【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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6章#07 仲良し

 とこ、とこ、かっぽん、とこ。

 かっぽん、とこ、とこ、とこ。

 

 革靴とスニーカーの足音が、どこか気の抜けた雰囲気で鳴っている。空は引いてしまうほどに青く染まっており、それとは対照的に街路樹が少しずつ赤らんできていた。

 二日間の振り替え休日を終え、今日からは10月。

 一年も既に4分の3が終わったのだと思うと、何とも言えない思いが込み上げてくる。9月中はまだ残暑が厳しかったりして秋って感じはしなかったが、流石に10月に入ると涼しくなっている。

 

 ――なんてことはなくて。

 地球温暖化の波は、東京にも押し寄せてきていた。否、東京だからこそ、よりその影響を受けやすいのかもしれない。

 

「暑っ……この時期の冬服って地味に暑いよな」

 

 と、俺は思わず呟く。

 文化祭を境に、うちの学校では夏服から冬服に移行しなくてはならない。ネクタイやリボンを着けてブレザーを着るのと、あとはスラックスやスカートの材質が変わる程度の違いしかないが、それでも暑いものは暑い。

 

 文化祭の日はよかった。

 あの二日間は最高気温も20度を下回り、文字通りの秋だったから。

 

 けれど振り替え休日を超えてみると、どうだろう。クビにしたはずの残暑は平然と出勤してきやがっている。30度には届かないものの、ひと昔前の夏と比べて大差ないほどには今日の気温は高い。

 

「あはは……まー、歩いてると汗掻いちゃいますしね」

「ほんとそれ。10分も歩けば薄着でも充分汗掻ける温度だっていうのに、ブレザーを羽織らなきゃいけないとか、マジでくそだろ」

「先輩ってそんなに暑がりでしたっけ?」

「いや、本気で暑いのは許せるんだよ。そうじゃなくて、こう、中途半端な暑さなのが一番鬱陶しい」

「なんですかそれ。変ですね」

 

 くすくすと笑うのは雫だ。特に冬服に移行したからといって髪型を変えてはいないものの、ほんのりと化粧の雰囲気が違う気がする。季節に合わせているんだろう。

 うーむ、理解してもらえないものか。

 はたと首をひねっていると、雫の隣を歩く少女が、あー、と気だるげな声を出した。

 

「友斗の気持ち、分かるかも。暑いなら薄着になったり冷房つけたりできるけど、微妙な温度だと何もできないもんね」

「そうそう。何にも対策できないってのがムカつくんだよな」

「分かる。何もできないもどかしさ、あるよね。抵抗できないうちに真綿で首を絞められるみたいな」

「……お姉ちゃんと先輩が物騒なこと言ってるんですけど」

「澪はともかく、俺は割とまともなこと言っただろうが。一緒くたにすんな」

「いや捻くれ具合は同じなので。そーゆうところで二人に一致されると私がツッコミ役に回らなきゃなのでやめてください」

 

 雫は、俺ともう一人に対してジト目を向ける。

 ちぇっと舌打ちをしてから、俺はそのもう一人を睨んだ。まぁもう一人ってぼかし方をしても、さっきから名前が出てるし意味ないか。

 澪が肩を竦めると、それにしても、と雫が明るい口調で言った。

 

「こーやって三人で登校できるの、なんかいーですよねっ! 仲良し三人組って感じがします」

 

 俺も澪も、その言葉に対して異論を唱えるつもりはない。

 春先からずっと、俺たちは三人で登校してこなかった。理由はたくさんある。複雑で、面倒で、かっこ悪い理由がたくさん。

 でも今日からはそういうのはやめにしたのだ。

 

「ま、同じ家を出てるわけだしね。特別な事情がないのに時間をズラしてた今までが変だったとも言える」

「ズラしてた理由の筆頭はお姉ちゃんだよっ!? 私は最初から一緒がいいって言ってたのにー!」

「いや、それはそれで……あの頃と今じゃ何もかも違うし」

 

 澪はばつが悪そうにそっぽを向く。

 そんな彼女を見て、雫は嬉しそうな微笑を湛えた。

 

 まぁ確かに、何もかもが違うだろう。

 俺だけでなく澪も変わった。雫だけは……さほど変わっていないかもしれないけれど、それでも成長してないわけじゃない。

 変わって、前に進んで、その結果が三人での登校。

 そう思うと、こんな風に始まった秋に対して期待したくなる。

 

「ねぇ友斗、にやけすぎ」

「に、にやけてねぇよ……」

「いや先輩、めっちゃにやけてましたよ。ね、お姉ちゃんっ」

 

 こくこく、と姉妹が頷き合う。

 ……うん、知ってた。三人での登校って、いつでも雫と澪が結託できるってことなのよね。俺が多数決で勝つ見込みゼロである。なんと理不尽。

 

 俺が顔をしかめると、雫はにやーっと笑った。

 

「つまりあれですね。朝から美少女二人を侍らせて登校できる優越感に浸ってたんですね」

「言い方があまりにも最悪すぎる……そんな優越感どこにもないし、どちらかと言うと雫が先輩二人を侍らせてる構図なんだよなぁ、これ」

「とか言いつつ、こっそり『二人と登校出来て幸せだな』って思ってる先輩なのでした」

「めでたしめでたし」

「澪は雫と合わせるときだけノリがよすぎないですかねぇっ!?」

 

 ちっともめでたくないんだよなぁ。

 俺の苦笑とは対照的に、雫と澪はけらけらと楽しそうな笑みを見せる。何か一矢報いる方法ないかなぁと考えていると、あっという間に学校に着いた。

 

「じゃあ二人とも! 私は行きますね~」

「おう。頑張れよ」

「もちろんですっ! 寂しかったら言ってくださいね。私がいつでも駆けつけてあげますから!」

「言うわけな――」

「うん、すぐ言う」

「おいこら澪」

 

 即答だった。笑ってしまうほどの即答だった。

 引いた目で見ると、澪は、冗談冗談、と言い足した。うーん、今の声のトーンは冗談じゃなかった気がするんだよなぁ。強欲を抑えなくなったのは雫に対しても同じ、ということなのかもしれん。

 

「ふふー。先輩も、また後でっ!」

 

 えへへーと満足そうに手を振ってくる雫。

 雫とは一緒に登校することも多かったし、夏休み前には手を繋いで登校してすらいた。それなのに、その頃よりも今の方が可愛くて幸せそうな笑みを見せてくれるんだから、今度こそ間違えていないんだな、と思える。

 

 やり直せたきっかけは、誰かさんの直球な説教で。

 だからこそ、その誰かさんのことを、俺は尊敬しているのだった。

 

 

 ◇

 

 

「――というわけで、今日から生徒会役員選挙の立候補受付が始まるわ。立候補したい人は職員室の前に置いてある紙に必要事項を書いて、生徒会の担当の先生に出すように」

 

 朝のHR。

 担任から、生徒会役員選挙についての説明があった。既に知っている情報だったので適当に聞き流したし、おそらく大半の生徒にとっては重要なトピックではないだろう。

 

 うちの学校に於いて、生徒会のポストはとても魅力的だ。

 大学への推薦が有利になるからな。少しでも優位に立ちたいと思う生徒は、立候補を考えるだろう。だいたい、どの役職にも二~三人は立候補者が現れる。

 

 会長、副会長、書記、会計、総務。

 生徒会は5人で構成されている。当然ながら三年生の立候補は認められないが、それ以外は特に学年の制限はない。会長に一年生が立候補してもいいし、全員が二年生でも規則上は問題がないことになっている。まぁ自然と会計と総務が一年生で会長と副会長は二年生、書記は時と場合による、みたいな感じの割り当てになっているが。

 

「いよいよ始まったな、友斗」

 

 そんなことを考えていると、隣の席の奴が声をかけてきた。

 美少女であれば心ときめくかもしれんが、相手は八雲である。ぶっちゃけ一昨日生徒会の話はしたばかりなので、またかよ、って感じだ。

 が、これもコミュニケーションの一環。どうせなので、この前とは別の方向に話を持っていく。俺ってばテクニカルだわ。

 

「如月は今年も書記なのか? それとも副会長を狙ってたり?」

「えっ? あ、えと、あー……」

「なんだその反応。未だに後夜祭でのことを思い出してドキドキしてるのか? 初心すぎるだろ」

「そこまで初心じゃねぇよ! つーか、友斗だって実際にしたらこうなるっつーの!」

 

 恥ずかしそうに八雲が言ってくる。

 くいっと眼鏡の位置を直すのを見て、自然と笑みが零れた。

 まぁ確かにキスは強烈だよな。甘やかで毒々しい感触を思い出しそうになって、俺は唇を噛んだ。どうも最近はそういう欲求が蓄積されすぎている。澪と雫がいる手前、発散できてないしな……。

 

「で、如月の方はどうなんだ?」

 

 話を戻すと、八雲が気まずそうに顔を歪めた。

 僅かな逡巡の後その顔に浮かぶのは、出来のいい作り笑い。

 

「んー、分かんね。そーゆう話はあんまりしないし。応援演説とかも、俺より頼れる相手がいるんじゃねぇのかな」

「ほーん……そういうもんか」

 

 八雲は人当たりがいいし、見たところコミュ力も高い。応援演説を頼んでもおかしくない気がするが……ま、カップルでそういうことをやって妬まれるリスクを取るべきじゃない、と判断したのかもな。

 

 そもそも、生徒会経験者が落ちることはほとんどない。特に今年は如月以外の二年生が勉強とかの都合で生徒会をやめるって話になっているので、副会長でもどこでも容易に狙えることだろう。

 

 問題は他の枠だな。

 二年生から生徒会を始めるのはなかなかハードルが高いし、一年生も大河以外に集まるかは未知数だ。

 ま、なんとかなるだろうけど。

 

「なあ友斗」

 

 難しい顔の八雲に呼ばれ、ん?と首を傾げる。

 どこか弱々しく見える表情で、ぽつりと八雲は呟いた。

 

「大切な二人がケンカしてて、どっちの気持ちも分かるって思ったとき……どうすればいいんだろうな」

 

 らしくない、迷いに満ちた質問だった。

 或いは、秋という季節が八雲みたいな奴でさえ迷子にしてしまうのかもしれない。

 正しい答えなんて知りはしないけれど、俺は俺なりの答えを返す。

 

「見守ってやるしかないんじゃねぇの?」

「……そっか。サンキュー」

 

 どうしてそんなことを?

 俺が尋ねるよりも先にチャイムが鳴って、文化祭明けの面倒な学業の時間が始まった。

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