【完結】都合のいい女ぶってる美少女たち、実は湿度高めで愛が重かった。   作:黒い床

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7章#20 紛い物

 雫との練習から数日が過ぎて。

 息抜きができないくらい多忙な月曜日と火曜日を生き抜いて、ようやく水曜日(球技大会)がやってきた。

 再来週には生徒総会かと思うとやや億劫な気分になるのだが、まぁ、今はそういう仄暗いことを考えるのはやめておこうと思う。明日のことを話すと鬼が笑うって言うしな。あの怖い鬼を笑わせられるなら明日のこと話した方がよくね、とか思っちゃうけど。

 

 だが実のところ、陰鬱なことなんて考える気にもならないくらいに今日はいい天気だった。

 雲一つない、海みたいな青空。

 雫と練習した日から天気予報が気になってちょくちょく見ていたし、なんなら雫もテルテル坊主を作ってたからな。神様も見ていてくれたのかもしれない。

 

 そんな今日、俺は早めに着替えてグラウンドに出てきていた。体育祭のときと違ってハチマキは巻いていないが、気分はあのときと同じである。

 もっとも、同じなのは気分と天気だけ。

 俺が立つ位置も、その周りの人も、あの頃とは少しだけ変わっている。それが前進であればいいなと思いつつ本部に向かうと、先んじて大河がやってきていた。

 

「大河、おはよう。今日も早いな」

「おはようございます、ユウ先輩。生徒会長としての初めての仕事ですからね。少し気が急いてしまいました」

「そっか。大河らしい」

 

 あの頃は補佐で見習いだった大河も、今では俺の上司で生徒会長だ。

 まったく時は本当に移り変わるものだよ、と苦笑する。

 

「ところで大河。時雨さんは知らないか? また体育祭みたいなサプライズをしてきそうで怖いんだけど」

「ああ……確かにそれは心配でしたが、大丈夫だと思いますよ。そもそも今回は生徒会から予算出てませんし」

「なるほどな」

 

 流石の時雨さんも、部外者なのに勝手に予算を使うような真似はしないだろう。きっと。大河も見守っていてくれたはずだしな。

 と、思っていると――

 

「はぁ~。そうやって油断するのがダメだよね、生徒会長さん」

 

 どこからか、大河を挑発するような声が聞こえた。

 いや、どこからか、ではない。俺と大河の前にひょいっと現れた。

 黒い髪を靡かせ、そして学ランを体育着の上に羽織る少女――澪がいる。

 

「なっ……澪先輩!? その恰好、どうしたんですか⁉」

「どうしたって、霧崎先輩に頼まれたから着たんだけど。どう、友斗? 髪伸びたからだいぶ雰囲気が違うでしょ」

「え、ああ……まぁそうだな」

 

 ご機嫌にくるくるとその場を回る澪。

 色々とツッコみたいところはあるが……めちゃくちゃ似合ってるから言葉に詰まる。クール系美少女って感じだな。きゅっと垂れた目尻だけは優しげで、絶妙なバランスを保っていた。

 

「奇麗だと思う。でも、その髪でテニスできるのか?」

「ん、流石にやるときは束ねる。やるからには優勝するつもりだし」

「あ、そうなのね……」

 

 束ねることと優勝するつもりなこと、両方に対して『そうなのね』である。

 普段は割と無気力なくせに、こういう分かりやすい賞は取りたいって思うのが澪だよな。定期テスト然り、文化祭然り。

 だから、本気なのはいいとして。

 

「それで澪先輩。霧崎先輩に頼まれたってどういうことですか? 私、何も聞いてないんですけど」

「さあ。私は興味ないし。そういうのは本人に聞いたら?」

 

 俺も気になってたことを大河が改めて尋ねると、澪は肩を竦め、視線を俺たちの後ろに遣った。

 もしかして……と振り返れば、案の定、そこには時雨さんが立っている。ついでに入江先輩もいた。

 

「霧崎会長と……姉さんまで! 学ラン、どうしたんですか!? 私は何も聞いてないんですけど」

「ふふっ。こんな風に大河が怒られちゃうなんて、ちょっと嬉しいわ」

「あ、入江先輩。空気読めてないんで退場してもらっていいですか?」

「私の扱い酷くない!?」

 

 知らんがな。シスコンの気持ちは分かるが、話の流れを一切読まないマイペース発言はやめてほしい。

 時雨さんのマイペースがうつったんですか、とこっそり呟いたら、めちゃくちゃ嫌な顔で口を噤んでくれた。あら便利。

 

 で、そのマイペースお化けである時雨さんはと言うと、大河の追及をくすくすと楽しそうにしながら受け流していた。

 

「いやぁ、折角買った学ランを一度使ったきりで終わっちゃうのも勿体ないでしょ? 来年使ってくれればいいけど、そのためには認知度を高めておかなきゃだし。かといって、生徒会として応援団を結成するのも変でしょ?」

「それは……そうですね」

「なら有志でやろうかな、って。先生に許可を取って、生徒会備品借用届を出して、それで今日に至ったのだよ。ちなみに借用届はキミに出したよ」

「え゛」

 

 思わぬところでこちらに矛先が向く。

 確かに生徒会備品借用届とか、その辺の雑務は俺が処理していた。

 大河はじーっとこちらを睨んでくる。

 

「ユ・ウ・先・輩?」

「大河、怒らないでくれ。誰にだってミスはある。というか基本借用届を突っぱねるなんてことないんだし、しょうがないだろ?」

「ミスをしたときには謝る、と私は教育係の方から教わりました」

「はいごめんなさいマジですみません!」

 

 即、全力で謝った。

 ちゃんとチェックすれば時雨さんの企みに気付けたわけだしな。止める必要はなかったとしても、イレギュラーを潰せた。

 

「はい、謝っていただけたのでもう大丈夫です。私もユウ先輩を責めてしまってごめんなさい。初めての仕事なのでイレギュラーに過剰反応してしまいました」

「いや、それは紛れもなく時雨さんが悪いから大丈夫だ。大河は悪くない」

「それでも、です。そもそも有志ということでしたら特に運営に支障もないでしょうしね」

「まぁな」

 

 それでも急にこんなことを……とは思うが、これは大河の初仕事だ。

 だからこそ確実にやるべきな一方で、だからこそこれまで以上に盛り上げる必要だってある。再来週の生徒総会で庶務を創設するためにも、そしてこれから大河が認めてもらうためにも、球技大会の印象をよくすることは大切だ。

 時雨さんがそこまで考えているのかは分からないが……まぁ、考えているんだろうな。つくづく敵わないよ。

 

「ところで、時雨さん。体育祭のときも思ってたけど、学ラン着てるもう一人って誰なの?」

「ん? ああ、前回はボクの知り合いに頼んだんだけどね。今回は……澪ちゃんがどうしてもって言うから――」

「――私が着ちゃいました!」

 

 時雨さんの言葉を継いで現れたのは、ポニーテールの学ラン少女。

 言うまでもなく、綾辻雫である。

 

「雫ちゃんまで!?」

「えへへ、ごめんね内緒にしてて。お姉ちゃんが『トラ子はイレギュラーに慣れた方がいいに決まってる』とか言うからさ」

「そ、そうなんだ……」

 

 大河が俺の心情を代弁してくれる。

 なんとなくいい感じに聞こえることを言っているが、要するに大河を驚かせてやりたかったというだけでは?

 じっと澪を見遣ると、澪は、べっ、と舌を出した。

 

「まぁそんなことより! どうせなので写真撮りましょうよ、先輩」

「写真?」

「そですそです。体育祭のときにも撮ったじゃないですか。あんな感じで」

「あー」

 

 もちろん、あのときのことは覚えている。

 あのときは仕事の一環として写真を撮ったわけだが……ま、そんなのは名目上の話だ。折角の球技大会なんだし、はしゃいでもいいだろう。

 

「分かったよ、撮るか。あのときは澪はいなかったしな。スマホでいいか?」

「はい、お願いします」

「ふむ……そういうことなら一瀬くん。私が撮ってあげるわよ」

 

 俺がスマホを取り出すと、入江先輩は一瀬くんに声をかけた。

 ……あ、俺か。分かってたけど、珍しく優しいことを言ってくるので別人かと思った。

 

「入江先輩、何のつもりですか? 一体何を企んで――」

「私は何かを企むような卑怯なことはしないわ。ただ大河とのツーショットが欲しいだけよ」

「あ、なるほど」

「ユウ先輩、納得しないでください」

「いやシスコンの気持ちはよく分かるからさ」

「うん、分かる。むしろ分からないトラ子がおかしい」

 

 ここでは上の子が過半数を占めてるからな。悔しいが、妹とのツーショットが欲しいってのは分かる。まして今日が妹の初仕事ってなれば、尚更だ。

 

「了解です。なら俺たちのを撮ってもらう代わりに、入江先輩と大河を撮ってあげるってことで」

「えぇ、契約成立ね」

「私抜きでその話が纏まるのは甚だ不服ですが、ユウ先輩も映っていただきたいので我慢します」

 

 と、いうわけで入江先輩に撮ってもらうことになる。

 俺のスマホを渡し、撮影の準備をしていると、あ、と時雨さんが声を上げた。

 

「ボクはちょっと用事があるから行くね」

「えっ、いいの?」

「うん、いいのいいの。ボクは――から」

 

 小さく呟かれたその声は、やはり、何かを伝えることを意図していなかった。

 じゃあね、と言って、時雨さんはどこかに行ってしまう。まるで通り雨のように。

 

「……じゃあ、撮りましょうか」

「そうだな」

 

 時雨さんの態度は、気にかかるところではある。

 でも写真を撮るならノロノロしてはいられない。やらなきゃいけないこともあるわけだしな。俺たちは四人で並んで、フレームに収まった。

 

「それじゃあ撮るわよ」

 

 はいチーズ。

 入江先輩にしては無難な言葉だなぁ、なんて思いつつ。

 シャッターが切られた。

 

 

 ◇

 

 

「ボクは、偽物がいる景色なんて受け入れられないから」

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