【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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5章#27 かくれんぼ

『百瀬くん、大変だよ! 綾辻さんが()()()()()()()()!』

「は?」

 

 焦燥に満ちた友達(伊藤)の声を聞き、頭の中に疑問符が浮かんだ。

 登校してきてないって……は? いずれ問題が起こるかもとは思ってたけど、こんなベタなことするかっ!?

 

 が、言われてみれば今日の綾辻は家を出るのが遅かった。本人は泊まるために準備していると言っていたが……きっとそのときから学校に行くつもりはなかったのだろう。そのことに気付けなかったのは俺のミスだ。

 かっこつけまくっていたくせにこうなってしまった情けなさに歯噛みしつつ、今は伊藤から話を聞く。

 

『リハまでに練習してもしょうがないからさ、割と皆でリラックスしてたんだよ。衣装とか道具手伝ったり、演出の打ち合わせしたり、個別に練習したり』

「ああ、うん。それで?」

『で、今ちょうどお昼食べようってことになって。みんなで集まったときに、ふと綾辻さんがいないことに気付いて。今までずっといるのが当たり前だから、『いるかな?』なんて思いもしなくてさ。それで、今更……』

 

 とりとめのない伊藤の話に加えて、電話の向こうからは慌ただしくしているクラスメイトの声も聞こえた。

 今、一生懸命探しているのだろう。『今日会った奴はいないか』『誰か見かけなかったか』などなど色々と話している。

 

『念のため聞くけど、学級委員でそっち行ってるってわけじゃないんだよね?』

「そんなことはないはずだけど……電話切ったら確認はとってみる。でも、少なくとも俺は見てない」

『だよね……っ。どうしよう百瀬くん。やっぱり綾辻さん、昨日のことを気にして……』

 

 違う、とは言えないだろう。このタイミングでサボったのだ。むしろ昨日の入江先輩の言葉が響いていると見ていいはずだ。

 いいや、きっとそれだけではない。今まで抱えてきたものが一気に爆発したのだと思う。そうして仮面にひびが入り、いよいよ逃げだしたわけだ。

 

 いつかこうなるんじゃないか、とは思っていた。

 綾辻は自分のことが嫌いで、自分以外になりたがる。綾辻にとって、向き合われることは何よりも苦痛なのだろう。だからこそ、限界がくることは予想できていた。

 

 それでも、俺は綾辻を見守ることを選んだ。

 大河が夏休み、そうしてくれたように。

 きちんと時間をかけて、自分で自分と向き合ってほしかったから。誰かに答えを示されたところで納得できるはずがないって思っていたから。

 

 けど……!

 その結果がこれとか、分かりやすく拗らせすぎだろあいつ!

 

「伊藤、落ち着いて聞いてくれ。今から総責任者として指示を出す。異論反論抗議口答えその他一切の意見は認めない。独裁だと罵りたいならそれでもいいから、まずは俺の話を聞いてくれ」

『……っ。うん、分かった』

 

 言ってから、すぅぅぅと深呼吸をした。

 今にも泣きだしそうな空を見上げる。ったく、そんなベタな天候演出はいらねぇんだよ。王道に王道をかけ合わせて渋谷並みのスクランブル交差点にでもするつもりかアアン? ……って、ツッコミのノリが馬鹿みたいになってる。

 

「まず、今は昼休みだろ。クラスのみんなは、ちゃんと昼飯を食って、休憩してくれ。確かに今日は緩くやってたかもしれないけど、リハが終わった後は最後の最後まで演技をチェックする予定だったんだし、それまで持たなきゃ困る」

『…………ん』

 

 言いたいことはあると思うが、伊藤は何も言わない。

 逸る心臓を落ち着けつつ、俺は続ける。

 

「昼休みが終わっても予定通りにしてくれ。リハの開始は5時だったよな?」

『うん』

「了解。じゃあ――俺はそれまでに綾辻を探して学校に連れ帰るから、リハができるように準備をしておいてくれ」

『ッ。大丈夫なのって聞きたいけど……それを百瀬くんに聞いてもしょうがない気がするから、やめとく。友達だから信じるよ』

「悪い。ありがとな」

 

 俺はぎゅっとスマホを握った。

 本当なら疑われて当然なのに、信じてくれている。そのことにありがたさを覚えつつ、俺は話を続けた。

 

「それで、もう一つ。八雲に代わってもらってもいいか?」

『えっ……? 分かった、ちょっと待ってて』

 

 しばしの沈黙。

 じゃらじゃらとしたバックの喧騒に耳を傾けながら、八雲が出てくるのを待った。

 

『もしもし。友斗だよな?』

「あぁ。悪いな、昼休みなのに」

『いやいいって。つーか、もう誰も昼休みなんかしてねぇよ。綾辻さんを探してる』

「だよな……ありがとう」

『ありがとうって言われる筋合いはねーよ。俺たち、みんな友達だからさ』

 

 流石、友達百人を地で行く奴は言うことが違う。

 どいつもこいつも、眩しくってしょうがない。だからどっかの誰かさんは逃げたんだろうな。引きこもりは総じて光に弱いから。

 

「んんっ。まぁそれはさておき。今伊藤にも伝えたんだけど、綾辻のことは俺に任せてほしいんだ。あいつのことは俺が責任を持って連れ帰るから」

『任せろって……いる場所に当てでもあるのか?』

「そんなもん、あるわけないだろ。でも見つける。絶対に見つけて連れて帰るから、信じてくれ」

 

 俺がはっきりと言うと、はぁぁぁ、と呆れたような溜息が聞こえた。

 

『分かった分かった、信じればいいんだろ? 伊藤にも言ったってことなら、もう俺は受け入れる。で? 俺に用ってのは?』

「話が早くて助かる。八雲に頼みたいのは――」

 

 と言って、俺は頭をフル回転させながら八雲に三つ頼み事をした。

 一つ目は、伊藤と二人でクラスにも同じことを伝えてほしい、ということ。

 二つ目は、この後生徒会に連絡するつもりだが念のため如月にこの話を伝えておいてほしい、ということ。

 三つ目は、もしもリハに間に合わなかったら白雪姫なしで進められるよう、伊藤と二人で準備を進めておいてほしい、ということ。

 

「――以上三つ、頼めるか?」

『いや……別にいーんだけどさ。今さっき信じてくれとか言ったくせに保険は準備するのな』

「信用や信頼じゃ飯は食えんし締切は伸びない。現実とはいつも非常なのだよ、八雲くん」

『流石、脚本も歌詞も締切ギリギリだった奴は言うことが違うな。信用があれば締切は伸びる気がするけど』

「黙れ八雲。じゃ、そういうことだからよろしく頼んだぞ」

 

 電話を切ろうとすると、あっ、と八雲が待ったをかけた。

 

『絶対連れて来いよ。昨日あんだけ言って勝負もできないなんてことになったら、ミスコンに飛び入り参加させるからな。友斗を』

「なっ……そんなことできるわけねぇだろ」

『残念。こちらには白雪がいるんだよなぁ』

「てめぇ――ったく、分かったよ。そんな地獄絵図にならないよう頑張る」

 

 今度こそ、ぷつ、と電話を切った。

 自然と頬が緩むくらいは許してほしい。だって俺、こういうの慣れてないんだよ。

 ふぅと息を吐き、俺はきゅっきゅっとスポーツドリンクを飲んでいる雫の方に目を向けた。

 

「で……雫は綾辻が来てないことに気付いてた、ってことでいいんだよな?」

「ふふっ、そのとーりですよ、先輩。まぁ気付いたのはついさっきなんですけどね。先輩のところに行く前にお姉ちゃんを探して、そのときに」

 

 くしゃっと笑う雫。

 なるほど、なら俺の知らないところで学級委員の仕事をしてる、というわけでもなさそうだ。一つ手間が省けたなと思いつつ、話を続ける。

 

「電話の前に言ったことの意味が分かった。端から雫は、俺に綾辻を連れ戻させるつもりだったんだな。だから綾辻の話をしてた」

「正解です。私も本当は学校を抜け出したいですけど……クラスから離れるわけにはいかないですし、見つけられるかも分からないんです。でも先輩なら、って」

「そっか」

「先輩は分かりますよね? どうしてお姉ちゃんがこうなったのか、今お姉ちゃんがどうしてほしいのか」

「そうだな……どうしてほしいのかってのは悪いけど分からん。俺の中にあるのは、何を言ってやりたいか、だけだ」

 

 今日までの日々の中に幾らでもヒントがあって、言いたいことも幾らでもあった。

 きっと、俺には見守るなんて向いてないんだろうな。

 だって今の俺は――。

 

「私もっ! 私も……お姉ちゃんに言いたいこと、いっぱいあるんです。だから――」

「ああ、任せとけ。かくれんぼの鬼をすんのは得意だからな」

「っ、はい!」

 

 今、空にいる太陽は雲でかくれんぼし始めているけれど。

 雫の笑顔は、ちっとも隠れようとしない太陽みたいに眩しかった。

 つくづく雫らしい在り方に、俺は頬が緩んだ。

 

「じゃあ行ってくる。雫も、残りの準備頑張れよ。学校まで気を付けて帰れ」

「もちろんです! 明日、私のメイド服姿を楽しみにしといてくださいねーっ!」

「おう。綾辻と二人で行くよ、必ず」

 

 こうして話している間にも、空模様は危うくなっている。

 これは本格的に雨が降るかもしれない。せめてお天気雨だったらいいんだけどな……。

 どうか明日は、晴れますように。

 そう祈りながら、俺はアスファルトを蹴り上げた。

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