【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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7章#02 修正

 SIDE:時雨

 

 10月も下旬を過ぎて、とうとう生徒会役員選挙は終わりを迎えた。

 彼とあの子がたどり着いた結論は、概ねボクが思い描いていた通り。本当はボクに二人が勝ってくれた方がよかったけれど、今の彼とあの子にそこまでのことができるとは思っていないから、しょうがない。

 

 ふわ、ふあり。優しく吹いた風が髪を靡かせる。

 風も、だいぶ冷たくなってきた。あと2か月でクリスマスだ。これからか日増しに冷たくなっていくことだろう。

 トワイライトタイムの校庭を屋上から眺めて、部活動の熱気を感じる。

 

 部活動に所属したことはない。助っ人を頼まれて参加したことはあるけれど、あくまでそれは『外』の存在で、『内』ではない。

 ボクにとっての『内』はいつだって家族だけ。

 だから彼とあの子は、ボクの大切な存在だった。

 

「待たせたわね」

 

 きぃぃと軋む扉の音とともに、素敵な女の子が屋上に足を踏み入れる。

 ツンケンした声に苦笑しつつも振り返れば、そこには恵海ちゃんがいた。

 

「ううん、待ってないよ。今来たとこ」

「……カップルみたいなことを言うのやめてくれないかしら。虫唾が走るわ」

「ふふっ、つれないなぁ。いいじゃん百合カップル」

「……よくないわよ。特にあなたとは、絶対に嫌」

 

 恵海ちゃんは眉間にぐっと皴を寄せ、拒絶してくる。つまんないなぁ。ボクは結構、恵海ちゃんのこと好きなのに。

 

「せっかく恵海ちゃんの頼みを聞いてあげたんだし、もうちょっと優しくしてくれてもいいのに。一緒に戦いあった仲でしょ?」

「嫌よ。報酬は、時雨って呼ぶことだけ。あなたと必要以上に仲良くなる気はないわ」

「ちぇっ。妹ちゃんみたいに、もうちょっと素直になればいいのに」

 

 ボクは頬を緩めて言いながら、屋上のフェンスに寄り掛かった。

 何かに寄り掛かるときの、浮遊感とも脱力感ともつかない不思議な感覚が好きだ。この世界に存在しない何かか、或いは雲みたいになった気がするから。

 

 それも嫌よ、と呟く恵海ちゃんをよそに、ボクは夏休みのことを思い出す。

 厳密には、夏祭りの日のこと。

 

 

 ◇

 

 

 入江家が実家の近くにあることは、当然だけど知っていた。毎年恵海ちゃんとは夏祭りに会っていたし、その度にムッとされていたから。

 あの子たちが話があると言ってどこかに逝くのを見て、ボクもお父さんたちに「友達に会ってくる」と告げて一人で夏祭りに飛び出した。向かう先はもちろん恵海ちゃんのところだ。幸いなことに、彼女とはRINEのIDを交換していた。

 

「今年も会いたいんだけど、どこにいるかな?」

 

 突然かけた電話に出てくれた時点で、会ってくれる気があるのは察しがついていたけれど。

 

『神社の入り口に行くわ』

 

 と、返ってきた声は思いのほか陰鬱で、少しだけボクは驚いた。

 分かったよと告げて神社の入り口で待つこと数分。

 外人さんが和服を試してみているみたいな華やかさのある恵海ちゃんの着物姿にくすっと笑いつつ、彼女と夏祭りを回った。

 

「今年は、すぐにどっかに行っちゃわないんだね。嬉しいなぁ。もしかして、今年が最後だから?」

「……別に。だいたい、今年で最後というわけじゃないでしょう? 大学も同じなのだから」

「ん? あー、そっか。言われてみればそうだねぇ」

 

 大学――それは、遠い未来のことのように思えた。

 彼には実感があるものだとばかりに語ったけれど、刹那を生きるボクにはそんな未来のことは分からない。

 まぁ。きっとこのまま推薦を貰って大学に行くだろうから、恵海ちゃんの言っていることは間違いではないはずだ。

 

「ねぇ霧崎時雨。前に、自分には妹がいた、と言っていたわよね?」

 

 未来のことを考えて苦笑していると、探るような口調で言われた。

 恵海ちゃんには、そんなことを話したこともあったっけ。けれどそのときは、

 

「妹っていうか、妹みたいな親戚だよ」

 

 と表現したはずだ。

 そうだったわね、と呟く恵海ちゃんを見て、ボクは彼女が誘いに乗ってくれた理由を悟る。なるほどね。

 

「恵海ちゃん、さてはボクに相談したいことがあるね?」

「っ……そうよ。悪い?」

「んーん、悪くないよ。恵海ちゃんの話、聞きたいな。聞かせてくれる?」

「……えぇ」

 

 昏い顔のまま恵海ちゃんが話してくれたのは、姉妹の話だった。

 妹が自分に劣等感を抱いて、それゆえに話そうとしてくれない。このままでは妹は苦しむし、姉妹の仲は一向によくならない。それは嫌だ。

 だから妹に、自分を乗り越えてほしい。

 そんな、ともすればチープに聞こえる話を、ボクは懐かしさを感じながらうんうんと相槌を打って聞いていた。

 

「霧崎時雨ならもしかしたら私と似たような悩みを抱えているんじゃないか。そう思ったのだけれど……その様子を見るに、違ったみたいね」

「ん? そうだね。あの子はそんな風に劣等感を抱える子じゃなかったかな……」

「そう。ごめんなさいね、訳の分からない話をしてしまって」

「ううん、面白かったよ。本当にシスコンなんだなぁ、って思った」

 

 くつくつと笑って見せると、恵海ちゃんはムスッとした。

 もういいわと言ってどこかに行ってしまいそうなテンションだったので、ボクは慌てて口を開く。

 

「あの子は、恵海ちゃんの妹とよく似てたよ。きっと一人なら、恵海ちゃんの妹と同じように悩んでたと思う。もちろんボクの本当の妹じゃない分、幾らかマシだったはずだけどね」

 

 言うと、恵海ちゃんは目を細めた。

 

「なら……あなたの妹分とうちの大河には、どんな違いがあるの?」

 

 ほんと、前のめりだなぁ。

 こういうところが似てるんだと思う。類は友を呼ぶ、けだし至言だ。

 

「敵と味方がいるかいないか、じゃないかな」

「えっ……?」

「敵と味方、だよ。恵海ちゃんは妹ちゃんの敵になりきれてない。妹ちゃんが一人で恵海ちゃんと張り合ってるだけだから」

「それは……確かに、そうかもしれないわ」

「それに、妹ちゃんの隣に立ってくれる絶対的な味方もいない。少なくとも本人はそう思ってる。だから――あの子は、一人ぼっちなんだよ」

「……っ。そうかしら?」

「うん、そうだよ。ボクの見立ては間違ってないはず」

 

 本当は、あの子は一人ではないけれど。

 本人がそう思ってしまえば、世界は閉ざされてしまう。

 

「だったら……私は、どうすれば?」

「どうすればいいんだろうねぇ。それは、今は分からないかな」

「何よそれ。ここまで言っておいて、分からないだなんて……無責任ね」

「まぁね」

 

 肩を竦めると、恵海ちゃんは大きく溜息をついた。

 あーあ、また一つ幸せが逃げちゃった。

 ボクは、もったいないなぁ、と思いつつ、髪を耳にかけながら言う。

 

「ま、考えておいてあげる。恵海ちゃんも、妹ちゃんも、ボクにとっては大切な存在だからね」

 

 

 ◇

 

 

 ――そして、今。

 恵海ちゃんと大河ちゃんは対話を終えて、そのお礼という形でボクは恵海ちゃんに呼び出されているのだった。

 

「時雨のおかげで私はあの子の敵になれて、ちゃんと姉妹になれた。そのことは感謝しておくわ」

「うん、律儀だね。そういうところは大河ちゃんに似てる」

「借りを作りたくない相手には殊更形式にこだわる主義なの。変につけこまれたら大変でしょう?」

 

 恵海ちゃんは皮肉に頬をつり上げる。

 

「酷いなぁ。今回は正真正銘の共闘だよ? 共闘した親友相手にそんな詐欺まがいのことしないって」

「どうかしらね。あなたの言葉は、信用ならないのよ。まるで幽霊みたいで不気味」

「そんなこと言うなら絶交だよ?」

「えぇ、ぜひ」

「即答!? 恵海ちゃんは恵海ちゃんでボクのこと嫌いすぎないかな……?」

 

 そんなことはないわよ、と呟く恵海ちゃん。『そんなこと』は『嫌い』の方を指しているのか、それとも『すぎ』を指しているのか。前者ならいいな、と思った。

 

「そんなことより……ボクの従弟はどうだった? 彼を品定めするのも、恵海ちゃんの目的だったでしょ?」

「ああ、そのことね」

 

 拗ねるようにそっぽを向いてから恵海ちゃんは答える。

 

「悔しいけれど、確かにあの子とお似合いかもしれない。そうは思ったわ」

「おお、よかった」

「けれど、他にも二人、彼の隣にいる子がいる。あの子はきっと、そのことに苦しんでいたわ。時雨も気付いていたわよね?」

 

 やや咎めるような口調。

 ボクは苦笑いをして、そうだねぇ、と呟いた。

 

「確かに澪ちゃん――ああ、妹ちゃんの推薦人をした子ね――は、彼の隣にいるね。彼のことを想っているし、隣にいる」

 

 綾辻澪、もとい百瀬澪。

 ボクらの大切な妹によく似た、もう一人の女の子。

 あの子の()()()を持つ、まるで運命みたいな女の子だ。

 

「二人とも彼にお似合いで……ふふっ、従姉としてはちょっと複雑だね。従弟が女の子に人気者だなんてさ」

 

 けれど、あの三人がボクは好きだ。

 まるであの頃を思い出すみたいな気がするから。

 

 だから――

 

「二人? 三人の間違いだと思うのだけれど」

「ううん、間違ってないよ。彼を入れて、ようやく三人」

「…………あなたの言っていること、よく分からないわ」

 

 渋い声で言う恵海ちゃんに、だろうね、とボクは答えた。

 そう簡単に分かるはずがない。分かってたまるものか。

 

 運命の神様が仕組んだ、皮肉な再会。

 そのおかげで色を取り戻してくれたボクの世界の話なんて、彼以外が分かるはずがない。

 

「大丈夫だよ。大河ちゃんを傷つけたりしない。

 あの子はボクの、大切な女の子だからね」

 

 ボクはもう、何もしない。

 一緒にいるべき三人が一緒になったら、あとは自然と運命が修正してくれるはずだから。

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