【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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7章#13 ハロウィンナイト

 いつも通りトレーナーに着替えてリビングに降りる頃には、7時半になっていた。

 キッチンからは何だかとてもいい匂いがする。が、あいにくと匂いを嗅いで何を作っているか分かるほど本能で生きているわけではないため、『いい匂い』としか言えない。我ながらボキャ貧である。

 

 まだ出来上がったわけではなさそうなのでソファーに座り、ぼーっとキッチンに立つ三人を眺めていることにした。行動がおっさんだとか言わないでほしい。美少女三人がいたら、ついつい見ちゃうでしょ?

 

 じゅーじゅー、と何かを焼くような匂い。

 とんとん、とんとん、丁寧に何かを切る音。

 

 それほど広くはないキッチンで三人が夕食を作っている光景は、とても微笑ましくて和やかだ。

 普段も雫や澪がキッチンで作っているし、時たま当番とか関係なしに二人で作っているのだから、賑やかなキッチンが新鮮なわけではない。

 

 でもやっぱり、二人と三人では違う。

 包丁で何かをとんとんと素早く切っている澪と鍋と睨めっこし、調味料を加えている大河。フライパンで作業をしている雫がその二人に挟まり、わいわいと話していた。

 

「トラ子。そっち、もうすぐできそう?」

「……できそうです。澪先輩はどうですか」

「そ。いつまでも味を確かめてないでさっさと仕上げに入ってよ。お腹空いたんだから」

「分かってます……けど、微妙な味のまま仕上げてもしょうがないじゃないですか。家で使ってる調味料と違うので、少し感覚が違うんです」

「出た言い訳。本当に腕がいい人は環境のせいにはしないものだよ」

「~~っ!」

「お姉ちゃんはどうして当然のように大河ちゃんにケンカを売りに行くの!?」

「別に売ってないよ、雫。私は事実を言ってるだけ」

「あ~もう~! 大河ちゃんも、急がなくていいけど、あんまり神経質になりすぎなくていいからね? もう充分美味しそうだし!」

「う……雫ちゃん、ありがと」

 

 ……ワイワイっていうより、バチバチって感じもするが。

 まぁ澪がああやって強く当たるのも、大河が馴染めるようにっていう配慮なのかもな。あと普通にお腹空いてそう。俺も結構空腹だし。

 

 そんな感じでぼーっと眺めること暫く。

 三人の料理が程よく完成し始めているのを察した俺は、先にできる準備をしてしまうことにした。テーブルを布巾で拭き、四人分の箸を用意する。見た感じスプーンやフォークが必要そうな感じではなかった。

 

「あ、先輩。手が空いてるようなら、ご飯よそってもらってもいいですかー?」

「おう了解。残ってるご飯は……なかったよな」

「ですです。四合炊いたので今日は余るかもですけど」

 

 雫に頼まれて、四人分のお茶碗を用意し、炊飯器を開ける。

 もわっといい匂いのする湯気が立ち、ほかほかなご飯が顔を出した。

 俺は最後の晩餐に迷わず白米を選ぶほど純日本人ではないが、それでも白米は好きだ。ちなみに米の品種には澪がうるさく、そして詳しい。和食には何故か並々ならぬこだわりがあるんだよな……。

 

「雫と澪はいつも通りの量でいいか?」

「ん」

「オッケーです」

「うい。大河はどれくらいがいい? 結構食べられるか?」

「えっと……はい。雫ちゃんと同じくらいでお願いします」

「了解」

 

 そういう言いながらご飯をよそっている間に雫たちの支度も終わったようだ。一品一品がテーブルに並べられる。

 三人で作っていたが、別に品数が多いというわけではないらしい。

 バランスよく、一汁三菜より一品だけ多い感じだ。

 

 義母さんが使っている椅子(といってもほぼ使われてないが)に大河が座り、四人で食卓を囲んだ。

 

「じゃあ……いただきます」

「「「いただきます」」」

 

 四人で手を合わせ、口々に言って食べ始める。

 メニューは四品。

 和風ハンバーグ、煮物、味噌汁、それからよく分からない炒め物。野菜とじゃこ、大根が混ざっていた。ついでに、だし巻き玉子もある。

 

「おお、ハンバーグ作ったのか……」

「ですです。三人でこねたんですよー!」

「ほーん」

 

 なんつーか、それは凄い和むな……。

 例の如く数日分残してあるんだろうし、明日からも楽しみだな。

 そんなことを考えつつ和風ハンバーグを口に運ぶ。

 

「ん~、美味い。いいなこれ」

「ふっふー♪ お姉ちゃんと大河ちゃんにも味見手伝ってもらったんです!」

「そっかそっか」

 

 ほんのり甘く、そしてしょっぱい。お皿に添えてあった大根おろしを乗せて食べると僅かにぴりりと辛みも足され、めっちゃご飯が進む。

 箸休めのようにだし巻き玉子を切って食べると、これもまたとても美味かった。もう何十回と作ってもらってるんだけど、全然飽きない。俺の好物にカウントしてもいい気がする。

 

 次いで、炒め物にも手をつけてみた。

 食感が面白くて、味も程よく辛めだ。もぐもぐとご飯を頬張ると、

 

「それ、美味しいでしょ。私が作ったの」

 

 と澪が勝ち誇るように言った。

 まぁ味付けの感じからして、澪だとは思った。さっき包丁で切ってたのもこれだろうしな。

 

「おう、美味しい。味濃いめなのな」

「ん。煮物も和風ハンバーグも、味薄めだしね。濃すぎた?」

「いや。ちょうどいいと思うぞ。むっちゃ美味い」

 

 確かに濃いには濃いが、他のものの味が感じにくくなるほどではない。

 ご飯を飲み込んだ後で、なら、と煮物を食べる。ころんと小さめの里芋を口に入れると、ほっこり落ち着くような味がした。

 それほど時間をかけて作ってはいないはずだが、よく味が染みている。

 

「煮物も美味いな。なんか落ち着くわ」

「なら……よかったです」

「ん。ま、美味しいよね」

 

 ほろりと頬を綻ばせる大河の後で、澪もぼしょりと呟く。

 素直じゃないなぁと雫が笑うと澪はばつが悪そうにしていた。

 

「ところで、聞いていいか?」

「なんですか先輩」

「この一品一品というか一人一人にコメントを言っていく感じ、おかしくね? 期待の眼差しを向けてくるから言ってみたけど、俺すっごい上から目線になってない?」

 

 流されてやっていたが、なんかねぇ……?

 雫と澪に至っては同居し始めて半年以上経ってるし、大河の料理だって食べるのはこれで二度目だ。一度目ならともかく、何度も食べてるのにわざわざ感想を言うのは上から目線な感じがする。

 

 俺の言葉を聞き、雫と澪は破顔した。大河もそれにつられてくすくすと笑う。

 

「だいじょーぶですよ、先輩。好きな人に褒めてもらえるのは嬉しいんです。気にせず褒めてください」

「そ、そうですね。ユウ先輩に褒めてもらえたら、頑張った甲斐があります」

「そういうこと」

「……お、おう」

「あ、照れてる」

「やかましい。照れてねぇよ」

 

 いや照れるんだけどね?

 この子たちは、どうしてこうストレートに言ってくるのだろうか。そんな風に言われたら、否が応でも照れるに決まってる。

 こほん、と咳払いをしてご飯を食べ進めようとして、もうお茶碗がほぼ空になっていることに気付いた。

 

「ふふっ。先輩、かしてください。よそってきますよ」

「悪い。さんきゅ」

 

 温かな食卓を囲みながら、ふと思う。

 こんなに幸せでいいのだろうか、と。

 こっちが作ってもらっているのに嬉しそうな笑顔まで見せてもらえるものだから、なんか申し訳ないな、と。

 

 だからこそ、きちんとすべきところはきちんとしないとな。

 

 味噌汁に口をつけながら、俺は改めて決意を固くした。

 味噌汁もうま。

 

 

 ◇

 

 

 結局俺は、いつもよりも多めにおかわりをした。ちょっと食べすぎた感はあるが、美味かったのだからしょうがない。

 食べ終わって洗い物をしている俺をよそに、三人は何やら別の作業をし始めていた。

 

「三人とも、何やってんだ?」

 

 ささっと洗い物を終えてから尋ねる。

 雫はにししと悪戯っぽく笑い、ピースサインと共に答えてくれた。

 

「これからハロウィンのためのお菓子を作るんです!」

「一日中ツッコんでる気がするけど、それってハロウィンなのか……? 趣旨から外れてない?」

「そーゆう細かいことを言ったら負けですよ、先輩。いいんです。大河ちゃんと一緒にお菓子を作ってみたかったので!」

 

 ねー大河ちゃん、と雫に言われ、大河は嬉しそうにこくこくと頷いていた。

 うーむ。まあ、それならいっか。月瀬もクッキー作ってたし、俺もお菓子買ってきてるし。ハロウィンはあくまで建前ってことにしておこう。

 

「ま、そういうわけだから。今日は友斗が先にお風呂入っていいよ。何を作るのかはお楽しみってことで」

 

 それ、いよいよハロウィンのハの字もなくなってない? 焦点がお菓子に当たりすぎじゃない?

 そんなツッコミはもうしつこいのでやめて、澪の言う通りにすることにした。

 

「なら入ってくるわ。えっと――」

 

 そこまで言って、俺は言葉を探す。

 三人の気持ちに少しでも報いる方法はあるだろうか。

 考えて、見つかった言葉を口にした。

 

「――何を作るか分からんけど、楽しみにしてるからな」

 

 三人がふありと笑ってくれたのを見て、こちらまで幸せな気持ちでいっぱいになる。

 そして、そこで気付いた。

 この満腹感はきっと、食い過ぎたせいじゃない。多幸感でもあるのだ。

 

 一人になった脱衣場で、ほぅ、と漏らした息はとても甘いものに思えた。

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