【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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4章#14 きょうだいですよ

「「「って、みー姉……?」」」

 

 三姉妹の声がダブって聞こえた。一目でそう思うんだな、と心のどこかで状況を俯瞰している自分がいた。

 父さんが渋い顔をしている。綾辻は……どんな顔をしているんだろう。顔を見ても、何を思っているのかは分からない。

 

 いずれにせよ、ここで発言を求められているのは俺だった。

 

「なわけないだろ。他人の空似だ」

「えっ」

「だ、だよねっ」

「みー姉はもういないもんね……」

「ごめんなさい。みー姉に似てたから」

 

 自分の言葉がブーメランみたいにグサッと刺さる。気付かれないように呆れた表情を作っていると、そうだよ、と父さんが追従してくれた。

 

「あっ、じゃあじゃじゃ、もしかして彼女さん!?」

 

 と言い出したのは三姉妹の中の一番上の子だった。

 もしかしたら俺たちが気まずくしているのを感じ取り、話を切り替えてくれたのかもしれな……いや、あの目はガチだな。

 

「あのなぁ。勝手に幽霊扱いしたかと思えば、今度は彼女扱いとか、いったいどういう了見だ?」

 

 きゃっきゃとテンション高い三姉妹に向かって、俺は呆れながら言った。

 

「えー、だってしょうがないじゃん! 女の人だよ?」

「そーそー! あのゆー兄が女の人を連れてくるなんて珍しいもん」

「『ここがあの女のハウスね』って言いに来たんだよねっ! 弥生(やよい)知ってる!」

「おい待て! 弥生はマジでどこで知った?!」

 

 幸か不幸か、ドタバタの再会劇によって最初のやり取りを上書きできた。

 約一名には後でレーティングについてお説教してやろうと思いつつも、戸惑っている澪の視線に応えるべく、三人のことを紹介することにした。

 

「あー。こいつらは母さんの弟の子供だ。俺から見れば従妹ってところかな」

一花(いちか)です!」

二葉(ふたば)!」

「弥生、です!」

「……と、いうわけで三姉妹だな。ちなみに三つ子ではなく、一つずつ年が違う普通の姉妹だ」

 

 えっへん、と胸を張る一花は中学一年生。

 次いでむふーと笑みを見せる二葉は小学六年生。

 びしっと敬礼をしている弥生は小学五年――っておい。十歳足らずのJSにとんでもないことを教えた馬鹿はマジで誰だ?

 

「……年、違うんだ。同じかと思った」

「まぁ身長は似たり寄ったりだからな。けど年と身長が必ず――こほん。何でもないから蹴ろうとするのはやめてね?」

 

 綾辻、胸だけじゃなくて身長でも雫にも勝ててないもんなぁ……。

 どんまい、と心の中で思っておく。色々事情はあるだろうし、しょうがないよ、うん。

 

 ちなみに一花、二葉、弥生は傍から見れば三つ子かと思うほどによく似ている。雫と綾辻とは大違いだ。

 三人の手っ取り早い見分け方はヘアピンの本数だろう。一花から順に一本、二本、三本となっているほか、色もそれぞれ赤、青、緑と分けている。ぶっちゃけ俺もそれ以外では分からん。夏休みくらいしか会わないしな。

 

「で! で! ゆー兄、その人は誰?」

「彼女さん? それともまだそこまでいってない?」

「愛の逃避行にきたの?」

「なぁ弥生。親同伴の愛の逃避行って、逆に何から逃げてるんだ?」

「んー。世間の視線とか、もう一人の友達とか? 後になってビデオレターが届くんだよねっ」

「あ、うん……俺が悪かった。真剣に聞いた俺が馬鹿だったよ」

 

 話が明後日の方向に行くせいで、父さんもインターホンを押しかねてるし。あとちょっとで押せるってところで指が止まってるから、なんか変なことやってるおじさんみたいになっちゃってるだろ。

 

 はぁ、と溜息をついて俺は答え――

 

「こいつは」

「お名前教えてもらってもいいですか?」

「ゆー兄との馴れ初め教えてください!」

「ゆー兄のどんなところが好きなんですかー?」

「おいお前ら、人の話を聞けっ!」

 

 ――るより先に、三姉妹は綾辻を囲んだ。

 容赦ねぇな、こいつら。

 綾辻がこちらを一瞥し、SOSを出してくる。ノリだけで言えば雫に近いところはあるが、雫よりガキなので遠慮なしだからなぁ……。

 

 仕方ない。このままだと収拾つかなくなるし、ここは俺が一喝するか。

 そう思っていた、そのとき。

 一花たちが騒いでいたせいか、父さんがインターホンを鳴らす前に、戸ががらりと開いた。出てきたのは、懐かしい雰囲気のお婆さん。

 

 俺の、実の祖母。

 その人は、まるで晴れた日に洗濯物を干しに行くようなテンションで、告げた。

 

「おやまぁ。友斗やないの。別嬪な彼女を連れてきて……私は嬉しいよ」

 

 祖母ちゃんは綾辻を見て美緒だとは思わないんだな。

 どこか他人事でそう思った。

 

 

 ◇

 

 

「ふっふっふ~、なんや彼女じゃないんか。残念やのぅ」

「その勘違いに対して言いたいことは色々あるけど、さておくとして。流石に父さん全スルーは可哀想なんでそろそろ相手しません?」

「ん~? 義理の息子より孫んこと話したがるのは当然やないの。なぁ?」

「は、はい! 俺、いや僕のことはお気になさらず」

「父さん!?」

 

 既に再婚したくせに前妻の実家に来てるわけだし、父さんの気持ちも分からなくはないけどね?

 でもその態度はどうなの? さっき電車で語ってたかっこよさげなアレはどうした?

 

 ……などと、胸中でぶつくさ思いながらも、場所は移って居間。

 手洗いを済ませた俺たちは荷物を部屋に置く前に挨拶がてら、少しだけ話していた。まぁほとんど俺の話題なんだけど。

 

 三姉妹と祖母ちゃんの勘違いをそろそろ解かなければならないということで、俺は綾辻のことを紹介した。

 義理の妹であり、つまりは今の父さんの妻の娘だ、と。

 事情が事情なので渋い顔をされるかもとは思っていたが、そんなことはなく。

 むしろ祖母ちゃんは歓迎してくれた。ならあんたも娘やのぅ、と言って。

 

「けどまぁ……澪ちゃんやっけ?」

「あ、はい。綾辻――百瀬美緒です」

「ふむふむ。真面目そうな子! 友斗と仲良くしたってね?」

「ははは。もちろんです。むしろ私の方から仲良くしてほしいって思うくらい、()()くんはいい人ですから」

「そうかいそうかい。そりゃよかったわ」

 

 祖母ちゃんと澪が話している。

 なんだかその光景が不思議だった。

 綾辻に『友斗くん』って呼ばれることにこそばゆい思いをしつつ、外面完璧な綾辻の姿をぼーっと眺める。

 

 父さんに見せる顔よりも、更に外行きなニュアンスの強い仮面。

 饒舌で、愛想に満ちている。

 そんな姿をもし学校で見せたら、それこそラノベみたいに天使だの女神だの言われるかもしれない。

 話し始めてから少し経ち、祖母ちゃんはぱたんと手を叩いた。

 

「さて、と。とりあえずはこの辺にしとくかねぇ。ご飯はどーしたん?」

「朝は食べてきたけど、お昼はまだ」

「おぉ、そりゃよかったわ。ちょうどお昼作ろうと思ってたとこやし、一緒に食べよ。先に荷物置いてきな。部屋はいつも通りやから」

「うん、分かった。あ、そうだ。東京土産ってわけじゃないけど、ちょっとしたお菓子持ってきたから」

「おー、ありがとさん。テーブルの上置いといて」

 

 まぁ東京に住んでるとどんなものが土産になるか分からないし、いつも通り駅に売ってたテキトーなものを買ったんだけどな。

 それでもお菓子とあらば目を輝かせるあたり、一花たちはまだまだガキだな、と思う。

 

 父さんと綾辻と共に席を立って部屋に向かおうとしたところで、あれっ、と二葉が声を上げた。

 

「おばーちゃん! 澪さんがいるのに、お部屋一つで大丈夫なの?」

「ん~? あっ、そうやな。言われてみればそうやったわぁ……てっきりもうちょっと小さい子かと思ってたから」

 

 言われてみれば、当然の指摘だ。

 俺と父さんはいつも、家の中の部屋を一つ借りてそこで寝泊まりする。男二人でも充分広い部屋ではあるが、流石に年頃の男女を同じ部屋というのはよろしくないだろう。

 ……ゴールデンウィークのときは五人で一部屋だったけど、とは言わないでおく。

 

 父さんを見遣れば、あちゃー、と気まずそうな顔をしている。どうやら綾辻の年齢とかまでは説明してなかったらしい。

 まぁこれだけ広い家だ。使っていない部屋の一つや二つあるだろうし、今から布団を運べばそれでいいだろう。

 

 そんな風に思っていると、綾辻が口を開く。

 ふんありと、たんぽぽみたいに柔らかい顔で。

 

「大丈夫ですよ。友斗くんとはいつも一つ屋根の下で暮らしてて、何もされてないですから。私たちはあくまできょうだいですから」

 

 ――きょうだい

 頭に『義』の字がつくのかつかないのか判断しきれないのは、日本語の致命的な欠陥だと思った。

 

「……そーなんね。ならよろしく頼むわ。今から準備するのは億劫やからのぅ」

 

 という祖母ちゃんの言葉によって、俺と綾辻は同室で眠ることになった。

 

 

 ◇

 

 

 ぎし、ぎし、ぎし。

 軋む廊下を三人で歩く。三姉妹は昼食の準備を手伝うそうだ。そうしないとお菓子はあげないよ、と祖母ちゃんに脅されていた。

 

「なぁ……二人に、聞いてもいいか?」

 

 父さんが恐る恐るといった感じで尋ねてくる。

 綾辻と顔を見合わせてから頷くと、父さんは割れ物に触れるような口調で言った。

 

「二人は、その……付き合ってるわけじゃないのか? てっきり俺は、二人がそういう関係だと思っていたんだが」

 

 そういえば、と思い出す。

 ゴールデンウィークの家族旅行で、父さんは俺と綾辻が添い寝しているところを見たんだっけ。

 それを見た父さんは、俺たちが付き合ってると考えて、祝福するつもりだから、と言ってきた。

 

「違いますよ。私は彼と、付き合ってません」

「そう、なのか……」

「はい。私と彼は友達で、クラスメイトで、きょうだいですよ」

 

 綾辻は不確かな蜃気楼みたいに告げる。

 父さんは意外そうにこちらを見てきた。或いは、綾辻が嘘をついていると思っているのかもしれない。

 

「本当だよ、父さん。そもそも前に言われたときだって肯定してないだろ? それを勝手にそうだって決めつけただけ」

「そ、そうだったのか……すまん」

 

 父さんは、しゅん、と小さくなって言う。

 その様子に苦笑していると、俺たちは部屋に到着した。

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