【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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1章#10 新学期

 両親不在による思春期男女三人の同居生活一日目は、荷物の整理と生活環境の確認で無事終わった。

 家事の当番は基本的にローテーション、洗濯のみ男女それぞれで行うというルールが策定。その他には特筆するべきことはなく、夕飯は近所のファミレスの出前を頼んだ。流石に料理の準備ができてないしな。

 

 セフレと後輩との同居生活だったわけだが、もちろん『生』の字が『性』に変わるようなイベントは起こっていない。性欲を持て余す男子高校生と言えど、理性を失くした猿みたいな真似をするつもりはなかった。

 

 そんなこんなで夜が明け、すかんぴぃに晴れた朝がやってきた。

 

 本来なら昨日の疲労を回復するために一日中惰眠を貪りたいところだが、あいにく今日は始業式と入学式がある。

 イヤイヤ期を脱してくれない体を叱りつけ、ぱしゃぱしゃと流水で顔を洗い、制服を身に纏う。

 

 そうしてリビングに出ると、同じように制服に着替えた綾辻がいた。

 膝小僧のあたりまでの白いニーハイソックスとスカートの間の太腿が瑞々しくて、絶対領域を実感する。

 

「朝から目がセクハラ」

「開口一番それっ⁉ せめておはようくらい言ってからでよくない?」

「……おはよう、変態」

「…………悪くないかもしれない」

 

 ――ギィィィィ

 そんな音が鳴りそうなほどに鋭い視線が喉を突き刺した。

 微笑むときとは対照的に、こういうときの彼女は目を大きく開く。このまま見つめ合うと綾辻がメドゥーサになってしまいそうだったので、こほん、と咳払いをして視線を逸らした。

 

「おはよう、綾辻。制服もよく似合ってるな」

「ありがと。でも今更すぎない?」

 

 ごもっとも。去年同じクラスだったんだから、綾辻の制服なんてずっと見てきた。セックスするときは私服でくるルールだったけど。

 それでも言おうと思ったのは……。

 俺はくしゃくしゃと後頭部を掻きながら、口ごもる。

 

 自分が、綾辻を義妹(いもうと)扱いしかけていることに気付いたから。

 

「制服のときに声をかける機会ってあんまりなかったし、家と学校じゃなんとなく見え方が違うだろ?」

「あー、それは分かるかも」

 

 ふふ、と綾辻の口角が緩む。心地よさそうに細まる目は、毛づくろいされている子猫のようでかわいい。

 綾辻の態度のおかげか、まだ平静でいられた。それでも存在を主張する鈍痛は、奥の方に蹴飛ばしておく。

 

「なんだ。てっきり、早々に義理の兄ぶって褒めてきてるのかと思った」

「――っ」

 

 なんとか切り抜けたと思っていたのに、綾辻の一言がグサリと突き刺さる。

 まったくもってその通りなのだ。

 だって綾辻は、俺の妹に似すぎているから。

 

 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、綾辻は話を転がす。

 

「っていうかこの前から思ってたけど、さも当然かのように私まで妹になってるのは不服なんだよね。百瀬って誕生日いつだっけ」

「5月。そっちは?」

「6月。たった一か月の差で義妹とか言われるのは思うところはあるよね」

 

 お互いの誕生日すら今日まで知らずにいたんだよなぁ、と苦笑。義妹って言ってたから5月以降だろうとは察してたけど。

 綾辻の言うことは分からないでもない。

 たった一か月。こんなもの誤差の範囲だ。

 ほっ、と自分の中で安堵が広がった。

 

「まぁあくまで戸籍上ってだけだろ。周囲に言うわけでもあるまいし」

「まーね。そもそも私たちの周囲に人がいないし」

「それなぁ」

 

 俺も綾辻も、あんまり友達を作るタイプではない。

 社交性がないわけではないんだけど、積極的に関わろうとはしないのだ。

 だからこそ、俺たちはセックスもするフレンドではなく、セックスしかしないフレンドなのである。

 

「誕生日と言えば、6月にやたらと激しく求めてきたときがあったよな。あれって――」

「問答無用でセクハラ。同居してる女子にそれとか、汚らわしいにもほどがあるよ。あーあ、雫がまだ寝ててよかった」

「シスコンモードのときだけ本当に人殺しみたいな目をしてるからね、君」

 

 

 ◇

 

 

 高校二年生。

 それは青春ど真ん中の年だ。三年生だと一部の生徒を除いて受験勉強に身も心も費やさなければならないし、一年生のときは色々と不慣れなことが多い。うちは大学附属なので三年生でも自由な人は多いんだが、あくまで一般論ってことで。

 

 その点、二年生はまだそれほど受験勉強の焦燥に駆られなくて済むし、仲良くするグループもそれなりに固定されている。新しいクラスになって多少の変化はあれど、大失敗が起こりにくい年だと言えよう。

 

 ――但し、一年生の頃に失敗した奴を除く。

 

 綾辻とバラバラに登校した俺は、玄関に貼りだされた新しいクラス分け表を見ようとしていた。

 なぜ『見ようとしていた』なのかと言えば、クラス分け表の前で騒いでいる奴らのせいで全然見えないから。自分のクラスを確認したならさっさと退けばいいのに、きゃぴきゃぴなイマドキJKって感じの奴らがずっと居座っている。

 

 ついでに後ろから来たノリのいい奴らがそこに混ざってしれっと自分のクラスを確認していくので、全然俺の番が回ってこない。順番というものを知らんのかお前らは。

 

 と、こんな感じで俺の青春は敗色濃厚だった。

 何しろ去年もろくに友達作らなかったからなー。孤高のイケメン過ぎて陰でファンクラブができてるまである。いや、絶対ないんだけどね。

 

「あっ」

 

 どうしたもんかと思っていると、またしても一人俺の横を通り過ぎる。

 そいつは小さな体を活かしてスルスルと人ごみを縫うように進む。すげぇな、ジャパニーズ忍者かよ。

 やがて、自分の名前を見つけると、華麗な動きで人ごみから出てくる。

 

 そいつ――綾辻――は、ふっ、と挑戦的に笑った。

 

 こんのぉぉぉぉっ!

 仲良くするつもり一ミリもねぇだろ!? つーか、そこまで威張ることでもないし! 人ごみを避けるスキルで競うとか、セフレ以外での関係性が惨めすぎる。

 

「やってやろうじゃねぇか」

 

 負けてばかりでもいられない。

 俺は意を決して人ごみ、いや人のゴミに踏み込む。

 あいつとの身長差は20cm弱。筋肉がつきやすい体質らしく、俺はそれなりに体格もいい。綾辻のように人の間を縫うように移動するのは不可能だろう。

 

 しかし、この体格差はディスアドバンテージであると同時にアドバンテージでもある。身長が高いなりにできることだって、もちろんある。

 俺は――ぐぐぐぐーっと足がつりそうなくらいに背伸びをした。

 幸い俺の出席番号は基本的にラスト十番以内だから探すのには時間がかからない。

 

「あったっ!」

 

 見つけた。

 新しいクラスは二年A組だ。他のメンツは見たところでよく分からないので、すぐに背伸びをやめた。

 妙なハイテンションに身を任せてしまったせいで足がガクガクしてしまっている。もしかしたら俺は馬鹿なのかもしれない。

 

 急に冷静になった俺は、人のゴミから離れてロッカーへと向かう。

 その道すがら、さっきたまたま視界に入った名前を思い出した。

 

「……同じクラスなら教えてくれればいいだろうが」

 

 綾辻澪。

 二年A組、出席番号1番。

 来年もクラスと出席番号が同じで、卒業式のときに苦労すればいいと思います。

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