【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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1章#24 うちの妹が可愛すぎる

 新学期も一週間が過ぎ、4月も中旬に移行していた。

 昨日までの雨とは対照的に、空は痛々しいまでに晴れている。台風一過というやつかもしれない。いや、昨日までの雨は台風ではなかったけど。

 そういえば小さい頃、『たいふういっか』という言葉を聞いて『台風一家』と脳内変換したな、と思い出す。

 

 無知は怖いけど、同時に可笑しくて面白い。

 でも無知でいたいとは思わない。だって無知ゆえに誰かに迷惑をかけてしまったら後悔するはずだから。

 

 何が言いたいかと言うと――

 

「マジすみませんでしたぁぁぁっ!」

「ほんとありえない。私が声をかけなかったら帰るつもりだったでしょ」

「その通りでございます。言い訳のしようもございません!」

 

 百瀬友斗、16歳11か月。

 俺は全力で謝罪をしていた。謝罪を受けている綾辻は、廊下を歩きながら頭を下げる俺にゴミを見るような目を向けてくる。

 普段ならばあまり向けられたくはない目だが、今日ばかりは甘んじて受け入れるほかなかった。何しろ、今回は俺に100%非があるのだ。

 

 話は数分前に遡る――。

 

 

 今日は俺が料理当番なので、前のように雫を釣るスイーツでも買って帰ろう。そんな風に考えていたときだった。

 どこか困惑した様子の綾辻がやってきて、俺に告げたのだ。

 

「ねぇ帰っちゃうの?」

「え? あ、あぁ……帰るぞ?」

 

 帰っちゃうの、という一言の破壊力は推して知るべし。

 俺が言葉に詰まりつつも答えると、綾辻は顔をしかめた。

 

「困るんだけど。なんか予定あるの?」

「え……? 別に、ないけど」

 

 少なくともここで話せるような用事はない。というか、綾辻はどうしてこんなこと言ってくるん?

 首を傾げた俺をじっと見つめ、綾辻は小さく溜息を吐いた。

 

「放課後、学級委員会あること忘れてるでしょ」

「あ゛」

 

 そういえば数日前、学級委員会がある旨を担任が言っていた気がする。時雨さんに頼まれている仕事とかとごっちゃになって、うっかり忘れていた。

 

「……最低。自分が巻き込んだくせに」

 

 お腹にずしっとくる一言を残し、綾辻はトテトテと会議室に向かった。

 その不機嫌な横顔が目に入った俺は、現在、こうして謝罪しながらついていっているというわけである。

 無知はよくないね、うんうん。今回の場合は無知じゃなくて愚かかもしれないが。

 

 こんな風に謝りながら歩いているおかげだろうか。

 それとも綾辻の上に二人、校内に可愛い子がいるからか。

 綾辻と並んでいても、それほど周囲の視線が気になることはなかった。まぁ、謝罪しまくっている俺にドン引きしている奴らの視線はチクチク刺さってきたけど。

 

「あ、綾辻さん? そろそろ機嫌を直していただけるとありがたいんですが。ほら、いちごオレ」

「私、いちごオレよりヨーグルトの方が好きだけど。むしろいちごオレ嫌い。虫が着色料だって言うし」

「うん、はいマジでごめんね?」

 

 おのれ、10円高いいちごオレにしたのが裏目に出てしまったか……。

 ちなみに、確かにいちごミルクなどの赤色の食用着色料として用いられるコチニール色素は虫から抽出しているが、そんなことを言い始めると他の色んなものも食べられなくなるゾ!

 

「というか、思ったんだけど」

「なに? 購買で焼きそばパン買ってくる?」

「この時間は開いてないでしょ……そうじゃなくて。そろそろ『さん』付けやめてもいいんじゃない?」

「あー」

 

 そのことか、と納得する。

 二人きりのとき以外、俺は綾辻のことを『さん』付け、綾辻は俺のことを『くん』付けで呼んでいる。表向きはほぼ初対面なので、距離を保った方がいいと考えた結果だった。

 だが、もう一週間強が経っている。コミュ障でもない限り、お互いに『さん』『くん』を外して呼べるくらいには距離を縮めることができるくらいの長さだろう。

 

「了解。じゃあ今後は綾辻で行くわ」

「ん。言っておくけど、今の会話をしたから忘れてたのがチャラになるわけじゃないからね」

「ですよね! 今度ちゃんと埋め合わせはしますごめんなさい!」

 

 俺が叫ぶと、綾辻はふふっと笑った。

 このドSめ……。

 それでも、本気で怒っている感じではなかったことに安堵する。学級委員に無理やり引きずり込んだのは事実だし、迷惑をかけるのは本意ではない。

 

 暫く歩いていると、やがて三階の第二会議室に到着する。

 隣には馴染みのある生徒会室、逆側には放送室がある。校内には会議室が幾つもあるが、第二会議室は専ら生徒の活動に用いられる。学級委員らしき生徒が既に結構な人数集まっていた。

 

「あっ、お姉ちゃん! それと先輩もっ!」

 

 会議室に入り、まだ半分ほどしか来ていないのを確認していると快活な声が聞こえた。

 振り向けば奴がいる。

 というおふざけはさておいて、何故かそこには雫がいた。

 

「雫……どうしてここに?」

「ふっふっふー。それはね、お姉ちゃん。私も学級委員になったからなのです!」

 

 えっへん、と胸を張る雫。

 ブレザーの膨らみが強調されると、さっきまで雫の隣に座っていた男子が恥ずかしそうに目を逸らした。彼が雫のクラスの男子学級委員のようだ。分かりやすく真面目な男の子って感じ。

 

「お姉ちゃんと先輩がやるって聞いたからねー♪ 一緒にやりたいなって思って」

「どうしよう、百瀬。うちの妹が可愛すぎる」

「知るか。まぁ気持ちは分からなくもないけど」

 

 もっと言うと、君たち姉妹が可愛い。実に百合百合しい光景に癒されている生徒は会議室の中だけでもチラホラいるので、俺はこっそり距離を置いておく。

 綾辻の場合、雫がいることで余計に人気が高まっているんじゃないかと思えてくる節がある。前は無表情な奴だと思っていたが、最近は随分と感情も読み取りやすくなったもんな。

 

「でもよかったのか? 学級委員は大変だって言ったのはお前だろ」

 

 綾辻を学級委員にした日の会話を思い出したので聞いてみる。

 後日生徒会室でこの話をしたら、時雨さんが「んー、ボクからするとそこまで大変じゃないとは思うけど。でも慣れてない人からすると大変なのかも。そういうところに理解が及ばないのはボクの欠点だね」と言っていた。他の生徒会のメンツが苦笑いしていたのを覚えている。

 

「んー、まぁそれは頑張るしかないかなーと。先輩もいますしね」

「別にお前の仕事を肩代わりするつもりはないぞ?」

「いえ。先輩がいれば私が怠けててもバレないかなーって」

「俺は別にサボらないからなっ?」

 

 きょとんと驚く雫。人目がなければデコピンの刑に処してやるところだった。

 全くこいつは俺をなんだと思っているのか。先輩として慕ってくれてはいるのは分かるけど敬う気持ちがちっとも感じられないんだよなぁ。

 

 くすくすと微笑んだ雫は、冗談ですよ、と小さく呟く。

 

「先輩が何かとお節介なのは知ってますしね」

「さいですかい」

「照れてます?」

「照れてません。そろそろ時間だし座りなさい。先輩命令です」

 

 いちごオレを押し付けながら言うと、雫はこてっと首を捻った。

 

「私もそのつもりですけど……先輩、これは?」

「綾辻に買ったんだけど拒否られた。着色料が虫だからって」

「ぷぷっ。先輩ざまぁです!」

 

 元気よく言い残し、雫は席に戻っていった。

 黒板に書かれている席順を確認し、俺も綾辻と共に席につく。

 ……雫は一年A組なので、隣同士なんだけどな。綾辻を挟んで俺、綾辻、雫、眼鏡の真面目クンという順番だ。

 

「お姉ちゃん、いちごオレ美味しいよ。一口飲む?」

「……いらない」

「そっか。ほんとに美味しいのに」

「美味しくても無理なものは無理なの」

 

 綾辻と雫が姉妹らしく言葉を交わす。

 そんな光景を隣で見ていると、なんだか本当に二人のマネージャーみたいな気分になった。

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