【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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5章#15 ミスコン

 ――そんなわけで翌日、9月2日。

 

『第30回田々谷大学附属高校ミスコン』

 

 今日からは授業も始まり、文化祭準備だけでなく学業にも励まなくなってくるわけだが。

 我が田々谷大学附属高校の空気は、むしろ勉強なんて知るか、とでも言ってしまいそうなほどに盛り上がりを見せていた。

 

 その理由は、各クラスの教室に貼りだされた一枚のポスター。

 滅茶苦茶アニメチックな美少女が超絶上手く描かれたそのポスターには、書かれている内容に興味がなくとも魅入ってしまう。それでいて何を書かれていて何を伝えたいのかがパッと一目で分かるのだから、何気に制作者は優秀だ。

 

 誰が作ったかといえば……まぁ、ミスコンを校内で一番喜びそうな人、とだけ。

 夏休みからやたらと時間をかけてデザインしていたので、今頃はドヤ顔していることだろう。昨日の学級委員会でも若干ドヤ顔気味だったし。

 

 まぁ、そんな裏事情はさておくとして。

 ついにミスコンの要項が発表されたということもあり、校内は湧いていた。どれくらい湧いていたかと言えば、朝のSHRで担任が話題にし、自分も出ようかしら、などと言い出すほど。

 

 冗談だと思って笑った者に向けられた哀しそうな目はいまだに忘れられない。

 

「なぁなぁ友斗!」

「……ん、どうした?」

「あれ、なんかテンションが低い……ミスコンだぜ? もうちょっと上げてこーぜ!」

「あー、いや無理。これでも俺、結構傷心中なんだ」

「え、何があったんだ……?」

 

 気遣わしげな目になる八雲。

 空気を盛り下げてしまったなぁと申し訳なく思いつつ、いやな、と昨日の学級委員会での時雨さんの言葉を思い出す。

 

「昨日、文化祭を運営する側の学級委員に対して生徒会長からお達しが下ったんだよ」

「お達し? 文化祭頑張ろうね、的な?」

「あー。まぁそれも言ってたけど、そうじゃなくて」

 

 それは、俺も事前に分かっていたお達しではあった。

 昨年度から生徒会が文化祭で抱えていた一つの問題。その解決のために時雨さんが動いたのである。

 

「会長曰く、このままでは今年も自分と入江先輩の一騎打ちになる。だからミスコンにエントリーする人を探してスカウトしてほしい、だと」

「あー……そーいやそっか。去年のミスコンもめっちゃ出場者少なかったもんな」

「そゆこと」

 

 一昨年から時雨さんが二年連続1位、入江先輩が2位を獲得しているミスコン。

 一昨年はともかく、去年に関しては別格な二人のせいで出場者が極端に少ない、という結果に陥った。二人のことをあまり知らない一年生やネタで参加した上級生だけだったのだ。

 

 加えて、今年は体育祭で二人が目立ってしまった過去がある。一年生が出場してくれるのかも分からない状況を危惧した時雨さんは、俺たちにスカウトの命を下したのだ。

 まぁもちろん、ノルマとかはないんだけどな。

 

「で、朝からとある人物をスカウトしたわけだ。具体的には約三名」

「……なんとなく誰なのか察せるけど、ツッコむのはやめておくな」

「あぁ助かる」

 

 では、思い出してみようか。俺の華麗なるスカウト歴を。

 

 

 まずは今朝、朝食でのこと。

 もぐもぐとサンドウィッチを食べている雫に対し、俺は勇気を振り絞って言った。

 

「な、なぁ雫。今日も雫は可愛いな。こう、なんだ。ハムスターみたいというか」

「えっ……なんですか。怖いんですけど」

「ですよねぇ! ごめんなさい!」

 

 撃墜、である。

 なんで意味の分からない前置きをしたんだ、というツッコミはノーセンキューで。だって一発目から『ミスコン出ないか?』とは聞けないじゃん?

 

 とはいえここで諦める俺ではない。俺と雫の間柄だ。雫はミスコン好きそうだし、もう一押し、と思って口を開く。

 

「悪かった……えっと、そうじゃなくてだな。文化祭でミスコンをやることは知ってるか?」

「あ、もちろんです。けど私は出ないですよ」

「へ? え、なんで……?」

「なんでってなんでですか」

「いやだってほら……雫ってこういうの好きなタイプだろ?」

 

 俺の言葉に、はぁ、と雫は溜息をつく。

 こいつ分かってねぇな、という感じでムッとして。

 

「先輩、少しお箸を置いてください」

「お箸使ってねぇけど。サンドウィッチだし」

「……御託はいいのでお膝に手を置いてください。お説教です」

「は? お説教って――」

「いいですか先輩。確かに私はあざといですし、可愛くなるために頑張ってます。周りの人に可愛いと思われるのは、まぁ、それなりに嬉しいです」

「あ、う、うん」

「でも! いいえ、だからこそ! ミスコンとか出たらバランスが取れなくなるんです。自分のこと可愛いと思いまくってる痛い子、みたいになっちゃうじゃないですか」

「ならなくね……?」

「なります!」

 

 なるのだろうか。

 はてと首を傾げるが、雫は至って真剣である。

 

「そーゆうわけなので、今回はNGです。それとも……先輩は、ミスコンで1位を取るような女の子じゃないと嫌ですか?」

「……っ、べ、別に、そういうわけじゃねぇし。雫のいいところはもう分かってるっつーか」

「っ。な、ならこの話はこれでおしまいです!」

 

 斯くて、一番成功率が高そうな雫へのスカウトが失敗したのだった。

 なお――

 

「……なら綾辻は――」

「やらない。次言ったらセクハラね」

「…………うす」

 

 綾辻へのスカウトは、瞬殺された。

 

 

 既に二人へのスカウトが失敗した俺は、それでもなお諦めなかった。

 たまたま登校したときに大河を見かけた俺は、今度こそ、とネバーギブアップの精神で話しかけた。

 

「おはよう、大河」

「おはようございます。百瀬先輩」

「あぁ。気持ちいい挨拶だ。流石は大河だな、うん」

「……? あの、百瀬先輩。どうかなさいましたか?」

 

 またしても謎の前置きをしてしまった学習しない17歳児がこちらになります。

 いや何でもない、と言ってかぶりを振り、改めてスカウトに試みる。

 

「あのさ、大河。昨日の話覚えてるか?」

「昨日? どのことでしょう」

「あー、あれだよ。ミで始まってンで終わる奴」

「蜜柑、ですか?」

「うん確かに帰り道オレンジジュースの話をしたけども! そうじゃなくてミスコンだよ、ミスコン」

 

 何故かくも上手くいかないのか。

 俺が言うと、ああ、と思い至ったように大河が首肯する。

 

「あれなんだけど――」

「念のために言っておきますが、私は出場しませんからね。というかミスコンの運営は私と百瀬先輩と如月先輩の三人でやるわけですし」

「あっ、そ、そうっすよね。うん。それくらい百々承知だったよ?」

「…………百瀬先輩って時々どうしようもなくポンコツになりますよね」

「っっっ」

 

 クリティカルヒットな台詞を吐かれ、ちょっとだけ泣いた。

 

 

「――と、いうわけで三人へのスカウトは失敗に終わったんだ」

 

 当然ながら綾辻や雫が同居していることをこのくだらないタイミングで話すわけにもいかないので概要はぼやかしたが、八雲は俺の悲哀をうんうんと同情の目で聞いてくれた。

 

「……友斗、よく頑張ったな。すげぇよ。ランキング上位陣をスカウトするなんてなかなかできることじゃない。たとえ仲がいい奴だとしても」

「だろ? だろ? 俺、めっちゃ頑張ったよな!?」

「ああ。世の中結果だけじゃないもんな。努力したっていう事実も大事だって俺は思うぜ」

「八雲ぉぉぉ! いいこと言うじゃん」

 

 がしっ、と男二人が握手をし合う。

 今、ようやく俺と八雲は一つになれた気がする。っていうか俺、なんか最近馬鹿なことばっかりしてるよな。

 

「ま、そうなったらもう他の奴がスカウトしてくれるのを待つしかねぇよ。もしダメでも、霧崎先輩と入江先輩の三年目の直接対決ってだけで盛り上がるし」

「そう、なんだけどなぁ……」

 

 しかしそれでは、来年から一気に盛り上がりが萎んでしまうわけで。

 絶対王者は最後に敗北するからこそ美しい、俺はそう思って――

 

「うーん……みんながそう言ってくれるなら、出てみよっかなぁ」

「……うん?」

 

 色々と将来への憂いを抱えていた俺の耳に、聞きなじみのあるホンワカとした声が入ってくる。

 八雲と顔を見合わせてから、声の発生源である教室の前の方に目を向けると。

 そこでは綾辻が何人かの女子に囲まれていた。

 

「うんうん、絶対それがいいよ! 綾辻さんならあの二人にも勝てると思う!」

「そうそう! 女でも惚れる女って感じするし」

「ミュージカルも凄いもんね」

 

 …………。

 

「八雲、昨日の練習ってどんな感じだったんだ?」

「え? あー。一言で言うとめっちゃ凄かった。つーか基本的に夏休みの頃からそう。まだ脚本読んでるだけなのに、その読み方だけで演じ分けられてるし」

「へぇ……」

 

 そうなるだろうな、とは思ってたけども。

 だからこそ任せたんだけども。

 でも……むぅ。

 

「ありがと。なら昼休み、エントリーしてくる。ミュージカルの方にはなるべく迷惑かけないようにするけど……」

「あ、だいじょーぶだよ! むしろミスコン出てくれた方が宣伝になったりするし! 多少練習に差し支えても綾辻さんなら問題ないから」

 

 スカウトマン兼総責任者の俺を差し置いて、どんどん話が進んでいく。

 

 傷心に塩漬けレモンをすりこまれるような気分になっていると、ぱちっ、と綾辻と目が合った。

 不機嫌に顔をしかめた彼女は、

 

『別に百瀬に言われて断ったからって他の人に言われても断り続ける義理はないでしょ』

 

 と、目で訴えかけてきた。

 

『まぁそうだな。みんなに期待されたら応えたくなって当然だ』

『……っ』

 

 もうそこで終わりとばかりに、綾辻は視線を外す。

 彼女の目尻は、きゅいっと寂しく下がっていたのだった。

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