【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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5章#12 百瀬くんの言葉があれば

 そんなこんなで、色んなことがあり。

 無事日々は進んで、8月31日と9月1日の間に引かれた見えない境界線を超えて、俺たちは9月に突入した。

 

 昔から8月31日きっかりに夏休みが終わっているからだろうか。

 本当はまだ夏が続いていると分かっていても、9月1日からは秋って感じがする。暑さは夏の落とし物で、寒さはあわてんぼうな冬の足跡。そんな風に、少しだけ気分が上がるようなことを考えてみる。

 

 ――が、現実は素敵さとは程遠いわけで。

 実際のところは秋だの冬だのと考えられないくらいに暑いし、テレビもすっかり休みムードとはおさらばしてるしで、どっと憂鬱さが襲い掛かってくる。

 

 しかも、我が校では始業式の日に国数英のテストがあったりするわけで。

 たとえ一教科30分かつ成績に換算されないテストとはいえ、いざ問題用紙と解答用紙を貰ったらテキトーな結果を出すわけにもいかない、と思うのが人情なわけで。

 

 無事放課後になる頃には、教室にはどんよ~りとした空気が漂っていた。

 そういえば去年の今日もこうだったっけ、と思い出す。

 今までは文化祭のことだけに費やせていた時間が勉強とか先生の話とかで削られていくので、もどかしさや歯痒さで一気にテンションが下がるんだよな。急に勉強ムードになられても体が追い付かなかったりするし。

 

「ゆぅとぉ~。頭がぁ、脳がとろけるプリン~」

「……アホか」

「アホだよ! アホで何が悪い!」

「いや普通に学生として悪いだろ」

「正論をつくなぁぁぁ!」

 

 と、謎なテンションになる八雲。

 衣装制作・道具制作の指揮をとる奴がこんなんでどうするんだよ……。いやまぁ、順調に小人やら王子やらの衣装を進めているらしいので、信用はしてるけどね?

 

 はてさて舞台監督はどうしてるだろうか、と教室中を見渡してみる。

 すると、のっそりのっそりとゾンビのようにこちらに歩いてくるギャルが視界に入った。

 

「……ぅぅ、う゛う゛。早ク、逃ゲテ」

「まさかの意識が少しずつなくなっていくタイプのゾンビ?!」

「アタシガ、アタシデ、イラレルウチ二」

「ギャルゾンビは普通にいそうだな……」

 

 やけに完成度の高いゾンビの物まねをしつつ、ぐわっと伊藤が近づいてくる。

 復活した八雲と二人で冷たい目を向けると、けふん、と伊藤は大仰に咳払いをした。

 

「あ~、やだやだ。モテない男子ってノリが悪いから嫌だよね」

「モテないとか弄られるほど俺たちって仲良かったっけ?」

「せめて入学してからずっとつるんでるとかじゃないとキツいテンションだよな」

「はいはい、ウチが悪かったってばぁ! ちょっとは付き合ってくれてもいいじゃんっ!?」

 

 いや、そんな風に言われてもな……。

 八雲と伊藤を残していくことにそこはかとなく不安が湧き始めている俺の身にもなってほしい。実際、伊藤とは最近こそよく話すがそこまで仲いいわけじゃないし。

 

「ま、いいや。それより文化祭の話」

「ああ、それな。昨日も曲あげてくれて助かった。これでもう揃ったよな?」

 

 昨晩送られてきたデータを思い出し、俺は言う。

 脚本が上がった日から一週間ほどが経ち、伊藤はとんでもない勢いで歌を量産してくれた。全部で五曲とやや多めではあるが、どれも決して聞き飽きないし、程よい短さだし、めちゃくちゃレベルも高い。裏でバンドでもやってます?と聞きたくなるくらいだ。

 

 ともあれ、これで音楽面も問題なし。あと考えるべきは演出面だが、そっちも結構固まってるんだよな。

 少しほっとしている俺に、伊藤はとんでもない爆弾を落とす。

 

「それなんだけどさ。もう一曲追加しない?」

「は? あー……一曲、か。まぁその程度なら尺を調整すれば何とかなるな。で、もうできてるのか?」

「んーん、できてないよ。てかウチは作んないし」

「ほーん……はぁぁぁぁぁ!?」

 

 さらっと流しそうになったとんでも発言に気付き、俺は大声を出してしまう。

 訝しむような視線を向けてくるクラスメイトに何でもないと言って謝ってから、全ての元凶である伊藤をじっと睨む。

 

「今お前、なんて言った?」

「えー、だからウチは作んないって。あ、けど曲は普通に作るよ。作んないのは詞だけ」

「いや別にその話を聞いて安心したりしないから。つーか、むしろどうして詞を書かないのに一曲追加しようとか言った?」

 

 どう考えても筋が通っていない。詞を書くのが面倒なら追加なんてしなきゃいいだけの話だ。

 だが、キラっと不敵に輝く伊藤の目を見て、ひやっと冷たいものが背筋を通過する。

 

「それなんだけどさ。やっぱ脚本家が一曲くらい書いた方がいーと思うんだよね」

「いいと思うって、お前……テキトーなことを――」

「テキトーなんかじゃないよ。ウチは真剣に、舞台監督として言ってる」

 

 愉快そうなその瞳は、しかし冗談を言っているようには見えない。

 芯の通ったその声は、きっと本気と書いてマジと読むタイプのあれなのだろう、と確信する。

 言ってることはどう考えても冗談じみている。

 だって俺だぞ? 脚本ならともかく、作詞なんてできるわけがない。

 

「えっと……」

「嫌だって言うんなら、ウチはそれでもいいんだけどさ。でも退いちゃダメだって、さっきテストしながら思ったんだよね」

「テスト中に何を考えてるんだよ……」

「……で、どう?」

 

 程度の低いツッコミに付き合ってやれるほどお遊びな空気ではないらしい。

 ピリピリ、と何か痺れるようなものを伊藤との間に感じる。

 

「どうしてそこまで言うのか、聞いてもいいか」

「直感。百瀬くんの言葉があれば、この作品はもっと輝く」

「…………」

 

 なんと信憑性のない根拠だろう。

 だが、と思う自分がいる。

 作詞なんてしたことない。脚本であれだけズルズル引っ張ったんだし、今度も迷惑をかける可能性はある。断るべきだ。ここは下手なことをせず、安定を目指すのが正しい。

 

 そうは分かっているけれど、断り切れなくて。

 俺がくしゃっと顔を歪めていると、八雲が俺と伊藤の間に割り込んだ。

 

「なぁ友斗、今日って学級委員会なんだろ? まずはそっち行った方がいいんじゃね?」

「八雲……」

「このことはさ、そんな急いで答えを出すべきことでもねーじゃん? な?」

 

 そう言って慌てる八雲の態度を見て、俺ははたと気付く。

 俺と伊藤の話は思いのほか注目を集めていたらしい。ツートップとも言える二人が険悪なムードを出していたら、今日の準備に差し支える。八雲は気を遣ってくれたのだろう。

 

 それもそっか、と伊藤は納得するように頷いた。

 

「ま、じゃー早めに答えちょーだいね。あと、綾辻さんはなるべく早く教室に連れて帰ってきて!」

「……了解。んじゃ行ってくる。綾辻、行こうぜ」

「…………うん。みんな、ごめんね。早めに仕事終わらせてくるから」

 

 ここで話は終わり。

 そう区切るようにパンパンと手を叩くと、伊藤はクラスを仕切り始める。

 活気のある教室から出て、俺と綾辻は会議室に向かった。

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