【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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6章#34 You

 SIDE:大河

 

 今まで、一度たりとも姉に勝てたことがない。

 否、より正しく言えば、誰かに勝てたこと自体がないのだと思う。私の取り柄は真面目さくらいのものでしかなかった。

 

 小さい頃、男の子は言ってくれた。

 私は私のままでいい、って。かっこいいと思う、って。

 

 あの言葉を握り締めて、私は真面目に生きてきた。

 そのおかげだろうか。親戚は未だに私の髪を見て顔をしかめるけれど、以前のようにあからさまな扱いをされることはなくなった。

 中学校の教師にも私の髪を見て不真面目だと断じる先生がいたけれど、真面目な生活態度を貫くことで、見直してもらえた。

 

 思えば、その先生に言われたのだ。

 生徒会長になってみないか、と。

 その先生は生徒会の顧問で、私に目を付けてくれたらしい。ちょうどそのとき姉が一年生なのに高校で生徒会長に立候補していると聞いていたから、その提案を受け入れてみることにした。

 

 そして――負けた。

 

 真面目であることは、何の評価基準にもならない。

 私よりも人気だった同級生が生徒会長になるのを見て、悔しさよりも先に納得が胸を埋めた。

 

『胸を張って、誰も追いつけない速度で駆け抜けるの』

 

 姉さんの言葉が頭をよぎる。けれど、私にも支えがあった。それが美緒さんの言葉。いつか私をヒーローにしてくれる人と出会える。そんな言葉を信じて、私は太陽のように在ろうと頑張った。

 

 そして、高校。

 入学してすぐ、雫ちゃんと仲良くなった。

 雫ちゃんは人を惹きつける魅力がある子だ。キラキラと眩しくて、傍にいると落ち着けて、いつでもみんなを照らしている。

 お日様の雫みたいな女の子だと思った。

 

 それから紆余曲折あって、百瀬先輩と出会った。

 最初の印象は、ちっともよくなかった。そのなのに、いつからか惹かれていた。

 

『いいじゃん、1位。よく頑張ったな』

 

 誰も見てくれなかった私の頑張りを、見つけてくれて。

 

『お前は、入江大河でしかないだろ。入江恵海でも、他の誰かでもない。誰かの代わりになんて、誰もなれはしないんだよ』

 

 姉さんを追いかけ続けて迷子になりかけた私の手を取ってくれた。

 

 日に日に想いは膨らんでいく。

 そして、百瀬先輩が昔であった男の子だと知って――私はあの人のヒーローになってあげたい、って思った。

 

 そのためだから、と。

 私はあのとき親友の好きな人を好きでいることを、許容したのだ。

 

 それなのに、夏を超えても、想いは消えてくれなくて。

 夏祭りのときも、文化祭準備のときも、一緒に回ったときも、ずっとずっとドキドキしていた。

 

 この想いは捨てないといけない。あの優しいけれど不器用で仕方がない不恰好な人を、これ以上困らせるわけにはいかないのだ。

 雫ちゃんと、百瀬先輩と、綾辻先輩。

 いつだって恋は多くても三角形で、それ以上ではいけないから。

 

 それでも私は、百瀬先輩の手を離したくなかった。

 だから生徒会長を目指した。恋心を憧憬で上書きして、生徒会の仲間として関わりたかったから。

 

 けれども、そんな私に姉さんが立ち塞がった。

 姉さんだけじゃない。霧崎会長も、如月先輩も立ち塞がって、折角見つけた逃げ道に通行禁止の看板を立てた。

 

 きっと、と思う。

 その瞬間までの私には、まだ甘えがあった。百瀬先輩に選挙を手伝ってもらって、そのなかでもしかしたら想いを捨てずに済む道が見つかるんじゃないか、なんて。

 

 けれどもそんな風に甘えていては、逃げ道を通ることすらできないから。

 雫ちゃんに頼って、綾辻先輩にも頼って、いよいよ完全に想いを封じ込めた。

 

 それなのに。

 百瀬先輩が二人と仲良さそうにしているのを見て、千切れてしまうくらいに苦しかったのに。

 それだけ苦しんでもなお、届かなかった。

 

 私はやっぱり、一番になれなかった。

 

『ごめんなさい。今日は、帰ります。百瀬先輩に会わせる顔がないです』

 

 昨日、帰り際に告げた言葉を思い出す。

 本当は、会わせる顔がなかったんじゃない。あのとき百瀬先輩と話してしまったら、どうしようもなく甘えてしまいそうだったのだ。

 だから突き放して、それからはずっと、一人ぼっちで部屋に蹲っている。

 

 ぶるる、ぶるる、ぶるる。

 

 定期的なスマホのバイブレーションは、そのどれもがRINEの通知だ。

 メッセージの送信主は百瀬先輩。閉じればいいのに、私はトーク画面を何度も何度も、縋るように眺めてしまう。

 昨日からずっと、百瀬先輩はメッセージを送り続けてくれる。

 私はずっとずっと、無視をし続けているのに。

 

「本当に、会わせる顔がなくなっちゃうなぁ……っ」

 

 口にして、初めて寒気がした。

 このまま無視し続ければ、本当に会いにくくなる。百瀬先輩は素敵な人だから、私なんかに構わなくても、きっと何も問題はないだろう。

 だからいずれ慣れて、馴染んで、私は百瀬先輩に関わってもらえなくなる。

 

 元からそういう関係だった。

 昔の私がどれほど百瀬先輩と友達だったとしても、今のあの人にとっての私は部外者でしかないから――。

 

 なのに怖い。

 怖くてしょうがない。

 一人になりたくない。離れたくない。

 あの三人と一緒に、いたい……っ。

 

【ゆーと:今日、家行ってもいいか?】

【ゆーと:会いたいんだよ。どうしても今日、話したい】

 

 トーク画面に投下された二件のメッセージを見て、心が揺れた。

 会いたい。会いたい、会いたい会いたい――。

 

【大河:嫌です】

 

 何が会いたい、だ。

 会っていいはずがない。

 

【ゆーと:そっか】

【ゆーと:でももう着替えたから家出るわ】

【大河:何を言ってるんですか】

【大河:意味不明です】

【ゆーと:大河はしっかり者だから分からないかもしれないけど、休みの日に外行きの服に着替えるのって凄い怠いんだよ。折角着替えたのに今更諦めるとかありえない】

 

 ……っ!

 強引だった。七夕フェスの前、看病しに来てくれたことを思い出す。

 来ると言ったら、あの人は来る。

 

「どうしよう……」

 

 ふと見遣った部屋は、ちょっとなんて言葉じゃ足りないくらいに散らかっている。

 布団は出しっぱなしだし、昨日の夕食や今日の朝食分の食器だって洗っていない。最近は忙しかったから服も脱ぎ散らかしていて……っていうか、そもそもパジャマから着替えてもいない。

 

 いや、本当にどうしよう……!?

 百瀬先輩の家からここまでは、徒歩30分もない。あっという間に着いてしまう。着替え、洗い物、掃除、それから――。

 

「――って、気にしなくきゃいいのにな」

 

 と、冷静になって自嘲する。

 そうだ、気にする必要なんてどこにもない。

 百瀬先輩が来たら追い返せばいい。男女で部屋に二人っきりだなんて、雫ちゃんにも綾辻先輩にも申し訳が立たない。

 万一、いや億一部屋に上がられてしまったとしても、だらしない女だと思われて何が悪い? どうせ恋愛対象になんてなれないのだから、開き直ってしまえばいいのだ。

 

「や…だ、なぁ……。百瀬先輩に、嫌われたくないよぉ」

 

 可愛いって思われたい。

 ちゃんとしてるって思われたい。

 いい子って言ってほしい。頑張ってるなって感心してほしい。

 あぁ、ダメだ。どんどん欲が湧いてくる。

 

【大河:家で二人になるのは嫌なので、公園でお願いします】

【大河:前に行った公園、覚えてますか?】

 

 苦し紛れに打てたのは、こんな逃げの一手だった。

 つくづく私は、逃げるのに慣れている。負けて、負け続けて、負け犬根性がついているんだ。

 そう、自分を嘲っていると、

 

 ――とぅるるるるる

 

 と、着信音が鳴り響いた。

 えっ……()()()

 かけてきているのは、百瀬先輩だ。なんで、と思いつつも、半ば無意識のうちに私は電話に出ていた。

 

「も、もしもし……?」

『私メリーさん。今、あなたの家の前にいるの』

「へっ!?」

 

 メリーさん……!?

 というか、家の前ってなにっ?!

 意味が分からずにいると、電話の向こうから、くすくすと笑い声が聞こえた。

 

『あー、おっかしい。なんだその間抜けな声』

「間抜けって……百瀬先輩が悪いんじゃないですか!」

『そうやって何でもかんでも責任転嫁するとろくな大人にならないぞ』

「そういうことはろくな大人らしい言動をしてから言ってください」

『やだよ。俺はまだ18歳にもなってないんだぞ。未成年のうちは、精一杯子供を満喫したいんだよ』

「~~っ。そうやって、屁理屈を……!」

 

 意味分かんない。

 どうして急に来たの?

 っていうか、さっきのメッセージのときには既に家を出てたの?

 分かんない、分かんない、分かんない!

 

 けどそんなぐちゃぐちゃのなか、一番最初に出てきたのは、

 

「パジャマから着替えてませんし、化粧もしてませんし、部屋も散らかっているので、30分後に出直してください」

 

 なんて台詞だった。

 電話の向こうの百瀬先輩が、くしゃっと笑う。

 

『パジャマのままでも、化粧してなくても、部屋が散らかってても、大河は俺の可愛い後輩だぞ。俺はすっぴんの大河と話したいんだけどな』

「……もしかしたらそれかっこつけているつもりなのかもしれないですが、これはかなり真剣なので本当に出直していただいていいですか? 少しはデリカシーを身に着けてください」

『あっ、そう……ごめんね空気読めない奴で。ここで待ってるのは――』

「やめてください。音聞こえるでしょうし」

『りょ、了解です……思いのほか元気あるんだなぁ』

 

 百瀬先輩のおかげです、とは言わないでおいた。

 代わりに、

 

「百瀬先輩のせいです」

 

 と言って、私はてきぱきと支度を始めた。

 本当に……なんでこんなことになってるんだろ。

 

 本当に……なんでこんなに嬉しいんだろ。

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