【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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6章#03 先輩と後輩

 SIDE:友斗

 

「ねぇ友斗。パーカー貸してほしいんだけど」

 

 文化祭の翌日。

 昨晩、というか後夜祭の中で早々に実施が決まった打ち上げに向かおうと支度をしていたら、澪がいきなり言ってきた。

 

「パーカー?」

「そ。焼肉だし、臭いつくの嫌なんだよ」

「その気持ちは分からなくもないんだけど、だからって俺のパーカーを持ち出すのはどうなんだ? 俺ってそんなに臭い?」

 

 俺はあまり焼肉に行かないが、確かに焼肉臭が服に付きそうではある。きちんと洗濯すれば落ちる気もするが、それは今はおいておいて。

 俺って臭いの? という、とても大切な問題に直面してしまう。

 

 雫と澪、二人と一緒に暮らすようになってから半年ほどが経った。その中で生活習慣のギャップに驚いたり、その他にも色んなことがあったりしたけれど、今までに自分に体臭を気にかけたことはない。

 だがよく考えてみれば、男子高校生なんて大抵が臭いわけで。

 これまでも気になってたけど言われなかっただけなのでは、という懸念がムクムクと――

 

「あ、いや別に。友斗の匂い、好きだし」

「お、おう……」

 

 湧き上がった懸念は、澪の躊躇ない言葉で一蹴される。

 こうも直球に言われるとドギマギするな……。それもしょうがない。だって昨晩告白されたばっかりなわけだし。

 俺は、はぁ、と色んなものを溜息に混ぜて吐き出した。

 

「なら自分の使えばいいんじゃねぇの? っていうか、クラスの奴らがくるのに俺のパーカーなんて着ていくのは変だろうが」

「ん……それもそっか。じゃあそうする」

「おう――ってえらく素直に引いたな」

 

 てっきり俺に拒否権はないのかと思っていた。

 思わず俺が零すと、澪はギリっと睨みつけてくる。

 

「人を、普段はわがままで聞き分けがない女みたいに言うのやめてくんない?」

「昨日までの澪は紛れもなくそうだったよな!?」

「……昨日までは、でしょ。あれはフィーバータイムみたいなものだから。流石の私だって、毎日のようにやりたい放題するわけじゃないし」

「あっ、そうなんだ」

「当たり前でしょ」

 

 昨日までの澪を考えたら、あの調子がずっと続く可能性も十二分に考えられたんだけど。

 ……なんてことを言うと睨まれそうだし、やめておこう。

 

「これからは程々に、わがまま言うから。誰かさんはわがまま言われたいドMらしいし」

「俺がどっちかっていうとSなのは澪が一番知ってるだろ」

「っ……そういうこと言うのやめてくんない? 一人でシたくなる」

「今のは俺悪かったからツッコまないぞ。セクハラだったもんな、うん。だから今の澪の発言は聞かなかったことにする」

 

 考えると俺も出発できなくなるので、ぶんぶんと雑念を振り払う。マジでそっち系のことを考えるのは危険だ。

 

「あー……でも、そういうことならやっぱり俺のパーカー使ってもいいぞ」

「え、いいの?」

「ああ。素直に従うのも癪だったから抵抗したけど、別に嫌ってわけじゃないし。オシャレな服着て行って臭くなるのもキツイだろ?」

「そうだけど……友斗ってチョロいね」

「やかましい。玄関にあるから勝手に取っていけ」

「了解。ありがと、なんか埋め合わせする」

 

 言って、澪は部屋を出て行った。

 その背中を見送って、ぽりぽりと頬を掻く。

 

「あっ、やべ。俺も準備しねぇと」

 

 掛け時計が指し示す時刻は昼前。

 昼すぎに待ち合わせなので、そろそろ身支度を済ませて家を出なくちゃいけない。今日は前回よりも参加者が多いし、絶対に遅刻できないのだ。

 

 夏休みからはずっと忙しかったせいで、まだろくに衣替えもできていない。制服以外の冬服はほとんど仕舞い込んだままなので、今度どっかで時間を作らなきゃまずそうだ。

 ひとまず今日は適当なシャツとスポーツブランドのパーカーを引っ張り出して、それを着る。

 

「友斗、早く」

「すまんすまん! すぐ行く!」

 

 当然のように一緒に行くんだな、と苦笑しつつ。

 俺はさっさと身支度を済ませた。

 

 

 ◇

 

 

「どうせなら私も行きたいですけど……流石に行くのは我慢しておきます。二人とも、楽しんできてくださいね!」

 

 そんな健気な言葉に見送られ、俺と澪は家を出た。

 俺も澪も、雫と打ち上げに行きたい気持ちはある。ここ1か月近く雫とゆっくりする時間を持ててなかったのは澪も同じだからな。行く場所がカラオケだったなら、学級委員権限で雫の参加を無理やりにでも認めさせていたことだろう。

 

 しかし、今日はそうもいかない。

 何しろ今日向かう先は焼肉屋。最優秀団体賞で獲得したタダ券を使って、クラスみんなでパーッと飲み食いしよう、という趣旨なのだ。同じ団体ではない雫が来たところで気まずく終わるのは目に見えている。

 

「こういうとき、学年差がもどかしいよな」

「ん?」

 

 電車に揺られながら言うと、澪は言葉の意図を探るように首を傾げた。

 ちなみに今日の澪はジーンズに俺が貸したパーカーを着て、かなりボーイッシュな雰囲気になっている。ミスコンでもネクタイが好評だったし、体育祭のときにも美青年扱いされてたからな。意外とこっち方面も似合うのだろう。

 俺とほぼ同じファッションになってしまったことについては目を逸らしておこう。

 

 と、無駄話はここまで。

 本題に戻る。

 

「雫とか、大河とか……上の学年で言うと、時雨さんとか。たった1年生まれるタイミングがズレただけで学校って場所じゃ凄く大きなズレになるだろ」

「ん……まぁ、言いたいことは分かる」

「だろ?」

 

 たった1年。

 社会に出ればそんな差はないものに扱われるし、今だって『若者』『学生』って言葉で乱暴に括られることがある。

 それなのに学校という場において、この1年は全てを変える。

 

 たとえば。

 俺たちは、雫や大河とは、修学旅行には行けない。

 時雨さんと一緒に卒業までの日々を惜しむこともできない。

 

 今回の文化祭だってそうだ。

 クラスが違う、ただそれだけで、同じ時を刻むことはできなくて。

 知らない物語が増えていくんだな、って思った。

 

「言いたいことは分かるけど、その上で一つ言えるとしたら」

「したら?」

「女の子と二人っきりなのに他の女の子のことを平然と考えてるなんていよいよクズが様になってきたよね、ってことくらい」

「酷くない!? ……いや、今のは俺も悪いか」

 

 想いを告げられてるのに、それでもなお他の女の子のことを考えていた。

 付き合っているわけじゃない以上浮気ではないし、思考を澪に独占される筋合いもない。でもそれはそれ、これはこれ、だ。

 

 しかし澪は、ううん、と首を横に振った。

 

「別に、そんなに気にしなくてもいい。責めてるんじゃなくて拗ねてるだけだし」

「……っ、そ、そうか」

「あ、今ドキっとした」

「してねぇ!」

 

 嘘です、しました。

 んんっ、と澪は咳払いをして話を続ける。

 

「まぁ友斗にドキっとさせられたから今回の作戦は成功だとして……私も、友斗と似たようなことは思うから」

「そうなのか……?」

「そりゃね。雫と双子だったら最高だっただろうな、とか。雫の妹もやってみたかったな、とか」

「雫のことばっかりじゃねぇか」

「後はなんだろ。お兄ちゃんの後輩だったら、とか?」

「なっ……!?」

 

 返す刀で告げられた言葉に負けて、俺は顔を逸らしてしまう。

 くすくすっと愉快そうな笑い声が鼓膜を撫でた。

 

「お兄ちゃん、ドキっとしてるんだ? やっぱ妹フェチ?」

「っ、ち、違う! 不慣れなだけだっつーの」

「ふぅん?」

 

 疑るように見つめてくるが、実際、妹フェチってわけではない。

 ただ純粋に慣れていないのだ。

 もう一人の妹として振る舞う澪にも、そんな彼女がむき出しで見せてくる好意にも。

 

「ま、からかうのはこれくらいにしておいて……」

「おい」

 

 俺のツッコミはお構いなしに、こほん、と咳払いをして澪が続ける。

 

「結局、意味のないIFじゃん。私は雫の姉だし、入江さんは友斗の後輩。そういう風に生まれたんだからさ」

 

 まあ、そりゃそうだよな。事実は変わらない。だからこそ、今の雫や大河と向き合っていくべきなのだろう。澪に気付かされるなんてな、と苦笑する。

 一本取られた感じで終わるのも癪なので、ちょっとからかってやることにした。

 

「澪も大河の先輩だろ?」

「……別に。あの子、苦手だし」

「出たツンデレ」

「私がツンデレだと思ってるなら考えを改めた方がいいよ。勘違いする似非主人公になりかねない」

「ああ、いるなぁ……よくモブキャラが主人公のラブコメで敵っぽく描かれる奴」

 

 そんな脇役に成り下がるつもりはない。

 美緒にも誓ったからな。俺はちゃんと、最高の主人公になるんだ。

 

 そのためにも――ちゃんと向き合っていこう。

 ずっと顔を背けていた澪が、こっちを向いてくれたのだから。

 

「焼肉楽しみだな」

「それね。お腹空いた」

 

 ぐんぐん電車は進んでいく。

 青春の終着点はまだ先だよな、なんて。クサいことを考えて、ダサいな、と思った。

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