呪術廻戦ーカースド・ガールズー   作:笛とホラ吹き

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5:はじめてのおつかい

 暁が東江家の居候になってから数日。特に外に出るような用事は無く、呪具の試作品の具合を試してそれを伝えるという日々を送っていた。

 一応呪術界では受肉体故に死刑扱い、世間的にも死亡ないし行方不明として扱われているため、対策も無しに勝手に外に出る訳にはいかなかったという事情もあるが。

 

「修行に集中できて良かったけどね」

「『霜天ノ式』……マジ半端ねーわ」

 

 模擬戦形式で彩花と戦いながら、呪具の使用と己の術式に慣れる修行。徒手空拳のみ・呪具の使用のみ許可・術式の使用のみ許可・殺さなければ何でもアリなど、様々な縛りを設けた上で戦う事で色々と掴めたような気がする。特に五条悟にボコボコにされた経験を活かせる体術の向上が目覚ましい。

 強力な術式、強力な呪具は、間違いなくその術師の強さを支えてくれる。しかしどんな状況でも最後にモノを言うのはフィジカル。どんなに強い力でも使い熟せなければ宝の持ち腐れであるからだ。

 

「しっかり鍛えないとな……」

「身体を鍛えるのも良いけどさ、自分の術式は鍛えなくて良いの?元々それが目的だったでしょ」

「ああ、それなんだけどさ」

「何かアクシデントでもあった?」

 

 左手の指を立て爪先に小さく蒼い炎を灯す。あらゆる呪いを焼き滅ぼす業火は、羂索戦・五条戦と暁の勝利と生存に深く貢献してくれた。強力な術式という事は疑いようがないのだが……何故か、あの時のような出力を出せなくなっているのだ。

 彩花との模擬戦を始めて、最初の方は積極的に使って感覚に慣れようとしたのだが。先の二戦のような出力を出すどころか、このように爪先に少し灯すだけでもかなりの呪力を持っていかれる。凄まじく燃費が悪化しているのである。

 

「何というか……重い上に弱いんだよね。五条悟と戦った時は身を守るためと、領域展開のために使ったんだけど……これだけの点火でもあの時のような消費をしてる感覚」

「それは変だねぇ。無意識に何かしらの『縛り』で運用が制限されてるとかかな?」

 

 どうやら十全に使うには、何かしらの条件を満たさなければならないようだ。それが何かは現状分からないため、分かるまで特訓は『霜天ノ式』だけに留める事にすると決めた。

 中々進められない自分の術式とは裏腹に、霜天ノ式はすこぶる順調に慣れてきている。熱を奪う冷気を放出・拡散する順転『銀世界』に、冷気によって生み出される氷を操る拡張術式『空霜図(くうそうず)』。そして領域展開『零下空真諦』。どれか一つだけでも強力なラインナップ、銀千里が恐れられるのも無理はない事だと暁は改めて実感した。

 

「しかも順転だけでこれだから、載とか反転や極ノ番みたいにまだ強くなる余地があるでしょ。ホントふざけた性能だよね」

「無下限呪術程ではないよ」

 

 出力を引き上げて『載』を冠するようにしたり、反転術式で生み出した正の呪力で術式効果を反転させる『術式反転』、領域展開とはまた違った形のその術式だけの奥義『極ノ番』、術式の解釈を広げる事で生まれる新たな拡張術式など、まだまだ強くなれる余地はたくさんある。

 銀千里の記憶を辿っていけば、自ら考える必要のある拡張術式以外は既に存在している。自分なりに使い熟す事ができるようになったら、その時こそは無下限呪術にも劣らぬ強術式になるだろう。

 

「『空霜図』は、氷の造形を複雑にする程強度が落ち代わりに操作性が増す。ただ攻撃するだけなら礫をぶつければ十分だけど、しっかり活かすなら氷の造形を素早く行う慣れが要るね」

「後は芸術的な感性もね。そんなヘタクソな氷像じゃ思い通りに動いてくれないよ」

「……うるさい。それも含めて練習するんだい」

「二人とも居たか。相変わらず精が出るな」

 

 色々と雑談をしていると、用事を終えて戻って来た総作が二人の前に現れた。よそ行きの直後なのでまだちゃんと服を着ている。

 暁を問題なく表に出せるように、役所で細工をしてきたのだ。これからは対外的には『東江暁』という名を名乗る事になり、総作を父とする養子として扱われる。『一般家庭に生まれた呪術の才能を持つ子を引き取った』という体なので、嘘は一つも吐いていないという訳である。

 

「呪術総監部に聞いてみたが、死刑対象になっているのはあくまで銀千里の方みたいだ。もしウチがお前を匿っている事がバレた時は、この事を盾にしてシラを切り通すさ」

「お世話になります。それで要件は?」

「外に出られる用意もできた事だし、早速で悪いがお使いを頼みたい。『銀の洞窟(シルガニガマ)』跡地から呪物化した植物の採取をいくらかして来てくれ」

「『銀の洞窟』……ですか?あそこは確か立ち入り禁止だったはずでは?と言うかあそこも呪術的な何かがあるんですね」

 

 病院や学校などといった、人の多く集まる場所は呪いの吹き溜まりになりやすい。そういった場所は呪霊が発生しやすくなるのだが、所謂曰く付きと呼ばれるような土地は、それ自体が呪霊ないし呪物と化している事がある。件の『銀の洞窟』は太平洋戦争で沖縄が戦地となった際に、多くの民間人の血を吸った天然の洞穴。気温が0度を下回る事の無い沖縄において、ここだけが唯一年中マイナス20度を下回り凍りついているという噂もある。現在は一般人立ち入り禁止のスポットだ。

 そういった土地からは、豊富な呪力を帯びた天然素材が採取できる。呪具作成に適した素材が勝手に生るような所は当然危険も多いが、リスクを負って損は無いリターンがあるのだ。

 

「呪いの満ちた地だからな、そこに巣食う呪霊はより強力になっているだろうが君なら大丈夫だろう。最低この籠一杯は頼んだ」

「分かりました。取り敢えず行って来ますね」

「私も一緒に行こうかな。『銀の洞窟』で採れる素材に興味あるし」

「構わんが、邪魔はするなよ」

 

 

 ■■■■■■■■■■□□□□□

 

 

 という訳で車に揺られる事数十分、『銀の洞窟』にやって来た二人は早速足を踏み入れた。警備には既に話を付けてあるので、無断侵入で連行される事はあり得ない。心置きなく呪物化した植物の採取に勤しむ事ができる。

 ちなみに、暁はそのままでは髪色などが酷く目立つため一応の変装をしている。赤い髪の一部を染めて色を変え、呪力強化で頭皮を強化して髪を伸ばし別人の髪型に。更に縁の太い伊達眼鏡を着けて顔を隠しある程度別人のようなスタイルに変えた。

 

「質の良い呪物の見分け方とかある?」

「呪物には呪力を隠せる能が無いから、沢山呪力が吹き出てるヤツが良い呪物だよ」

 

 という訳で、質の良い呪物を厳選しながらしばらく採取して歩く。『銀の洞窟』と言っても立ち入り禁止範囲は洞穴の周囲も含まれており、そこもまた呪物化しているのだ。

 時折呪霊が出てくる事もあるが、ちょっかいを掛けて来ても無視すれば問題は無い。問答無用で襲って来るような危険度の高い呪霊も居らず、警戒していた割にはとても順調に採取は進んでいた。

 

「思ってたより楽だね」

「呪霊も無視できる程度だし、確かに呪物化した土地って割には拍子抜けかも。このまま何事も無く帰れそ……うにはないね、うん」

「……着いちゃったね、『銀の洞窟』本体」

「いかにもヤバい所って感じ……」

 

 歩いている内に辿り着いてしまった。立ち入り禁止区域の中心『銀の洞窟』本体へ。洞穴が見えるようになった辺りから急激に気温が下がり、真冬でも無いような寒さに襲われる。暁は術式のおかげで寒さに強いが、彩花は薄手の服という事もありガタガタと身を震わせていた。

 成る程確かに、これは立ち入り禁止になるに相応しいと立ち昇る呪力を見て理解する。暁の知っている呪物で最も強力な物は千年氷だが、『銀の洞窟』はそれを優に越える呪力を有しているだろう。

 

 

 ──というか、この感じ……まさか。

 

 

「千年氷が、取り込まれてる……?」

「ま、まじ……?何でわかんの……?」

「千年氷の呪力は分かる。僕の中に同じ物が溶け込んでいるからね。それと同じ呪力をこの洞穴から感じたんだ」

「……もしかして、『銀の洞窟』が凍ってる原因って千年氷を取り込んだからじゃ?」

 

 あり得ないとは言えない。『霜天ノ式』が発動すれば範囲内の命はその熱を奪われ死に至るが、洞穴の周りの凍っている範囲には、一切の植物が生えていないのだ。『銀の洞窟』が霜天ノ式を発動している可能性は、感じる呪力が同質である事を考えると非常に高い。期せずして銀千里の力を取り戻すチャンスがやって来た。

 しかしそのためには試練を越える必要がある。洞穴から産み出される、その辺を彷徨っていたのとはレベルの違う呪霊の数々。コイツらの妨害を突破しつつ、洞穴の何処かにあるはずの千年氷を見つけ出さなければならない。

 

「それじゃあ暁、よろしく!」

「いや、彩花も働きなよ」

「わたしは着いて来ただけの野次馬だし?別に一緒に戦うのは構わないけど、まずは一番簡単に終わる方法から試すべきじゃん?」

「はぁ……ま、確かにそうだけどさ」

 

 呪力を練り上げ術式の用意をする。修行中はマトモに扱えず鍛える事ができなかったが、何故できなかったのかをここに来るまでに考えていた。

 あの時と修行で違ったのは、『それを使うという強い想いがあったか』だと考えている。一度目は羂索を絶対に殺すという強い殺意、二度目は五条悟に殺されてたまるかという強い対抗心。修行中は命のかかったあの時程、強くこの術式を使いたいと思えていなかったという事なのだろう。

 

 

 ──もしこの考えが正しいなら、この場では絶対に成功させられる。

 

 

 千年氷を取り戻す。分割された銀千里の力を取り戻すだけでなく、『銀の洞窟』が呪物化したのが千年氷が原因なら、それを取り除く事でただの洞穴に戻せるはずだ。そうしたらこの地域から呪霊が産まれる事も無くなり、沖縄の呪術被害は少しだけマシになるだろう。

 必要なのは強い動機と祈り……ならばその力を欲する今、術式は必ず起動する。

 

「術式解放──『火葬祈祷(かそうきとう)』」

 

 ウートートーの時のように、両手を合わせ術式を発動する。修行時とは訳が違う大出力の蒼炎が飛び出し、『銀の洞窟』を呑み込んで中で産み出される呪霊ごと全てを焼き尽くした。

 

「うひゃあ……凄い火力」

「呪霊と霜天ノ式の影響はこれで全部焼けたはず。中に入ってみようか」

 

 呪霊だけでなく、『霜天ノ式』の術式効果である冷気さえも焼き尽くし、凍った空間を溶かして呪いから解放した。術式の相性的に『火葬祈祷』の方が優位に立てるようである。

 脅威は去った事だし、早速洞穴に入り千年氷の在処を確かめる。自分と同質の呪力の気配を辿って奥へ奥へと進んでいき、凍った地面が溶けた影響で滑りやすくなりながら最奥部までやってきた。

 

「あったね、千年氷……しかも3つも」

「通りで気配が大きい訳だよ。これで僕の中の分と合わせて4つ……残りは56個だ」

「道は長いねぇ……」

「しっかり探せばすぐにゴールできるさ。うん……ちゃんと取り込めたね」

 

 千年氷が身体に馴染む。内包する呪力が暁に溶け込み力となる感覚、あまり心地の良いものではないが必要ならば耐えられる。銀千里が戻ってこないかと少し期待もしたが、暁の生得領域にももう一つの生得領域にもその気配はない。どうやらあの時の銀千里との別れは今生のものであったようだ。

 

 

 ──銀千里、ありがたく使わせて貰うよ。

 

 

 これで集まった千年氷は15分の1。自分の胸を抱くように腕に力を込め、暁はその感謝の心をギュッと噛み締めるのだった。

 

「それじゃあ用も済んだし、戻ろうか……ッ!」

「おっと、失敗失敗」

 

 素材も十分に集まり、予期せぬ収穫もあった事だしもう戻ろう……洞穴を出ようと振り返ったその時、2人はいきなり首元に巻き付くように現れた縄を咄嗟に回避した。

 考えるまでもなく呪詛師だ。ブカブカの白いワイシャツに腿が圧迫されたジーンズ、背中には大きなリュックサックを背負い、呪具化した黒い丸眼鏡と一眼レフを持っている。呪力の残穢から見てあのカメラの術式で奇襲を掛けてきたのだろう。

 

「女の干物はマニアに高く売れるんだけどなぁ、それが幼女ならもっといい値段になる訳よ。大人しく吊られてくれると嬉しいなぁ」

「このクズがよ……返り討ちにしてやる」

「待って暁。コイツはわたしが請け負おう」

「こんな夜遅くに、子どもだけで立ち入り禁止のこの洞穴に来るなんてイケナイ子達だぁ……だーから悪ぅい大人にいただかれちゃうのさげっぶ」

 

 最後まで言わせる前に、彩花の跳び膝蹴りが男の顔面を貫いた。ただ当たるのではなく、インパクトの瞬間に頭を抑える事で衝撃の分散を防ぎ醜い面を眼鏡ごとぶち抜く。ステレオタイプのオタクと言った見た目から、眼鏡と何本かの歯が抜け落ちた見た目にグレードアップだ。

 痛みで失神する事を許さず、彩花は攻撃の激しさを加速させていく。彩花自身はまったくその場から動いていないのに、触れられてもいない男は見えない『何か』に散々甚振られていた。

 

「あがが……いきなり何するぅぶ」

「眼鏡が無いと、自分がどんな攻撃を食らったかも分からないでしょ?拾ったか貰ったか……偶々呪具を手に入れた結果、その力に溺れて呪詛師となったタイプと見た」

「なっ……なんだよ、なんなんだおまえぇ!?」

「そのカメラ、ウチで作られた呪具だね。どういう経緯でお前の手に渡ったのかは知らないし、道具の使い方は持ち主の自由だけど……作り手の一族としてはこういう下らない使い方、自分達の呪具でされるなんて許せないんだよね」

 

 痛みにのたうち回る男に、彩花は追撃の裏拳をかまして再び歯をへし折る。今度は壁にぶつかり痛みに泣き叫ぶ暇すら無く、彩花から伸びた影に身体を掴まれ男は中に浮かんだ。

 

「これは返して貰うよ」

「僕のカメラ!かえしてっ、まって、まってえ!」

 

 カメラは彩花に回収されて、彼女の影の中に沈み跡形も無く消えていった。男も掴まれたまま影の中に沈められそうになり、涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃに歪ませ命乞いをする。そんな戯言を聞き入れるような彩花ではなく、男もまた抵抗虚しく影に沈み消えていった。

 

「ふん、噛ませ犬にもならんわ」

「……影の中ってどうなってんの?」

「さあ?入れた物はいつでも取り出せるけど、中がどうなってるかは知らないな。少なくとも時間はちゃんと流れてるみたいだよ」

「おお、怖い怖い……今度こそ戻ろうか」

 

 ちょっとした予定外もあったが、つつがなく対処して出入り口に戻って来る。帰還を待ってくれていた車に乗って、運転手に今日の成果を自慢しながら帰路に着くのだった。

 

「呪詛師と交戦……ですか?私はずっと出入り口で待機していましたが、それらしい気配はまったく感じませんでした」

「どっか封鎖に穴があったのかな?」

「それとも最初から潜んでたとか」

「少なくとも、僕らが『銀の洞窟』に入るところは見られてるんだよね。元々この辺りを縄張りにしてて偶々僕らに目を付けた……ってのが可能性としては一番ありそうかな」

 

 あの呪詛師が持っていたカメラには、人間を撮った時その頭上から首吊り用のロープを巻き付けるというものだった。『銀の洞窟』の影響で心霊スポットの多くなったこの地域で、肝試しに来た人間を吊り干物にして金を稼いでいたのだろう。

 だが呪詛師は処分され、『銀の洞窟』は呪物化していた原因を取り除かれた。呪物化した植物もやがては採り尽くされ、『銀の洞窟』による呪術被害はほぼ0になるだろう。ほんの小さな範囲でしかないが沖縄は少しだけ平和になった。

 

「任務完了、お疲れ様」

「そっちもね、お疲れ様」




【火葬祈祷】
暁の生得術式。あらゆる呪いを焼き尽くす蒼い炎を作り出す事ができるが、使用には『それを使わねばならない動機』『それを叶えたいという祈り』を強く持つ必要がある。

【東江彩花】
東江家の一応の跡取り。影に物を仕舞い込める術式を持つようだが……現時点でも一級術師と遜色ない実力があるが、『霜天ノ式』の前では術式が無力で負けっぱなし。

【カメラの呪詛師】
噛ませ犬にも劣る。
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