【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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6章#06 雫

 SIDE:雫

 

「ねぇお姉ちゃん。髪、洗ってもいい?」

「ん……いいよ。けど雫の髪も洗わせてね」

「うんっ! えへへ、なんか久しぶりだね。こーやって一緒にお風呂入るの」

 

 お姉ちゃんたちが打ち上げから帰ってきたのは夕方頃だった。

 二人とも最優秀団体賞の景品だった焼肉に行ってたから、今日のお夕飯はカルボナーラにした。お姉ちゃんも先輩も喜んでくれて、ちょっぴり嬉しくて。

 上がったままのテンションで、私はお姉ちゃんに提案してみた。

 

 一緒にお風呂入ろう、って。

 最近はあんまり話せてなかったし、距離も感じてたから。

 そしたらお姉ちゃんは、いいよ、って言ってくれた。それから先輩に『盗み聞きしちゃダメですからねー!』『覗いたら大河ちゃんと警察に通報です』なんて冗談めかして言って、今こうしてお風呂にいる。

 

 久々に見るお姉ちゃんの裸は、なんというか、大人になっていた。

 胸は私の方が大きい。身長だって私の方が上。スタイルも負けていない気がするけど、なんだか叶わないような気がする。色っぽいんだよなぁ……何が違うんだろ。

 先輩はお姉ちゃんとシちゃったんだよね。以前部屋で聞こえた声を思い出して、少し体が熱くなった。

 

「じゃ、まず私ね~」

「ん」

 

 私とお姉ちゃんは一緒に買ったシャンプーを使っている。先輩は髪が短いし髪質もいいからそれなりのシャンプーでもいい感じになるんだけど、私たちはそうもいかないのだ。

 たまに先輩のを間違って使っちゃったときは、それはそれで先輩の匂いってかんじがしていいんだけどね――ってそうじゃなくて。

 

 お姉ちゃんの長い髪を、シャンプーで丁寧に洗う。

 お姉ちゃんがこんなに伸ばすことは今までなかったから不思議な気分だ。でも鏡に映る私たちはあんまり似てない。

 

「お客さん。痒いところはありませんか~」

「ん~。こうしている間にも雫は大人になっていくって思うと、今の雫は返ってこないんだなって感じて歯痒いかな」

「そういうこと言ってるわけじゃないから! 先輩みたいなこと言わないで!」

「友斗ってこんな鼻につくこと言ってくるの?」

 

 目を瞑りながら言うお姉ちゃんの、些細な一言が気にかかった。

 友斗、か。

 そっか、お姉ちゃんはそう呼ぶことにしたんだね。あの夜電話したときにはもう分かっていたから、驚きはしない。やっぱりね、と思うだけ。

 

「ううん、こんな感じのことは言わないよ? 言わせることはあるけど」

「言わせるって……。ま、気持ちは分かるけど」

「でしょー。先輩って全然褒めてくれないから、アピールしなくちゃだもん」

 

 と言ってから話がズレていることに気付いて、元に戻す。

 

「そーじゃなくて。先輩も、違うって分かってるくせに歯痒いとか言っちゃう捻くれ者だから」

「捻くれ者かぁ。それで名前を挙げられるのは複雑だなぁ……」

「そう? 捻くれ者、私好きだよ」

「雫! もう可愛いなぁ」

「ちょっ、抱きつこうとしないで! ほら流しちゃうよ」

「ちぇっ。じゃあお願いね」

 

 ほんと子供みたい。

 どっちが妹なのか分かんないなぁ、と笑いながら、私はお姉ちゃんの髪をシャワーで流す。奇麗な髪だ。

 その後もトリートメントとかヘアパックとかお風呂でできることを済ませてから、お姉ちゃんと場所を交代する。今度は私が洗ってもらう番だ。

 

 ひんやりとしたシャンプーと温かいお姉ちゃんの手。

 強く、でも優しく、髪をごしごし洗ってくれる。目を瞑っていても、すっごく心が落ち着いた。

 

「懐かしいね、こーゆうの。いつぶりだっけ?」

「いつぶり……雫が小学校卒業した頃かな」

「あー。そういえばそーだったかも」

 

 中学校に入学する頃、お互いの体が大きくなったこともあって、わざわざ一緒に入るのはやめたんだった。

 となると、だいたい3年。

 その間仲が悪くなってたわけじゃないし、距離ができていたのだってここ最近だけだ。それなのにこんなに嬉しく思えているのは、それだけお姉ちゃんが大切な存在だからなんだろう。

 

「お姉ちゃんはやっぱり、お姉ちゃんだよね」

「うん? なにそれ」

「今思ったの。お姉ちゃんはお姉ちゃんだなぁ、って」

「そっか。そういえば今日、友斗とも似たような話をしたよ」

「そうなの?」

 

 何その偶然。

 私がどんな話だったのか催促すると、お姉ちゃんは大まかに教えてくれた。

 そうして聞いた話はとても先輩らしくて、ぬるま湯に浸かるみたいなほっこりした気分になる。

 

「大切なんだろうね、雫のこと」

「うん」

「――けど、ごめん。やっぱりお姉ちゃんも友斗のこと、好きだから」

「うん、知ってる。私も、先輩のこと大好き」

 

 お姉ちゃんはずっと前から、私のお姉ちゃんをしてくれていた。

 でも――私は今ようやく、ちゃんと姉妹になれたような気がした。

 

「何があっても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。先輩は先輩だしね」

 

 私が妹で、お姉ちゃんがお姉ちゃんであるように。

 私が後輩で、先輩が先輩であるように。

 だって、そういう風に出会ったんだから。

 

「ふふっ。雫はほんとに、雫だね」

「なにそれ」

「雫哲学だよ。お姉ちゃんが研究してる」

「変なのー!」

 

 お姉ちゃんがこんなくだらない話をするのは、私だけ。

 姉妹じゃなきゃ絶対にできない会話だと思うんだ。

 

 だからこそ、気にかかった。

 明日の一年A組の打ち上げに来れないらしい、私の大切な親友のことが、気にかかった。

 

 

 ◇

 

 SIDE:友斗

 

「先輩。お風呂終わったので、次どうぞ」

 

 打ち上げが終わった夜。

 二学期の中間テストも近いのでリビングで勉強していると、風呂上がりの雫が声をかけてきた。見れば、隣には澪もいる。最近話せていなかった分、今日は一緒に風呂に入っていたのだ。

 

 声を聞くな、覗くなと言われたので部屋に戻っていようとも考えた。

 が、それはそれで意識しすぎている気がしたので、こころもちテレビの音量を上げる程度に留めておいたのだ。こんだけ姑息なことを考えてる時点で意識してるじゃんとか言ってはいけない。事実だから。

 

「おう……お湯、張ったままか?」

「あ、そうですね。冷えてきますし、そろそろ先輩も浸かるかなーって思って。まだ必要ないなら流しちゃってください」

「おう、さんきゅ。どうせだし浸かるかなぁ」

 

 ぐぐぐーっと伸びをすると、本当に体が伸びる感じがした。

 どうも運動不足になっている気がする。最近忙しかったからなぁ……先日、澪を捜すために走り回ったのも応えているのか、筋肉痛も居残っているし。

 

「一応言っとくけど、お湯を飲むとかそういう変態行為に出たら粛清だからね。雫に対する狼藉は絶対に――」

「分かってる、分かってるから。過保護どころか過保()かよお前は」

「……? なにそれ」

 

 あ、伝わらないっすよね。

 そう思っていると、あー、と雫が声をあげる。

 

「分かりました先輩! 大河ちゃんがたまに言ってるやつですよね」

「そうそう。過保護よりも上だから、過保十」

「なにそれほんと意味わかんない。入江さんって、結構変わってるんだ……」

「それは否定できない」「否定できないね」

 

 俺と雫の返答が被った。

 うん、やっぱりそうだよな。大河が変わり者であることは共通の見解だった。

 澪は、そ、とだけ呟き、部屋に戻っていく。どこか満足そうなのは、久々に雫成分を摂取したからかもしれない。シスコンめ。

 

 残されたのは、俺と雫だけ。

 まぁだからって、今更二人っきりであることにドギマギするような関係ではない。

 

「じゃあ、俺も風呂入ってくるかな」

「そですね。よーくあったまってきてください。今なら美少女の温もりとダシもたっぷりですからね♪」

「自分で言うな、ってツッコミはさておいて。温もりはともかくダシとか言うんじゃねぇよ」

 

 小悪魔じゃなくてオタク感が強くなってるからね?

 軽くチョップをすると、てへ、と雫は舌を出した。

 浴室に向かおうとすると、

 

「あ、先輩」

 

 と引き止められる。

 

「ん?」

「えっと……あの、別に特別な用事があるわけじゃないんですけど」

「そうなのか」

 

 ならどうして呼び止めたのか。

 はてと首を傾げていると、雫は笑顔で言った。

 

「先輩は、先輩なんですからね。ちゃんとしてくださいよ」

「なんだそれ」

「哲学です。先輩哲学」

「哲学の世界に謝ってきなさい」

 

 もういっちょ、チョップ。

 でも同時に、叶わないな、とも思った。

 その通り。

 俺は先輩なのだ。雫にとっても、大河にとっても。

 

 だからこそ、背中を見せなくちゃいけないよな。

 言い訳はダメだ、って分かってるんだから。

 

「雫っていい後輩だよなぁ」

「それ、お風呂の前に言うとそこはかとなくキモイですよ」

「…………反論できないので大人しく入ってくるわ」

「はい、そーしてくださいっ!」

 

 

 

 

 ――ちなみに。

 澪や雫に言われたせいで余計なことを考えてしまい、結局湯船には浸かれなかった。

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