【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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5章#28 だってセフレだから

 走って、走って、走って。

 折角訪れ始めた秋の涼しさなんて忘れて、体が芯から暑くなった。どうして俺はこんなことをしているんだろう。もっとスマートな、正しいやり方があったはずなのに。

 

 その理由はもう、分かってる。

 綾辻を信じてるだとか、綾辻に言葉が届かないだとか、そういう理屈は全部かっこつけてるだけでしかなくて。

 俺は、本当は――

 

『――せ先輩。百瀬先輩ってば、聞いてますか!?』

「っ、悪い。ちょっと探すのに一生懸命になりすぎて聞いてなかった」

 

 雫と別れてから30分ほどが経った。

 家にいるだけなら話は早いと思ったが、当然の如くつけつけられたのは『もぬけの殻』という結果で。

 ならば、とまずは近場から思いつく場所をしらみ潰しにしていこうと思い、俺は綾辻がよく来ていたであろう公園に来ていた。

 

 きょろきょろと探しても見つからず余計な思考にはまりそうになっていた俺を引き戻してくれたのは、公園まで走りながら俺が電話をかけた人物。

 俺にとって、実務面で最も信頼できると言ってもいい後輩――大河だった。

 

『少し落ち着いてください。綾辻先輩を探してるってことだけは分かりましたけど……他のことが全然伝わってきません。百瀬先輩が電話をかけてきたんですから、用件を言っていただけないと困ります』

「はぁ、はぁ、はぁ……だな。すまん」

 

 どこまでも彼女らしさを見失わない大河のおかげで少し冷静になれる。本当に、俺なんかよりもよっぽど優秀だよな。時雨さんの跡を継ぐべき奴だと心底思う。

 ばっくばっくと鳴り続ける心臓を服の上から押さえ、ブレザーのまどろっこしさに顔をしかめた。ネクタイもブレザーも、暑苦しくてしょうがない。

 ネクタイをほどきながら、大河に電話をかけた本来の目的を果たそうと頭を回転させる。

 

「悪い。えっと……どこまで話したっけ?」

『綾辻先輩が今日登校してきていないことと、百瀬先輩が綾辻先輩を探すために外に出ていることだけです。一応今手が空いていたので屋上は確認しに行きましたが、いませんでしたよ』

「気が利くな、さんきゅ。けど大河に電話したのは綾辻を捜してもらうためじゃないんだ。そっちの方は俺に任せてくれていい」

 

 ブレザーを脱いで、くるくると腕まくりをする。

 心臓を冷やして、全身に通う血の温度を下げる。頭を落ち着けて、すぅぅぅ、と息を吸った。

 って、違ぇよ。順番が真逆じゃねぇか! あーくそ、頭が回ってないッ!

 

「あーっと。なぁ大河、天気予報って見れるか?」

『それなら、既に確認済みです。雨のことなら、夕方頃に少し降るだけみたいです』

 

 考えることは同じか。

 空を見上げ、ほっと安堵する。豪雨とかだったら学級委員会でやらなくちゃいけないことがたくさんあった。短期間の天気雨なら戻らずに済む。

 

「分かった、なら――」

 

 と、俺は大河に学級委員長として指示を出す。

 文化祭のために用意したアーチや看板など、外に出ているものを雨の中で曝しておくわけにはいかない。ちゃんと雨避け用のシートは用意してあるため、その場所と共に学級委員と協力してシートをかける旨を伝える。

 

「――ってことなんだが、分かってくれたか?」

『……はい、把握しました。分からないことがあれば後は霧崎会長に確認すればいいですよね?』

「あぁ、それで頼む。時雨さんには連絡しておくから」

 

 時雨さんと大河に任せれば問題はなかろう。

 ひとまず抜けてきたことへの補填くらいはできただろう。ほぅと息を零していると、あの、と大河が声をかけてきた。

 

『百瀬先輩の方は大丈夫なんですか?』

「大丈夫かって言われると……正直分からん。今は綾辻がよく行ってた公園に来てるんだが、なかなかいなくてな。この後あいつが行きそうなところに行くつもりだが、見つかるかどうか」

 

 自分の口から弱音が漏れたことに少し驚く。

 さっきはあれだけ啖呵を切ったくせに、疲れるとすぐにこれだ。かっこつかねぇよな、まったく。

 ぱしんと頬を叩き、でも、と続けた。

 

「言っただろ、あいつのことは俺に任せとけ、って」

『それは、そうですけど……なんだか百瀬先輩の声が怒っているように感じたので』

「っ」

 

 かはっ、と喉の奥から息が零れた。

 敵わねぇな、と思う。どうにもこうにも、俺は隠し事ができない。この分だと雫も気付いてたんだろうな。

 

「ああ、そうだよ。俺は怒ってるんだよ、あの馬鹿に。でもこれは全部逆ギレで、あいつが俺に向けてきてんのも八つ当たりで出来損ないの苛立ちだから」

『そうなんですか……?』

「そう。だからケンカしてくるつもりなんだよ。捜すだの連れ戻すだの、そんなのは全部抜け出すための言い訳だからな」

 

 半分は綾辻のためを思い、静観を貫いた。

 でももう半分は――苛立ちなのだと思う。

 

 いつまでも自分を見ないふりして、鏡から目を背けて、俺に好き勝手言いって、大切なときに私情優先してばっくれて、昨日だってみんなの思いをしれっと無視して……っ!

 色んなことが全部ムカつくし、それはあいつもきっと同じだろう。

 

 だからこそ、俺たちは友達にならなくちゃいけない。

 百瀬友斗と綾辻澪として、二人で並んで走れるような友達に。

 

「そんなわけで、行ってくる。見つからないようならどんな手でも使って見つけるから、大河は信じて目の前の仕事と向き合っとけ。お前とあいつの仲が悪いのかいいのか知らねぇけど、あいつと最初にケンカをすんのは俺だ。それは絶対、譲らない」

『ッ……そう、ですか。分かりました。そういうことでしたら、()歩譲って、百瀬先輩にお任せします』

「そっか。了解」

 

 譲る歩数が少ないな、と苦笑しながら。

 俺は、じゃあな、と言って電話を切った。

 

「ここにはいないよな……くそっ」

 

 空っぽな公園を見渡して、地団駄を踏んだ。

 かくれんぼは雫の得意分野だろうが……ッ!

 公園を立ち去ろうとして、ふと広場の一角が目についた。

 

 何度も、何度も、誰かが踏んだのだろう。

 明らかにそこだけは土が踏み固められていて、砂利もほとんどない。

 

「……練習してるってのは嘘じゃなかったんだな」

 

 灯りもないし、月光も届かないような木の下で。

 澪は毎晩毎晩、練習していたんだ。

 そうだよな。そうじゃなかったら毎日、あんな疲れた顔で帰ってこないもんな。

 

【ゆーと:(写真添付)】

 

 公園の写真を送ってから、俺は駆け出した。

 

 

 ◇

 

 

 ――時々、或る夜を思い出す。

 あれは6月のことだった。今考えてみると、多分28日だったのだと思う。

 

『ABC ROW1000A』

 

 前日、机の中にこっそり入っていた紙にはそう書かれていた。

 明日の10時からシよう、というメッセージ。時間を指し示す四ケタの数字の後の『A』は『ALL』、即ち一日中シたい、という意味。()る日が休日のときにのみ必要とされる、特別な記号だった。

 

 中学校では5月末にテストがあり、7月第一週くらいに次のテストがやってくる。ちょうどテスト勉強に身を入れたい時期の『ALL』という合図には少し顔をしかめたけれど、その日の俺には、鉛筆で書かれたメッセージに切実さを感じた。

 

 だから大人しく肯い、その翌日、俺はセフレと体を重ねた。

 一回目に果てたのは11時だったはずだ。いつもなら続けざまにシ続けるにしても休憩を挟むのに、その日の彼女はそのまま続けようとして、こちらを誘惑してきた。

 テスト勉強を徐々に始めていたためにどうしようもなく欲求は溜まっていて、俺は醜くもその誘惑に乗った。昼過ぎには再び果てると、彼女は自分が食事を作ると言い出した。

 

「いや、でも悪いし……」

「いいから。どうせお腹空いてるし。それともキッチン使われたくない?」

「あー、別にそういうわけじゃないけど」

「なら座ってて。その代わり、食べ終わったらもっと」

「……っ、いいけど。なんか今日おかしくないか? ペースが早いって言うかさ」

 

 俺の問いに、彼女はミディアムボブの髪をヘアゴムで縛りながら、拗ねた口調で答えた。

 

「今日くらい欲しがったっていいじゃん」

「え……? それって――」

「何でもない。嫌いなものある?」

「えっと、あー……特には」

「了解。ま、好き嫌いとかしたら処すけど」

 

 彼女が作ってくれたのはあったかい味噌汁と焼き鮭と和風サラダ。ほかほかのご飯は自分が炊くよりよほど美味しくて、

 

「うまっ……綾辻ってすげぇ料理上手いのな」

「ん、まぁね。他には?」

「他に? ええっと、感想ってこと?」

「…………ないならいい」

「あ、いやあるある! えと、まずは――」

 

 褒め言葉を欲しがって、一品につき三コメント以上求められたときは苦笑したけど。

 不思議なことに、その日だけは美緒の幻影を重ねなかった気がするんだ。

 

 昼食と洗い物を終えると、俺たちはすぐに再開した。

 溶けるようにシて、一時間で果てて。普段なら流石に三回で限界なのに、彼女はそれでもねだるように、もっと、と言ってきた。

 

「暫くシなくていいから。もっとシて。夜ご飯も作ってあげるし」

「……っ。分かっ、た……」

 

 どうしたんだよ、と言えなかった。

 どうしてそんなに求めるんだよ、と言うべきだったのに。

 

 五回、いや六回だろうか。

 三回ですら多いのに、その日はその倍シた。

 そうして夜になって、流石に彼女もへとへとになったらしくて、熱々のシャワーを浴びて。

 微睡むようにゆっくりしていたら、彼女はテーブルに置きっぱなしだったブックマーカーを手に取った。

 

「これ、百瀬の?」

「ん? ああ。この前の家庭科で作ったやつ」

「ふぅん。これ、狐?」

「そうだけど」

「ださ。三角の集合体じゃん」

「いいだろ三角の集合体。てか、これなら楽だって思ったから狐にしたんだし」

 

 そうなんだ、と彼女が呟く。

 その横顔はまるで迷子みたいだった。

 ――ああそうだ。きっと、このときの顔に似てるんだ。最近の綾辻が時々見せる、あの不安そうな顔は。

 

「これ貰っちゃだめ?」

「へ? あ、いやまぁ俺は栞持ってるからいいけど……そんなのでいいのか?」

「これがいい。私、狐好きだし」

「ほーん。ならやるよ。大切に使ってくれ……ってほど、綺麗じゃないけどな」

「ん。ありがと」

 

 

 それは、綾辻澪――彼女の誕生日の出来事。

 でも、いつまでもあの日に栞を挟んでおくわけにはいかないからさ。

 

「見つけてやるよ、クソ女」

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