暁君。私は東江家当主の東江(あがりえ)総作(そうさく)という者だ。そこの彩花の父でもある」

 

 

 ──その服装に対する言及は無いのか……?

 

 

「ウチの親父家ではいつもこんな格好なの。イカれてるよねー」

「ウン……ソウ、ダネ」

 

 どう聞いても角が立ちそうなので、見ないフリをしていたのにぶち壊されてしまった。あんなの見せられてどう反応しろと言うのか、暁は自分は悪くないだろうと心の中で自問を続ける。

 というか家の中だけという事は、外では普通の格好ができるだけの分別はあるという事だ。だったら家の中でも、見苦しいモノを他人に見せない努力をして欲しいものだが……

 

「流石に外に出る時は服着るけどね」

「いや大問題だからね?何を外ではちゃんとしてるみたいに言ってんの?」

「呪具職人は呪いを肌で感じてこそ成長する。服を着るなどという行為は、職人の進歩を妨げる外道の行いよ。勘違いしないで欲しいのは我々はあくまで必要故にやっているという事……断じて露出に快感を覚えるような変態ではない」

「じゃあそのエプロンも取れよ!ちょっとは隠そうとする小賢しさが鼻に付くんだよ!」

 

 ……どうやら、普通に頭のおかしくなった人のようだ。そこまで露出を愛するならいっその事全てを曝け出せと思うのは暁だけなのだろうか。少なくともこの場ではそうであった。娘が全く疑問を抱いていないのなら、異常者は暁の方なのだろう。

 キリがないので、格好に突っ込むのは終わりにして家の中を案内して貰う。どこの部屋も広々としているのに埃一つ無い清潔な空間で、余計に露出魔の違和感が際立っていた。せっかくの情報がノイズのせいで全然頭に入ってこない。彩花が居れば少しはマシになったかも知れないが、アイツは帰るなりすぐに部屋に戻って寝てしまった。自分の連れて来た客なのだから、案内くらい親に任せず自分でやれと言いたい。

 

「明日以降君の住む部屋は整えさせるが、しばらくはこの客間を使ってくれ。分からない事があったら誰に質問してもいいが、家の中の事は基本使用人の方が詳しく知っている。今日は皆帰ったから明日出勤した時に聞くと良いだろう」

「分かりました。そういえば……東江家は呪具職人の一族と聞いているんですけど、工房はこの家の中にあるんですか?」

「確かにあるが……よく分かったな?」

「……家の中でそんな格好してるなら、それが仕事着だって想像は着きますよ。いくら呪術師でも四六時中呪いに触れてるって訳じゃないでしょ」

 

 正解したついでに、庭の端に実際にあるという呪具工房を見学させて貰った。シェルターの出入り口のようなハッチを開け、そこから繋がる梯子を降りて辿り着いたのは、イメージするような作業場というよりは研究室と言った方が近いような……呪いとは無縁かと思える程真っ白な空間であった。

 呪具の素材には、当然だが呪物などの呪力を帯びた品物が使われる。その呪力に惹かれて呪霊がやって来るのを防ぐため、常に清潔で清浄な呪霊が苦手とする条件を保っているのだという。

 

「実際、どうやって作るんですか?」

「どんな使い道かにもよるが……例えばこの眼鏡には『呪いの視認を不可能にする』効果がある。呪詛師が非術師を装うための呪具だが、これは普通の眼鏡に『帳』のような認識を阻害する効果を持つ結界を張る事で作った。使用者が定期的に呪力を供給してやれば半永久的に使える、作り方も使い方も簡単な代物だな」

 

 このように元からある道具を呪具化させたり、呪物を一から加工して形を整えたりと、呪具の作成方法は多岐に渡る。

 こうして開発された呪具の試用や、作成のための素材調達などが暁の仕事の一つとなる。これからよろしく頼むぞと、総作は節くれ立った大きな右手を暁に差し出すのだった。

 

「これからよろしくお願いします。後……僕は左利きだから」

「そうか。じゃあこっちでも」

 

 左手でも握手を交わす。緋鏡暁と東江彩花……長い付き合いとなる二人の出会いの日であった。




【東江彩花】
沖縄土着の呪術師。親の助手という形だが6歳にして既に呪具作成携わっており、将来性の高さからかなりの期待を背負わされている。御三家特に禪院家とは術式の関係で仲が悪い。

【東江総作】
東江家の当主。彼の作る呪具の質は高専や御三家にも重用される程高く、呪具否定派すら保険として隠し持つ事もある。人格も呪術師の癖に破綻しておらず普通だが、格好が最悪すぎる事が欠点。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。