【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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7章#19 お願い

「食い終わったし、次はゴール下シュートをやるかねぇ」

「ですね。今から走る気にはなれないですし、さっきドリブルとかレイアップシュートをやっててよかったかもです」

「それな」

 

 まぁ外したボールを取りに行かなきゃならん俺は結局走るわけだが。

 とはいえこれも雫のためだ。それくらいの労力を厭ってはいられない。食い過ぎたら動けなくなってダサいから、昼は軽めにしたしな。

 

 そんなわけで、ボールをだむだむとバウンドさせ、ゴールを見据える。

 三点シュートならかっこいいんだが、あいにく今日はその練習はしない。一日でどうにかなるとは思えないし、仮に習得できても本番で発揮できるわけがない。

 

「とりあえずお手本を見せるわ。よく見とけよ」

「もちろんです! 先輩のかっこいいところ、ちゃーんと見ておきますねっ」

「煽んな。いいからフォームとか、そっちの方を見ろ」

「むぅ。こんな可愛い後輩に『かっこいい』って言われてるのに何とも思わないだなんて……先輩もすっかりモテモテ状態になれちゃったんですねぇ」

 

 切なそうな声を出し、ぐすんと嘘泣きする雫。

 慣れてるわけねぇだろ。雫の場合は冗談めかして言ってくるのでいちいち反応せずに済むってだけのことだ。

 

 と、こんなことを言っていてもしょうがない。

 こほんと咳払いをし、俺はゴールに近づく。

 だむ、だむ、だむ、だむ。

 体のリズムを整えるようにドリブルしながら狙いを定め、体勢を整えた。

 

 狙う場所はゴールではなく、その後ろのボードだと言われた覚えがある。四角いラインの上側の隅を狙うのだそうだ。

 結局あれってあそこに狙えるだけのコントロールがあるなら誰でも入るだろと思わなくもないのだが、文句を言っていてもしょうがない。直接ネットをくぐらせることができるとは思わないし。

 

 と、考えながら集中して。

 俺はボールを放った。

 アーチを描くボールは、そのままこつんとボードに当たり――ネットをくぐる。

 

「っし!」

「お~! すごいですよ先輩!」

「ふっふっふ、そうだろ? 流石先輩だろ?」

「ですです! 流石は先輩です!」

 

 ……褒められていると、加速度的に空しくなってきた。

 たかがゴール下シュートを決めてここまではしゃぐとかどんだけ球技がダメなんだよって感じだし。

 ゴール下シュートの成功率自体はかなり高いはずだ。まして、今はディフェンスもいなかったし。

 

「こほん……あー、雫。見れば分かる通り、ゴール下シュートの難易度はめちゃくちゃ低い」

「それはなんとなく分かります。先輩が成功してたくらいですしねー」

「ねぇ俺に対して酷くない!?」

 

 まぁ、否定できないんですけどね。

 ということで話を進める。

 

「ともあれ、だ。めちゃくちゃ簡単だから雫でもできる。コツはあれだ。なんか、あの板に当てる」

「うわっ、テキトー……」

「あとはフォームだな。フォーム自体は間違ってないはずだから俺がやってる通りにやってくれればいい。できるか?」

「多分、できると思います。先輩を見るのは得意なので」

「なんだそれ」

 

 俺ってそんなに雫に見られているのだろうか。もしかして盗撮? 部屋で一人でシなくてよかった……とくだらないことを考えつつ、もう一度見てろよ、と告げてシュートする。

 今度も無事入った。よかった。今ので外したら超ださかった。

 

「ま、こんな感じだ。後は分からないところがあったら聞いてくれ。ググる」

「情けないなぁ……でも、やってみます。ちゃんと見ててくださいねっ!」

「おう」

 

 雫にボールを渡し、場所を変わった。

 雫はどむ、どむ、どむとボールをバウンドさせてリズムを整え、ゴールを見遣る。

 行きますよー、と明るい声で言うと、雫はそのままボールを放る。が、力が足りなかったのだろう。ボードの下の方にぶつかり、跳ね返ってきてしまった。

 俺はボールを拾い、雫にパスする。力加減のアドバイスをしてもよかったが、その程度のことは雫も分かっているだろう。勉強を教えているときと同じように、質問されない限りは見守るスタンスを続ける。

 

 そうして五回ほどシュートしたとき、ようやく雫はシュートを決めることができた。

 これが早いのか遅いのかは分からない。

 だがまぁ、見たとおりに体を動かすことができるくらいには雫も器用だ、ということなんだと思う。澪や大河、時雨さんみたいな運動神経抜群な奴ばかりが周りにいるから感覚が狂うだけで、雫だって充分女子高校生としては動ける方なはずだ。

 

「それにしても……」

「んー? 先輩、何か言いましたー?」

「いや、なんでもない。確実に入るまでやるぞ」

「りょーかいです!」

 

 雫がシュートの練習を続ける姿を見ていると、どうにも嫌な自分が出てきてしまう。

 だって……ほら、雫って大きいし。それでもブラ着けて揺れないようにしてるんだろうが、それでも……若干は揺れてしまうわけで。

 男の子ってのは醜いもので、どうしてもそちらに目が引き寄せられてしまう。一生懸命な女の子をいかがわしい目で見ているという背徳感が、なおさらよろしくなかった。

 

 無になろう。

 ボールを返す機械の如く、修行僧のように無心になろう。

 そう一人で考え、練習に付き合っていく。

 

 そして、公園が茜色に染まり始めた頃。

 雫は10本中9本決められるようになっていた。

 肩で息をする雫と時計を見て、そろそろ帰るか、と思う。

 

「雫、お疲れさん。ほれ、飲み物」

「ありがとうございます」

 

 ん、ん、ん、と美味しそうに飲む雫。

 口の端を伝う滴を手で拭い、雫は誇らしげにピースしてきた。

 

「確実じゃないですけど、結構いい感じに入るようになりました!」

「ああ、だな。すごいと思う」

「えへへ~。もしかしたら先輩より上手くなっちゃったかもしれませんね~」

「流石にそうじゃないと願いたいが……否定できないのが悔しいな」

 

 まぁ俺もディフェンスさえなければほぼ確実に入るとは思うが……なんとも言えん。

 

「ま、こんだけやれば球技大会でもそこそこに貢献できるんじゃないか?」

「ですねー。大河ちゃんもいるので、大丈夫な気がします」

「あー、そっか。大河もバスケだって話してたな」

 

 生徒会で球技大会当日のシフトを決めるとき、話していた気がする。自分が出場する競技の手伝いは流石にできないため、それぞれ調整しているのだ。

 と言っても今回は俺と大河と、あと一年生一人しか出場はしないことになったため、それほど困らないのだけど。

 

 雫と大河の共闘か……俺はちょうどバスケの担当だし、ちょっと見るのが楽しみだ。

 

「じゃあそろそろ帰るか」

「そですね。……あ、先輩。その前にアレやりません?」

「アレ?」

 

 ですです、と頷きながら雫がボールをパスしてくる。

 はて、アレとはなんだろうか。

 俺が目を細めると、雫は悪戯っぽく笑って言う。

 

「アレですよ。シュートが決まったら俺と付き合って、的な」

「なるほど、かなり定番だな――って待て。悪いけど俺はまだ告白とかは――」

「分かってますよ。だから今日のところは、シュートが決まったら相手に一つ何でも言うことを聞いてもらえるってことにしましょう。もちろん私もやります」

「それ、趣旨とは違うのでは……?」

 

 お互いにやったら別物な気がする。

 だがそういう野暮なことは言いっこなしみたいだ。雫がムッとするのを見て、分かったよ、と肯う。

 

「なら、俺が先でいいな?」

「はい! さて、私はどんな言うことを聞かなきゃいけなくなっちゃうんでしょうか」

「そうやって煽ってプレッシャーかけるのは卑怯だろ……」

 

 ぶつくさ呟きつつ、さっきまで雫が打っていた位置に立つ。

 言うことを聞いてもらうつもりはないが、ここで外すのも恰好が悪い。最後もきちんと決めて――

 

「「あっ」」

 

 ……外した。

 なんか力んでしまったらしい。

 

「ぷっ……先輩、ださっ」

「なっ、否定できないけども! そこまで言うなら雫は絶対に入れられるんだろうな?」

「もちろんですよ。今日の私の努力を舐めないでください」

 

 ぼーんとバウンドさせて雫にボールを渡す。

 けらけら笑う雫と場所を交代した。

 

「さて、俺はどんな言うことを聞かなきゃいけなくなっちゃうんだろうなぁ」

「そーやって煽り返してくるあたり、先輩はスポーツマンじゃないですよねー」

「やかましい。早く打たないとディフェンスに入るぞ」

「汚っ。いーですよ、打っちゃうので」

 

 そのまま、ひょいっとボールを放る雫。

 果たして、雫は成功率九割を見事に決めた。

 

「やったー♪ 青は藍より出でて藍より青しっちゃいましたね♪」

「諺を動詞化するな」

「ん~。負け惜しみですかぁ~?」

 

 こんの、アマ……!

 雫がにやにやと笑ってくる。めちゃくちゃムカつく!

 しかし、負けた者が何を言っても負け犬の遠吠えにしかならないのも事実。

 

「分かったよ、俺の負けだ。俺は何をすればいい?」

「素直ですね。そんなに私のお願いが聞きたかったんですか。なるほどです」

「勝手に納得しないでね?」

 

 くくくと頬を緩める雫。

 俺もつられてくつくつ笑っていると、雫はにっこり笑って言った。

 

「今日のところは、取っておきます。折角ゲットしたこーゆう権利は大切にして、後々伏線にしたいですからね」

「アホか……はぁ。了解。じゃあ気が向いたときにでも言ってくれ。無理のない範囲で、な」

「はい! たくさん無理言っちゃいますね」

 

 サイダーみたいに爽やかな雫の笑みを見て、思う。

 こんな日々を続けていけたのなら。

 笑う門に来たる福を集めていったのなら。

 いつか誰もが笑える答えを出せる日が来るのかもしれない。

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