【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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6章#22 昨日の敵

 SIDE:大河

 

「昨日の味方が敵に回ったなら、昨日の敵を味方にすればいいんだよ」

 

 百瀬先輩の提案の意味を、すぐには理解できなかった。

 そもそも何故このタイミングで、と思う。

 けれど同時に納得もできた。

 

 本多先輩は、敵ではなかったけれど、最初は私のことをよく思っていなかった。いやこの表現は正しくない。よく思っていたのではなく、姉の代わりだと思っていたのだ。

 それは七夕フェスのときの写真撮影で実感した。

 

 それでも百瀬先輩がかけてくれた言葉のおかげで、私は私として写真を撮ってもらって。

 その結果、さっき私を応援してくれた。

 昨日の敵は味方。

 そんな言葉が頭をよぎるのは、納得できる。

 

「先輩? それってどーゆう意味ですか? 大河ちゃん、分かるー?」

「えっと、ごめん。私も分からない」

「だそうですよ、先輩。なんかかっこいいことを言った風にしてますけど、そんなことより早く説明してください!」

「容赦ないなッ!? ……まぁ、説明するよ」

 

 雫ちゃんと百瀬先輩が、わいわいと明るく話す。

 髪に着けた髪飾りに触れて、ふぅ、と心を落ち着けた。

 百瀬先輩はくつくつと笑ってから思いついた作戦を説明し始める。

 

「まぁ説明って言っても、簡単な話なんだけどな。要するに――澪を味方につけるんだ」

「綾辻先輩を、ですか」

「あぁ。今あっちが仕掛けてきている作戦は、大きく分けて二つ。それは、大河でも分かるよな?」

 

 百瀬先輩の期待に応えないといけない気がして、首肯する。

 

「霧崎会長と姉さんを推薦人にすることと、ミスターコンを公約に入れたことです」

「正解。ミスターコンの方は、正直手が打てない。ルッキズム云々でマジレスしたところでしらけるだけだし、ミスコンが許されてるわけだしな」

「まぁそーですね。正直私も、ミスターコンはちょっといいなーって思いますし」

「お前もか……って、まぁそれはいい。で、だ。公約で正統派の戦い方をする一方、圧倒的な人気者を押し出すことで選挙を人気投票へ持ち込もうともしている」

 

 それに加えて、私たちとは別の部活動に訪問している可能性は高い。

 が、今はそのことを考えてもしょうがない。百瀬先輩も同じ考えなのだろう。

 そこまでくると、私もだいぶ話は読めてきた。

 

「せめて人気投票の面では競ってないと、他の面でスタートラインにすら立てない。ビラを渡しても見てもらえないし、話だって聞いてもらえないからな」

「だから綾辻先輩に推薦人になってもらう、というわけですか」

「そういうこと」

 

 こくりと頷く百瀬先輩。

 その頬は、にぃ、とつり上がっていた。

 

「おそらく澪は、朝の様子を見てそのことに気付いたんだろうな。だから意味深なメッセージを残していった。雫も、そう思うだろ?」

「そーですね。っていうかもうどう考えてもそーゆう意味なのに全然気付かなかったことにちょっとドン引きです」

「あっ、そう。察し悪くてごめんね?」

 

 からかうような雫ちゃんの言葉に、百瀬先輩はきまりが悪そうな顔をした。

 それからこちらを向いて、

 

「そういうことで。大河が嫌じゃなければ俺と雫の方で頼んでみるけど、どうだ?」

 

 と尋ねてきた。

 そうやって、と思う。時々三人が一緒に暮らしていることを思い知らせるのは、やめてほしい。そんなこと考えないって決めたのに、考えている場合じゃないのに、考えてしまいそうになる。

 

 ふと頭をよぎったのは、ミスコンのときに綾辻先輩と話したことだった。

 舞台袖で。

 話すというより一方的に話されただけだけれど、今も頭に強く残っている。

 

『あ、入江さん。ちょうどいい機会だから、あなたに言っておくよ』

『……何を、ですか?』

『この前、友斗のこと好きじゃないって言ったの。あれ、訂正する』

 

 薄暗がりの舞台袖で、ネクタイを着けている綾辻先輩を見て。

 あぁ百瀬先輩はネクタイを着けていなかったな、と私は思い出して。

 

『私は友斗が好き。大好き。あなたも、そうなんでしょ?』

 

 その問いに答える間もなく、綾辻先輩は舞台に出た。

 スポットライトを浴びて、そして姉に勝った。私が今ぶち当たっている壁を、打ち砕いた。

 

 あれから、綾辻先輩とは話していない。

 百瀬先輩に言われたのに。

 

「嫌です」

 

 気付けば私は、言っていた。

 

「嫌って……まぁ気持ちは大いに分かるけど。でもそこを何とか――」

「違います、綾辻先輩に助けていただくのが嫌なわけではありません。ご助力いただけるなら、むしろとても嬉しいです」

「なら、何が嫌なんだ?」

 

 正しいことを、すべきだと思ったから。

 私は答える。一歩踏み出して。

 

「綾辻先輩とは私が話します。私が頼んで、それで断られたときは……ごめんなさい。別の方法を一緒に考えてください」

 

 

 ◇

 

 

「綾辻先輩。少しお時間をいただけませんか」

 

 そして、火曜日。

 私は昼休み、二年A組の教室にやってきた。ギャルっぽい服装の二年生とお弁当を食べている綾辻先輩の姿が意外に思えて、少し怯んだ。

 それでもめげずに言うと、綾辻先輩の目尻がきゅっと垂れる。

 

「……私と?」

「はい」

「今、お昼食べてるんだけど」

「それは……っ、お食事中すみません。終わるまで待ちます」

「それはそれで嫌なんだけど」

 

 くしゃっと怪訝に顔を歪めると、綾辻先輩の視線は百瀬先輩の方に飛んだ。

 どうしてこの子を仕向けたのか。

 そう咎めるような目に、しかし、百瀬先輩は肩を竦めるだけで何も答えない。

 

「みおちー、行ってあげなよ。みおちーのファンかもしれないよ?」

「それはない。っていうか私、この子嫌いだし」

「みおちーがそこまで言うなんて……つまり、気に入ってるってことか」

「私をツンデレ扱いするのやめてって言ってるじゃん」

「でも実際そーでしょ?」

 

 隣にいた先輩がからかうように言うと、綾辻先輩は小さく溜息をついた。手元のお弁当を片付け始めると、こちらを無愛想に一瞥する。

 

「どこ?」

「えっ」

「場所。どこで話すの」

「え、えっと……屋上で」

「そ」

 

 私の知る綾辻先輩よりも無口で、冷たくて、けれど不確かな感じは見当たらなかった。きっとこれが綾辻先輩の素なのだろう。

 来てくれることだけは、なんとか伝わった。ほっと安堵すると、逆にずしんと体が重くなったような気もした。

 

「鈴ちゃんも、みんなも、ごめん。今日はちょっと行ってくる」

「うん、それがいいよ! みおちーもたまには先輩してきな」

「ん。別に、この子を後輩だとは思ってないけどね」

 

 綾辻先輩は友達らしき人に言うと、ずんずん進んでいった。

 私もその後を追う。

 きちんと話す。そう、決めて。

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